人材市場レポート

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月例レポート

平成20年2月 第7号 (日本語版)

〜金融市場の最近の人事事情について〜

第一部 金融人材市場の様相
〜 サブプライム問題の衝撃 〜

第二部「金融転職市場の創設」に関わる法律問題の研究(第1回)
〜 金融人材のための労働法入門 〜

エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社
代表取締役 小溝 勝信
- 目次 -

  • はじめに
  • 要約
    (1) 金融市場の現況に対する認識
    (2) 金融人材需給の状況
    (3) 求められる人材のタイプ


    第一部: 金融プロダクト別様相

    カバレッジ、証券の引受け、ストラクチャード・ファイナンス、M&A


    買収ファイナンス(LBOファイナンス)、不動産投融資と証券化、
    特殊なファイナンス

    CDS、CDO、CPM

    マーケット別、プロダクト別

    ヘッジファンド、SWF、投信、投資顧問

    超富裕層、マス富裕層


    第二部:「金融転職市場の創設」に関わる法律問題の研究(第1回)
    〜金融人材のための労働法入門〜







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    はじめに
    07 年前半まで概ね順調に拡大していた世界及び日本経済は、7 月に突然、米国に端を発し た「サブプライムローン」問題に襲われた。日本の金融人材市場は06 年のような「バブル と言われるほどの活況」から一変している。状況は日々悪化しており、今後どうなるかは 分からない。外資系金融機関の一部ではリストラが行われており、当社にも退職の報告が 相次いでいる。
    また当社は、日本の金融ビジネスが世界市場で大きく遅れており、「改革」のためには金融 人材を流動化し、活性化しなければならないと考えている。そのため当社は「金融転職市 場の創設」を提言し、現在、NPO法人「金融人材市場の改革を進める会」の設立を準備 している。NPO法人の設立に対しては金融界の識者、経営者やたくさんの金融プロの方々 から賛同を頂いている。今回、その活動のひとつとして「金融転職市場の創設」に関わる 法律問題の研究(その1)を纏めた。当社は、昨今金融人材による転職や採用が盛んに行 われているが、「ルール無視」が頻発し、これが「転職市場」の発展を阻害していると憂慮 している。従って、金融ビジネスに携わる人々に「労働法」の知識を備えて欲しいと願っ ている。「研究」では、多くの人々に理解して頂くため誤解を恐れず平易に解説した。これ は大手弁護士事務所の東京青山・青木・狛法律事務所佐藤哲朗弁護士の監修を得ている。

    今回の「レポート」では、
    第一部で、07 年後半の金融人材市場の様相を報告する。
    第二部で、「金融転職市場の創設」に関わる法律問題の研究(第1回)の成果を発表する。

    この「レポート」は、筆者が前職のヘッズジャパンで94 年に執筆を開始して以来、半年毎 に作成してきた「金融人材レポート」の連続版である。


    要約
    (1)金融市場の現況に対する認識
    * 米国の「低所得者向け住宅融資」は、06年末でたかだか残高1.3 兆ドル(140 兆円) に過ぎず、07 年初めでは貸倒れ損失はその内の10%程度と予想されていた。しかし現在ある説では、最終的に168兆円もの損害を世界の金融機関に与え、実体経済をリセッション に導くと予想されている。
    米国国内で発生したサブプライムローンの貸し倒れは、それらのローンを証券化したRM BS、RMBSやABSを組み込んだCDO、それらの資産を担保として資金調達(AB CP)しているSIV、そしてSIVにレバレッジを提供している銀行へと、スパイラル 的に打撃を伝播している。さらに懸念されるのは、もし証券化商品を保証しているモノラ インの救済に失敗すれば、いっそうの株価下落を引き起こし、これまで不気味な静けさを 保っていたヘッジファンド(CDOの4割はヘッジファンドが保有している)で大型の解 約や清算が続出し、それはヘッジファンドに融資している欧米系銀行に大打撃を与える。 このドミノ倒し的瓦解は、世界的な信用収縮を引き起こし、消費の落ち込みや企業収益の 悪化を齎し、結果、米国や日本等主要国の経済をリセッションに導くと言うのだ。「日本の 金融機関へのサブプライム問題の影響は限定的」と言われてきたが、米国への輸出の減少 や株価の下落による資産価値の低下により、日本の金融・産業が被る影響は他の先進国よ り甚大かもしれない。

    * サブプライム問題が引き起こす日本の金融・経済への深刻な影響に加えて、日本の金 融市場の改革の遅れが問題の解決を難しくしている。すなわち、07 年のシティ・オブ・ロンドンの評価では、国際金融センターとしての東京の位置づけは10 位に低迷している。日 本の当局は、「金融商品取引法」の施行、「労働契約法」の制定、「金融・資本市場競争力強 化プラン」の策定で対応しようとしているが、「金商法」は天下の悪法で、「労働契約法」 は時代の歯車を逆回転させ、「強化プラン」は政府のアリバイ作りに過ぎない。その結果、 「ジャパンナッシング」となり、日本の金融市場は世界から完全に見捨てられつつある。 このように、日本の金融市場は「サブプライム問題」と「ジャパンナッシング」という二 重苦を背負わされている。

    * 一方、世界の金融市場を見渡すと、欧米の有力金融機関がサブプライム問題を主因に 軒並み大幅な減益に陥る中、ゴールドマン・サックスは増益を達成して一人勝ちであった。 意図したかどうか知る術も無いが、同社は、2年前にCEOを投資銀行家からリスクマネ ジメントのプロに交代させていた。「今後はリスクマネジメントの巧拙が投資銀行の勝敗を 決める」との鋭い先見性には舌を巻く。サブプライム問題への対応では、WASP(アン グロ・サクソン系プロテスタント)系投資銀行に比較してユダヤ系のしたたかさが目につ いた。また、テイクオフしたアジアの新興工業国の飛躍が著しい。現在、欧米の投資銀行 は「日本を除く」アジアに対して投資、投資銀行ビジネス、資産運用、プライベート・バ ンクで大きな資源を投入している。
    筆者はここで民族の優劣を議論する積りはないが、日本はグローバルビジネスである金融 において、欧米金融機関と互角に戦えるのか疑問に思っている。現実を知らない日本の学者が「金融立国論」を説いている。実業界にはそのようなノーテンキはいない。

    * 07 年の4−12 月で、ほとんどの日本の大手銀行および証券会社が減益となった。銀行 はサブプライムローン問題による影響だけでなく、融資、投信販売、投資銀行ビジネスと いった本業でも収益が落ち込んでいる。証券会社は相変わらず直接株安の影響を受けて大 幅減益である。日本の金融機関は「失われた15 年」から何も学んでいない証左である。金融はグローバルビジネスであるから、金融機関の経営や組織、人事制度はそれに合せて「改 革」されなければならないが、経営者は一顧だにしない。日本の金融界は時代に逆行している。05 年以降、メガバンクは不良債権問題を乗り切ったとして、外部採用や成果主義の 導入を検討していたが、現在再び「年功序列賃金」と「企業一家主義」経営に回帰してい る。ある邦銀役員は「銀行は体力を回復した。血を流してまで改革する必要がどこにあるのか!」と嘯いている。金融庁が主導する「金融改革プログラム」に「金融人材の育成」 とあるが、内容が無い。たとえ金融人材を育てても、金融機関の経営にグローバルな視点 が無ければ意味をなさない。当社は現在、経済産業省の主導する「高度金融人材の育成プロジェクト」に協力しているが、このプロジェクトは、金融行政や金融界のサボタージュに対する産業界の苛立ちに起因している。

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    (2)金融人材需給の状況
    * 07 年前半までの金融人材市場は06年での活況を持続していた。しかし07 年後半に入り、サブプライム問題の深刻さが明らかになるにつれて、人材需要は沈静化した。大手の外資系金融機関では本国の経営が混乱しており、08 年のビジネスプランが定まらない。日本法人は本国からヘッドカウントの指示が来ないため採用計画が立てられない。従って各社、各部門とも人材採用に慎重になっている。また、外資系金融機関では06年に空前の高収益を上げ2年分の採用を行ったことも、07年の人材需要に影響した。

    * 外資系金融機関では現在、07 年での業績に対する人事評価とボーナス額の査定が行われている。投資銀行部門や債券部門でのボーナスは、概ね前年比10−30%程度減少してい る模様である。概して債券部門では非常に厳しく、投資銀行部門ではボーナスの落ち込みは小さい。資産運用部門も影響を受けているが、もともと単年度毎のアップ・ダウンが小さい。「落胆するほど悪くはなかった」という証言も多いが、業績はさほど悪くなくてもリストラされたプロもいる。また、未曾有の高収益であった06 年以上のボーナスを貰ったプロもいる。外資系金融機関は、環境が悪くても優秀な人材に十分なボーナスを払うし、逆に、能力が低いとされる職員にはサブプライム問題を口実に退社を迫る。採用でも比較的 積極的な部門もあれば、フリーズになったところもある。全般的に採用活動は極めて慎重であるが、若手(30 歳代前半まで)に対する需要はコンスタントにある。

    * 日本の金融機関での人材需要は潜在的には強いが、人事制度が閉鎖的であるため全く上手くいっていない。

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    (3)求められる人材のタイプ
    * 日本の金融が危機に直面するに至って、営業担当者の真価が問われている。優秀な営 業人材とはベアマーケットに強い人である(ブルマーケットであれば誰でも売れる)。すな わち、営業のプロとは景気循環を乗り切った実績を持つ人を指す。さらに、生き残る金融 機関が、外資系の十数社と日本の数社に絞り込まれる今日、各社ともほとんどの商品を提 供することが出来る。「商品力」で他社と差別化した90 年代とは違い、今日では「提案力」 で勝敗が決まる。今求められている優秀な営業人材とは、顧客への強いグリップを持ち、 顧客とのコミュニケーション能力を持ち、多様な商品に対する専門性を有し、多様化し変 化する顧客ニーズを的確・迅速にとらえ、顧客満足に叶うアイディアを提案出来るプロで ある。

    * 現在、金融ビジネスの中心は、ボーダフォン買収のLBOファイナンスに代表される ように事業やプロジェクトが将来生み出すキャッシュフローを裏付としたファイナンスで ある。従って、金融のプロとは生きた企業を理解するバンカー、すなわち、財務諸表を読 めるだけでなく、顧客ビジネスに対する理解力を持ち、さらに企業文化等の知的資産を評 価して、総合的に顧客企業・事業リスクを把握出来る人である。加えて実務的には、資産・ 事業価値の算定やコベナンツ設定等の法的知識や与信のプライシング(証券化や流動化が 可能な金利水準の算定)能力が求められる。さらに「企業価値とは何か」についての深い 見識も問われる。

    * 金融人材は、「金融はグローバルビジネス」という自明の理を理解しなければならない。 「失われた15 年」の間、日本の金融機関は海外店を閉鎖し、国際的な取引から外されてい た。最近では、ほとんどの邦銀役員や金融人材は海外経験を持たないためグローバルな感 覚を身に付けていない。金融人材は早急に国際感覚を備えなければならない。

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    第一部 金融プロダクト別人材需要

    07 年末現在でのアサインメント総件数は前回報告時より減少している。各プロダクトで減少したが、LBOファイナンス等のハイマージン・ファイナンスでは増加した。また、事業法人ビジネスも堅調であった。しかし、クレジット投資はマーケットの混乱を反映して減少した。

    (図@) ESPのプロダクト別アサインメント残高(平成19年12月31日現在)
    金融ビジネス
    プロダクト
    投資銀行ビジネス
    6
    13.3
    カバレッジ、証券の引受け、ストラクチャード・ファイナンス、M&A
    買収・投資ファンド
    6
    13.3
    バイアウト、プリンシパル・インベストメント、PIPEs
    ハイマージン・ファイナンス
    9
    20.0
    LBOファイナンス、不動産投融資と証券化、特殊なファイナンス
    クレジット投資
    4
    8.9
    CDS、CDO、ローン・トレーディング
    事業法人取引とデリバティブ
    7
    15.6
    事業法人取引、デリバティブ、コモディティーズ
    資産運用
    6
    13.3
    ヘッジファンド、投信・投資顧問
    リテール
    5
    11.1
    個人富裕層宛てビジネス
    その他
    2
    4.4
    アナリストコンプライアンス等
    合計
    45
    100.0
     

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    1.投資銀行ビジネス

    (1)投資銀行カバレッジと証券の引き受け
    06 年に空前の高収益を上げた外資系金融機関は、日本法人においても「バブル」と呼ばれ るほど積極的に人材を採用した。07 年では、この反動もあり慎重な採用を行っていた。そこにサブプライム問題が勃発し投資銀行部門の人事も影響を受けた。ただし、投資銀行部門では総じて債券部門ほどは悪くなかった。リストラされたスタッフもいたが、優秀なプ ロに対しては06 年並みの額を支払っている。
    投資銀行部門は大別すると、カバレッジ、証券の引受け(ECMとDCM)、ストラクチャ ード・ファイナンス、M&Aに分かれる。各々の人材の需給状況は下記の通りである。

    カバレッジ
    カバレッジ・グループは、FIG(金融機関)、TMT(通信、メディア、技術)、GIG (その他産業)、FSG(投資ファンド)に分かれる。これらの内、底堅い人材需要が見ら れたのはGIGである。すなわち、GIGがカバーする産業はいっそうのリストラを要す る鉄鋼や化学等の重厚長大産業、高い技術力が世界市場で評価されている精密機械産業、 国内で生き残りを賭けてシェア争いを繰り広げている小売業等、多岐に亘っている。そし てそれぞれの産業は固有のニーズを抱えている。また、日本企業全般に「選択と集中」経 営が進んでおり、各企業は資本政策の遂行、産業再編への対応、買収防衛に迫られている。 従って、多くの日本企業でトップクラスの外資系投資銀行からのアドバイスや支援に対す る強い期待があり、外資系投資銀行のGIGグループは超多忙であった。また、外資系投 資銀行間での激しい人材争奪戦の結果、引き抜かれたプロの穴埋めの人材需要もあった。 これらの理由で、GIGでの人材需要は底堅かった。この状況は08 年でも続くと考えられる。

    証券の引受け
    証券の引受けでは、エクイティ関連(ECM)は株価の急落により低迷した(図A)。07 年のエクイティ・ファイナンス(公募増資と第三者割当増資)は1兆円余りで、06 年の1/4 程度に減少した。このため人材需要はほとんど無かった。一方、長期の基準金利が1%台 に低下したため、クレジット・スプレッドの拡大による上乗せがあっても調達金利が低水 準であったため、債券の発行(DCM)は活発に行われた。07年の普通社債の発行額は9兆円を超え、これは98 年以来9 年ぶりの高水準である。しかし、もともと債券の引受けは 儲からないこともあり、07 年ではDCMでの外部採用は活発ではなかった。08 年では、引き続きデットでの調達が続くと予想されることから、DCMでの人材需要は回復に転じる と見込まれる。すなわち、日本企業の多くはさまざまな投資戦略を進めており資金需要は 旺盛であること、借り入れの返済が進み日本企業の負債比率は改善していること、低金利 の持続に加え、株式市場の不振が続くと予想されるからである。

    (図A) 企業の資金調達

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    ストラクチャード・ファイナンス
    会社法の施行に伴って、さまざまなストラクチャード・ファイナンスが登場している。06 年に1 兆円余り発行されたMSCBはスキームへの不評から急減したが、それに代わって、 擬似MSCBで、資本と負債の中間に位置するさまざまなハイブリッド証券が開発されて いる。これらには、私募形式でSTEPと呼ばれ既存株主の一株当たり利益の急速な希薄 化を抑えるスキームや、発行会社に一定額の資金調達を保証するもの等がある。その他資 金調達にさまざまなデリバティブ技術が駆使された。企業の資金調達とデリバティブに精 通した人材への需要があった。

    M&A
    サブプライムローン問題に起因する先行きの不透明感を反映して、特に07 年後半には世界 のM&Aの伸びが止まっている。しかし、日本企業が関わったM&Aは、07 年通年で2696 件の成約があり、最も活況であった06 年比ほぼ横ばいの4%減であった(レコフ調べ)( 図B)。金融市場の混乱もあり大型案件は低調であったものの、マーケット環境を勘案す ると、日本のM&Aは底堅く拡大していると言える。実際、M&Aのプロは超多忙であっ た。米国や英国と比較して、日本のM&Aは総額もGDPに対する比率もいまだに極端に 小さいことから、今後いっそうの拡大が期待される。

    (図B) 日本企業が関るM&A 件数の推移

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    (図C) 上場企業が売り手となるM&A 買い手の主体別件数の推移

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    日本企業が関わるM&Aの内、日本の上場会社を買う件数は07 年に700 件で、前年対比26%も増えた。しかしこれはM&A総件数の26%に過ぎず、日本のM&Aは依然として中小企業絡みが大層を占めている(図C)。また、700 件の内36%がファンドによる買収であった。これは06 年で25%であったことから、ファンドによる投資は、件数及びM&A全体に占める比率とも前年から上昇した。さらに、07 年のM&Aの総件数の内308 件がOUTINの取引であったが、06 年の179 件から増大している。また、M&Aの形態別では、買収が42%、事業譲渡が15%、資本参加が29%であるが、01 年での買収の比率は30%であったから、買収の割合が上昇している。MBOはインサイダー有利との悪評から低迷した。 07 年の上場企業を対象としたTOBは92 件、金額は2.8 兆円で、件数、金額とも前年比大きく増えた。TOBでの株価プレミアムも平均30%で、前年比4ポイント上昇した。
    このように、日本企業による「選択と集中」政策が根付き、本格的なM&A時代へ進んでいると考えられる。外資系金融機関もM&Aに強気で、大型狙いに回帰している。かつて外資系は手数料1億円のM&Aも受けていたが、最近では手数料2億円以下の案件は承認されなくなっていると。

    上記の環境下で外資系金融機関のM&A部門は活況で、プロは超多忙であったが、06 年で大量採用したこともありシニアな人材採用は少なかった。但し、各社の個別事情(引き抜かれたプロの後任探し)により、シニア人材であってもピンポイントでの人材需要はあった。08 年の外資系金融機関のM&Aグループでは、M&Aの拡大が予想されることから、シニアな人材需要はともかく、中堅・若手に対しては根強い需要があると考えられる。
    日本の金融機関では、M&A人材が量・質とも不足しており、外資系金融機関のプロを採用したいという強い需要があるが、旧態依然の採用条件では上手くいかない。

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    2.買収・投資ファンド

    M&Aの項で述べたように、ファンドによるM&Aが増加傾向にある。サブプライムロー ン問題で世界のファンドによる買収が急減している中、日本では逆に増えている。それは、 ファンドによるM&Aが日本ではまだ小さいことにもよるが、内外の金融機関がLBOフ ァイナンスに積極的で、資金調達面での問題が少ないことにもよる。また、企業とファン ドによるM&Aの違いでは、ストラテジック・バイヤーである企業は企業戦略に基づいて M&Aを行うが、ファイナンシャル・バイヤーとしてのファンドは、組成条件により一定 期間内に投資を完了しなければならない。従って、ファンドには投資先発掘のプレッシャ ーがある。また、M&Aファームがファンドを設定して投資しているケースもある。

    このように、日本のM&A市場の中でファンドの存在感が定着しつつあるが、問題も多い。 日本での買収ファンドの規模は、欧米に比較して金額でも経済規模(GDP)比でも小さ 過ぎる。また、ファンドによるM&Aの全体に占める割合は日本では12%程度だが、これ は米国の半分以下である。

    大手の海外ファンドも日本に進出しているが、必ずしも成功しているわけではない。大型 の案件はあってもビッド合戦で競争が激しく、採算を取るのが難しいからだと言われる。 一方、大型案件は難しいとして、中堅・小口の企業・事業をターゲットとする海外の買収 ファンドが日本へ進出している。しかし小さい投資案件がたくさんあるわけではない。そ れでは何故日本では買収ファンドが拡大しないのか。海外のある大手プライベート・エク イティの経営者(外人)によれば、日本での予想投資利回りは言われるほど悪くなく、原 因にほかにある。すなわち、国際的に不利な税制(高い税率、のれん代の不利な償却、売 却益への二重課税等)、硬直的な労働市場と労働法体系、マスコミがリードする敵対的TO Bへの嫌悪感、この種のビジネスに理解の無い司法等の問題点を挙げていた。さらに買収 ファンドでの人材不足やスタッフの英語力不足も指摘していた。アジア宛て買収ファンド は魅力の無い日本を避けて、中国等のアジアやオーストラリアに投資している。結論とし て、日本に特化したファンドが多く設定されるまでにはあと数年掛かるようだ。

    人材の需給状況は上記の事情を反映している。すなわち、若手への需要は常にあったが、 シニアなプロに対する需要はスポット的であった。ファンド運営会社のスタッフでは金融 出身者が多いが、現在では、財務リストラだけで投資価値を上げられるケースは少なくな っている。従って、投資先選別でも投資後の運営でも非金融の出身者が求められているが、 人材の発掘が難しい。各ファンドともアドバイザリー・ボードを充実させるためインダス トリアル・パートナーと言われる非金融の経営者を集めていた。

    プリンシパル・インベストメント、自己資金によるエクイティのマイノリティ投資やPI PEsは、チャイニーズ・ウォールの問題に加え、昨今の株価低迷で株式発行が低迷した ことから、07 年後半での人材需要は低迷していた。

    また、日本の年金や機関投資家がオルタナティブ投資として買収ファンドへの投資を増や している。買収ファンドを理解し機関投資家宛て営業が出来るプロが求められている。

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    3.ハイマージン・ファイナンス

    (1)買収ファイナンス
    世界市場でM&Aが減少する中、日本のM&Aの件数は前年比横ばいをキープしたが、内 外の金融機関は、ここに商機を見てLBOファイナンスを拡大している。06 年にはソフト バンクによるボーダフォンの大型買収があったため、同年の日本のLBOファイナンスは 2兆円を超えたが、07 年では7 千億円程度に落ち込んだ。しかし過去数年では拡大の傾向 にある。また、日本経済新聞社のアンケートでも、多くの外資系や国内金融機関が「ファ ンド融資」に意欲を示していた(図D)。積極的な金融機関は、外資系投資銀行、外資系 銀行、外資系ファンド、外資系ノンバンク、メガバンク、旧長期信用銀行系の中堅銀行等 多彩である。具体的には、数百億円から数千億円の資金調達を要する案件が新聞でも数多 く報道されている。従って人材需要は強く、08 年でも期待出来ると思う。またオリジネー ションを行うバンカーだけでなく、機関投資家に対してLBOファイナンスへの参加や、 投資を呼びかけるマーケターへの人材需要も増えると考えられる。

    (図D) 国内の買収融資額

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    しかし、LBOファイナンスの拡大には問題も多い。すなわち、現在サブプライムローン 問題で大規模な信用収縮が起きており、大手の外資系金融機関は体力を消耗している。そ の中で積極的に取り組めるのは、資本力を持つ銀行系投資銀行に限られる。また、ファイ ナンス人材が育っていない。商業銀行の融資で育った銀行員にはLBOファイナンスに必 要な企業・事業価値の分析が出来ない。また、そのようなファイナンスを流動化するプラ イシングが出来ない。そして、日本のLBOファイナンスの規模は現在1兆円弱であるが、 先進国の仲間入りをするには、少なくとも10 兆円程度に増えなければならない。


    (2)不動産投融資と証券化
    欧米の投資家によれば、日本の不動産現物、またはエクイティ投資は魅力的とのことである。すなわち、東京、大阪、名古屋での一等地の不動産投資キャップレートは3%台前半に低下しているが、まだ基準金利との間にスプレッドがある。欧米では逆転している(図E)。これらの欧米投資家は巨大な金融機関やファンドで、資本力もあり加工技術力もあることから、採算が十分取れると考えている。実際、07 年1−6 月での外国資本による日本の不動産への投資は150 億ドル(1.6 兆円)に達し、これは前年同期比3 倍であった。07 年後半も堅調で、主として欧州資本や中東系ファンドが不動産投資で日本に上陸していた。このビジネスでの人材需要の対象は、案件の発掘(ソーシング)、デューディリジェンス、バリュエーション、ストラクチャリングである。数年前ほど活発ではないが、人材需要はそれなりにあった。
    (図E) 主要都市の不動産の基準金利とのスプレッド

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    一方、不動産宛てノンリコース・ローンは冷え込んでいる。03 年頃からの不動産投資ブー ムで不動産向けノンリコース・ローンが拡大し、大手の出し手である日本の5 大銀行グル ープの残高は6 兆円を超えていた。これは主として都心の不動産開発の進展による。しか し07 年後半に入り、ノンリコース・ローンの貸出に急ブレーキが掛かった。銀行審査の甘 さを懸念した金融庁によるチェックもあるが、主因は、サブプライムローン問題で外資系 レンダーが融資を完全にストップしたことによる。これに伴いノンリコース・ローンの証 券化であるCMBSも全く売れなくなった。この傾向は米系大手投資銀行において顕著で あった。従って、不動産宛て融資とCMBS関連の人材需要は全く聞かれなくなった。た だし、国内完結型の案件や小型の案件は比較的影響が小さく、関連する人材需要はあった。

    不動産の取得で注目されたのは、個別の既存不動産の買い取りではなくM&A手法での不 動産会社の買収であり、開発型の投資であった。ここでは不動産人材というより、企業金 融のバックグラウンドを持つ銀行員が求められた。上場REIT数は41 まで増えたが、マ ーケットの悪さを反映してREITでの人材需要は全く聞かれなかった。今後はREIT同士の合併・買収・再編も進むと考えられる。REITでは今後、海外不動産の組み込み が許されることから、英語力のあるプロへの需要が出てくると考えられる。また、大手の 米系投資銀行が米国でのノウハウを持ち込み、日本版サブプライムローン(回収に懸念の ある住宅ローン)を地銀と提携(買取りや保証)して拡大していた。そのソーサーやストラクチャラーに対する人材需要があった。

    (3)特殊なファイナンス
    <1>メザニン・ファイナンスは05 年に登場し、LBOファイナンス、事業ファイナンスや不動産の証券化に使われている。メガバンク、再上場した中堅の銀行、信託銀行、ノンバンク、外資系投資銀行、メザニン専門ファンド等が自己資金やファンドを投下している。日本ではローン型が大勢である。ローン金利は5−15%で投資家には魅力的である。日本のメザニンの規模は実質でまだ1千億円を超えた程度だが、今後拡大が見込まれる。これに伴い、オリジネーションの担当者だけでなく、他社がアレンジするメザニン・ファイナンスに参加する担当者も求められている。しかし、メザニンのリスク分析やプライシングには高度のノウハウを要するので、外資系メザニン・ファンドでは外人プロが与信を担当している。今後、日本人経験者の成長が期待される。
    <2>シンジケートローンは邦銀を中心に行われ、07 年3 月末残高は27.5 兆円に達したが、まだ米国の1/10 程度に過ぎない。市場型間接金融の拡大への期待もあり増大しているが、邦銀間の金利ダンピング合戦により収益性が悪化し、通常のシンジケートローンの拡大のペースは鈍化した。シンジケートローンには、プロジェクト・ファイナンス、M&Aのための協調融資、PFI、インフラ・ファイナンス、海外向けのシンジケートローンが含まれる。もともと邦銀の人材は内部調達されており、外部人材への需要は限定的であった。海外でのプロジェクト・ファイナンスではメガバンクが健闘し、世界ランキングでは上位にあるが、ここでの人材ニーズは外人プロが対象である。
    <3>船舶金融は過去数年の世界貿易の拡大を反映して急拡大した。日本では、主としてメガバンクや一部の外資系銀行が積極的に取り組み、人材需要もあった。しかしノンリコースでのシッピング・ファイナンスは、競争の激化で金利が適正水準を下回っており、現在、停止状態にある。これは邦銀の採算無視、リスク軽視の融資方針によるところが大きい。
    <4>インフラ・ファイナンスも一部の金融機関により活発に行われている。PFIが00 年頃登場し、人材需要もあった。その後、PFIのボリュームは急拡大し、社会的に認識されるようになった。しかし、競争激化によりスプレッドが大幅に縮小し、国債に対する上乗せは20-30bpsにまで低下している。これは、結局PFIは日本の国や地方政府に対する与信と認識されていることによる。従ってPFIは銀行に融資機会を与えるだけのビジネスになった。現在も人材需要はあるだろうが、応募するバンカーは少ない。しかし、中央・地方政府とも財政難であることに変わりなく、インフラ宛て投融資に強い外資系投資銀行が主導するインフラ・ファンドが上陸しつつある。これはまだ緒についたばかりで人材需要も限定的である。PFIに代わって拡大するか、再び邦銀の金利ダンピング合戦の場となるかは、これからである。
    <5>ストラクチャード・トレード・ファイナンスとは、レアメタル等の資源開発やその貿易に関わるハイリスク・ハイリターンの短期融資である。クラブディールで、専門性を持つ欧州系金融機関の独壇場である。商品市場の拡大によりメガバンクも参入を試みているが、相手にされない。このためメガバンクが海外で外人プロを採用している。
    <6>再上場した中堅の邦銀や外資系の専門会社が中小企業を対象とした企業金融を拡大しようとしている。これは、不動産のノンリコース・ローンや事業の証券化のように個別のキャッシュフローを対象にするのではなく、企業金融である。その中で100bps以上のスプレッドを確保出来る融資を追求する。このビジネスはメガバンクには出来ない。担当者には融資先オーナーとのリレーションシップを築く営業力や審査力が求められる。人材の確保は難しいがチャレンジングであり、今後、この分野の人材需要は拡大すると考えられる。

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    4.クレジット投資

    サブプライムローン問題は世界のクレジットマーケットを大混乱に陥れ、金融機関に多大な損失を与えている(図F)。従って、外資系投資銀行ではいずれもクレジット部門で大規模なリストラを進めている。
    (図F) 欧米主要金融機関のサブプライム損失

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    CDS
    世界のクレジットマーケットは、07 年前半までは順調に拡大していた。ISDAの発表に よると、06 年末の全世界のCDSの想定元本残高は26 兆ドル(2800 兆円)で、前年比53% 増大していた。同時点の日本のCDS残高0.2 兆ドル(21 兆円)は世界全体の1%に満た ないが、それでも07 年前半までは拡大していた(図G)。日本のCDSの指数(クレジッ ト・スプレッド)が拡大しており、CDS銘柄の増大や指標の提供サービスの拡大で、投 資商品としての魅力が改善しつつあった。従って、外資系投資銀行でのクレジット商品開 発担当者やクレジット・アナリストの人材需要があった。しかし、07年後半以降での世界 的なクレジットマーケットの混乱によって、CDSビジネスは沈滞化し人材需要は聞かれ なくなった。

    (図G) 世界の各地域別CDS残高

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    CDO
    06年末の全世界のCDO発行高額は5490 億ドル(66 兆円)に膨らみ、01 年の5.4 倍に増 大していた。しかし、サブプライムローン問題によりマーケットは大混乱に陥った。 サブプライムローン問題が勃発する以前は、日本の年金や生命保険等の機関投資家には、 クレジットものに対する強い投資意欲があった。一部の外資系投資銀行では単純に既存の CDOを売るのではなく、顧客ニーズに合わせた提案をしていた。すなわち、銀行に対し てはリスク許容度やBIS規制を勘案し、生保や年金に対してはライアビリティとマッチ ングするストラクチャード・クレジットを提案した。このため外資系投資銀行は人材を探 していたが、そもそも機関投資家に顧客ベースを持ち、かつクレジットのストラクチャリ ングが出来るプロは極めて稀少で、採用に苦戦していた。

    CPM
    07年前半には、邦銀においてクレジット・ポートフォリオ・マネジメント(CPM)の必 要性が認識され始めていた。これは新BIS規制への対応から個別クレジットに対する審 査やリスクマネジメントに加え、銀行の抱えるクレジットリスクを産業別、格付け別等で 管理し、マーケットへの売却や購入、CDSや分散モデルを駆使して、リスク・リターンを 改善しようとするものである。邦銀ではこの人材需要が増大していた。邦銀も欧米金融機 関に習って資本コスト経営、CPMへの道を進むとして歓迎された。しかし、これも07 年 後半でのサブプライムローン問題で霧散した。

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    5.事業法人取引とデリバティブ

    (1)マーケット別

    投資銀行部門の事業法人カバレッジ(TMTやGIG)は大型企業を対象とするが、債券 部門では時価総額1000 億円以下の上場企業や未上場の中堅企業に照準を合わせている。こ れらの顧客からはさまざまな商機が期待出来るからだ。今後も内外の金融機関にとって主 戦場になる。ここでは、顧客アプローチでウォールの問題はあるものの、負債・資本サイ ドから資産サイドまで両方に商機がある(もちろん実際の取引になれば担当部に任せられ る)。すなわち、調達サイドでは、IPO、増資、M&A、事業継承、プライベート・エク イティ、ハイブリッド・ファイナンス、ストラクチャード・ファイナンス、ブロック・ト レード、PIPEs等。運用サイドでは、仕組み債、デリバティブ、オーナーの個人金融 資産に対するプライベート・バンキング等である。
    この顧客が収益的であることは外資系も日本の金融機関も分かっているが、いずれも態勢 が組めない。日本の金融機関はノウハウが不足しているし、グループが大き過ぎて担当金 融機関からの協力が得られない。外資系金融機関はこれらの顧客と強いグリップを持つバ ンカーを採用し、顧客との親密な関係を築いて儲けようとするが、外資系では短期的な収 益が求められるので上手くいかない。また、これらの候補者はメガバンクの国内営業店に いるが、多くの場合、英語が出来ないので外資系での勤務にムリがある。外資系金融機関、 日本の金融機関とも考え方を変えることが出来た方が有利に展開する。ある大手の外資系 投資銀行は投資銀行部門と債券部門の合弁の組織を作った。狙いは中堅企業のIPOやエ クイティ・ビジネスであったが、肝心の新興市場の株価が低迷したため期待した収益を上 げられなかった。

    外資系金融機関債券部門の地銀担当グループでは、ビジネスが低迷し人材需要が無かった。 これはCDOマーケットの混乱やBIS規制の強化により、地銀の投資余力が無くなって いることに起因する。従って、運用サイドより資本政策へのアドバイスを行っていた。

    ミッドマーケット(宗教法人、学校法人、財団等)も収益的と考えられている。これらの 顧客には時価会計が無いからだ。しかし、外資系は適材のマーケターを採用出来ないため、 収益を上げるのは非常に難しい。候補者は日本の大手金融機関の国内営業店にいるが、彼 らは英語が不得手で、しかも先端的な金融商品を理解出来ない。また、取引に関わる与信 の認可取得も難しいようだ。

    (2)プロダクト別

    デリバティブは依然として収益的であった。収益の大半は長期フラット為替からであった が、先端的な外資系金融機関は、ヘッジ取引やM&Aに付随するデリバティブや海外子会 社との収益移転取引などで、アイディアを駆使して儲けていた。一部の外資系金融機関に 邦銀出身者が転職して大きく稼いでいた。また金融商品開発でも開発力がある若手が活躍 しており、これらの開発担当やクオンツ・アナリストに対する人材需要もあった。また、 外為インデックス等、為替を使った仕組み商品が開発されており、一部の外銀がこのため 外為部門を強化していた。

    しかし、一般的にはデリバティブでの人材需要は弱く、一部の外資系でリストラが起こっ た。また、日米の金利差の縮小で、今後、長期フラット為替の魅力が薄れると考えられる。 原油、穀物、資源などの国際商品相場の上昇を受けて、内外の証券会社がコモディティ・ ビジネス拡大のための組織を作り、積極的に人材採用していた(図H)。コモディティ・ ビジネスには、投信に組み込まれた個人向けの商品や、事業会社向けで原油やレアメタル の値上がりリスクに対するヘッジビジネスがある。いずれも人材需要があった。しかし、 外資系金融機関の日本法人や日本の証券会社による日本人経験者への需要は、いずれも仕 組み担当かマーケターに対するものである。トレーダーのポストは外人向けである。

    (図H) 商品デリバティブ契約残高

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    6.資産運用

    サブプライムローン問題による日本の資産運用での人材需要への影響は、現在までのとこ ろ、他の金融ビジネスに比較して大きくない。株式市場の混乱を受けて伝統的な資産運用 のパフォーマンスが低迷する中でオルタナティブ投資が注目を集めている。特にヘッジフ ァンド(ファンド・オブ・ファンズを含む)、プライベート・エクイティ、不動産関連、コ モディティ等のアセットクラスへの投資が注目を浴びており、これらのビジネスの経験者 が求められていた。 (1)ヘッジファンド

    サブプライムローン問題にも関わらず、世界ベースではヘッジファンドへの資金流入が続 いている。07 年通年では1945 億ドル(20.6 兆円)の流入があり、前年比54%の大幅な増 加であった。そして世界のヘッジファンドの07 年末残高は1.87 兆ドル(198.2 兆円)に達 し、前年比28%増加した(図I)。ヘッジファンド指数のドルベース総収益率は10.2% で、06 年の12.9%に引き続き10%台を確保していた。この収益指数を押し上げたのはエマ ージング市場指数(25.0%)であり、逆に低迷したのは金融ファンド(マイナス5.9%)、 不動産ファンド(マイナス1.3%)、高利回りファンド(マイナス0.1%)であった。

    07年を通じて日本の平均株価は世界の主要マーケットの中で唯一マイナスであったため、 日本ものを対象にしたヘッジファンドでは年間77.1 億ドル(8173 億円)の資金が流出した。 この結果、07 年末のヘッジファンド残高は243 億ドル(2.6 兆円)となり、06 年末から31% も減少した(図J)。これはピークの06 年6 月末の5.5 兆円の4 割程度である。一方、 アジアを対象とするヘッジファンドの拡大は顕著で、日本を除くアジアに投資するヘッジ ファンドの残高は427 億ドル(4.5 兆円)であった。日本はヘッジファンドの投資対象とし ても、他のアジア諸国に劣後していることになる。

    (図I)世界のヘッジファンドの運用資産総額と資金純流入額
    (図J) 日本を対象にしたヘッジファンドの運用資産額(年末ベース)

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    一方、国内の機関投資家はヘッジファンドなどのオルタナティブ投資を拡大している。あ る調査によると、機関投資家のヘッジファンドへの運用資産残高は10 兆円を超えている。 残高は毎年20%程度増えている。機関投資家の運用資産全体に占めるヘッジファンドの比 率も10%近くに上昇している。投資対象はアジア向け、プライベート・エクイティや不動 産関連向けが増えている。ヘッジファンドに投資している日本の投資家は、銀行・信用金 庫・組合が48%、個人富裕層が23%、信託銀行10%、生・損保9%、年金が6%となって いる。最近では、年金、生保、個人富裕層(オーナー経営者)が増えている。

    上記の環境下で、ヘッジファンドの人材に次の動きがあった。
    ヘッジファンドの運用では、日本株の不振に加え日本の高い税率や強い規制を嫌気し、有 能な日本人ファンドマネジャーは日本を離れ、香港やシンガポールに拠点を移している。 彼らの投資はグローバルであるが、中には中国、ベトナム、タイ、インドネシア、オース トラリアに照準を合わせるファンドもあった。人材需要の対象は、主として香港やシンガ ポールに移動する日本人ファンドマネジャーのサポート役としての若手であった。しかし 家族を日本に残してまでアジアへ赴任する若手は少なく、ファンドは人材採用に苦戦して いた。また、日本国内での日本株運用の人材需要はほとんど聞かれなかった。
    また、日本の生・損保会社がヘッジファンドへの運用者を募集していた。しかし、雇用条 件が旧態依然であるから、有能な人を見つけるのは難しかった。

    運用会社ではヘッジファンドの機関投資家宛てマーケターに対する人材需要があった。あ る海外の大手資産運用会社が、プライベート・エクイティ投資を中心とするグローバル・ ヘッジファンドを立ち上げ、日本でも投資家を募るためシニアなプロを採用しようとした。 しかし、プライベート・エクイティに詳しく、かつヘッジファンドや資産運用の経験があ るプロを見つけるのは至難の業であった。また、他の運用会社が銀行、生保、年金等の機 関投資家に対し、顧客の投資余力や負債の構造にあわせてクレジットものを提案出来るプ ロを探したが、苦戦していた。また、ある外資系資産運用会社は日本株特化の方針を変更 し、機関投資家に対し、ヘッジファンドを含めたさまざまなオルタナティブ資産の提案が 出来るマーケターを採用しようとしたが、適材の候補者を見つけることは難しかった。こ のように、多様化する機関投資家のニーズに対し的確に対応出来るマーケターの採用は極 めて困難であった。候補者への要求度が高過ぎるのかも知れない。

    一時、日本の大手証券会社が海外ヘッジファンド宛てマーケターを採用しようとしていた が、日本の金融機関の商品の品揃え、インフラや報酬制度がプロの要求を満たしていなか ったため、失敗した。

    (2)SWF

    アジアの新興工業国の貿易収支の急速な改善と石油価格の急騰により、ソブリン・ウエル ス・ファンド(SWF)が急速に存在感を示している。現在、30 以上のSWFが約3 兆ド ル(318 兆円)を運用していると言われるが、今後3 年以内に1000 兆円に達するとの予測 もある。SWFは一流の西欧人ファンドマネジャーが運用しているが、日本株も運用対象 となっており、人材需要が噂されるようになった。実際、日本の運用会社を買収して日本 株への運用を行おうとしている中東系ファンドもある。いくつかのSWFが日本の運用の プロと契約して、日本株の調査に当たらせようとしている。どの程度の人材需要かは、今 後判明すると思われる。

    (3)投信

    「貯蓄から投資へ」の流れを受けて、07 年12 月末の公募投資信託の純資産残高は79.8 兆 円で、06 年末対比10 兆円程度増加した。主因は07 年前半の株価上昇であった。公募投信 への年間の資金流入額は15 兆円程度あったが、サブプライムローン問題のため07 年後半 の資金流入は前半の6 割程度に鈍化した。また、評価損が5 兆円程度発生した。この運用 損はITバブルが崩壊した00 年以来の規模である。損の内訳は、日本株、REIT、外国 債券が主であった。但し、新興国株投信やバランス型ファンドの堅調により、落ち込みは ある程度カバーされた。

    日本株投信は不振であったが、外貨建て投信は増加し、07 年末の外貨建て投信の割合は46% に及んだ。即ち、日本の投信の半分以上は、実質外資系運用会社が運用している。

    特に新興工業国の株式への投資が堅調であり、この運用者が高い年俸で転職していた。外 資系運用会社の間で投信の拡販競争が激化しており、一部の外資系大手の資産運用会社は、 営業担当や地方拠点拡充のためのスタッフを積極的に採用していた。

    (4)投資顧問

    07 年9 月末での投資一任業者143 社の投資顧問契約資産残高は172.0 兆円で、同年6 月末 比2.2 兆円(1.8%)減少した。これは、主として海外顧客(特に海外年金)の大幅な減少 (7.4%)による。

    「勝ち組は十数社に選別される」と言われる投資顧問業で生き残るためには、資産運用会 社は従来の運用哲学・運用手法に固執するのではなく、多様化する年金の運用ニーズに応 えなければならない。すなわち、日本株、外債、外国株、ヘッジファンド、不動産、プラ イベート・エクイティ、ハイブリッド外債、CDO等について、幅広く提案出来なければ ならない。このため、一部の投資顧問会社は年金基金宛てに「投資戦略ソリューション部」 を立ち上げた。これは従来の「クライアント・サービス部」といった営業・管理業務とは 別で、特定の運用商品だけでなく資産運用全般に亘り提案する。この業務はこれまである 年金コンサルティング会社と競合すると考えられる。一部の投資顧問会社はこのための人 材を採用しようとしていたが、適材が少なく苦戦していた。

    グループ内に資産運用会社を持たない外資系投資銀行が投資一任勘定の登録を行った。証 券会社はこれにより、多様な商品を自前で機関投資家に販売しようとしている。ここでの 人材需要があった。

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    7.リテール(個人富裕層ビジネス)

    07 年9 月末の個人金融資産残高は過去最高の1555 兆円で、前年同期比2.9%(45 兆円)増 加した。確かに増加分については、株式、出資金や投信等のリスク資産に投入されている が、いまだに過半は現・預金であり、リスク資産は全体の15%程度に過ぎない。これは米 国の45%に比べて著しく低く、また、投信等も元本保証型が多い。従って、「貯蓄から投資 へ」の流れが鮮明になったとは言えない。これは日本人の国民性や「お金」に対する教育 のあり方に起因している。
    この増大するリスク金融資産を巡って、内外の資産運用会社や銀行・証券会社等の販売金 融機関が争奪戦を繰り広げている。
    「リスク資産」に対しては、「超富裕層」(金融資産5 億円以上の世帯)と「マス富裕層」(ア ッパーマス層から富裕層までで、金融資産30 百万円以上5 億円未満の世帯)が投資する。
    この二つの富裕層では属性や投資行動が異なるため、金融機関による戦略が違う(図K)。


    (図K) 2005年の富裕層マーケット

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    (1)超富裕層

    超富裕層とは、上場企業のオーナー経営者やその創業家一族、非上場企業オーナー経営者、 大病院の経営者、不動産オーナー等である。超富裕層の行動・生活様式は独特であり、プ ライベート・バンクは、運用商品の提案に加えて、税、相続、事業継承問題へのアドバイ スから絵画や書等、趣味・趣向への対応までしなければならない。海外でプライベート・ バンクの実績がある外資系金融機関が日本での拡大を図っているが、必ずしも成功してい ない。日本には厳しい規制や独特の慣行があり、海外での手法が日本に通じないからであ る。しかしこれらの金融機関では長期的な戦略に基づく人材需要があり、顧客開拓、市場 調査、商品設計、顧客サービス等のポジションで人材が求められていた。しかし、本格的 なプライベート・バンクは日本には無かったので、人材の発掘が難しい。

    (2)マス富裕層

    マス富裕層(超富裕層より下の富裕層)とは、外資系の高給取り、開業医、弁護士・会計 士、大企業の役員、団塊世代の退職者等である。この富裕層は合理的な投資を行い、リス ク資産に対する選好も強い。海外で実績がある外銀が上陸して積極的に展開している。こ れを既存の外銀が迎え撃っている。その他、本国でのユニークな手法を持ち込む外銀、囲 い込んだ顧客に照準を合せる日本の中堅銀行、独自の地盤をもつ中堅証券会社、大きなネ ットワークを持つ大手証券会社やメガバンク等が入り乱れて、顧客の争奪戦を繰り広げて いる。商品は、さまざまな投信、ヘッジファンド、デリバティブ、仕組み債等である。人 材が求められるポジションは、マーケティング、戦略の策定と執行、商品戦略の策定と仕 入れ、商品説明のためのパンフレットの作成、コンプライアンス、支店の営業担当など幅 広い。人材採用は簡単ではないが、富裕層ビジネスが拡大し始めてから数年経っており、 人材採用が進んでいるとも言える。今後、このビジネスはさらに拡大することから、人材 需要は引き続きある。

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    8.コンプライアンス等

    07 年9 月の金融商品取引法の施行に伴い、各金融機関は内部管理を強化している。ほとん どの金融機関ではコンプライアンス・オフィサーの採用は済んでいるが、まだ内部管理に 関わるさまざまなポジションで人材需要がある。しかし、これらの職責での経験者が不足 しているため、採用での報酬額が上がっている。

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    第二章 「金融転職市場の創設」に関わる法律問題の研究(第1回)

    〜 金融人材のための労働法入門 〜

    T.研究の目的とその前提

    ESPは代表者の18 年に亘る有料人材紹介業の経験を踏まえ、労働法制面での研究を 進めてきましたが、今般、東京青山・青木・狛法律事務所の佐藤哲朗弁護士の協力を得 て、金融人材に対する啓発事業として研究の成果を広く提供することにしました(今回 は第1回。次号以降、連載の予定)。
    研究の成果を分かり易く説明するために、金融人材の転職の際に留意すべき事項を一 問一答形式で提示することにしました。ただしこの研究には次の3つの制約があります。 第1は、各テーマの内容について当法律事務所の監修を受けているとはいえ、司法の 場における法の適用は各当事者の「個別の事情」に基づき「総合的な判断」で下される ため、下記の設問に対する回答を類似した事例にそのまま当て嵌めて同一の結論を引き 出すとか、一般化することが難しいことです。したがって以下の各設問に対する回答は 当法律事務所の監修のもとでESPの永年の実務経験に基づいた一般的な所見にとどま ることです。
    第2は、各金融機関は「就業規則」を社内のルールとして定めており、具体的な就業 規則は法令や労働協約に違反しなければ認められています。したがって最大公約数的な 以下の「設問」と「回答」が個々の金融機関の就業規則と相違することもありえること です。
    第3に、この「研究」が対象としている金融人材とは、「高度金融人材」、いわゆる「金 融のプロ」と「金融機関の経営者層」、具体的には外資系金融機関のバイス・プレジデン ト以上、日本の金融機関の部長代理以上に限定していることです。この研究が金融ビジ ネスに携わるあらゆる階層、トップから末端の社員にまでに適用されるべきと主張して いるわけではありません。

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    U.何故、この「研究」が必要か?

    日本の金融ビジネスで「転職」は頻繁に起こっていますが、日本の転職が株式市場等 のように「市場」としての枠組み=「金融転職市場」を持たずに行われているため、さ まざまな不都合や無用なトラブルが頻発している、とESPは考えています。その原因 の一つは、金融人材の「労働法規」についての知識不足です。これは、日本の労働法制 が複雑で分かりにくいことによります。日本では現在でも、「労働力は商品ではない」(= かつてのILO条約の考え方)との発想が欧米諸国よりも強く、また日本的経営の一つ である「日本的雇用システム」、すなわち長期雇用、年功序列、企業一家主義がいまだに 根強く残っています。したがって「労働力を市場原理に晒す」こと、すなわち「労働力 の市場化」は悪、との強い考え方があります。これが日本の労働力の流動化を過度に阻 んでいる、と考えています。
    もちろん「労働は神聖なもの」であり、かつ労働力の生み出す付加価値を定量的に評 価することは容易ではありません。また労働力の市場化についてはアダム・スミスやカ ール・マルクス以来、さまざまな考え方やイデオロギーがあり、それぞれに論拠があり ます。ESPはその論争に参戦しようとしているわけではありません。グローバル・ビ ジネスである金融ビジネスに携わる「高度金融人材」が、グローバルな観点から流動化 され、良質化されなければ、日本の金融ビジネスに将来はない、と危惧しているのです。

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    V.労働法制に対する基本的な理解

    (1)労働法の体系と位置づけ
    労働者と使用者の間の労働をめぐる法的関係は、「法令」、「労働協約」、「就業規則」、「労 働契約」という4つの法源によって規律されています。

    @法令
    当事者の合意の有無、内容にかかわらず、当事者を法が強制的に規律するものです。 労働に関連する法律を大きく分けると、国の最高法規である「憲法」、人と人との関係 を律する「民法」(特に契約法)、労働者と使用者との関係を律する「労働法」がありま す。

    <憲法>
    13 条「個人の尊重」、22 条「職業選択の自由」という自由権の外、それと対置される 社会権として25 条「生存権」、27 条「勤労の権利と義務」、28 条「労働三権(団結権、 団体交渉権、団体行動権)」等の規定があります。

    <民法>
    「労働契約」は民法で定める「契約」(民法上は「雇用契約」という)の一つであり、「契 約」は当事者間の意思表示の合致、つまり「合意」により成立します。ただし合意に基 づく契約であっても「強行法規」(公の秩序に関する法律規定)に反することはできませ んし、民法の原則である「条理と信義則」によって補充・修正されることもあります。

    <労働法>
    労働法は労働者と使用者の間の労働をめぐる関係を取り扱うさまざまな「強行法規」 の総称です。当然のことですが、日本国内においては外資系企業であってもこれに反す る労働に関する取り決めはすべて無効です。「強行法規」の多くは私法上の効力を持つと 同時に、刑罰規定を伴うものもあります。
    労働法は次の各法規から成っています。

    *実定法:労働基準法、最低賃金法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法、労働契約法(07 年に制定、未施行。それまでの判例等で確立した内容を法文化したもの)
    *法理 :解雇権濫用法理、採用内定法理、試用法理、配転・出向法理、懲戒権濫用法理、 男女平等取扱法理

    A労働協約
    労働者が組織する労働組合と使用者との間で締結された合意。この合意事項は一定の 条件のもとで、組合員以外の労働者にも拡張適用されることがあります。
    B就業規則
    使用者が定めた労働条件や職場規律等の規則。ただし、憲法、民法、労働法の規定に 反することはできません。使用者は就業規則の作成に当たっては、事業場の過半数組合 あるいは過半数代表者の意見の聴取(協議・同意・合意を得ることまでは求められてい ません)、行政官庁への届け出、労働者への周知、という3つの要件が求められています。
    C労働契約
    使用者と労働者の個々の合意。双方の意思表示の合致により決まります。ただし、労働法等の法令、労働協約、就業規則より下位規定で、その制約を受けます。

    (2)労働契約上の権利と義務

    使用者は「労働者に対する指揮命令権」を持つと同時に、「労働者に対する賃金の支払 い義務」を負います。また指揮命令権に内在する付随義務として多様な「配慮義務」を 負います。
    一方、労働者は「使用者から賃金の支払いを受ける権利」を持つと同時に、「使用者の 指揮命令に従った労務提供義務」を負います。この労務提供にあたっては「職務専念義 務」と付随義務として「誠実労働義務」を負います。
    「誠実労働義務」とは、具体的には主に次の2つ。

    秘密保持義務:企業秘密を保持すべき義務。この義務には「不正競争防止法」に よる規定も適用されます。
    競業避止義務:使用者と競合する企業に就職するとか、競合する事業を自ら開業する ことを自ら回避する義務です。

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    W.労働法令に関わる一問一答

    (1)オファーレターの法的性格

    <事 態>
    A氏はB社に入社することで2月1日に合意し、B社からオファーレターを受け取 り、サインして返却した。しかし入社は2ヶ月後の4月1日である。
    入社以前でもA氏とB社は「労働契約」上の権利を持ち、義務を負っているか?

    <回 答>
    「労働契約法」が施行されていない現時点では「労働契約」を規律しているのは、民法 の雇用規定(民法623 条)です。同条では「雇用は当事者の一方が相手方に対して労務 に服することを約し、相手方がこれにその報酬を与えることを約することによって、そ の効力を生じる」と規定され、労働契約は労務提供と報酬支払を「約束」することによ り成立します。したがって現実に労務提供と賃金支払を行っていなくても、合意があれ ば労働契約は成立し、A氏とB社はそれぞれ労務提供と賃金支払の義務を負うことにな ります。なお「労働契約法(未施行)」6条も同様に「合意」が成立要件となっています。 現在の労働法法理では「解約権の留保を契約中で明示したり、一定の労働関係に対し て解約権が留保されているとみなしたりする慣習がない」限りは、「合意」があった時点 で労働契約は成立するとみて、その留保や慣習に基づく解約に対してどの程度の合理的 な理由が必要かで判断される、とするのが一般的な見方です。
    オファーレターの法的な性質はまだ固まっておらず、解約権の留保が明確になってい ない限りは無条件に解約はできないと判断される可能性が高いです。またB社がオファ ーレターをA氏に渡しただけでも契約が成立するとする見方もあります。

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    (2)オファーレターにサインした直後の他社への就職(期間の定めのない雇用契約)

    <事 態>
    A氏はB社からオファーレター(期間の定めのない雇用契約)を受け取り、合意して サインした。しかしB社に入社する前に別のC社からより良い条件のオファーがあった ので、C社に入社することにした。これに対してB社は契約不履行としてA氏に損害賠 償を請求すると言っている。A氏は損害賠償に応じなければならないか?
    逆にB社からA氏に対して入社以前に契約を解除できるか?その場合、A氏はB社に 損害賠償を請求できるか?

    <回 答>
    オファーレターにサインし、契約が成立しているので、A氏がB社に労務提供をしな い場合にはA氏の債務不履行となります。特別な法律はありませんので、A氏は民法の 一般原則に従って債務不履行による損害賠償責任を負います(民法415 条)。損賠賠償額 はA 氏がB社に就業していれば避けられた出費、たとえば代わりの労働者を探すために 費やした費用、派遣労働者を頼んだためにA 氏に支払う予定だった賃金よりも多く派遣 労働者のために出費した場合の差額、代わりの労働者が特別に教育の必要があった場合 の教育にかかった費用などが含まれます。
    ただし「期間の定めのない雇用契約」(無期契約)の場合、労働者は2週間の予告期間 をおけばいつでも解約できるので、これに従ってA氏は2週間の予告期間をおくことで 損害賠償責任を免れることができます。
    一方、B社からの契約解除については、たとえA氏の就業が開始されていなくても、 B社に対して解雇権濫用法理が適用されます。A氏に特段の不利な事情がない限り、A 氏はB社に契約解除に伴う損害賠償を請求できます。
    損害賠償額は契約破棄がなかったら得られた報酬です。個別の事情によりますが、A 氏が前職を辞していた場合には、別の同様の就業先が見つかるくらいの期間の間に前職 でもらえていたはずの報酬となる可能性が高く、その場合には解雇の場合と同じような 算定方法になります。

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    (3)オファーレターにサインした直後の他社への就職(期間の定めのある雇用契約)

    <事 態>
    A氏はB社からオファーレター(期間の定めのある雇用契約)を受け取り、合意して サインした。しかしB社に入社する前に別のC社からより良い条件のオファーがあった ので、C社に入社することにした。これに対してB社は契約不履行だとしてA氏に損害 賠償を請求すると言っている。A氏は損害賠償に応じなければならないか?
    逆にB社からA氏に対して入社以前に契約を解除できるか?その場合、A氏はB社に 損害賠償を請求できるか?

    <回 答>
    「期間の定めのある雇用契約」(有期契約)では「やむを得ない事由」がない場合、そも そも労働者が解約を申し出ても解約の効力は生じません。「やむを得ない事由」とは、労 働契約を締結した目的を達せられないような事情をいい、たとえば急に病気にかかった とか、あるいは両親の看護が必要となり就労がままならなくなった、説明を受けていた 職務内容や配属先と異なった職務、配属先になることが就業開始以前に判明した場合な どが考えられます。
    法律では解約する当事者かどうかにかかわらず、いずれかの当事者に過失がある場合、 過失のある当事者が責任を負うとしています。つまり労働者から辞退(解約)する原因 が使用者の過失にあるようなときには使用者が損害賠償責任を負うことになります。上 記の事例の中では職務内容の齟齬が労働者の単純な思い込みによれば労働者の過失が考 えられ、逆に使用者が説明不行き届きだったときは使用者の過失が考えられる、という ようにいずれの当事者にも過失がある可能性があります。一方、病気にかかるというの は、いずれの当事者にも過失がないとされることが多いと思われます。
    損害賠償請求の根拠については民法628 条の規定は「やむを得ない事由」があって解 約できる場合であっても、いずれかの当事者に過失があれば、相手方に損害賠償をしな ければならない、という構造になっています。
    本事例ではA 氏がC社に入社することが決まったことで事実上、B社に労務を提供し なくなることが債務不履行にあたる、とB社が主張し、民法628 条の損害賠償ではなく、 契約の一般原則である民法415 条の債務不履行に基づく損害賠償を請求することになり ます。
    賠償額はB社がA氏の代替となる労働者の手当のために余分に費やした費用であり、 無期契約の場合と考え方は一緒です。必ず金額が高くなるものではありませんが、3年 分の差額を計算することになるので、高くなる場合が総じて多いといえるでしょう。 一方、B社からの契約解除についても同様なことがいえます。賠償額についてはB 社 の賠償責任はA氏の3年分の給与となるので、一般的には無期契約よりは多くなります。 もっともA 氏が次の職を見つけて給与を貰い出した場合、新しい職場からの給与を損害 額から控除するのが通常ですので、さほど多くならないこともあります。

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    (4)「オファーレター」と「内定」の違い

    <事 態>
    求職活動において「オファーレターを貰った」とか、「内定が出た」とよく言われま すが、どう違うのか?内定の法的性質はどのようなものか?

    <回 答>
    いずれも労働契約の締結に至る段階で登場する言い回しですが、「内定」は状態を指し、 「オファーレター」はツールを指すと整理できます。したがって「オファーレターを貰 って内定が出た」とか、「オファーレターにより労働契約が成立した」などという言い方 ができると思います。
    「オファーレター」の法的性質について定説はないようです。オファーレターの出され た状況や内容をみて、労働契約が締結されているとみるべきかどうかを判断することに なります。
    「内定」の法律論は終身雇用を背景とした新卒市場で発展してきました。使用者・学生 双方にとって優良性・適性を求めて早期に採用活動・就職活動を行い、卒業を条件に採 用・就業することを約束することで互いに今後の活動を止めるか抑える行動をとるため、 内定にも一定の法的な拘束力を持たせるべきとの議論が高まりました。いくつかの判例 が出され、最終的に採用内定は「就労始期付解約権留保付労働契約」であることが確立 されました。具体的にはまず内定の事実関係を個別に検討し、法的な拘束力を持たせる べき程度の関係が成立しているかをみます。拘束力がある場合には使用者が解約権を行 使するには「客観的合理性」、「社会的相当性」がなければなりません。
    中途採用については解約の留保条件が新卒の場合と異なることもあると考えられます。 判例では中途採用も客観的合理性と社会的相当性で内定取消しの可否を判断することが すでに確立しています。ただ中途採用の優秀性や適性が取り消しの理由になりうるかに ついて争われた事案はないようです。
    しかし中途採用が社会人を経験している者を対象とし、使用者に十分な調査の機会が 与えられているので、優秀性や適性を理由とするのは妥当と言えない場合が多いと考え られます。特に職業紹介会社が介在する場合には調査がより十分に行われるので、解約 権を留保するべきではなく、就業の始期が来ていないものの解約権留保のない労働契約 と同じと見るべきだとの説が有力です。
    もっとも使用者の調査の機会は事案によって様々で、これによって法的拘束力に差異 が出てくるとも考えられます。したがって中途採用の法的効力は使用者にとって調査の 機会が十分与えられているほど、客観的合理性、社会的相当性ではなくなり、解雇に関 する法理(解雇権濫用法理、整理解雇の要件など)が当て嵌ってくるものと思われます。

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    (5)試用期間の法的性格

    <事 態>
    A氏は「6ヶ月の試用期間」の条件でB社に入社した。しかしA氏はB社から当該職 務での適格性に欠けるとして試用期間の満了により雇用契約を終了すると通告された。 A氏はこの通告を受け入れなくてはならないか?
    また試用期間満了直前になってB社から「もう1 ヶ月、試用期間を延長して欲しい」 との通告があった場合、A氏はこの通告を受け入れなければならないか?

    <回 答>
    「試用期間」は事前の書面や面接では判断できない新入社員の職務能力や適格性等を使 用者がみるための期間とされています。通常3〜6ヶ月です。試用期間に関しては労働 基準法などの法令に規定がありません。
    最高裁の判断では試用期間付雇用契約は「解約権留保付雇用契約」として「使用者は 通常の雇用契約より広い範囲で解雇の自由が認められる」とされています。この判例で はさらに内定と同様の基準を立てています。具体的には試用期間を設けて解約権を留保 した目的に照らして合理的な理由が存し、社会的に相当として是認されうる場合のみ許 されるとし、試用中の勤務態度等から当初知ることができなかったことを知り、そのよ うな事実が雇用しておくのに適当でないと判断することが合理的で社会的に相当な場合 に解雇できるとしています。
    試用期間満了後、通常の雇用に入った段階では労働者に労務提供が不能と判断できる 程度の事情がない限り、使用者には「教育・能力開発」や「配置転換」などで対応する 義務があります。適切な対応を怠れば、使用者に解雇権濫用法理が適用される可能性が あります。しかし試用期間中では使用者にそこまでの義務はないと考えられます。中途 の場合は過去の実績や現在の能力が採用のポイントとなることが通常であることから 「教育・能力開発」までして適性を会社が見出す義務は認めがたいと考えられます。「配 置転換」も同様のことが言えるものの、会社内で微妙な調整が可能であれば配置転換を すべきといえると考えます。
    試用期間の延長については相当の合理性が認められない限り、使用者の一方的な申し 出で延長することはできないと考えられます。

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    (6)経歴詐称

    <事 態>
    A氏が採用選考の過程でB社に提出した履歴書と職務経歴書に一部不正確な記述が あった。すなわち海外ビジネススクールでMBA取得の記載は事実ではなかった、CP A資格取得の記載も事実ではなかった、TOEICの成績は記載の960 点ではなく800 点であった、などの経歴詐称があった。B社はA氏を解雇できるか?

    <回 答>
    経歴詐称による解雇が有効かどうかは、A氏の従事する職務との関係で判断される可 能性が大きいです。A氏の職務の遂行上、履歴書記載要件の重要性が高くなければ、「経 歴詐称」を理由に解雇されるとか、契約不履行となることはまずないと考えられます(も ちろんA氏の現処遇を保証するものではありません)。
    たとえばA氏の職務が投資銀行部門のバイス・プレジデント・レベルの場合と、外人 とコンタクトを取ることがない事務職であった場合とでは、経歴詐称と職務との関係で 判断は異なります。投資銀行部門のバイス・プレジデント・レベルは投資先の経営状況 の把握や業績予想が重要な職務内容となり、MBA で学ぶ内容が生かせる部分が多く、 MBA 取得が意味を持つと思われます。同様に貸付審査などにおいてもMBA は意味を持 つと考えられます。

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    (7)短期間勤務の職歴の履歴書への記載漏れ

    <事 態>
    A氏は3年前のB社への転職の際、以前に2ヶ月間、C社に勤務していた事実を履歴 書に記載しなかった。3ヶ月以内の短期間の雇用履歴は記入する必要がないと理解して いたためである。これによってA氏は懲戒を受けることになるか?

    <回 答>
    職歴は採用判断に関わる重大な要件ですが、A氏の記載漏れの期間が3ヶ月以内の短 期間であり、「重要性の原則」に鑑み、記載しなくても特段、問題はないものと考えられ ますので、A氏が懲戒を受ける可能性は少ないと思われます。
    ただし記載漏れのC社での履歴がB社の採用判断に関わるほどの重要性がある場合 (たとえば社会的問題企業に就業の場合)には、「信義則」からみると重大な事実の隠蔽 と問われる可能性も皆無とはいえないと思います。また職を転々としている場合にも使 用者は定着性を検討するための資料として重視すると思われますので、短期間の雇用を 繰り返しているような場合には短期間の雇用も記載すべき程度の重要な意味を持つと考 えます。

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    (8)「有期契約」から「無期契約」への移行

    <事 態>
    A氏は期間1年の有期契約で特定案件の遂行のためにB社で働いている。案件が完了 しないことから契約を毎年更新している。すでに3回更改した。
    A氏が4回目の更改をB社に申し出たところ、B社から「これ以上更改すると無期契 約に移行してしまう」と言われた。その通りか?

    <回 答>
    「有期契約」の契約更新を繰り返すと、「無期契約」に移行するという法律や法理はあり ません。ただ有期契約であっても、契約更新が何度も繰り返されると、解雇権濫用法理 が無期契約と同様に適用される、ということはあります。
    なお同法理が無期契約と同様に扱われるようになる契約更新の回数、期間はケースバ イケースです。A氏とB社のように期間1 年の契約が3回繰り返された場合に明確に無 期契約になるとは言い切れません。

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    (9)管理職の残業代の支払い

    <事 態>
    A氏は米系大手B銀行の東京支店で就業している。所属の融資開発部は総計30 人で 5チームに分かれている。A氏はその一つのチームのリーダーである(タイトルはバイ ス・プレジデント)。A氏は平均月間30 時間の残業を行っているが、人事部から「残業 に相当する報酬はベースサラリーの中に含まれている」と説明されていた。
    今月、職務多忙から60 時間の残業を行い、残業手当を要求したところ、人事部は「リ ーダーは管理職だから残業手当の対象ではない」と拒否した。A氏は人事部の言い分を 受け入れざるを得ないか?

    <回 答>
    労働基準法では「使用者は労働者に休憩時間を除いて1週40 時間、かつ1日8時間を 超せて労働させてはならない」(32 条)と規定され、これを超える労働に対しては割増賃 金を支払うことが定められています。ただし、「管理監督者」は適用除外(41 条)とされ ています。
    管理監督者とは、肩書き等の形式的、主観的な事情でなく、個別の実態に即して判断 されるべきとされています。判例でも、@労務管理上、使用者との一体性がある、A労 働時間管理を受けていない、B地位に相応しい処遇を受けている、の3点を考慮にいれ て判断がなされています。
    本年1月に第一審が示されたマクドナルド店長への残業手当支払いを巡る裁判では、 @店長の労務管理権限は限定的で使用者との一体性があるとはいえない、A店長の報酬 は時間外対象者と逆転し、管理監督者に相応しい処遇とはいえない、との理由で東京地 裁は残業手当の支払いを命じました。
    「チーム・リーダー」「バイス・プレジデント」のA氏が管理監督者の地位に当たるかは、 労務管理権限の範囲、受けている処遇等を実態に即して判断することになります。 ただ最近の傾向として長時間労働、とりわけ過労死や過労自殺などの深刻な事態に鑑 み、過剰労働を是正しようとする社会的要請が強まっていますので、残業時間の縮減に 向けて上司の部長との緊密な協議やチーム内の職務分担、A氏本人の早帰り意識も大切 です。
    なお企画部門等の特定業務に従事する社員に対して相応の報酬と引き換えに残業手当 支給対象としない「ホワイトカラーエグゼンプション制度」を創設する構想が審議会段 階で法案の形になりましたが、過剰労働を一段と招きかねないとの批判から国会提出に は至りませんでした。

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    (10)有期契約の期間中での退社

    <事 態>
    A氏は2年間の「有期契約」でB社に入社した。1年経過後、C社から良いオファー が貰えたので、B社に退社を申し出た。
    ところがB社は退社に納得せず、もし退社するのであれば契約不履行だから損害賠償 を請求すると言ってきた。A氏は賠償金を支払わなければならないか?条件のよい会社 に転職するのは、「職業選択の自由」からみて当然ではないか?

    <回 答>
    双方の合意で成立した「有期契約」の破棄は「やむを得ない事由」があるとき以外は できないと考えられています(民法628 条前段の反対解釈。未施行の労働契約法でも同 様の規定が明記)。労働者サイドの「やむを得ない事由」の例としては、職務内容や配属 先が知らされていたものと異なっていることが就業開始後に判明した場合のほか、自分 の想像以上に仕事が過酷であった場合も含まれると考えられます。
    たとえ「やむを得ない事由」があるときでも、その解約事由が一方の当事者の過失に よって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償責任を負うとされています(民 法628 条後段)。
    今回のA氏の申し出のような「やむを得ない事由」とはいえない契約破棄については、 そもそも解約を申し出ても解約の効力は生じません。C社への入社が決まってB社への 労務提供が事実上できなくなったことについて、A氏に民法415 条の債務不履行に基づ く損害賠償責任があるとしてB社が請求することは可能です。
    民法415 条の損害賠償責任の程度が民法628 条の「やむをえない事由」の有無によっ て変わってくることはありません。
    なお憲法上の「職業選択の自由」の権利とは、別の次元の問題です。

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    (11)就業規則での「退社の1ヶ月前までの申し出」条項

    <事 態>
    B社に「無期契約」で就業しているA氏がC社に転職することになった。C社から「内 定後、3週間以内に入社して欲しい」と条件を付けられた。ところがB社の就業規則で は「退社する場合には1ヶ月前までに申し出ること」と規定されている。
    A氏はこの規則を承知しているが、「無期契約の場合、労働者は2週間前に契約解除 を申し入れば、いつでも辞職することができる」(民法627 条1項)との「強行規定」 があるので、「1ヶ月ルール」を無視するつもり。A氏は3週間後に退社できるか?

    <回 答>
    退職の「予告期間」については裁判例では民法627 条1項の2週間を「強行規定」と するものが多く、たとえ労働契約や就業規則で2週間を超える予告期間が定められてい ても、退職申し入れから2週間の経過により退職の効力が生じることになります。した がってA 氏の主張は全面的に正しいと考えます。
    なお民法の原則は「期間をもって報酬を定めている場合」(たとえば月給制)には退職 の申し入れは前月の前半までに行うことによって当月1日以降に効力を生じさせる(民 法627 条2項)ので、逆に就業規則の規定が生きてきます。月の後半に申し入れをした 場合、民法の原則からは翌月一杯は退職できないことになりますが、就業規則に従えば 申し入れをして30 日経過後の翌月応当日に退職できることになります。

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    (12)退社の意思表示の方法

    <事 態>
    A氏は3月1日にB社上司に口頭で退社を申し入れをしたが、上司から「考え直せ」 と説得された。A氏の転職意思は変わらず、「会社に辞意を伝えた」と理解していた。 実はA氏は転職先C社に4月1日の入社(1ヶ月後)を約束していた。
    しかしB社人事部は「A氏は上司の説得で辞意を撤回したはず」と主張し、A氏の3 月末の退職を拒否した。A氏は4月1日にC社に入社できるか?

    <回 答>
    「立証責任の原則」では、ある事実が存在することにより利益を受ける者がその事実が あることの立証をする責任を負います。そして法律などにより立証責任が転換されてい る場合は逆の立場の者に立証責任が転換されます。本事例では退職の申し入れがあった ことがA氏の利益になるので、A氏が立証する責任を負う、ということになります。労 働基準法などで使用者の義務が重くなっていますが、一般的に立証責任を転換する規定 はありません。

    ただし本事例の争点を「撤回の有無」とすると、それほど単純な結論にはなりません。 つまりA 氏が退社の申し入れをしたことを認めたうえで、それが撤回されたとB社が主 張するのであれば、撤回によって利益を受けるB 社が撤回があったことを立証する必要 があるといえ、本事例ではむしろA 氏の主張が通りやすい事例とも言えます。
    もっとも本事例はさらに別の視点からの問題が残ります。退職の申し入れの性質につ いて以前から問題となってきたのは、本事例とは逆に一度行った退職の申し入れを撤回 できるか、という点です。退職の申し入れは「一方的な労働契約の解約の通知」なのか、 「労働契約解約の合意の申し入れ」なのか、という議論です。前者であれば、一度行っ た通知は効力を生じてしまっているので使用者の同意がない限り撤回できません。裁判 例では前者であることが明確でない場合には後者と判断し、使用者が承諾の意思を表明 しない限り、申し入れはいつでも撤回できるとしています。
    このことを本事例に引き直してみると、退職の申し入れを「一方的な解約通知」とする と、B社の事前の同意の下にA氏が撤回をしていることをB社が立証する必要がありま す。逆に「合意解約の申し入れ」とすると、今度はB社の承諾があったかということが 問題となり、この場合はB社の承諾があったことをA氏が立証する必要があります。退 職申し入れに対して説得があって曖昧な話し合いで終わると、解約通知か、それとも合 意解約の申し入れかが曖昧になり、ひいてはどちらが立証責任を負うのかが分かり難く なってきます。
    さらに日付は重要な要素なので、日付を付した文書を残すことはもちろん、それ以外 にも一方的な解約通知である証拠を残すこと、たとえば文書中にそのような趣旨の文言 を入れる、あるいは説得にあったことに対して説得には応じるつもりのないことを文書 で再度表明する、といったことをしておくべきと考えます。
    なおその前提として就業規則等に掲げられた手続きに従って適切な申入れ先に申し入 れていることが必要です。

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    (13)退社の際の「2週間の留保権規定」

    <事 態>
    B社と無期契約で就業しているA氏が退職することになった。退職を申し出た際、「な るべく早く辞めたい」として辞表に退社予定日を記載しなかった。通常、辞表を提出し た日から2週間は使用者に留保権があるので、A氏は退社日が早くとも2週間後になる と理解し、2週間以内に社内借入10 百万円を地元金融機関からの借入れで返済するつ もりでいた。
    しかし翌日、B社人事部はA氏に対して「本日、雇用契約が終了した。就業規則に基 づき貸付金10 百万円を即日返済せよ」と請求してきた。退職金を上回る金額であるう え、預金残高も不足するのに返済を2週間待ってもらえないのか?

    <回 答>
    前記事態(12)で説明したとおり、退職の申入れは「一方的な解約の通知」か「合意 解約の申入れ」か、という問題があります。後者の「合意解約の申入れ」であれば、解 約時期を定めない合意解約の申入れは使用者が承諾した時点で解約の効果が発生し、す ぐにA氏は返済しなければならなくなります。
    前者の「一方的な解約通知」であれば、2週間の期間は使用者のために認められた期 間と考えられるので、使用者からの放棄が可能となります。「2週間の期間」とは労働者 から無期契約の雇用契約を解除するうえでの予告期間であり、いわば労働者の義務です。 労働者に対してこの義務を果たすよう要求する権利を有する使用者が、この権利を放棄 して2週間以前に退職申し入れを応諾すれば、契約解除が成立します。このためその時 点でA氏は借り入れを返済しなければならないことになります。
    辞表を提出する際は、会社からの借入れや約束事の処理を事前に十分済ませておかな ければならないといえます。

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    (14)「業務委託契約」と「労働契約」

    <事 態>
    A氏はB社で就業することに異存はないが、自由度を確保するため正社員になりたく ない。一方、B社もA氏を正社員として雇用するのはリスクがあると考えていたので、 双方の思惑が一致し、2年間の「業務委託契約」を締結した。ただし就業条件は正社員 と同じ(勤務時間や日々の命令への服従等)で、実際にもそのように運営されてきた。 しかし契約期間中に突然、B社は「A氏の就業する業務が不要になった」としてA氏 に契約解除を申し出た。業務委託契約書には「双方とも1ヶ月の事前の告知があれば契 約を解除できる」と明記されていた。
    契約解除に納得できないA氏は、この「業務委託契約」は実質「雇用契約」であり、 労働法上の保護を受けられるはずと主張しているが、A氏の主張は受け入れられるか?

    <回 答>
    契約の形態が「雇用契約」ではなく、「業務委託契約」であったとしても、就労の実態 が正社員と同様の勤務条件(始終業時刻、休憩時間、休日・休暇等)であり、かつ会社 の指揮命令下で就労するのであれば、当該労働者は以前から「請負人」ではなく、「労働 基準法で保護される労働者」であるとされています。したがって正社員と実質的に同条 件で勤務してきたA氏は労働法の保護を受けることができ、解雇については解雇権濫用 法理に基づいて判断される可能性が高いと考えられます。
    なお最近、新聞紙上で話題になっている「偽装請負」も類似の事例で、実態は「労働 者派遣」ないし「直接雇用」であるが、形式的には「請負契約」というものです。いず れにせよ裁判においては労働者の就労実態を踏まえ、司法の判断が下されることになり ます。

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    (15)「解雇の自由」と「解雇権の濫用」

    <事 態>
    A氏は「無期契約」でB社に就業していたが、ある日、突然、B社社長から呼び出さ れ、「就業規則に重大な違反をしたので即時に解雇する。退職金も出さない」と言われ た。
    A氏は営業活動でミスをしたので、社長の怒る点で思い当たる節はあったが、解雇に までなるとは思ってもいなかった。解雇は妥当か?

    <回 答>
    民法上、無期契約では使用者に「解雇の自由」があります。
    しかし労働者は使用者に比べて弱者の立場という特殊事情を考慮し、判例では使用者 の解雇権の行使に関して「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を求 めており、使用者による「解雇権の濫用」に歯止めが掛けられています。判例で確立し ている解雇事由とは、@労働者の労働能力や適格性の欠如、A労働者の重大な義務違反 や規律違反、B経営上の必要性(たとえば経営難での人員整理)、に限定されています。 しかも実際の裁判ではその「立証責任」は使用者が負っているのが一般的ですので、 使用者の主張にどれだけ客観的合理性と社会的相当性があるかが争点となります。通常 の権利濫用法理では権利濫用の立証責任はそれを主張する当事者にあるとされますが、 解雇権濫用法理については使用者に立証責任が課されています。
    即時に解雇が認められるかどうかは、上記の解雇が認められる事情があったと判断さ れたうえで、さらに重大かつ悪質な違反行為が労働者に認められる場合に限られます。 したがってA 氏の違反行為がどの程度重大かつ悪質かの判断がポイントとなります。該 当する違反行為の例としては事業所内での窃盗、傷害、横領などの犯罪行為、会社の名 誉を著しく傷つけるような態様の事業所外で犯罪、2週間以上無断欠勤したうえに出勤 の催促に応じない、などが考えられます。本事例のようなA氏の営業活動でのミスは該 当しない可能性が高いと考えています。
    さらにA氏と同様な就業規則違反を犯した他の社員がいるのに、A氏だけが違反を問 われるのであれば、労働基準法上の差別的取扱いの禁止に抵触し、これを理由に解雇が 無効となる可能性もあります。
    なお判例によって確立してきた「解雇事由」は、07 年に成立した「労働契約法」の試 案段階では明文化されていましたが、最終条文ではその条項が削除されました。

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    (16)整理解雇

    <事 態>
    A氏は無期契約でB社の営業に従事している。B社は同業他社同様、不況の影響を受 けて業績不振が続き、A氏の営業マンとしての実績も極めて不振であったので、A氏に 対し解雇を通告した。
    A氏はB社の業績不振の事態を認識しているものの、入社以来、真面目に勤務してお り、就業規則に反することは何もしていない。解雇通告に応じなければならないか?

    <回 答>
    使用者が経営不振などの経営上の理由により人員削減の手続きとして行う解雇を「整 理解雇」といいます。これは、労働者に起因する事由を直接の理由とした解雇ではない ので、判例において一般の解雇に比べて使用者に対して一段と厳しい制約が課されてい ます。
    判例で確立した制約とは、使用者に対して次の4つの条件、@経営上の理由によって 人員削減の必要性があることの立証、A解雇という最終手段を取る前に解雇以外の人員 削減手段等などの解雇回避策の有無、B余剰人員の削減に当たって合理的な人選基準に よる解雇対象者の選定、C労働組合や労働者への説明や意見聴取等の解雇手続きの相当 性、が求められています。
    永年、真面目に勤務してきたA氏にとって解雇は受け入れがたい事態でありましょう が、B社の経営難という厳しい事態を踏まえ、B社が上述の4つの条件を遵守している かを監視することが肝要です。

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    (17)企業買収に伴う配転命令

    <事 態>
    A氏が勤務するB金融機関は外資系C金融機関に買収され、子会社となった。C金融 機関は経営効率のため抜本的なリストラ策を打ち出し、A氏所属部門を大幅に縮小し、 60 人の労働者の内1/3を残し、1/3を他部に配転し、1/3をリストラすることに した。
    配転対象者は配転命令に対抗できるか?リストラ対象者は解雇通告を拒否できる か?

    <回 答>
    使用者には広範な裁量権(経営権)が与えられているため、強行法規や就業規則等の 制約の範囲内で業務上の必要性がある場合、労働者は使用者による配転命令を原則、拒 否できません。
    ただしたとえ業務上の必要性がある配転命令であっても、それが不当な動機や目的(た とえば配転対象者を結果的に退職に追い込むような職務従事や部署への配転)や通常、 甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合には会社の権利濫用とみなされる 可能性が高いです。
    リストラについては前項(16)「整理解雇」の説明通りです。

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    (18)就業規則の不利益変更の拘束力

    <事 態>
    A氏が就業するB社は昨年4月に就業規則を改定した。その中で有給休暇日数が年間 30 日から20 日に削減された。A氏はその変更を知らず、すでに20 日を消化した残りの 10 日の取得を申請したとき、人事部からすでにすべて消化済みとして否認された。 人事部はこの改定にはすでにB社従業員代表者の合意を得ており、就業規則を社員で あれば誰にも見られる棚に置いてあると言っている。A氏は有給休暇日数の削減を受け 入れなければならないか?

    <回 答>
    就業規則は、使用者が作成・変更するもので、「強行法規」である法令及び労使間の合 意に基づく規範の「労働協約」に反しない限り有効です。B社の改定では有給休暇日数 は法定の最大付与日数である20 日以上で、法令に抵触しません。
    就業規則の変更、とりわけ労働者に不利に変更された場合、@変更された規定が労働 者をどこまで拘束するか、A変更のための手続きとしてどのような要件が必要か、との 2つの要件を判断する必要があります。
    拘束の範囲については不利益変更の内容や程度に対して変更の「必要性」と比較衡量 して「客観的合理性」と「社会的相当性」を判断し、他方で従業員の意向をどの程度く み上げているかという点も判断の材料となります。
    変更手続きについては使用者(常時10 人以上を雇用する事業所)の義務として労働者 の「意見聴取」、行政官庁への「届出」、労働者に対する「周知」、の3要件の遵守が法定 (労働基準法90 条・89 条・106 条)されています。
    この2つの要件を充足して初めて不利益変更の効力が認められることになります。 本事例では、手続面の問題は無く、変更の合理性、相当性が認められればこの2つの 要件を備えているので、効力を有すると判断され、A氏は改定された就業規則に従わね ばならないと思われます。

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    (19)労働者への教育投資

    <事 態>
    B社に就業するA氏は社内海外派遣制度(経費はB社負担)を利用して米国のMBA 資格を取得した。派遣前にB社との間で「MBA取得後5年間は退社しない。退社する 場合は残りの年数に応じて資格取得に要した費用を返還する」との契約を結んでいた。 3年経過した時点でA氏は取得したMBA資格を生かすため、C社への転職を決意し た。
    A氏は残存部分に対して派遣費用の返還に応じなければならないか?契約で返還合 意したとはいえ、A氏の言い分では派遣は事実上「業務上の要請」であり、そもそも契 約を拒否できる雰囲気ではなかったとのことである。契約自体が無効ではないのか?

    <回 答>
    海外留学や海外研修等の社員派遣制度を利用した労働者が、帰国早々退職することを 巡るトラブルはいままでも何度も裁判で争われてきました。その際、争点になったのは 労働基準法16 条「使用者は、労働条件の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額 を予定する契約をしてはならない」との規定です。使用者が「業務命令」で派遣した労 働者から「損害賠償」として派遣経費の返還を求めることは同法に抵触するうえ、「職業 選択の自由」を侵害しかねません。「業務命令」に係る派遣費用は本来、使用者が負担す べきものです。
    そのため現在ではほとんどの場合、A氏のケースのように、自己啓発意欲のある労働 者が自主的に修学すれば使用者が修学費用を「貸与」するという形をとり、帰国後、労 働者が退職するのであれば、「損害賠償」ではなく、事前に契約で合意した「貸付金の返 済」を請求するということになっています。
    平成9年の長谷工コーポレーション事件がリーディングケースとなって、「業務関連 性」の考え方が定着していますが、「貸付金契約の任意性」を問題とする議論はないよう です。貸付金契約が存在していることはさほど重要な要素でなく、業務命令や業務遂行 の一環なのか、それとも自主的な勉強なのかという観点での判断が重要と考える傾向が あるようです。したがって業務命令で留学に行ったという事情が認められたうえで、そ れでも辞めれば返還する必要があるという形式を作るために貸付金契約に調印させられ た場合には労働者の真意に基づく意思表示とは言えず、心裡留保、錯誤あるいは強迫の いずれかの理由での契約の無効、取消がありうると思われます。

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    (20)ベースサラリーの減額

    <事 態>
    B社に就業するA氏は、会社全体及びA氏所属グループの業績不振を理由にベースサ ラリー(年ベース)を半分に削減すると通告された。
    A氏はこの通告を受け入れなければならないか?また年間何%までのベースサラリ ーの減額は可能か?

    <回 答>
    就業規則の不利益変更が「客観的合理性」と「社会的相当性」の2つの要件があれば 認められることと同様に考え、2つの要件があれば賃金の引き下げは可能とするのが一 般的な考え方のようです。このことは、整理解雇の要件の一つである解雇回避努力の方 策の例として賃金引下げが挙げられていることからも裏付けられます。
    そのうえで本事案をみると、ベースサラリーの水準が半分に達するものであること、 1グループの不振を同グループの賃金減額に反映させることの明確な合理性がないこと からみて、一方的な引き下げは認められないと判断できると思われます。
    なお下げ幅の多寡については判例の基準はありません。もっとも下げ幅は雇用契約な どの規定から当事者にとって予測された範囲かどうかということで適用は異なるものと 考えられます。

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    (21)労働者が顧客とのトラブルを起こしたことの損害賠償義務

    <事 態>
    B社に勤務するA氏は毎日一生懸命、誠実に働いていたが、ある日、大切な顧客のC 社とトラブルとなり、取引関係の打ち切りを通告された。B社社長は自らC社に出向き、 謝罪したが、取引関係を復活することはできなかった。
    そこでB社社長はA氏に対して「君のために大事な顧客を失った。損害賠償を請求す る」と言い出した。A氏は損害賠償する責任があるか?

    <回 答>
    労働契約において労働者は「労務提供義務」の外、付随義務として使用者の利益を不 当に侵害しないようにする義務、いわゆる「誠実義務」を「信義則」上、負っています。 このため労働者は職務遂行に当たって「必要な注意」を求められており、この義務に違 反した場合には契約不履行もしくは不法行為(民法709 条)による損害賠償責任を負う ことになります。
    ただし多くの判例では上記のような顧客トラブルも含め、労働者に「故意もしくは重 大な過失」がなければ、損害賠償を請求できないとしています。A氏の場合も、もし「故 意もしくは重大な過失」があり、過失と損害との因果関係が明確であれば、損害賠償責 任を負う可能性が高いですが、そうした要件がなければその義務はないものと考えられ ます。
    裁判においては、たとえA氏に損害賠償責任があったとしても、B社にも責任の一端 がある場合には必ずしも過失の程度だけでなく、損失をA氏とB社とで公平に分担する という観点から、業務内容、労働条件、勤務態度、事業の性格、行為の態様などの諸般 の事情に照らして判断するようです。

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    (22)他人によるプライバシー事項の使用者への通告

    <事 態>
    B社に勤務するA氏は会社指定の医療機関で定期健康診断を受けた際、将来、勤務に 影響を及ぼしかねない重病であると判定された。たまたまその事実を知った上司が人事 部に通報し、人事部はA氏を今の激務のポストから比較的負担の少ない働き安いポジシ ョンに配転した。
    しかし現在の職務に満足していたA氏は配転に非常に不満を持っている。配転の原因 を作った上司は、A氏のプライバシーを侵害したことになるか?

    <回 答>
    使用者は労働契約において賃金支払い義務の外、付随義務として「配慮義務」(労働者 の人格的利益を損なわないよう配慮する義務)を負っています。「配慮義務」には安全に 労務に従事させる義務も含まれ、労働安全衛生法では定期健康診断での所見によって医 師の意見を聞いて、必要に応じて配置転換をしなければなりません。その一方、使用者 に労働者の人格的利益を侵害する行為があった場合には労働者は使用者に対して不法行 為(民法709 条)として損害賠償を請求でき、解雇や配転された場合、権利濫用(民法 1条3項)または公序良俗違反(民法90 条)として当該行為の無効を請求できる可能性 が高いです。
    労働者のプライバシーに関わる情報は保護されるべき情報であり、判例においても本 人の同意もしくは了解を得ないまま、会社が労働者個人のHIVやB型肝炎ウィルス感 染に関する情報を取得するとか、労働者の意思に反してHIV抗体検査やB型肝炎ウィ ルス感染検査を行うことは、労働者のプライバシーを侵害する行為であり、社会的相当 性を逸脱した不法行為にあたるとされました。ただし労働者の疾病に関しては職場での 伝染力によって結論は異なると考えられます。上記の裁判例や厚生労働省の通達ではH IVやB 型肝炎は職場では感染や蔓延する可能性が低いものであるから情報の取得をす べきでない、としています。癌なども同様とみられるでしょう。
    上司はA氏のプライバシーを侵害した可能性がありますが、興味本位などの場合と異 なり、手段に違法性が見出せても配転がどの程度の損害にあたるのかにより結論が変わ ってくると考えられます。特に上述のように健康診断の結果、必要な配転をする義務を 会社が負っていること、正規の手続を取った配転と上司の通告によりなされた配転でプ ライバシーが知れる範囲にさほど変わりがないこと、上司が知ったことは偶然であるこ となどから、損害賠償責任が認められないか、たとえ認められたとしても限られた人た ちにプライバシーが知られた精神的損害として非常に低い金額の損害賠償しか認められ ないと考えます。

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    (23)本人によるプライバシー事項の使用者への通告

    <事 態>
    B社に勤務するA氏は人間ドックの結果、担当医師から重病と通告された。医師は本 人の健康第一に考え早期退職を勧告した。しかしA氏はいずれ退職する時期が来ること は覚悟しているものの、扶養家族があり、いまの仕事に情熱を持っているので、すぐに 退職するつもりはない。
    A氏は早晩、働けなくなる(労務提供義務を果たせなくなる)ことをB社に通告する 義務があるか?

    <回 答>
    労働者は本来の労務提供義務の外、付随的義務として信義則上、使用者の利益を不当 に侵害しないようにする「誠実義務」を負っていますが、自らの健康状態を使用者にい つ、どこまで告知する義務があるかは、プライバシーとの関係もあり、微妙です。 たとえA氏が将来の退職を明確に考えていたとしても、労働契約や労働法で認められ た期限を遵守すればよいだけのことであることを比較衡量すると、労務提供の将来的な 不能が見込まれているからといって、必ずしもB社に告知する義務はないものと思われ ます。

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    (24)転職活動の上司による使用者への通告

    <事 態>
    B社に就業するA氏はライバル会社C社へ転職する折衝を内々に行っていたが、職場 のパソコンでのメールの遣り取りをA氏の上司が知ることになった。上司はその事態を 人事部に通報したため、A氏は降格され、担当業務を外されてしまった。
    上司の行為は上司としての当然の管理監督行為か、それとも不法行為か?プライバシ ーの侵害か?A氏は上司に損害賠償を求めることができるか?

    <回 答>
    職場でのパソコンの私的利用、たとえば自らの転職活動に使用していることが「懲戒 事由」にあたるかという点をまず検討する必要があります。
    転職活動自体については「職業選択の自由」から懲戒事由に当たらないものの、私的 メールなどの就業外の活動によってB 社での就業に差しさわりがあれば、労働者の「職 務専念義務」に違反するとして懲戒事由にあたることがあります。
    もし「懲戒事由にあたる」とすると、懲戒にあたる事実を知った上司が人事部に通報 するのはむしろ当然といえます。上司が部下管理上、及び会社施設や備品の適切な管理 の必要性から部下の私的使用に対する監視をすることは、上司の権限内といえます。こ のため「プライバシーの侵害」には当たらないと考えられます。「転職活動であることを 明かさずに通報すべき」との考えもあると思いますが、業務と無関係のことをしている ことを示すためには不可避的に開示しなければならない事実なので、明かすのもやむを 得ないと考えます。
    逆にもし「懲戒事由にあたるほどではない」とすると、使用者による「懲戒権の濫用」 があったと認定され、名誉毀損や経済的に不利益な取扱いにより損害が生じるとみるこ とができ、不法行為に基づく「損害賠償請求」が成り立つ可能性があります。
    ただ使用者の懲戒権の行使は実質的な判断が必要となるため、一律に不法行為になる とはいえず、労働者の損害の程度と使用者の故意・過失などを考慮する必要があります。 裁判においても私的利用の頻度と監視の方法がそれぞれ社会通念に照らして妥当か否か が争われました。

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    (25)本人の了解を得ずに行うリファレンスとプライバシーの侵害

    <事 態>
    B社に就業中のA氏が近く入社を予定しているC社は、A氏の了承を得ることなくB 社でのA氏の働き振りを知るA氏のかつての上司(B社を退社済み)に対してリファレ ンスを取った。「A氏の了解を取ると事前に打ち合わせが行われる」と危惧したからで ある。
    上司とC社の行為は第三者へのプライバシーの開示行為ではないのか?

    <回 答>
    リファレンス等の採用活動における調査は社会通念上、妥当な方法で行われることが 必要であり、プライバシーの侵害になるような態様での調査は慎むべきとされています。 ただ不法行為を認めた裁判例は、本人の同意なしにHIVやB型肝炎の検査をしたよ うな極度のプライバシー性のある事由だけのようです。
    理論的にはA氏が転職活動をしていることを明かすのはプライバシーの侵害になる可 能性はありますが、上司とC社の行為は必ずしも社会通念上、妥当でない、とまでは言 い切れないように思われます。

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    (26)人材紹介会社のミスによるプライバシー侵害と責任の所在

    <事 態>
    B社に就業するA氏に職業仲介をしている人材紹介会社C社のミスのためA氏のD 社への転職計画をA氏の上司が知ることとなった。その結果、B社人事部はA氏に降格 と担当業務を外すことを決めた。
    A氏がC社を訴えることができるか?またC社とサーチ契約していた採用予定会社 D社を訴えることができるか?

    <回 答>
    A氏はミスを犯したC社に対して「過失による不法行為」及び「善管注意義務違反に 基づく債務不履行」の両方に基づいて損害賠償を請求することができます。
    しかしD社に対してはミスがC社にある前提では不法行為責任、債務不履行責任のい ずれも適用することはできません。またD社のC社との契約関係は「請負」か、場合に よっては「委任」であり、「雇用関係」にない独立契約者の行ったことなので、D社の「使 用者責任」も認められません。
    そもそも「職業選択の自由」との関係で、B社が転職を理由にA氏を降格させ、担当 業務から外すことは、懲戒権、配転命令権の権利濫用の可能性があります。

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    (27)転職の際に持ち出して良い情報と持ち出してはならない情報

    <事 態>
    B社に就業するA氏は競合会社C社に転職することになった。退職の際、A氏はB社 人事部からそれまでの営業活動で入手した顧客の名刺をすべて置いていくように通告 された。顧客の名刺はB社の重要な顧客に関わる企業機密情報であるとの理由からであ った。
    A氏はこの通告に従わなければならないか?

    <回 答>
    労働者に課せられた「誠実労働義務」によって労働者が営業活動において入手した情 報を転職の際に持ち出すことが禁止される場合があります。これは、同情報が「不正競 争防止法」等で「営業機密情報」とみなされる情報や「社内の秘密管理規定」等で持ち 出しが禁止されている情報であることがあるからです。
    しかし判例においては「明らかな機密情報」であるか、あるいは使用者が社員に「機 密情報であると通知している」場合を除いて退社後も使用できるとしています。一般に 顧客の名刺は「機密情報」とは言い難いので、「名刺の持ち出しは禁止する」と就業規則 に特に定めがなければ、名刺を持ち出すことに問題はないと考えられます。また「競業 避止義務」や「秘密保持義務」については「不正競争防止法」の営業秘密の漏洩に該当 しないものであれば、就業規則や特約による規定がない限り、持ち出しを禁止できませ ん。
    一方、「名刺の持ち出しは禁止する」との規定がある場合には禁止事項がどの範囲で有 効なのかということを「客観的合理性」と「社会的相当性」で検討することになります。 顧客情報の利用を退職後3年間利用しないとした特約を有効と判断した判例があります。 名刺持ち出し禁止自体は、顧客情報の利用の禁止よりも緩やかな方法であることから、 合理性の範囲内にあり、これを禁止することは可能と考えます。

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    (28)競業他社への転職(競業避止義務)

    <事 態>
    B社に就業するA氏(非役員)は競業会社C社に転職することを決め、人事部長に申 し出たところ、人事部長から就業規則の「競業避止義務」に違反するので転職は認めら れない、もしC社に入社するのであれば損害賠償を請求するといわれた。A氏は競業会 社に転職すると損害賠償責務を負うのか?
    もしA氏が常務執行役員大阪支店長(関西地区での業務執行の最高責任者)であった 場合、一般社員の場合と違いがあるか?競業避止義務や秘密保持義務は一般行員より厳 しく適用されるのか、またどの程度違うものか?外資系金融機関のマネジング・ディレ クターは一般社員と同じ扱いなのか?

    <回 答>
    就業規則その他の特約において「退職後における競業避止規定」がない場合、労働者 は職務専念義務の一種として在職中は「競業避止義務」を負うものの、退職後は職務専 念義務がないので、競業避止義務は負わないというのが一般的な理解です。したがって 「誠実労働義務」に基づく退職後の競業避止義務というのはそもそも存在しません。こ のことは「職業選択の自由」との兼ね合いでも言えることです。
    この原則を前提に特約で定められた「退職後における競業避止規定」については判例 では使用者の正当な利益の保護の必要性に照らし、労働者の「職業選択の自由」を制限 する程度が競業制限の期間、場所的範囲、制限対象となっている職種の範囲、代償措置 の有無等からみて必要かつ相当な限度のものであれば、合理的であり、有効とされてい ます。
    なおC社への転職に伴い、A氏がB社の企業機密を漏洩したと認定された場合には「改 正不正競争防止法」によって刑事罰の対象になる可能性があります。その場合、A氏に 対して5年以下の懲役、5百万円以下の罰金、C社に対して3億円以下の罰金が科され ます。また規定に反して競合会社に転籍した労働者に対して支払済み退職金の一部返還 を命じる判決が出た事例もあります。
    役職の違いについては一般的には常務執行役員やマネジング・ディレクターは一般銀 行員や一般社員に比べて「競業避止規定」の有効性が認められる範囲が広いといえます。 ただ有効性の範囲を定式、定量化した基準はないようです。

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    (29)転職先への部下の引き抜き

    <事 態>
    かつてB社に就業していたが、ライバル会社C社に転職したA氏は、転職後、営業戦 力強化のため、B社時代のかつての部下数名を厚遇で引き抜こうと計画している。
    もし引き抜かれた場合、営業戦力の低下を余儀なくされるB社はA氏に損害賠償の請 求ができるか?損害賠償の請求が可能な場合、A氏だけでなく、C社も引き抜きに加担 したとして損害賠償の対象になるか?

    <回 答>
    人材の引き抜きについては原則としてそれ自体に違法性はないと考えられます。
    しかし「社会的相当性を著しく欠く方法」で行われた場合には違法性を問われること があります。引き抜かれた人数、引き抜いた人と引き抜かれた人の地位、引き抜かれた 会社が蒙った損害の程度、勧誘行為と引き抜かれた人の退職までの期間、勧誘行為の計 画性等によります。
    引き抜きの違法性は「不法行為」が法的根拠になりますので、「不法行為」といえるく らいに引き抜きにC社が「加功」している、つまり大きな影響を与えていることが必要 です。C社がA氏に依頼しただけでは足りず、引き抜きに別途、報酬支払などの厚遇の 約束をしているなどの要件が必要と考えられます。

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    (30)本国の就業規則を和訳しただけの就業規則

    <事 態>
    A氏は外資系金融機関B社の日本法人に勤務している。B社では米国親会社の就業規 則をそのまま日本語に翻訳して適用している。入社して暫くしてからA氏はB社の就業 規則の内容、特に解雇の規定が米国法に基づいて作成されていることを知り、不安にな った。解雇事由が日本の規定に比べて労働者に不利になっているからである。
    A氏はすでに労働契約書にサインしてB社に入社したのだから、B社の就業規則に従 わなければならないか?

    <回 答>
    かつては外資系金融機関では上記のような事例が散見されましたが、さすがに最近で はほとんどないものと思われます。
    国内で労働者が就業する限り、その職場が外国資本の金融機関の日本法人や支店であ っても、日本資本の金融機関の国内営業拠点と同様、日本の法令が強制的に適用されま す。
    外資系金融機関の就業規則のうち、日本の法令に反する規定はすべて無効です。すで に労働契約書にサインしたとしても、日本の法令に反する契約については無効となりま す。ただしそれ以外の部分の契約は有効です。

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    (31)労働法の適用範囲

    <事 態>
    A氏は金融機関B社の「常務執行役員大阪支店長(すなわち関西地区における業務遂 行の最高責任者)」である。しかしある日、業績不振を理由にA氏はB社社長から「解 雇」を通告された。
    A氏は「自分は取締役ではなく、労働者である。労働法の保護を受けることができる」 と主張し、解雇通告に抵抗している。A氏の主張は正しいか?

    <回 答>
    A氏が使用者(B社代表取締役または取締役会)の指示・命令に従って職務に従事し ているのであれば、たとえA氏が常務執行役員大阪支店長という「高い職位」であって も「取締役」ではないので、原則、労働法上は「労働者」として扱われ、労働法が保護 する対象となります。
    金融機関の経営者、すなわち「取締役」と「執行役員」とは、「会社法」上のみならず 「労働法」上でも適用が異なり、「執行役員」はあくまで経営者の「取締役」とは別の位 置づけです。ただし労働法でどこまで保護されるかは、A氏の職務の実態に応じて判断 されることになる可能性が高いと思われます。

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    以上

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    ESPのプロダクト別アサインメント残高(平成19年12月31日現在)
    金融ビジネス
    プロダクト
    投資銀行ビジネス
    6
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    9
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    6
    13.3
    ヘッジファンド、投信・投資顧問
    リテール
    5
    11.1
    個人富裕層宛てビジネス
    その他
    2
    4.4
    アナリストコンプライアンス等
    合計
    45
    100.0
     


    筆者のプロフィール:
    小溝 勝信(こみぞ かつのぶ)
    1968年東京大学教養学部国際関係論分科を卒業し、住友銀行(現三井住友銀行)に入行、主として国際部門に従事した。1984年に外銀に転じ、 ファースト・シカゴ銀行東京支店の事業法人部長に就任した。人材コンサルティングに転ずるため、1989年米国の大手ファームの一つであるホイットニー・グループ日本支社に入社し、副支社長に就任した。1993年、日本型のエグゼクティブ・サーチの創設を目指してヘッズジャパンに転じ、金融部門マネジング・ディレクターに就任した。2004年エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社を設立した。
    このレポートは、筆者がヘッズジャパンで1994年以来半年毎に報告していた「外資系金融機関の最近の人事事情について」の連続版である。

    エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社(ESP)のプロフィール:
    小溝勝信が長年の経験と主張の集大成として2004年に設立した。日本の金融人材市場に、初めての、本格的な、日本版の「エグゼクティブ・サーチ・コンサルティング」の創設を志す。
    詳細はホーム・ページ をご参照頂きたい。