月例レポート:平成23年12月号
テーマ:縮小均衡する金融ビジネス
エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社
代表取締役 小溝 勝信
1.進行するリストラ
報道によると、2011年の世界の金融界では23万人以上の金融マンがリストラされたとのことである。日本でもUBS、ドイツ銀行、シティグループ等で大掛かりなリストラが断行された。その他の外資系金融機関でもさみだれ式に執行されている。また、従来「人を大切にする」と自認していた日本の金融機関も経営方針を大転換し、本格的なリストラを開始している。野村証券、三菱UFJモルガンスタンレー証券、みずほ証券での大規模なリストラである。
金融機関は最も重要な経営資源である「人材」を、何故このように簡単に破棄するのか?その理由は、ホールセール金融でのコストの半分が人件費であることから、収益回復のためにはリストラが最も効率的に見えるからであろう。企業としての金融機関は、収益の低迷をコストカットで対応している。それでは金融機関の収益力はなぜ低下したのか?実際、従来勝ち組と評価されていたゴールドマン・サックスやJ.P.モルガンのROEは8%台に低下している。これはリーマンショック以降の構造的な問題であり、収益低減の原因は、@金融バブルの崩壊に対する対応としての高レバレッジの禁止、A銀行に対するさまざまな規制強化、Bその後の欧州危機である。さらに基本的な理由は、C金融資本が、リーマンショック後の「新しい金融モデル」を構築出来ていないことに因る。これらを複合要因として今日の状況がある。
しかし一方、金融プロや経営者の中には、依然として「金融の基礎的条件の変化」を認めようとしない人たちがいる。もはや金融商品には大幅なレバレッジを掛けられないし、自己資金を使って博打を打つことは出来ない。従って、顧客サービスの中で付加価値を創出し、その一部の配分を受けるしかない。そして、従業員は縮小したボーナスプールを皆で分け合うことになる。金融プロの中には、このビジネスモデルの変更を納得出来ない輩がいる。
2.金融人材へのアドバイス
上記の金融環境の変化の中で、金融人材はどのようにキャリア構築しなければならないか?
是非を問わず、これからも日本の金融は全体として縮小し、それに符号して金融人材の総数も減少する。人材需要があるとすれば、優秀なバンカーへのリプレースメントに限られる。そこで勝ち残り採用の対象になるプロとは、環境が変化したことを受け入れる人、付加価値を創出するとは何かを考え自ら対応出来る人であろう。具体的には、付加価値創出の過程で「中間搾取」となる職責は排除されるであろう。即ち、資金の運用にしろ、調達にしろ、実需に近いところでの職責が再評価される。確率論を駆使した抽象的なビジネスモデルは排除され、エセのリスク分析者やありきたりの運用者は相手にされなくなる。例えば、個人宛ての株式や投信対面販売はネット証券やネットバンキングに取って代わられ、機関投資家は、資産運用会社や証券会社等の仲介業者を通さずプロを内製化して直接投資する。その場合、真に付加価値を生む投資機会や顧客アカウントを持つプロが雇用される。いくつかの機関投資家が不動産投資でプロを採用しているのがその一例である。(但し、現時点では、日本の機関投資家、特に年金基金は素人が運営しているため、外部のプロに付け込む余地が残されている。その場合、グローバルな情報や分散・リスク・リターンマネジメントのノウハウを持つ中間搾取業者は、当面生き残れるであろう。)また、リスクマネーが減少しつつある中で、運用資金の出し手に強いグリップを持つプロが評価される。PE投資においては、投資効率の数理計算やデット・エクイティ・スワップ等の金融リストラしか出来ないプロは生き残れないが、ビジネス自体の改革の提案と執行が可能なプロが生き残る。また、ファイナンスでも、投資銀行はプライスを提示してビッドに参加するだけの役割となり、顧客を囲い込むことが難しくなる。大手企業の有価証券の分析だけのバンカーの低いレベルが明らかになり、今後は、中小企業の財務諸表に基づきオーナーと折衝するリアルなバンカーが評価される。
3.誤解してはならないこと
金融危機を引き起こした大手の金融機関に対し非難が強まっている。しかし誤解してはならないのは、日本の金融機関が日本経済に不始末を起こしたわけではない。勿論金融はグローバルだから、米国金融資本が起こした金融危機は即座に日本に伝播する。しかしだからと言って、本来日本の金融機関が果たすべき役割まで封じ込めてはならない。
日本の金融は圧倒的に商業銀行優位の構図となっているが、商業銀行とは大衆から小口の生活資金を預かりローンで運用するだけで、本来、商業銀行はリスクをとってはならない。しかし、資本主義経済において一定の成長を確保するためには、「リスクマネー」が供給されなければならない。欧米では投資銀行がその機能を担っており、日本では外資系金融機関がその役割を果たしてきた。しかし上記の通り、外資系金融機関の日本法人は大幅なリストラを進めている。日本に必要なことは、海外の金融ビジネスを心配することではなく、「適正な」の投資銀行を育てることである。
日本が抱える財政再建や年金問題等の諸問題の解決のためには、経済が巡航速度で拡大しなければならない。成長=GDPの拡大=収益の拡大のためには「リスク」が取られなければならず、そのためには1400兆円の個人金融資産の一部が「リスクマネー」として提供されなければならない。現在のように個人金融資産の過半が銀行預金され、それが国債購入に当てられている資金の流れを変えなければならない。これは自明の理だが、既得権益者は抵抗している。
以上
