人材市場レポート

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月例レポート

平成21年3月 第9号 (日本語版)

金融市場の最近の人事事情について

第一部 外資系金融機関におけるリストラの現状(第3回)

第二部 「金融転職市場の創設」に関わる法律問題の研究(第2回)

エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社
代表取締役 小溝 勝信
- 目次 -

  • はじめに

    第一部: 外資系金融機関におけるリストラの現状(第3回)


    2.分析




    6.提言


    第二部:「金融転職市場の創設」に関わる法律問題の研究(第2回)



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    はじめに

     07 年8月のパリバショックに端を発した「サブプライム問題」は、大方の当初の予想に反して 08 年9月に勃発したリーマンショックを機に「百年に一度」と表現される世界的な金融・経済危機を引き起こしている。主要国政府は「考えられるあらゆる政策」を動員して対応しているが、未だに危機が収束する気配も無い。この「巨大な津波」は日本をも飲み込み、外資系金融機関の人材市場に「壊滅的」打撃を与えている。
     確かに「米国投資銀行モデル」は大きな過ちを犯し、主要国の政府や金融界はその暴走を止められなかった。日本の外資系投資銀行で進行している大規模なリストラをみて、一部の論者は「外資系金融機関のプロたちは、マガイものをこの市場に持ち込んで大きな収益を上げ、不当に高い報酬を得てきたのだから自業自得」と解説し、「日本の金融はグローバル・スタンダードを破棄し、古き良き日本的経営に回帰すべき」と主張している。しかし、歴史はそれほど単純なものではない。金融に志を持つ人材は、歴史・経済・金融を動かしているものは何かを探り、何を反省し、何を保持しなければならないかを峻別し、日本の金融ビジネスの改革を進めなければならない。現下の金融危機はその好機といえる。

     そこで、本『レポート』により外資系金融機関での昨年来最新リストラ状況を報告する。

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    第一部 外資系金融機関におけるリストラの現状(第3回)

    1.調査結果

     08 年 1 月から 09 年 3 月までの 15 ヶ月間に日本の外資系金融機関で合計 4,315 人の「リストラ」が行なわれたと推定される。
     これは、当社が昨年推計した外資系金融機関の総従業員数(27,819人)の15.5%に相当する。この大規模なリストラは、「米国投資銀行モデル」の崩壊による金融ビジネスモデルの喪失と相俟って、金融人材市場に「壊滅的」打撃を与えている。しかも、下記に説明する個別の事情により、今後、更に大規模なリストラが行なわれる可能性がある。

    ・外資系金融機関における15.5%のリストラの数字は、20%超のリストラが行われている米国市場と比較して「軽微」と考えてはならない。即ち、日本の金融人材市場には、「適正」な転職の慣行が確立されておらず、リストラされた金融人材に対する法的保護も極めて不十分・不適切である。金融人材市場では大規模なリストラが進む一方、金融機関の人材採用が極端に抑制され、リストラされた金融人材は路頭に迷っている。

    ・この『レポートの分析は、下記に定義された「外資系金融機関」でのリストラに限定しているが、そのほかにも外資系保険会社、外資系ノンバンク、メガバンク系証券での有期雇用契約者がリストラされている。更に、日本資本の独立系証券会社や資産運用会社でも厳しいリストラが行なわれている。これらも加えると、日本の金融業界全体でリストラされた金融人材は膨大な数となる。

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    参考:本『レポート』でのリストラの定義
    定義−1: リストラ人数の計算方法
    ・主要な外資系金融機関の「フロントオフィス」を対象に、09年3月末までに各社毎に「確認」、または「確からしいと判定」したリストラ人数の集計2,448人(但し、一部雇用関係は残っている人を含む)をベースにして、「ミドルオフィスとバックオフィス」を含む「全体」のリストラ人数を推計した。

    定義−2: リストラの定義
    ・下記の@ABをリストラと定義する。
    @ 会社の一方的な意思により雇用契約を解除したケース。解雇には懲戒解雇と整理解雇がある。整理解雇では退職の条件が提示される。また、「期限を定めた雇用契約」を会社側が延長しないケースも含まれる。
    A 合意に基づき雇用契約を解除したケース。即ち、(a)人事部や上司が退職勧奨する従業員に対してパッケージ(割増し退職金の支払い、再就職先の紹介等)を提示して、合意に基づき退職させる方法と、(b)会社が人員削減の予定数と有利なパッケージを全従業員に告知して、早期退職者を募集する方法がある。
    B 会社側が「期待した最低限の貢献をしていない」と評価した従業員に対し、退職パッケージを提示せず自主的に退職を促したケース。また、リストラの対象となっていたが、他社からのオファーがあり自主的に退職したケースもある。

    定義−3: 外資系金融機関の定義と範囲
    ・外資系金融機関とは、外国資本が所有する銀行、証券会社、資産運用会社、直系の不動産関連会社(住宅ローン子会社を含む)、ヘッジファンドの運用会社、プライベート・エクイティ等の投資会社を含む。生命保険・損害保険、消費者金融会社、ノンバンク、コンサルティング会社は含まれない。
    ・外資系金融機関の範囲とは、
    @ 元々日本資本であったが、一時、外資系ファンドや外資系金融機関が所有した金融機関等で、日本的経営を継続している金融機関は含まれない。従って、日興コーディアル証券、新生銀行、あおぞら銀行、東京スター銀行は含まれない。日興アセット・マネジメントは外資系金融機関とした。
    Aリーマンブラザーズ証券の従業員の内、野村證券に入社しなかった人、または一旦野村證券に雇用されたが、その後退職した人は、リストラ人数に含まれる。
    ・日本の銀行・証券会社・資産運用会社全体の従業員総数は、498,856人(06年10月1日時点での「事業所・企業統計調査」の人数で、保険業や消費者信用会社を除く)である。内、本件で分析している「外資系金融機関」の総数は27,819人で、全体の5.6%を占める。

    定義−4: 各部門のビジネスの定義(組織のあり方は各社により異なる)
    投資銀行部門:
    ・カバレッジ、資本市場ビジネス、ストラクチャード・ファイナンス、M&A等、通常の投資銀行ビジネスに加え、プライベート・エクイティ、不動産投資や投資銀行ビジネスでの自己資金投資を含む。
    グローバル・マーケッツ部門(市場部門):
    ・通常の債券及び株式ビジネスに加え、不動産証券化、クレジット関連、ヘッジファンド宛てセールス、債券・株式ビジネスでの自己資金投資を含む。
    資産運用部門:
    ・伝統的な資産運用とオルタナティブ運用を含む。
    個人富裕層部門:
    ・富裕層とマス富裕層宛てビジネスを含む。
    コマーシャル・バンキング部門:
    ・商業銀行での法人宛て金融リテール・バンキングを含む。

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    2.分析

    ・フロントオフィスでリストラされた2,448人を分析した。

    (1)地域別分析

    ・米系金融機関の比率が64.8%と大層を占めている。特に米系トップクラスの投資銀行が激しくリストラしている。欧州系でも投資銀行的経営をしている金融機関でのリストラが厳しい。
    ・グローバル・ベースで大きな損害を蒙った金融機関が、日本においても厳しいリストラを行なっている。
    ・トップクラスの外資系投資銀行でのリストラは「過剰反応」の感があるが、彼らは「09年中は金融環境が改善することは無い」と覚悟しているようだ。従って、組織を限界までスリム化している。

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    (2)部門別分析

    ・グローバル・マーケッツ部門でのリストラが全体の58%を占めており、最も厳しいリストラが行なわれた。これには、不動産の証券化、CDO等のクレジット、レバレッジを掛けたプリンシパル運用、資産内容が不透明で時価評価が難しいファンド関連の人材が含まれている。
    ・投資銀行部門でのリストラは他の部門に比較して少なかったが、それでも各社は投資銀行部門の陣容を最小限に絞り込んでいる。その結果、大手投資銀行の投資銀行部門の人数は大方100人以下に縮小された。しかし、M&A関連ではリストラが少なく、M&Aブティック・ファームでは採用意欲が目立った。
    ・資産運用部門のリストラは、株価が急落したリーマンショック以降で顕著になった。特に日本株運用関連でのリストラが目立った。また、投資顧問系より投信系でのリストラが多かった。
    ・個人富裕層部門では、陣容拡大方針のところと、リストラしているところが交錯している。中長期的には、このビジネスでの人材需要は日本の金融機関も含めて増大すると考えられる。
    ・コマーシャル・バンキング部門では、特定の米系金融機関でのリストラが目立ったが、一部の欧州系銀行でも、グローバルなリストラ政策の影響でリストラがあった。

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    (3)リストラの推移

    ・08年8月の『レポート8』及び12月の『緊急レポート』を参照願いたい。
    ・07年8月のパリバショックから08年9月のリーマンショックまでの1,109人のリストラは、不動産の証券化とCDO等のクレジット関連に集中していた。その他の部門の人は「対岸の火事」と見ていた。
    ・08年9月のリーマンショックで事態は一変し、リストラは全金融部門に広がった。リーマンショックから12月中旬までに約2,000人の金融人材がリストラされた。
    ・09年に入ってもリストラは継続された。08年末までのリストラが、金融機関が蒙った損害に対応するものであったとすれば、09年でのリストラは、日本市場における金融ビジネスの長期的低迷に備えるものと考えられる。08年12月中旬から09年3月までに1,000人余りの金融人材がリストラされたと推定される。

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    (4)今後のリストラの予想

    ・外資系金融機関での人材市場は更に大きなリストラ要因を抱えている。事態の推移次第では、今後も大規模なリストラが行われる可能性がある。
    ・懸念される要因としては、@シティバンクの実質国有化によるリストラ、Aモルガンスタンレー日本法人と三菱UFJ証券の併合やBOAとメリルリンチの合併等、統合に伴う効率化推進、Bリーマンブラザーズの従業員を雇用した野村証券のスリム化、C株価低迷による資産運用会社での一層のリストラ、D不動産ファイナンスやLBOファイナンスでの資金調達失敗によるファンドの崩壊、E欧州系ユニバーサル・バンクの投資銀行ビジネスからの撤退や縮小、等である。
    ・日本の金融機関でもリストラの可能性がある。即ち、@業績悪化が深刻化している中規模の銀行でのリストラ、A日興コーディアル証券の買収に伴うリストラの可能性、B日本の金融機関に有期契約で雇用された従業員の雇用止め、等である。

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    3.事態の認識

    ・米国で勃発したサブプライムローン問題は、世界的な金融不安を引き起こし、危機は世界の実体経済へと伝播しつつある。危機に陥った世界の主要金融機関はこぞって増資(約9,000億円)し、資本の増強に奔走している。しかし悲観的な見通しでは、世界の不良資産の総額は1,000兆円を超えると予測されている。このため主要各国の政府は「あらゆる財政・金融政策を総動員」するとし、巨額の税金を大手金融機関に注入し、中央銀行は超低金利・緩和政策を実行している。しかし、主要国の財政出動の合計額は、米国の200兆円規模を含めせいぜい400〜500兆円に過ぎず、問題の解決には不十分だと懸念されている。更に、最近、米国政府が民間資本と共同で運営する不良資産買取りシステムを作ったが、問題点も多い。これらの対策でこの危機が乗り越えられるかは疑わしい。
     ILOの発表によると、07年8月から09年2月までの間に、世界の主要金融機関は合計で32万人削減すると決定し、既に実施中であるとのこと。雇用情勢の深刻さを示している。

    ・今回の危機の原因は、端的に言って@世界的な過剰流動性を背景とした高い「レバレッジ」取引の崩壊と、A分散モデルとクオンツ技術を駆使した複雑で不透明な証券化商品の市場価値の毀損である。
     @については、現在、レバレッジの大規模な巻き戻しが起こっている。世界の金融資産はピーク時には2京円に近くなり、世界のGDP総額5,000兆円の4倍相当規模であったが、現在、適正規模といわれる2倍程度に縮小されつつある。3月に発表されたアジア開発銀行のレポートよれば、世界の金融資産は08年に約5,000兆円目減りした(内、株式時価総額が3,500兆円減少)。日本でも株価の急落等、激しく巻き戻しが起こっている。
     Aでは、最も保守的な時価会計ルールが適用されているため、取引が成立しない証券化商品の価格が極端に低く評価されている。
     レバレッジの巻き戻しと時価会計ルールの適用により、世界の金融機関やファンドは巨額の売却損や評価損、それに伴う資本不足に苦しんでいる。

    ・日本の金融機関では金融危機の中、野村證券とMUFGが積極的な動きを見せているが、他のメガバンクは動く気配がみられない。市場には、相対的に被害が小さかったはずの日本の大手金融機関への期待があるが、日本の大手金融機関経営層に言わせれば「当行の被害も甚大で、動きが取れない」とのことである。また、国内市場での収益の拡大には限界があるとみたメガバンクは、アジア市場に注目し、一時、組織の拡大のため積極的に外部採用していたが、現在では本体の業績不振を理由に頓挫している。いずれにせよ日本の大手金融機関の経営改革が進展しておらず、これが「ジャパン・パッシング」となり、サブプライム問題の打撃と相俟って、日本での金融人材のリストラをより深刻なものにしている。

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    4.金融部門別分析

     外資系金融機関の金融人材市場は「壊滅的」状況にあるが、すべての金融部門がリストラ一色と言うことではない。金融環境の改善を先取りして戦略的に人材採用に踏み切っている部門もある。

    (1)投資銀行部門

    ・カバレッジ、ECM、DCM、ストラクチャード・ファイナンス等、投資銀行部門でもリストラが進んでいるが、M&Aはこれまでは大きなリストラの対象とはなっていない。但し、採用は、基本的にどの外資系金融機関も行っていない。

    ・08年の世界のM&Aが前年比約30%減少する中で、日本企業が関わったM&Aの総額は12.4兆円で、僅かであるが07年を超えた。特に目立ったのはIN−OUTのM&Aで、08年には前年比2.6倍の7.4兆円に増加した。これはM&A全体の6割を占める。しかし人材需要面では、M&Aのブティック・ファームによる中堅以下の採用が中心であった。ブティック・ファームは増大する小型(50億円程度)のクロスボーダーのM&Aを狙っている。大手の外資系金融機関は、依然としてターゲットを大口(一件当たり3億円以上の収益が見込める案件)のM&Aに限定しているが、今後、大口のクロスボーダー案件がどの程度出てくるか分からない。
     メガバンク及び系列の証券会社では、事業継承等のための国内企業同士のM&Aが活発で、限定的だが人材需要があった。今後、M&Aは日本企業の「選択と集中」経営の進展と円高により拡大し、人材需要は早晩回復すると期待される。

    ・プライベート・エクイティ(PE)での人材需要はほとんど聞かれなかった。PEを取り巻く環境の悪化による。即ち、@金融危機で出資者が極端に保守的になっており、資金が集まらない、AメガバンクがLBOファイナンスを停止しており、デットの調達が出来ない、B株式市況の低迷と景気の悪化が投資先企業の株価や業績を直撃している、等による。PE投資は、世界的な資金余剰現象が始まった02年頃から急激に拡大し、人材需要も創出していた。日本では04年から今日までにPEは3.7兆円の投資(融資も含む)をしているが、その85%程度がエグジットされていない。更に来年、LBOファイナンスの多くが借り換え時期を迎えるが、このままの環境が続くと、リファイナンスが難しくなる(2010年問題)。中には存続出来ないとされるファンドもある。このようにPEファームの苦戦が続いており、多くのPEは人材採用どころではない。但し、資産価格の割安感や競合ファンドの苦戦をみて、前向きな戦略をとっているファンドも無いわけではない。

    ・日本でも優良企業による社債の発行が増えている。これらの企業のクレジットスプレッドが改善していることに起因するが、一部の超優良企業に限られている。従ってDCMが人材需要を生んでいるという話はまだ聞かない。ECMも同様である。

    ・一時、メザニンやストラクチャード・ファイナンスで人材需要もみられたが、現在では霧散した。クレジットリスクが大きく拡大し、株価が低迷している現状ではメザニンの出番は少なく、また、外資系金融機関がバランスシートを使ったビジネスを大幅に縮小しているためである。

    ・不動産投資では、地価の下落が止まらない中、逆にキャップ・レートが改善しており、投資のタイミングとしては悪くはないが、優良な親会社の傘下でなければ銀行からの融資が受けられない。REITも株式市場の下落を受けて低迷している。当面は人材需要も起こらない。

    ・かつて「不良債権問題」(01〜03年頃)の時にも見られたが、今後、株の持ち合い解消に伴うファイナンスが起こると考えられる。エクイティ・ソリューションとして、投資家が流動性リスクに晒されることなく、株の持ち合いの解消を支援するETFの組成やブロックトレード、現物株の売却を回避するためデリバティブを駆使した仕組みが提案されるとみられる。これらのプロ人材への需要が起こると考えられる。

    ・クリーンエネルギーの開発が拡大すると言われており、これが新しいプロジェクト・ファイナンスとして拡大することが期待されている。しかし、そのビジネスモデルの構築、資金調達の方法、人材の育成等、大きな問題がある。金融ビジネスで大きな人材需要を引き起こすかどうかまだ分からない。

    ・海外戦略を進めるキャッシュリッチな日本企業も多い。これらをサポート出来るのは、グローバル・ネットワークと強い提案力を持つ外資系投資銀行の数社に限定される。また、強みのあるニッチにフォーカスするブティック・ファームも生き残ると考えられる。

    ・欧州系ユニバーサル・バンクの一つが、永年の戦略である投資銀行ビジネスへの本格的な進出を企図して、日本でも優良な人材を採用している。しかしこれは例外的な動きであり、逆に日本の投資銀行部門を大幅に縮小したところもある。

    ・金融機関ではないが、外資系のコンサルティング・ファームで人材を採用しているところもある。但し若手人材が対象である。不景気の時にはコンサルティング・ファームへの依頼が多くなることによる。

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    (2)グローバル・マーケッツ部門

    ・不動産証券化、CDO等のクレジットもの、CDS等のクレジット・トレーディング、株式関連、エギゾティックな仕組み債、高いレバレッジを掛けて組成されたファンド、資産内容が不透明で解約が難しいファンド(FoFsを含む)、フラット為替等、問題資産に対する投資家の購入意欲が極端に低下しており、多くの担当者がリストラされた。また、顧客担当別では、ヘッジファンド、地銀、投機的な運用で大きな損害を蒙った事業法人、学校法人や宗教法人が投資意欲を失っており、これらの担当者がリストラにあっている。更に、本来ならばエージェント業務に徹すべき証券会社が自己資本での運用(プリンシパル・インベストメント)を急拡大した結果、大きな損失を蒙った。従って、人材需要はまったく無い。

    ・不透明な環境下でも流動性の高い債券や透明性のあるファンドへの投資ニーズ(質への逃避)はあるようだ。一部の大手外資系金融機関では、米国国債や日本国債のトレーダーやセールスに対する人材需要が起こっているようだ。勿論、デリバティブ・ビジネスが完全に無くなったわけではない。顧客からの厳しい選別を経てマーケット・メーカーとして生き残った一握りの外資系投資銀行に顧客玉が集中しており、彼らは収益を確保しているようだが、人材需要には繋がっていない。

    ・海外株式に比較して割安感のある日本株の回復率が一番大きいと考える金融機関がある。そうであれば、債券、金利、為替、クレジットものより収益的である。今後、特に富裕層の間にエクイティ・デリバティブを組み込んだ仕組み債や、ファンド・デリバティブに対する購入意欲が出て来ると考えられる。一部の金融機関でエクイティ・デリバティブのトレーダーやストラクチャラーへの需要がみられた。

    ・CDSマーケットは全く機能しなくなった。iTraxx Japanのスプレッドはリーマンショック以前、130〜150bpsで推移していたが、今年に入り500bpsまで跳ね上がっている。これはメガバンクが買いに入っているが、外資系投資銀行やヘッジファンドが中期の信用リスクを取れなくなっていることによる。さらに社債のリスクスプレッド(国債比)とCDSのプライスの間にまったく相関関係が見られなくなった。従って、クレジット・トレーディングの人材需要はまったく無い。ディストレス・ビジネスは、海外ディストレスの日本の機関投資家へのプレースメントから回復し、人材需要をもたらすと考えられる。

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    (3)伝統的な資産運用部門

    ・リーマンショック以降の株価の急落により、資産運用会社の業績が急速に悪化している。資産運用会社の収益は預かり資産の純資産総額に連動するためである。従って、今後、株価が急上昇しない限り、この業態でのリストラが続くであろう。外資系資産運用会社の中には日本株の運用から撤退するとか、日本法人の組織を大幅に縮小したところもある。

    ・個人マネーの流れが変わった。投信の運用利回りが大幅なマイナスになっているためである。01年頃から急拡大し、日本の金融機関の大きな収益源となっていた投信が銀行窓口でまったく売れなくなった。従って、外資系資産運用会社では投信部門の人材がリストラされている。一方で一時、割安と考えられて日本株が注目されたが、最近では勢いを失っている。最近の現象をみると、「貯蓄から投資への流れ」が確立したとは言えないようだ。

    ・株価の急落を受けて企業年金の運用利回りがマイナスで推移しており、危機感を持つ年金基金が運用方針を見直している。従って、今後年金基金宛てビジネスで人材需要があるとすれば、年金制度に精通し、年金の負債サイドにも知識を持つコンサルティング・ファームや運用会社の年金宛て営業担当者が対象になるであろう。

    ・現在、日経225銘柄のPBRの平均が1以下に落ちている。本当に業績の悪い企業もあるが、不当にPBRやPERの低い株式もある。従って、年金基金等、長期の機関投資家宛てのバリュー株運用が回復し、そのファンドマネジャーへの人材需要が増えるかもしれない。

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    (4)オルタナティブ投資

    ・世界のヘッジファンド残高は、ピークの200兆円から100兆円に半減するといわれている。統計によれば08年の運用成績は平均マイナス19%で、その間、1,471本(全体の15%)のヘッジファンドが閉鎖されたといわれる。全体としては、今後も苦戦が続くものと予想される。

    ・しかし一部であるが、パフォーマンスが改善しているヘッジファンドもあり、日本ものの投資を増やすため、日本人プロ人材の採用を模索している。また、運用側でもオルタナティブ投資への検討が始まっている。一部の年金基金や富裕層は、株価の急速な回復が期待出来ないことから、絶対リターンを追求するオルタナティブに注目している。即ち、投資家は、ボラティリティーの大きな資産や、証券化商品やクレジットもので内容が複雑で時価評価が難しいものには投資しない。従って、ヘッジファンドでの投資対象は流動性のあるロングショート戦略やアービトラージ系の運用商品であろう。また、ディストレス資産への投資も早晩回復すると考えられるため、そのファンドマネジャー、仕組み担当者、販売担当者への需要が起こると考えられる。

    ・コモディティ、不動産、保険等のオルタナティブ投資は当面回復しないであろう。人材需要も小さい。

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    (5)個人富裕層部門

    ・現在、日本が誇れる唯一つの資産は1,400兆円に及ぶ個人金融資産だといわれている。確かに金融危機による資産価格の下落は、富裕層及びマス富裕層の投資に大きな痛手を与えたが、個人金融資産をターゲットとしたビジネスは中長期的には拡大すると考えられる。各種アンケートによれば、多くの富裕層は資産価格の下落に困惑していると同時に、今は投資のチャンスとも考えているといわれる。これらを背景に、一部の外資系プライベート・バンク(PB)や日本の金融機関はこのビジネスに対するコミットメントを拡大し、人材を採用している。採用の対象は、RMと呼ばれる顧客担当者、及び、銀行商品・仕組み債・ファンド等さまざまな金融商品のプロダクト担当者である。しかし、RMの外部採用は極めて難しい。多くのRMは担当顧客からのクレーム対応に忙殺されており、転職どころではないからである。

    ・一方、一部の既存のPBではリストラが行われている。大きなコストを掛けても収益が上がらないためである。外資系PBは、日本におけるPBのビジネスモデルを大幅に見直さなければならないのかも知れない。

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    (6)コマーシャル・バンキング部門

    ・業績不振で実質国有化された米系銀行の東京支店でのリストラが顕著である。本社の今後の動き次第では、一層のリストラが行なわれる懸念がある。一部の欧州系銀行の東京支店でも、通常の融資業務、プロジェクト・ファイナンス、オペレーションでリストラや業務の海外移転があった。

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    5.リストラされた金融人材の現状と意識

    ・リストラされた金融人材の一部は再就職しているが、大層はまだ苦戦している。多くの外資系金融機関が採用を再開していないためである。金融人材の中には金融ビジネスに見切りをつけて事業法人で職を求めようとする者がいるが、企業も売上げが激減しており採用どころではない。長らく外資系金融機関に従事した人は比較的高給を得ていたので当面の生活に困ることはあるまいが、この状況が今年一杯続くと、社会不安の一因とならないとは限らない。

    ・「高い報酬狙い」の外資系金融機関のプロ人材も、最近になって「かつてのような高い報酬は貰えないだろう」と理解し始めた。多くの金融人材は「自分のやりたいことをやりたいだけです。自分がこれまでに培った金融ノウハウをマーケットに伝えたい。報酬額は問題ではない」と言う。しかし一旦高給を得た彼らの内、どれぐらいが本当にそう思っているのであろうか。

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    6.提言

    (1)上記の通り、外資系金融機関は「日本市場から撤退する」勢いである。当社は、由々しき問題だと懸念している。言うまでも無く、金融機関は「産業活動を金融面から支える」という重責を担っている。日本における外資系金融機関は、1980年代半ばまでは限界的な存在であったが、過去15〜20年間には大きな役割を果してきた。今回の外資系金融機関の大幅な縮小や撤退によって、この「プラスの効果」が消滅することになる。即ち、外資系金融機関が去った後、「誰がリスクを取って金融の付加価値を創出するのか」という懸念である。日本の金融機関にはその能力も気概も無い。金融のグローバル化や人材の流動化は歴史の流れであり、リスクを取って付加価値を創出することは資本主義の原理である。「米国投資銀行モデルの崩壊」後の新しい金融モデルを早急に構築しなければならない。

    (2)当社は「日本の金融人材市場の改革」を訴えている。具体的には「人材の流動化」を主張している。しかし、「流動化」とは、「正当な理由もなく従業員をリストラして良い」ということではない。これまで日本社会は、「人は石垣、人は城」として人材を最も大切な資産と位置づけて来た。この日本文化は、グローバル・スタンダードでは閉鎖的で硬直的である評価され、弊害ももたらしていた。しかし、昨今の外資系金融機関日本法人での大規模なリストラは、人を人とも思わず、人を工場や金融資産のように取り扱い、業績が悪化したとして最初に廃棄している。これを政府、財界、金融界、労働界、マスコミが看過している。最近は法曹界ですらこのリストラにお墨付きを与えている(第二部で法的な問題を議論する)。日本はいつから人に冷たい国になったのであろうか。

    (3)「新自由主義」を標榜するユダヤ資本とWASPに主導された米国投資銀行ビジネスは誤りを犯した。市場がこの失敗から学んだことは、「短期収益に対する高い報酬と理不尽なリストラの恐怖」による経営では、持続的な成長は不可能だということだ。また、画期的と考えられた「分散」理論や高度と評価された「クオンツ」も底が浅いものだった。これからは、中・長期的な観点から「真」の企業価値、事業価値、資産価値を追求する金融人材だけが生き残れると考えられる。

    (4)筆者は、中期的には金融ビジネスは回復すると考えている。今後も続く世界的な資金余剰状態において、実物財が大きな付加価値を生み出す産業(自動車産業やIT産業)を創出できなければ、デフレが継続し、相対的に金融財の価格が上がる(ワルラスの法則)。従って金融財の魅力が上昇し、金融ビジネスが回復する。その場合、同じ失敗を繰り返してはならない。即ち、レバレッジに適切な歯止めを掛けること、ビジネスの透明性を確保すること、非常識に高い報酬を認めないこと、金融ビジネスに対する衡平で明確な規制を定め、厳格に執行することである。

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    おわりに

    「米国投資銀行モデル」が崩壊した後、どのような金融ビジネスモデルが構築されるのであろうか。歴史は、一部の既得権勢力が主張するような「希望的観測」や「回顧趣味」で動いているわけではない。歴史の流れを規定する「超越的実在」を見つけ、それが人類の幸せに沿うように経済や金融を導かなければならない。

     そのため当社は、NPO法人「金融人材市場の改革を進める会」と協力して、日本の金融界に「適切な転職市場を創設」すべきだと、今後も主張していく方針である。

    以上

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    第二部 「金融転職市場の創設」に関わる法律問題の研究(第2回)
    NPO法人 金融人材市場の改革を進める会
    エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社
    監修:東京青山・青木・狛法律事務所
    ベーカー&マッケンジー外国法事務弁護士事務所
    弁護士 佐藤哲朗 

    1.第2回の研究の趣旨

    (1)前回の研究の内容
     今般の掲題研究の第2回に先立ち、2008年2月発行の『金融人材市場レポート』新・第7号において掲題研究の第1回を取りまとめました。
     第1回では、中堅・若手金融人材に掲題研究の目的を示したうえで、労働法制の基本的な理解に資することを狙って金融人材に密接に関わるとみられる法律問題の事例を労働法令全般に亘り合計31項目の一問一答式で取りまとめました(www.espartners.co.jpのメニュー「人材市場レポート」をご参照下さい)。

    (2)今回の研究の背景と狙い
     今回、掲題研究の第2回を取りまとめた背景には、最近の頻発する労働者解雇の動きがあります。日本を代表する大企業までが相次いで経営危機に直面するや、いわゆる非正規社員に対する「派遣契約の中途解除」や「有期契約での期限前の契約解除」だけでなく、正規社員についても人員削減に踏み切るという事態が頻発しています。また外資系金融機関においては昨年来、金融危機の高まりに伴い日本市場からの撤退もしくは大幅な戦線縮小に踏み切る動きが加速し、実質的な指名解雇や大規模な人員整理が行なわれています。
     従来、わが国では企業による解雇権の行使に関しては法律的に厳しい制限が課されてきましたが、近年、外資系金融機関の社員に関して解雇権の制限が緩和された判例が出されて以降、政治・経済情勢の変化とともに制限緩和の傾向がみられます。このためもあってか、昨年秋以来の外資系金融機関による相次ぐ人員削減では、受け皿となるべき労働市場、つまり「金融人材の流動化に相応しい転職市場」が存在しない中、従前に比べて大幅に劣化した退職条件(たとえば、通常の退職金の他に月給3ヶ月相当分の特別支給のみのケース等)による整理解雇や退職の強要が大規模に行われています。
     予てより「適正な転職市場の創設」を提唱している当社としては、このような憂慮すべき事態を踏まえ、今回の掲題研究のテーマとして「解雇権濫用問題」に焦点を絞り、今後、解雇権はどのように適用されていくべきなのか、金融人材市場の健全な発展やフェアな転職ルールの確立のためにどのようなことが必要か、等を法律専門家の協力を得て整理し、以下の質疑応答に取りまとめました。

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    2.質疑応答編

    <目 次>
    (1)解雇に対する法的制限の成立過程とその背景
    (2)整理解雇法理とは
    (3)解雇権濫用法理を巡る最近の主張とその論拠
    (4)ナショナル・ウエストミンスター銀行整理解雇事件とは
    (5)ナショナル・ウエストミンスター銀行事件判決の類推適用の是非
    (6)「整理解雇の4要件」見直しの一連の判例
    (7)挙証責任の所在
    (8)外資系金融機関での整理解雇の有効性
    (9)内・外金融機関での整理解雇の容易さ
    (10)望ましい金融人材市場とは


    (1)解雇に対する法的制限の成立過程とその背景
    労働者の解雇については、わが国ではさまざまな法的な制限が課されているといわれていますが、制限が課された背景にはどのような事情があるのですか?
    また、どのような制限が課されているのですか?

    <回答>
     「契約自由の原則」のもと、民法(627条1項)は無期契約では「使用者が労働者に対して2週間の予告期間(注)を置けばいつでも自由に労働契約解約の申し入れ(解雇)」を認めていますが、解雇は労働者の生活に重大な影響を与え、労働者は使用者に比べて経済的弱者という事情を考慮し、使用者による解雇にはさまざまな法的制限が加えられています。
     (注)解雇に伴う労働者の打撃を緩和するため、労基法20条で予告期間を30日に延長。
     解雇に対する法的制限の内容は多岐に亘りますが、教科書的に整理すると、上述の@解雇予告の設定をはじめ、A解雇の時期的制限、B労働協約等による手続き的制限という「解雇手続き面での制限」のほか、以下のような3つの「解雇理由による制限」があります。
    (イ)法令による制限
     法令による制限を大別すると、次の2つの類型です。
     1つは、労働者に対する差別的な解雇の禁止(たとえば、@国籍・信条・社会的身分を理由とした解雇、A組合所属または正当な組合活動等を理由とした解雇、B女性であることを理由とした解雇、C女性の婚姻・妊娠・出産等を理由とする解雇)。
     もう1つは、労働者の法律上の権利行使を理由とした解雇の禁止(たとえば、@育児・介護休暇の取得を理由とした解雇、A当局への労働基準法違反の通告や公益通報を理由とする解雇等)。
    (ロ)就業規則・労働協約による制限
     会社制定の就業規則・労働協約に定められた解雇事由に基づく解雇以外の解雇禁止です(03年労基法改正によって解雇事由が就業規則への必要記載事項であることが確認)。
     就業規則に記載された解雇事由は、判例・通説では「例示列挙」とされています。ただし、解雇事由の中で列挙された懲戒解雇の解雇事由は「限定列挙」とするのが一般的です。
    (ハ)判例による制限
     民法上の雇用契約の解約自由に対して判例の集積によって制限を課していることです。
     戦後の高度経済成長の下、正社員の長期雇用慣行を中心とする日本型雇用システムが徐々に定着・浸透して行く過程で、会社から一方的に解雇された労働者の再就職が極めて困難という事情に鑑み、昭和40年代に入ると、正当な理由のない解雇は民法の基本原則である「権利の濫用を許さない」との条項(第1条3項)に照らして解雇無効という「解雇権濫用法理」が下級審裁判例でほぼ定着するようになりました。この流れを受けて、昭和50(1975)年、最高裁は解雇には「合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件が必要と判示し、「解雇権濫用法理」が確立しました。
     この法理は、03年労基法改正で労基法第18条の2に法律上明文化され、その後、08年3月に施行された労働契約法第16条に移されました。
     なお、判例で確立した解雇の「合理的な理由」とは、@労働者の労働能力や適格性の欠如、A労働者の重大な義務違反や規律違反、B経営上の必要性(整理解雇)の3つです。
     一方、「社会通念上の相当性」については、判例法上、かなり厳格に判断され、労働者側に有利な判決が出される傾向がみられます。

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    (2)整理解雇法理とは
    判例で確立した解雇の「合理的な理由」の3つのうち、経営上の必要性から認められる「整理解雇」とは何ですか?どのような制限が課されているのですか?

    <回答>
     使用者が経営危機に際して最後の手段として人員削減にまで踏み切らざるを得ない事態での解雇のことです。この「整理解雇」については、使用者の事情による解雇、つまり労働者に帰責事由のない解雇であるため、判例法上、使用者に対して一般の解雇に比べて一段と厳しい制限が課されています。
     判例上、課されている制限とは、
     @ 経営上の理由によって人員削減の必要性があることの立証、
     A 解雇という最終手段を取る前に解雇以外の人員削減手段等など解雇回避努力の有無、
     B 余剰人員の削減に当たって合理的な人選基準による解雇対象者の選定、
     C 労働組合や労働者への説明や意見聴取等の解雇手続きの妥当性、
    という4つ条件を使用者に要求するものです(通常、「整理解雇法理」あるいは「整理解雇の4要件」といわれます。ただし、「解雇権濫用法理」のような最高裁判例ではありません)。

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    (3)解雇権濫用法理を巡る最近の主張とその論拠
    最近、「解雇権濫用法理」に関して各方面からさまざまな主張があるといわれますが、どのような主張なのですか?また、その論拠はどのようなものですか?

    <回答>
     「解雇権濫用法理」、なかでも「整理解雇法理」が事実上、わが国特有の終身雇用制度を前提に確立してきた経緯に鑑み、業界事情による前提条件の相違、あるいは時代の変遷による状況変化を踏まえ、「解雇権濫用法理」の適用を見直すべきとする主張です。
     その第1は、もともと終身雇用制度を採用していない企業(外資系企業のように即戦力人材を中途採用し、通常、数年毎に転職する社員が多い企業)では、「解雇権濫用法理」はたとえ適用されるにせよ、終身雇用制度を採用している企業に比べれば「合理的理由」や「社会通念上の相当性」の判断において権利濫用とされる程度は少なくて然るべきとの論拠から、企業の人事政策、労働者の採用方法(新卒採用か、中途採用か)、期待される職務内容(高度の専門人材か否か)等によって法理適用は異なるはず、とするものです。
     第2は、経済のグローバル化進展に伴い、日本でも終身雇用制度自体が崩壊しつつあることを論拠に、もはや「解雇濫用法理」の前提条件が希薄化したとの主張です。近年、日本企業、とりわけ大企業はいずれも人事制度面で欧米流の成果主義や実力評価を程度の差こそあれ導入しているうえに、昨今の経営危機に際して相次いで人員整理に踏み切っており、日本企業と外資系企業との人事制度の隔絶した差異は事実上、消滅しつつあります。
     第3は、時代の変化に伴い労働市場にとって弊害が起きていることを論拠に「解雇権濫用法理」を見直すべきとの経済学者を中心とした主張です。「整理解雇法理」によって正規社員(中高年層労働者が中心)が過度に保護されているため、国際競争に晒されている企業は結果的に非正規雇用へのシフトを余儀なくされ、経営危機に直面した場合には非正規社員(若年層労働者が中心)を解雇せざるをえなくなるとの指摘です。既得権に守られた階層を不当に保護する「整理解雇法理」を早急に見直し、「世代間の公平性」「再チャレンジ可能な開かれた労働市場の確立」を図るべき、との主張が政府ベースの委員会でも出されています。
     一方、この見直し論に対して主として労働サイドから労働者の地位保全のため「解雇権濫用法理」を堅守すべきであり、企業の「社会的責任」として非正規社員を含めた労働者の雇用安定を図るべき、との反論がなされており、論争はいまだに決着していません。

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    (4)ナショナル・ウエストミンスター銀行整理解雇事件とは
    使用者による解雇権行使に対して強い制限を課してきた「整理解雇の4要件」の見直しの契機といわれる「ナショナル・ウエストミンスター銀行整理解雇事件」とは、どのような事件だったのですか?

    <回答>
     この事件は、ナショナル・ウエストミンスター銀行(以下、NW銀行と略す)東京支店が競争激化のため貿易金融部門を閉鎖し、同業務に従事していた社員に退職勧奨したところ、このうち1名のアシスタント・マネージャー(以下、A氏と略す)が拒否し、「整理解雇の4要件」をいずれも満たしていないとして解雇無効を訴え、地位保全の仮処分を申し立てた、というものです。
     第1次仮処分、第2次仮処分では解雇無効の判決が出されましたが、2001年1月の第3次仮処分ではA氏の申し立てを却下し、解雇有効の逆転判決が出されました。
     第3次仮処分の判決要旨は次の通りです。
    @ NW銀行の同部門閉鎖はリストラの一環として行われたものであり、事業戦略に関わる経営判断は基本的に株主によって選任された執行経営陣等の決定を尊重すべきものである。余剰人員の削減も、経営が現に危機的状況に陥っているかどうかにかかわらず、必然的ともいえる。
    A 「整理解雇の4要件」は解雇権の濫用に当たるかどうかを判断する際の「考慮要素」を類型化したものであって、各々の要件が存在しなければ法律効果が発生しないという意味での法律要件ではない。解雇権濫用の判断は、本来、事案ごとに個別具体的な事情を総合考慮して行うほかないものである。
    B A氏を従前の賃金水準を維持したまま雇用継続するには、他の管理職ポジションへの配転が必要となるが、このポジションはA氏の従前培ってきた経験とは異なる新たな専門的知識・能力を必要とするもので、A氏がそれらを十分に有しているとは認められないので、配転は現実に不可能である。
    C NW銀行はA氏に解雇申し入れの際、就業規則所定退職金802万円のほか特別退職金等1532万円の支給を約束し、その後、解雇通告した際、これに上乗せし、退職金名目で1870万円を振り込んでいる。これはA氏の年収1052万円に照らして相当な配慮が示された金額である。しかも再就職までの就職斡旋会社のサービス提供を約束しており、相当の配慮をしたものと評価できる。
    D NW銀行は、A氏および組合との間で全7回、3ヶ月余に亘る団交を行っており、出来る限り誠意をもってA氏に対応したものといえる。

     ちなみに、以上の判決に対して、日本労働弁護団は「使用者としての社会的責任を放棄した無責任な解雇を容認し、・・・労働者とその家族の生活基盤を奪う解雇を促進する」ものとして厳しく批判しました。

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    (5)ナショナル・ウエストミンスター銀行事件判決の類推適用の是非
    ナショナル・ウエストミンスター銀行事件の判決は最近の外資系金融機関のリストラ事例にも類推適用されうるものですか?それとも偶々、解雇有効もやむを得ない特殊な事例で、これを一般化して類似事例へ適用するのは妥当とはいえない、と考えるべきですか?

    <回答>
     ナショナル・ウエストミンスター銀行事件の判決はその後の裁判で解雇制限を緩和させることを方向付けた画期的な判決です。ただし、同判決を含めて「4要件」の緩和を判示した一連の判例は1999年から2001年までの間、東京地裁と大阪地裁によるものです。逆にこの直後から現在に至るまで、地方の裁判所ではむしろ「4要件」を堅持する判例も多くみられます。
     現時点においては「4要件」あるいは「総合考慮」「考慮要素」の考え方を一般化し、「解雇権濫用法理」の基準を明示的に示すことはほぼ不可能です。解雇権濫用を巡る裁判においては、会社全体や該当部門の事情に加え、会社と当該労働者との関係、さらには当該労働者周辺の労働者の事情まで加味しなければならず、ケース・バイ・ケースの総合的な判断にならざるを得ません。
     04年の労働基準法改正、07年制定の労働契約法において明確な解雇権濫用の基準を盛り込めなかったのは、もちろん労使の対立もあったわけですが、そもそも標準化することの困難性があったことが大きいと考えられます。
     将来、最高裁判例が出て多少は具体的な基準が示されるかもしれません。もともと政策の変化が少なからず裁判に影響していることから考えると、将来もさらに基準が変わっていくことが考えられます。

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    (6)「整理解雇の4要件」見直しの一連の判例
    現在、「整理解雇の4要件」は裁判でどのように判断されているのですか?
    近年、解雇制限緩和の判例が出された背景にどのような事情があるのですか?
    解雇制限緩和の方向であれば、労働者にとって「解雇されるリスク」が高まるので、リスクの存在を使用者や労働組合は労働者に説明すべきではないですか?

    <回答>
    (イ)ナショナル・ウエストミンスター銀行事件(第三次仮処分)を先例にして「整理解雇の4要件」の制限は緩和されているといえます。その後、同判決を踏襲した東京地裁等の一連の判断によって「4要件」はそれを全て満たさなければならない「要件」ではなく、「考慮要素」に過ぎないとされ、また4つとも考慮したとしても「軽重を付けた総合考慮」がなされるようになっています。
     とりわけ「4要件」のうち、@「人員削減の必要性」については使用者の経営判断を基本的に尊重しながら判断するという傾向が強まっています。「4要件」の草創期でいわれていた「会社倒産の危機」までは要求されておらず、「将来の危機回避のための相当程度の必要性」へと緩和されています。この点、ナショナル・ウエストミンスター銀行事件においては事業戦略に関する企業の経営判断の尊重を説いたうえで、人員削減の必要性についても「経営の危機的状況の有無にかかわらず必然的」と判示されました。
     さらには、企業経営に関する判断能力を有し、企業の存続(ひいては多数の労働者の雇用)に責任を持つのは使用者であり、そのような責任を負わない第三者(つまり裁判所)がとやかく介入すべきでない、との法律学者からの指摘もあります。
     次にA「解雇回避努力」についても多様な方法が認められるようになり、「希望退職募集」の措置の有無で整理解雇が有効と判断される場合が多くなりました。
     なお、各地方裁判所を含め全ての判例で「4要件」が緩和されているわけではなくて、「4要件」のいずれも必要とする判例も多数存在しますし、他方、「4要件」のうち「3要件」もしくは「2要件」のみ、あるいはこれら「要件」を適用することなく総合的に判断するもの、さらには「4要件」を採用しないことを明確にして判断する判例もあります。

    (ロ)解雇制限緩和の傾向は裁判所が主たる舞台だったわけではなく、時を同じくして行われた構造改革推進という行政面からの動きの中で、外部労働市場の形成を促す流れに裁判所の新たな判断が一致していた、とみることができます。行政改革推進本部規制改革委員会の『規制改革についての見解』(2000年12月)は企業が解雇を容易にする方向性を提言し、その後、同委員会の機能を引き継いだ規制改革会議の『規制改革推進のための第3次答申』(08年12月)は、厳しい解雇規制が、@雇用の流動性低下と失業の長期化を招く傾向がある、A若年者、高齢者、女性、長期失業者の就職を難しくする、B雇用保障に甘えて生産性を低下させる、として「解雇権濫用法理」自体の見直しを提言しています。
     また、構造改革の一環でもある「会社法」制定を柱とする会社法制の刷新は、米国流の株主重視の方向を明確に志向しています。経営者は株主の厳重な監視のもとで適切な経営判断を迫られ、適時に実行しなければなりません。このような状況下で解雇制限緩和は重要な意味を持っているといえます。
     ただし、近年、構造改革が招いたとされる格差と貧困が政治問題化するにつれて、各方面から規制緩和に対する反転攻勢と再規制の動きが強まっており、先行きは流動的です。

    (ハ)「解雇されるリスク」の労働者への説明について使用者に求められているのは、就業規則に「解雇の事由」の記載が義務付けられていることのみです。実際には「その他上記に準じる重大な事由」との記載でも整理解雇の効力に影響しないとされており、使用者に具体的な解雇のリスクを労働者に明言する義務があるわけではありません。このことは、現時点での一般的な見解であり、以前と比べてリスクが増大していたとしても同じです。
     労働組合にはもともと「解雇のリスク」を労働者に説明する法的義務はありません。

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    (7)挙証責任の所在
    「権利濫用法理」の「挙証責任」は使用者側にあったはずですが、近年、労働者側にあるとの判例が出されるなど、なし崩し的に会社側から労働者側に移っているようです。
    そうであれば、使用者側は単に解雇の意思表示をしたことを立証すれば足り、解雇権の濫用を基礎付ける事実は解雇された労働者側が立証しなければならなくなるのですか?

    <回答>
     挙証責任は本来、無効を訴える労働者側にある、との法律上の論理はありえますが、労働者にとって生活に直結する解雇の重大さ、資金・情報量や法的支援体制面での会社側との隔絶した格差を考えると、建前論に拘ることは妥当とはいえません。
     労働者側に挙証責任があるとした判例、角川文化振興財団事件(1999年11月)と東京魚商業協同組合葛西支部事件(2000年1月)の判断に関しては法律関係者の中でも批判が強く、一般化されるとは思われません。「整理解雇の4要件」の緩和の流れに沿った一つのパターンとして、この2判例が挙げられることがありますが、同じ判断は今のところ他にないようです。また、この両判断が同一の裁判官によってなされていることも、この判断の特殊性を裏付けるものとの指摘があります。
     この2判例に対する批判の論旨は、法曹、殊に裁判所が重要視する立証責任を法律の条項の書き方から整然と振り分ける「要件事実論」を単純に適用しただけで、判例によって築かれてきた「整理解雇の4要件」を使用者側が立証するという枠組みを無視するもの、というものです。
     04年の労基法改正議論の中でも、政府原案に「解雇権の濫用ではない旨の立証する責任」を労働者側に移すとの条項がありましたが、国会審議の過程で最終的に削除され、挙証責任を労働者側に転換するものではないとして修正が加えられた経緯が示すとおり、挙証責任の所在は上記裁判例のあとでも使用者側である旨が判例で確認されています。

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    (8)外資系金融機関での整理解雇の有効性
    外資系金融機関の専門部署に従事する無期契約の専門職社員A氏は、リストラで解雇通告を受けました。また、有期契約のB氏も期限前に損害賠償金を支払われることなく契約解除を通告されました。専門職社員はリストラによる解雇に対抗できないのですか?
    なお、解雇通告された専門職社員が他部署への配転を希望した場合、解雇を免れますか?

    <回答>
     一般的職務に従事する社員の場合、「4要件」のうちA「解雇回避努力」については新規採用の停止、時間外労働の削減、配置転換・関連会社への出向、一時帰休、希望退職募集等の手段を使用者が整理解雇に先立って活用したかどうかが裁判で問われます。
     一方、専門性を重視して雇用された専門職社員A氏の場合、回避努力として配置転換までは求めなくてもよいとするのが一般的な考え方です。また、事業部門全体や特定職位の廃止の場合も回避努力のハードルは比較的低く、解雇有効と判断されがちです。
     ただし、回避努力以外の要件を考慮し、濫用的や恣意的な解雇であれば、解雇無効とされることもあります。たとえば、外資系コンサルティング会社が専門性を評価してコンサルタントとして採用した勤務成績不良の社員を部門閉鎖に伴い解雇したことについて、会社全体として部門閉鎖の必要性が認められないとして解雇無効と判決したPwCフィナンシャル・アドバイザリー・サービス事件(東京地判03年9月)、専門性についてではないが、赤字部門の廃業の場合で財務資料を誠実に検討していないため回避努力を尽くしていないとして解雇無効と判決した山田紡績事件(名古屋地判05年2月)などがあります。
     有期契約のB氏の期限前契約解除については、労働契約法17条で「やむを得ない事由」が必要とされます。「やむを得ない事由」とは、同法16条の「合理的な理由」「社会通念上の相当性」よりも狭いとされています。事業計画変更の場合、会社の存亡に関わるような変更でない限り、何らの金銭的な手当てをせずに解雇することは難しいと思われます。
     なお、解雇通告された専門職社員からの配転希望は、解雇権濫用の判断要素ではありませんが、「4要件」のうちA「解雇回避努力」、B「合理的な人選基準」、C「解雇手続きの妥当性」、の3要件の中で一要素として考慮されうると思われます。

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    (9)内・外金融機関での整理解雇の容易さ
    日本の終身雇用制度は事実上崩れつつあり、「終身雇用を前提としない雇用関係」との点では外資系金融機関も日本の金融機関もさほどの大きな差がなくなっています。
    そうであれば、外資系金融機関の社員が日本の金融機関の社員より「整理解雇の4要件」の適用において解雇され易いというのは、アンフェアでないですか?

    <回答>
     仮に外資系金融機関に就業することだけを理由に整理解雇され易くなるとしたら、まさにアンフェアです。
     外資系金融機関の勤務か、それとも日本の金融機関の勤務かという業種・業態による雇用形態の差異は、雇用期間、担当職務内容、その他の労働条件を定める基準にはなるかもしれませんが、そもそも「整理解雇の4要件」は当事者の契約時の思惑とは無関係の、会社側の事情が考慮対象であるため、整理解雇の判断においてその差異が考慮されることはほとんどないか、あるいはたとえあるとしても重要性において劣る事項として考慮される程度と思われます。
     たとえば、「4要件」のB「合理的な人選基準」において、解雇無効とした前出の質疑応答(4)のPwCフィナンシャル・アドバイザリー・サービス事件の判決では、コンサルタントは転職が容易であることに言及していますが、そのことを理由に直ちに会社が解雇できるとはしていません。一方、解雇有効としたナショナル・ウエストミンスター銀行事件の判決では、逆に解雇された社員の再就職の困難性が指摘されています。
     「4要件」に沿って考えると、B「合理的な人選基準」による解雇対象者の選定の問題として考慮される余地はあることはあるでしょうが、むしろ@「人員削減の必要性」やA「解雇回避努力」などの方が重要視される場合が多いと思われます。

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    (10)望ましい金融人材市場とは
    「整理解雇の4要件」が緩和されているのであれば、解雇後の新たな転職を円滑に進められる労働市場の基盤作りが必要ではないですか?そのような転職市場を創設するには、どのようなことが必要となりますか?
    また、金融人材自身は、今後どう対応すべきですか?

    <回答>
    (イ)わが国特有の労働慣行といわれた終身雇用制度が崩壊しつつあることは事実であり、それを前提とした「整理解雇の4要件」の緩和が起きています。その方向性の良し悪しは別として、解雇が容易となることの前提として、会社間での労働移動が円滑に行われる労働市場の形成、つまり「転職市場の創設」が不可欠です。現下の経済危機下で問題点が露呈したとはいえ、派遣労働の可能な職種の拡大や雇入れ期間制限の延長により、製造業などでは個別の会社の雇用調整に対応できる労働市場が形成され始めていたといえます。
     とりわけ転職が頻繁な外資系金融機関の金融人材を対象とする労働市場には「市場」としての条件整備を進めることが急務です。具体的には次の要件が必要と思われます。
     @ 就業、転職、採用、解雇、人事において市場参加者による「フェアなモラル」「透明性の高いルール」を確立することです。
     A 適切な転職や採用を可能にするため、適切な量と質の雇用機会や人材をアベイラブルにする「人材の流動性」を確保することです。
     B 報酬や処遇面等で内外の金融機関の間に大きな格差がありますが、一つの市場であれば、フェア・プライスに収斂、すなわち「プライシング・メカニズム」が機能するようにすることです(一物一価の原則が機能すべきですが、必ずしも内・外金融機関で同水準の報酬額になるわけではありません)。
     C 就業、転職、採用、解雇、人事において金融人材市場に関する十分な「情報」が市場参加者に対して入手可能な条件を整えることです。
     D 市場参加者に適切な「教育・訓練・啓発」を行うことです。特に「金融ビジネスはグローバル・ビジネス」との認識に立って、金融人材にグローバル・マーケットで通用する金融スキルを具備するよう教育する必要があります。
     E 仲介業者、すなわち人材紹介会社の健全な育成も必要です。約10,000ユニットあると言われる当局から許可を得ている有料職業紹介事業者はいずれも小体です。中にはルールを無視する業者もいます。一方、一部では極端にクライアントに有利なサーチ契約もあるため、その標準化も必要です。

    (ロ)このような流動性のある「転職市場の創設」と合わせて、個々の金融人材としては転職に伴う適応性を高めるとか、逆に他社から求められるだけの専門性やグローバル・マーケットで通用する金融スキルを備えることが不可欠と思われます。

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    筆者のプロフィール:
    小溝 勝信(こみぞ かつのぶ)
    1968年、東京大学教養学部国際関係論分科を卒業し、住友銀行(現三井住友銀行)に入行、主として国際部門に従事した。1984年に外銀に転じ、ファースト・シカゴ銀行東京支店の事業法人部長に就任した。人材コンサルティングに転ずるため、1989年、米国の大手ファームの一つであるホイットニー・グループ日本支社に入社し、副支社長に就任した。1993年、日本型のエグゼクティブ・サーチの創設を目指してヘッズジャパンに転じ、金融部門マネジング・ディレクターに就任した。2004年、エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社を設立した。
    このレポートは、筆者がヘッズジャパンで1994年以来、半年毎に報告していた「外資系金融機関の最近の人事事情について」の連続版である。

    エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社(ESP)のプロフィール:
    小溝勝信が永年の経験と主張の集大成として2004年に設立した。日本の金融人材市場に初めての、本格的な、日本版の「エグゼクティブ・サーチ・コンサルティング」の創設を志す。
    詳細はホーム・ページをご参照頂きたい。

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