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平成18年8月 第4号 (日本語版) 〜外資系金融機関に回帰する人材需要〜 金融人材市場はバブルか? エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社
代表取締役 小溝 勝信 |
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- 目次 -
第一章 金融プロダクト別の人材需要の様相 1.投資銀行ビジネス
M&A
その他の投資銀行ビジネス
株式リサーチ
2.投資ビジネス
バイアウト・ファンドとプリンシパル・インベストメント
報酬体系について
ベンチャー・キャピタル
LBOファイナンスとメザニン
シンジケート・ローン
クレジット・デリバティブと事業債
不動産投資とその証券化
ストラクチャード・ファイナンス
4.資産運用ビジネス
伝統的な資産運用
ヘッジ・ファンド
第二章 日本の金融機関と外資系金融機関 1.日本の金融機関
2.外資系金融機関
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| はじめに 当社が昨年12月に作成した「金融人材レポート−3」では、「不良債権問題を克服した邦銀が蘇り、資産の『健全性』から『収益性』へ大きく舵をとり始めた。不良債権の無い邦銀に対する日本のマーケットの信頼は絶大で、個人も企業もこぞって日本のメガバンク・グループに商機を持ち込んでいる。一方、それまで先端金融商品での高度な開発力と広大なグローバル・ネットワークを駆使して日本でも巨額の収益を上げていた外資系金融機関は、日本の金融機関との差が縮小しており、苦戦している。金融人材市場は『日系よ、コンニチハ!外資系よ、サヨウナラ!』の時代に移った」と報告した。しかし06年に入り、それが皮相な観察であったことが確認された。現在、金融人材市場は、再び、外資系金融機関を中心に展開しており、かって無いほどの活況を呈している。 このレポートではその様相と理由を説明する。 この「レポート」は、筆者が前職のヘッズジャパンで94年に執筆を開始し、以来半年毎に作成してきた「金融人材レポート」の新会社(ESP)における連続版である。今回は新会社で第4回目となる。06年前半の様相をご説明する。
(1)金融人材市場は、再び、外資系金融機関が主導権を取り戻した。即ち、大手外資系金融機関の日本法人は、日本及びグローバル・ベースでの高収益を背景に、大量のプロの採用をを進めている。これは、多発する大型のM&Aと資本調達、ファンド及びプリンシパル(自己資金)による投資機会の増大、これらを支援するLBOファイナンスやメザニンの拡大、個人金融資産のリスクマネーへのシフト等さまざまな局面で、金融環境が外資系金融機関に有利に展開していることによる。通常、外資系金融機関が年央にプロの採用を行うことはマレであるが、今年は優良な候補者に対してはバブルとも言える条件を提示し、外資系同士が人材の引き抜き合戦を展開している。 (2)プロダクト別では、@M&A、A投資ビジネス、Bファイナンスとクレジット・ビジネス、Cヘッジファンド、D個人富裕層ビジネスでの人材需要が強い。 (3)M&Aは、人材需要の件数では現在最大の項目である。M&Aは昨年対比、件数でも金額でも増加している。しかも大型化、国際化しており、外資系に有利な環境になっている。また、ホリエモン事件等で、M&Aへの理解や法整備が進んだ。従って、一流外資系投資銀行が「即戦力」のプロの引き抜き合戦をしている。クロスボーダーのM&Aが出来ない日本の金融機関のひ弱さが露呈している。日系のM&Aでの人材採用は必ずしも上手く行っていない。 (4)投資ビジネスは、昨年に引き続き活況であった。既に日本で投資をしている欧米プライベート・エクイティや独立系ファンドに加え、いくつかの大型バイアウト・ファンドの上陸があった。また、規模は小さいが独自の投資戦略を持つファンドの日本進出も続い ている。米系投資銀行がファンドを通じた投資から、プリンシパル・インベストメント にシフトしている。自らリスクを取らなければ競争に勝てないとの判断である。ここでも人材需要は強い。 (5)M&Aや投資を支えるため、LBOファイナンスやメザニンが拡大している。そのファンド化も進んでいる。これらビジネスには、難しいキャッシュフローの予測やコベナンツ条項設定のため、経験者の採用が必須である。外資系は人材難のため採用に苦戦しているが、邦銀はリスクの認識が低く普通の銀行員が対応している。そしてリスクを無視して得意の「シェア拡大」に血道を上げている。また、金利やクレジットの環境が改善しておりCDSや事業債のマーケットが活性化されている。これも需要に対して人材が少ない。
(6)資産運用ビジネスは、昨年来の日本の株価の上昇もあり全体としては活況であった。しかし人材需要に関しては、投資顧問業では、特にアナリストや特定の資産運用会社を除いて余り聞かれなかった。投信では、販売会社である日本の金融機関で、ファイナンシャル・プランナーや支店営業マンの大量採用があった。外資系運用会社では、自社運用商品の日本の金融機関宛てのマーケターへの需要があった。 (7)個人富裕層ビジネスは、個人金融資産のリスクマネーへのシフトが本格化しており、拡大中である。個人富裕層の投資ニーズも日本の金融機関が補足しているが、日本の金融機関にはリスク商品の開発力とそれを可能にするトレーディング力が無い。外資系金融機関が商品供給して潤っており、その人材需要があった。 |
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第一章 金融プロダクト別の人材需要の様相
<プロダクト別人材需要(7月末での件数ベースアサインメント残高)> |
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| ESPのプロダクト別アサインメント残高(平成18年7月31日現在) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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06年4月以降、原油高と世界的な株式相場の低迷で先行きが懸念されたが、日本企業の業績は引き続き順調に改善している。また、06年度の日本の名目GDPの成長率は、大方2%前後と予想されており、日本経済は当面堅調な拡大を続けると考えられる。従って、多くの事業法人は事業拡大のため、積極的にM&Aや資本市場での資金調達を計画している。これらの動きに対応して、外資系投資銀行でも日本の金融機関でも、投資銀行ビジネスでの人材需要が非常に強い。特に外資系同士が壮絶な人材の引き抜き合戦を展開している。
M&A
ホリエモン事件、村上ファンド事件で、「会社は誰のものか」、「企業買収はどうあるべきか」の議論があり、M&Aについての理解が進んだ。また、会社法の制定に併せて、M&Aに関わる法整備が進み市場のルールが見直された。また、投資家も過度の買収防衛策に反対している。従来ご法度とされていた敵対的買収(TOB)も、王子製紙による北越製紙のTOBに見られるように、「ルールに基づき企業価値を上げるものであれば許される」という見方も広がっている。これらの環境の変化がM&Aの増大を後押ししている。 A 外資系投資銀行や日本の銀行及び大手証券会社は、多くの日本企業から業績拡大や企業価値増大のための買収計画についてアドバイスを求められている。また逆に、敵対的買収から防衛するための仕組み作りについても相談されている。業績を回復した日本企業は、そのための手元資金は潤沢であり、資金調達力もある。上記の通り、大型案件やクロスボーダーが増えているため外資系は潤っているが、日本のメガバンク及び大手証券会社には小型のM&A案件が殺到しているという。日本の金融機関では、大型の案件でなければ、特にソーシング活動を行う必要は無い。日本の大手の証券会社は年間100−150件程度のM&Aを実行するが、案件自体はその数倍あると。従って、日系証券のM&Aはエグゼキューション(執行)ビジネスである。 確かに、M&Aにより「企業価値(株価ではない)」は上がることは確認されている。アビームM&Aコンサルティング社が、M&Aを実施した後に「企業価値」がどう変化したかを調査した。過去10年の379件全体で、企業価値は16%増加し利益額も35%増加したと分析している。M&Aが有効な手段であると裏付けている。また、外資によるM&Aでの企業価値が24.8%増であるのに対して、国内同士のM&Aでは13.7%増であった。外資によるM&Aの方が改善率は良い。 B ストラテジック・バイヤーによるM&Aに加え、投資ファンドやプリンシパル・インベストメント、即ち、フィナンシャル・バイヤーによる買収も増加し、M&Aを活性化している。トムソン・ファイナンシャルによれば、06年の1月−6月でファンドが関わった日本のM&A金額は49億ドル(約5640億円)あったが、日本企業が関わったM&A全体の10%未満に過ぎない。世界では15%以上であり、日本のM&Aビジネスに対するファンドの役割も増大すると考えられる。
@ M&A部門では、内外いずれの金融機関でも人材需要は非常に強い。しかし人材市場は「買い手」一方であり、「売りもの」が無い。 A
外資系投資銀行では、大型案件やクロスボーダー案件が増えているため、M&Aが採算が取れるようになった(外資では期待収益が2億円以上でなければ取り組みを許されない)。実際、外資系投資銀行のM&A部門は、グローバルでも日本でも、大型のM&Aの成約により空前の収益を上げている。従って、トップクラスの外資系投資銀行の海外本部は出遅れ感のある日本法人の陣容の強化を求めている。結果、外資同士の引き抜き合戦になっている。そのために、報酬条件が従来のスタンダードに比較して破格(バブル?)になっている。 B 日本の大手証券会社も組織変更や外部採用条件の改善により、積極的にM&A拡大の流れに対応しようとしている。しかし、日本の証券にとって、良質なプロの採用は容易ではない。最近の金融マンは「プロとして成長したい」とのキャリア志向が非常に強いため、「クロスボーダーのM&A」を経験出来ない日本の証券会社への転職を嫌う。このためには日本の金融機関は、(a)「投資銀行とは何か」について「国際的な経営哲学」を取得しなければならない(これが全く出来ていない!)。また、(b)大型M&AやクロスボーダーのM&Aが可能な体制を構築しなければならない(「提携」方式しかないと考えられるが、これも容易ではない!)。 日本の証券会社とトップクラスの外資系金融機関のM&Aアドバイザリーの手法は、大きく違う。日本の証券会社のM&Aは、日々グループ内各社から流れてくる大量の顧客のニーズに対応しなければならない。外資系は、少人数であることもあり、ターゲットを絞り込む。外資系のプロは、ターゲット企業の「企業価値」を上げるために日夜戦略を練り、自社のグローバル・ネットワークにある情報を駆使してさまざまな提案を行う。日系のM&Aが提供する情報や提案とは質・量が大きく違う。そして、外資系金融機関の組織はグローバルになっているため、海外のM&Aバンカーがすぐに対応し、買収の相手先を紹介する。また、日系の役員は表敬訪問に止めるのに対し、外資系のトップは自ら具体的に提案しコミットする。結果、世界のM&Aアドバイザリーランキングでは野村証券が15位に入っているだけとなる。従って、M&Aバンカーとしてキャリアを志すものは、一流米系投資銀行への入社を切望する。 C 日本の金融機関がクロスボーダーのM&Aの獲得体制を築きたいと切望しているが、そのためには、海外拠点で、大量の優秀な外人プロを雇用(またはM&Aブティックを買収)し、地域企業にコミットしなければならない。しかし、このアイディアには多くのプロが「日本の金融機関には不可能」とコメントする。筆者も同じ意見であるが、しかしどんなに難しくても、それが出来なければ日本の金融機関によるクロスボーダーM&Aはあり得ない。思えば20年前の日本の証券市場は、日本の四大証券が牛耳っていた。しかし外資系金融機関は長い年月と巨額のコストを掛けて、日本の金融市場で今日のプレゼンスを確保した。日系には不可能なことであろうか。 D M&A部門の報酬の分配は定量評価より定性評価に基づく。これはM&Aが一人のスーパー・スターにより実行されるものではないことを示している。債券トレーダーの評価や報酬配分とは違う。求められる人物像は、M&Aに必要なさまざまなスキルや知識、顧客ベースを持つプロであるが、それに加え、プレッシャーに強い人、コミュニケーション能力のある人、センスの良い人。そして、顧客の企業価値のアップにはどうしたらよいかを日夜考える人と言われる。需要の対象は若いスタッフに対するものが多い。外資系の若手は24時間労働で「高給奴隷」と呼ばれる。しかし、彼らはこの厳しい経験を経て、早く一人前のプロになりたいと志している。この意志の差は外資系と日系では大きく違う。
2.投資ビジネス
このレポートで言う「投資ビジネス」とは、企業や地域の再生のための「再生ファンド」、成長企業のための「バイアウト・ファンド」、村上ファンドのような「アクティビスト・ファンド」、証券会社が行う「プリンシパル・インベストメント」及び「ベンチャー・キャピタル」である。即ち、自らの投資方針を持ち、資金を投下し、企業価値を上げ、回収するビジネスを指す。不動産ファンド(私募ファンドやREIT)は別に分析する。
バイアウト・ファンドとプリンシパル・インベストメント A 投資方針はファンドにより異なる。大型企業の株式の一定比率以上を買取り、経営に介入し、ビジネスを再構築してエグジットするものから、比較的小規模の投資に限定するもの、投資先の産業を得意分野(リゾート、食品、機械等)に限定するもの、リード案件に拘らず小口投資に分散するものもある。また、PBR1以下の上場会社に狙いを付けて水面下で購入し、突然大株主として現れて増配等を要求するアクティビスト・ファンドもある。経営者が上場企業を非上場にして安定的な経営を目指すMBOもある。確かに、最近では美味しい案件も少なくなったので、目標のIRRを30%台から20%台に下げるファンドもある。大きな流れとしては、不振企業の「再生」型から、成長を通じた「企業価値向上」型へ移っている。そして、「アセットへの投資」型から「事業への投資型」にシフトしている。また、病院・介護専門ファンド、ゴルフ場専門ファンド、物流施設、開発型、IT企業等、「特化」型も増えている。 B
日本には「ファンド悪玉論」があった。外資系ファンドには「ハゲタカ」との冠が付けられていた。確かに、日本の伝統的な商慣行に照らせば「そのような側面」が無いとは言えないが、低レベルのマスコミの造語であり、大方は、競争を忌避したいサラリーマン経営者の悪口であった。当初、外資系ファンドはこのイメージに悩まされ、人材採用にも障害になっていた。その後、ファンドの役割を認める風潮も出てきたが、今年になって堀江氏や村上氏の逮捕があり、再びファンドのイメージに悪影響を与えている。アクティビスト・ファンドに関しての議論があったが、投資銀行家によれば、現在でも企業価値の拡大の努力を怠り、保身と安寧を貪る企業経営者がたくさんいるとのこと。この点で言えば、アクティビストが発した警告(もの言う株主)は評価されるであろう。実際、03年の初頭には、PBRが1を割り込む上場銘柄が全体の6割にあたる924銘柄あったが、06年6月には350銘柄程度に急減している。しかし、だからと言って従業員等さまざまなステーク・ホルダーへの配慮を欠き、「会社は株主だけのものだ」と主張して資産を売却させ、配当として社外流出させることは「企業価値の増大」にはならない。それでは総会屋やグリーンメーラーと同じである。ここで、「中期的に企業価値の増大を目指す『もの言う株主』」としてのファンドを作ろうとしている人々がいる。彼らによれば、日本企業の株主は、株の持ち合い(傷の舐めあい)、デイ・トレーダーとしての個人投資家、短期的な株価の値上がりを期待している外人投資家、リスクを分散(保有率はせいぜい数%である)して投資する生損保・年金等の機関投資家で、「中・長期の企業価値の増大」を迫る株主がいない。即ち、従来の株主は、株主総会で「注文を付ける」ことはあっても、大きな不祥事や買収合戦でもなければ、議決権を行使し経営方針に反対することは無い。これではいつまで経っても企業価値は上がらない。そこで「村上流のアクティビストではなく、大口株主として経営者にものを言いながら、中期的な企業価値の増大を図る」ファンドの組成が目指されている。 C 最近は、日本の金融機関や年金基金などの機関投資家もバイアウト・ファンドへの投資を増やしている。直近の大手機関投資家の投資額は1.5兆円程度であり、増加中である。また、ファンドのエグジットも出来つつある。レコフによれば、05年のファンドの持分の売却数は67件と過去最高となり、金額も4430億円に上った。従って、バイアウト・ファンド投資への魅力も認識されつつある。 D 従来、米系投資銀行は「エージェンシー業務」を本業とし、バイサイドとしての投資ファンドとのコンフリクトを避けるため、PIに積極的ではなかった。しかし最近、ゴールドマン・サックスの大成功に刺激された各大手米系投資銀行は、グロバーバルな戦略として、一斉にPIを強化し始めた。従って、今後は、投資銀行業務(M&A)とこれまで顧客であった投資ファンドとの、新しい関係が構築されなければならない。日本の大手証券会社もPIを強化し収益の一つの柱にしようとしている。
A 米系投資銀行が、自己資金によるPIの組織作りや人材を採用急いでいる。組織は各社により違うが、投資銀行部門、債券部門、株式部門のJVになっていることが多い。戦略も各社により異なる。動きは「正統」PEファンドとは違い「トレーディング」感覚である。従って、求められる人材の質も違う。日本の証券会社も国内外で強化している(メザニン・ファンドの項をご参照頂きたい)。このように、PIでの人材需要が急拡大中である。 B
若手の採用ではM&Aからの転入も受け入れられる。即ち、若手の主な職責は、投資判断のためのデューディリジェンス、キャッシュフローの分析、バリュエーションであり、M&Aでの作業と同じだからである。最近は、一般的には、証券系より銀行マンが好まれることが多い。即ち、最近のファンド投資では、銀行借り入れに併せ劣後ローンをアレンジすることが多く、銀行での融資経験のある若手が優先されるからである。若手に求められる資質として、よく「クリティカル・インテリジェンス」が上げられる。ファンドはバイサイドであるからさまざまな売り込み攻勢を受けるが、売り手の誇大宣伝に惑わされず、且つ、対応は営業センスを持って行えという意味である。 C 投資を決定し、投資先の企業価値の増大を行う場合、経営者を送り込むことが多い。PEの投資担当者の多くは金融出身であるから、産業に土地勘がない。従って、インダストリアル・パートナーと呼ばれる投資先の産業で経営力を持つ人が求められる。このサーチは、当社のような金融専門のサーチ・ファームには、正直難しい。また、大手の日本企業は長らく年功序列の人事政策を採っており、ファンドが求めるような「日本企業で40歳代の経営力を持つ人」は極めて少ない。各ファンドはこの人材集めに四苦八苦しているようだ。
A PEの報酬体系は、各社の方針と投資家との合意に従い多岐に亘っている。一般的に説明すると、ファンドの運営会社(ジェネラル・パートナー)は、集めたファンドからマネジメント・フィー(ファンド額の1−2%程度)を取るが、そこからスタッフのベース・サラリーと毎年のボーナスを支払う。エグジットしてキャピタル・ゲインが発生した場合、そのゲインからマネジメント・フィー等のコストを差し引いたネットの運用益を、ファンドの運営会社や一般投資家(リミティッド・パートナー)に分配する。ファンドの運用会社は運営の報酬として、ネット運用益の20%を得る。その20%をどのように配分するかは各ファンドの方針による。基本的に全てを分配する。例えば、同運営会社にスポンサー(大手の機関投資家等)がある場合は50%をスポンサーに配当し、残り50%を運営会社のスタッフで分ける。これをキャリード・インタレストと言うが、スタッフの上位者ほど大きな配分を受ける。即ち、マネジング・パートナーと呼ばれる投資の責任者は、同部分の30%を取ると言われる。即ち、ファンド運用でのマネジング・パートナーの責任は甚大であるからである。マネジング・パートナーは、ファンドの組成(資金集め)、投資案件の発掘、企業価値の増大(財務再構築、成長戦略の策定と執行等)、エグジット(再上場等)によるキャピタル・ゲインの実現等、一連の責任を負っている。PEを志す者にとって、このポストがキャリア・ゴールである。マネジング・パートナーより下位のスタッフに対しては、案件への貢献度とそのポストの高さに応じて配分される。若手では、アソシエートと呼ばれるレベルまでが対象になる(アナリストと呼ばれる最下層は対象にならない)。PEの報酬額は、キャリーが無ければ外資系投資銀行のレベルより低い。また、外資系ファンドほどスタッフ間での差が大きい。従って、外資系ファンドの若手は一日も早くマネジング・パートナーに昇格しようと、24時間労働を厭わない。
3.ファイナンスとクレジット
ここでの「ファイナンスとクレジット」とは、@クレジット・リスクの高いLBOファイナンスや劣後ローン(メザニン)、シンジケート・ローン、Aクレジット・デフォルト・スワップのようなクレジット・デリバティブ、ローン・トレーディング、クレジット・リサーチ、B不動産投資とその証券化(住宅ローンの証券化とREITを含む)、Cストラクチャード・ファイナンスを言う。
LBOファイナンスとメザニン A 通常の銀行借り入れであるシニア・デットより返済順位が劣後するファイナンスに、メザニン(中二階)がある。拡大中のLBOファイナンス、MBOファイナンスや不動産の証券化等に使用されている。メザニンの種類には、ハイイールド債(社債)、劣後ローン、PIK(最終償還時での元本の割り増し償還)、普通株への転換権の付いた債券や優先出資証券がある。債券の格付けとしては一般にBBプラス以下である。日本の場合は社債より融資(劣後ローン)の形態をとることが多い。05年のメザニンの世界での市場規模は、欧州および米国でそれぞれ1.5兆円程度であり、バイアウトの資金調達全体の1−2割程度を占めている。日本でも企業買収、ファンド投資や不動産ファイナンスで使われるようになっている。また、劣後ローンを束ねたメザニン・ファンドも増えている。欧州で行われる典型的な取引の流れは、当初は銀行がリスクの高いファイナンス(例えばLBOファイナンス、メザニン・ファイナンス、各種の不動産ローン、消費者金融等)を許容し、それらを証券化(CLO、CMBS、RMBS等)して、最後にファンド化(メザニン・ファンドやハイマージン・ファンド等)する。このファンドを利回りの高い投資商品(L+250bpsレベルと)として投資家に提供する。メザニン・ファンドは、欧州ではみずほコーポレート銀行や野村證券がメザニン・ファンドを立ち上げているが、日本でも邦銀や証券会社に加え、生命保険、ノンバンク、政府系金融機関、独立系M&Aファーム等が立ち上げつつある。海外の年金等も日本向けのメザニン・ファンドに投資している。また、一部の外資系投資銀行がメザニンのセカンダリー・ビジネス(メガバンクからの購入、運用、転売)を始めようとしている。 B 外資系の投資銀行やファンドが、日本でメザニン・ファイナンスへの参入を図っているが、邦銀の安易なリスク許容や金利ダンピングに阻まれて苦戦している。外資の外人プロは「邦銀は、本来メザニン(中二階)としてファイナンスすべき高いリスクに対して、銀行ローン(シニア)を許容し、しかも、考えられないような低い金利でオッファーする」と憤慨している。メザニンは、複雑な将来キャッフローの予測分析に加え、多岐に亘るコベナンツ条項(債務者の期限の利益の喪失条件)を組み入れたり、株式への転換権を付与したりするので、企業金融と不動産担保融資しか経験が無い邦銀には簡単ではないはずである。特に、メガバンクは海外でのメザニン・ファイナンスやLBOファイナンスの拡大を企図しているが、危うさを感じる。
A 外資系ファンドの中には、日本にはメザニン・ファイナンスの経験者が少ないので、未経験の若手を育てようとしている。候補者は銀行員か証券マンであるが、銀行員の場合、高いクレジット・リスクにチャレンジし、クレジット・リスクとは何かを極めようとする真摯な若者かであり、証券マンであれば、エクイティ・ファイナンスは経験したので、次はデット・ファイナンスにチャレンジしたいと志す若者である。
A 新BIS規制では貸出先の集中リスクも問われるため、ポートフォリオ管理を機動的に行う必要がある。このように、金融インフラの正常化を進めるため、日本のクレジット・ビジネスも拡大すると考えられる。
A 日本勢としては、ノウハウの蓄積を急いでいる生損保、信託銀行やメガバンクでクレジットものの運用者への人材需要がある。大手の証券会社がクレジットものの営業態勢の整備を急いでいる(高度な商品は外資から買ってくる)。また、邦銀ではクレジット・リスクのポートフォリオ・マネジメントのスキルを持つ人材への需要がある。このように、日本の金融機関からのクレジットもの関連の人材需要はあるが、日本の金融機関には商品を作る力も無く、リスク管理等のインフラ整備も遅れているので、一流の外資系のプロは応募しない。しかし、本格的なクレジット・トレーディング/仕組み/リスク管理の態勢を作りたいと、一部の邦銀や証券会社がチャレンジしている。採用対象は高給な外人トレーダー(チーム採用)である。 B クレジット・ビジネスの拡大を受けて、外資系投資銀行でクレジット・アナリストに対する需要がある。また、格付け機関では格付けアナリストへの需要があった。数年前には経験者が少なく探すのは難しかったが、現在では人材も育ってきた。ここでも外資系同士が引き抜き合戦している。クレジット・クオンツアナリストへの需要もある。バーゼルUの規制への対応のための人材需要は一巡したようだ。
A しかし、金利は上昇傾向にあり、14年振りに一部の路線価格が上昇するなど不動産投資の環境に変化が起きている。特にREITは選別の時期に入ったと言われる。一方、大手の外資系投資銀行や大手私募ファンドは依然強気である。地価上昇は逆に商機(景気上昇)と見てファンドを拡大し、低いキャップレート(3%台)でも物件を購入している。彼らは優秀なプロパティ・マネジャーやアセット・マネジャーを使い、物件価値を上げている。また、日本の不動産投資業界の再編を好機として、この時期になっても日本に上陸する巨大な外資系金融機関の不動産投資部門もある。不動産投資は、これまでの「不動産価値」に依存するものから、ショッピング・モール等大型商業施設の開発、倉庫等物流施設、病院建設等、不動産を活用した「事業ファイナンス」へ軸足を移している。このように、不動産投資ビジネスは一つの踊り場に来ているのかもしれない。
4.資産運用ビジネス
ここで言う「資産運用ビジネス」には、投資顧問及び投資信託という伝統的な資産運用ビジネスとヘッジファンドを含む。
伝統的な資産運用 A
投資顧問では、06年3月末での投資顧問契約資産残高は145.2兆円で過去最高になり、前年同期比37.3兆円の増加(34.6%の増加)であった。内、投資一任勘定は30.6兆円の増加であったが、その内、価格の上昇分は17.8兆円(22.4%の増加)、資金流入による増加分は12.8兆円(16.1%の増加)であった。また、特に海外顧客の一任勘定が74.4%増大した。好調な日本株相場の結果、05年度の企業年金の運用利回りは19.2%と過去最高を記録した。 B
一方、投資信託は好調であった。06年6月末の公募・私募合わせた投資信託(株式・債券とも)の残高は85.8兆円で過去最高となり、残高は前年比44%伸びた。内、公募株式投資信託の純資産残高は46.1兆円で、16年半ぶりに記録を塗り替えた。これは「貯蓄から投資」への流れが進展している中で、特に、銀行の窓版の貢献が大きい。昨年まで人気の高かったグローバル・ソブリン・オープン等の外債投信に代わり、不動産・債券・株式に分散し、且つ毎月分配するタイプの投信が注目されているようだ。脱デフレ用の投信とのこと。
A しかし今年度に入って、ヘッジファンドは世界市場で苦戦している。世界的な金利上昇懸念からリスクマネーが収縮していることに起因する。ヘッジファンドの代表的な指数であるクレディスイス・トレモント指数によると、05年の指数全体の総収益率は7.61%で、04年の9.64%、03年の15.44%から低下した。かつて投資家はヘッジファンドには二桁の収益率を要求していたが、現在では7−10%でも満足している。中でもロング・ショート戦略が不振である。また、世界経済の先行き不透明感からクレジット・スプレッドが開いており、破綻証券戦略も成績が悪化している。昨年まで日本の機関投資家が選好していたファンド・オブ・ファンズの人材需要がほとんど聞かれなくなった。ファンド・オブ・ファンズは、機関投資家にとってパフォーマンスの管理に手間が掛かり、且つ、投資戦略が分かりにくいとのこと。しかし根本的な原因はヘッジファンドの数が多過ぎることであろう。即ち、現在ヘッジファンドは世界で8500もあるが、内、3500程度は最近設立されたという。市場で誰も気付かない歪みを見つけてベットする戦略がヘッジファンドの原点であるとすれば、同じポジションを取るファンド・マネジャーが多すぎて裁定の機会が無くなったと言える。即ち、「イージーマネー」を前提にしたヘッジファンド・バブルが終焉したのだ。
A 外資系金融機関の日本法人においては、引き続き、海外のヘッジファンドを日本の証券会社等のディストリビューターや、日本の機関投資家に売るマーケターへの人材需要があった(個人向けファンド・デリバティブは別に報告した)。また、日系の大手証券各社のロンドン支店や東京本社が、ヘッジファンド宛てセールスの採用を急いでいる。ヘッジファンド宛てセールスではヘッジファンドとの個人的な関係やネイティブな英語力を要するので、候補者は外人に限られる。かつて、日本の証券会社はヘッジファンドと取引をすることで彼らのポジションを知り、類似のポジションを張って儲けようとしたが、現在では、日本国債やその他円金利ものをヘッジファンドに売ろうとしている。各社とも採用に苦戦している。 5.債券・デリバティブ・コモディティ・為替 @ 昨年の当レポートは「高度の金融技術を要するデリバティブ商品等において、外資系金融機関と日系金融機関との格差は縮小した」と、外資系金融機関の悲観論を報告した。しかし、今年確認されたことはその「差」はまだ大きいということだ。不良債権問題を克服した日本の金融機関に対する個人富裕層の信頼は厚く、大量の取引がメガバンクの窓口に持ち込まれている。日銀統計によれば、個人金融資産に占める株式、外貨預金、外債、投信といったリスクマネーの比率は04年度の9.5%から、05年度の12.5%に増大している。即ち、単純に言えば、45兆円以上が預貯金からリスクマネーにシフトしたり、新規に投資されたりしている。しかし、日本の金融機関はこのニーズに応えられない。即ち、商品開発力やそれを支える強いトレーディング力が無いからである。昨年当社は、日本の金融機関に対して「リスクマネーに対する力を付けるためのプロの採用」を提言した。しかし受け入れられなかった。結果、日本の銀行・証券会社はリスク商品を外資系金融機関から仕入れている。そこで外資系金融機関は大きなスプレッドを抜いている。これが、今年外資系金融機関の収益が拡大し、大量の人材需要を抱える一つの理由である。従って、日本の金融機関は今更ながら、金利もののトレーディング力を強化すべく、国内・海外で外人プロを採用しようとしている。しかし、彼らを満足させる報酬条件を提示出来るのか、彼らに大きな権限(リスク・ポジションの大きさだけでなく組織上の権限)を与えられるのか疑問である。ムリだと思う。 A
日銀によるゼロ金利政策解除を先取りして、昨年末から大手外資系投資銀行に円債(短期ものも含む)トレーダーへの人材需要があった。円債トレーディングでは、ひとつの外資系金融機関でポストが空くと他の外資系からプロが引き抜かれる。従って相乗効果が出る(席替えのようなもの)。現在では日系・外資系の大手証券会社で円債のマーケター(円債投資への助言)に対する人材需要がある。外資系銀行の国内外で、金利や為替のプロップ・トレーダーの需要もある。候補者は実績のあるプロで、国籍を問われない。 B ファンドへの投資において、リスクを回避したい個人投資家とバーゼルUの規制を回避したい地銀のニーズに対応して、ファンド・デリバティブ(元本保証の債券等に仕組む)が注目されている。ファンド・デリバティブは、従来、フランス系金融機関の独占商品であったが、最近では、彼らを米系投資銀行が破格の報酬条件で引き抜いている。米系は従来「優良なファンドには元本保証は不要」とファンド・デリバティブを無視していたが、最近方針を変えている。それほど個人や機関投資家の購買意欲が強くなったということか。しかしこの商品の経験者は極めて少ないので、彼らをめぐって争奪戦が繰り広げられている。日本の金融機関は外資系から仕入れるしかない。 C 原油価格の上昇につられて、その他のコモディティ価格も上昇している。海外市場ではコモディティ関連の人材需要がヒートアップしている。大手の外資系投資銀行同士が超破格の条件で引き抜き合戦をしている。これにメガバンクのロンドン拠点も参戦しているようだが、巨大なリスクテーク力やリスクマネジメント・システムを要するため、採用は難しい。 6.個人富裕層ビジネス
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日銀のデータによると、05年末に個人金融資産が初めて1500兆円を超えた。個人は、マス層、アッパーマス層(3千万円以上5千万円未満)、準富裕層(5千万円以上1億円未満)、富裕層(1億円以上5億円未満)、超富裕層(5億円以上)に分かれるが、どの層をターゲットにするかは各社の戦略に拠る。部門の名称も「個人富裕層」「ウエルス・マネジメント」「プライベート・バンク」と各々違う。 A 外資系金融機関は、これまで、本国のウエルス・マネジメント手法をそのままこの市場に持ち込もうとして、失敗してきた。いまだに同じ過ちを繰り返す外資系もある。また、自力での展開を諦め、大量の個人顧客を持つ日本の金融機関と提携してお茶を濁す外資もある。確かに、今でも日本のマーケットへの参入を検討する外資系金融機関もあり、また、既存の組織を拡大するところはあるが、外資系のウエルス・マネジメントは全体としては限定されている(主として欧州系が活発である)。人材需要も大きくない。やはり日本の個人投資家は外資系を信用しないし、日本の法・税務制度は資産の国際的な運用を許さない。従って、外資系は商品を日本の金融機関に卸して稼いでいる。
第二章 日本の金融機関と外資系金融機関 第一章では、プロダクト別に、外資系金融機関と日本での金融機関の人材需要の違いを指摘した。ここでは日本の金融機関、特にメガバンク経営の問題点を人事政策面から指摘したい。しかし当社は、外資系金融機関日本法人の戦略や人事政策が「全て正しい」と主張しているのではない。その問題点も指摘する。
(1)「改革」への熱意を失ったメガバンク A
元々、メガバンクの経営者は「失われた15年」を引き起こした主犯であり、厳しく責任を追求されるべきにも拘らず居座り、今日、昔の経営を復活させようとしている。思えば、竹中三原則の内「銀行のガバナンスの改革」が不発に終わったのが分かれ目であった。言うまでも無く、メガバンクの回復は、膨大な税金の投与(銀行全体で37兆円の公的資金の注入)や預金者の犠牲(低い預金金利による280兆円の所得移転)によって実現された。今日の巨大な資産規模や株価総額は金融当局による指導の結果(メガバンクへの収斂)であり、銀行経営者が仕掛けたものではない。しかし何故か彼らは「勝ち組」経営者であると自負している。「失われた15年」は「不良債権問題」の「結果」ではない。「閉鎖的で、グローバル・スタンダードでの経営を拒否する邦銀経営」の「結果」である。この経営は現在も続いており、マーケットでは「邦銀は、早晩、次の『失われた15年』を作る」と言われる所以である。 B
「批判勢力」がいないのが一因だと考えられる。メガバンクの株式の過半は、海外の投資家や個人投資家に所有されているが、彼らは投資先の「中・長期的な企業価値の増大」に興味がない。「明日または3ヶ月先の株価が今日より上がっているか」が関心事である。 C 筆者が会うトップクラスの欧米投資銀行の本社の経営者は、口を揃えて「邦銀経営者は良識を持っていると思うが、経営者として致命的な欠陥がある。これは彼ら自身気がついていない」と。そして「この話は秘密にして欲しい。邦銀は大きな顧客でもあるから」と。また、慶応大学大学院政策・メディア研究科教授の高橋俊介氏も論文で「日本の銀行の人事部には戦略的思考が欠落している」「銀行経営者は現状に目を向けず、漠然とした一般論でしか人事を語らない」と述べている。これらのマーケットでの評価を知らないのは邦銀マンだけだ。 D メガバンクの組織で奇妙なことは、CFOやトレジャラーがいないことである。そう指摘すると必ず反論があるが、我々は形式論を述べているのではない。資本コストを計算し、資本の最適配分を担当する最高レベルの経営者がいないと指摘しているのだ。株式アナリストの証言によれば、欧米の金融機関には当然にある「部門別の資本コスト計算」が無い。アナリスト・ミーティングで質問しても答えられる頭取は殆んどいないとのこと。メガバンクに資本コスト経営が無いことは、邦銀間の融資シェア争いでの金利ダンピング合戦、儲かりもしないビジネスへの大量の経営資源の投入、リスクを省みない海外融資の拡大、新規ビジネスへの参入の判断の遅さを見れば明らかである。また、あるメガバンクは不得意な「投資銀行ビジネス」を捨て、「リテール・バンキング」に資源を投入するとのこと。しかし「貴行のリテール・ビジネスが本当に儲かっているか確認しましたか」と聞きたい(否定的な分析が多い)。日本の金融機関は、判断に「慎重」なのではなく「資本コスト経営に基づく意思決定のシステム(本当のコーポレート・ガバナンス)が無い」だけである。
@ 現場の長が素人であること A マーケットで通用する人材が育っていないこと B 人事採用計画が場当たり的であること C 但し、メガバンクすべてが改革の意思を放棄したわけではない。メガバンク3行の間で大きな「温度差」がある。銀行は最近まで公的資金を受けていたので動きにくい面もあったが、公的資金の返済を先取りして、組織改革の遂行と積極的な外部採用を行ったメガバンク(グループ内の証券会社を含む)もある。ここでの採用は整合的なものではなかったが「ともかく動き出したこと」は評価された。また、出足は遅れたが、態勢が整うと、一気に本格的な動きを始めているメガバンク系証券会社もある。しかし、現状維持で良いとするメガバンクもある。メガバンク各行のこの経営方針が外部採用へのスタンスや社内の人事制度に表れている。メガバンクへの転職を考える者は、自らの将来に関わるので、違いをよく見極めなければならない。 2.外資系金融機関
A 外資系金融機関の日本法人(または東京支店)の収益が飛躍的に伸びた理由は、(a)昨年に比較して、M&Aが件数で増えていると同時に大型化していること。しかもクロスボーダー案件が増えているため、外資系の強さが発揮されていること。(b)設備投資やM&Aのため資本市場での大型の資金調達が続いたこと。(c)外銀の融資が積極的に行われたこと。実際、06年7月末の外銀の国内向け融資残高は7.9兆円で前年比倍増している。景気の拡大、市場金利の上昇やM&A関連融資の増大、PFIの協調融資の増大で潤った。また、(d)世界的な金余りと好調な日本株相場により、ヘッジファンド等の外国法人が活発に日本株を売買したこと。また、(e)今年に入って大量の資金のリスクマネーへのシフトがあったが、日本の金融機関には対応する商品開発力やトレーディング力が無いため、外資系が商品供給して稼いでいたこと。 B しかし、外資系金融機関の日本法人の経営やそのプレーヤーが、「全て」すばらしいと肯定しているわけではない。時として戦略が近視眼的であったり、整合性に欠けることがある。例えば、今年の3月頃まで日本の株価が上昇していたが、外資系金融機関が日本株のロング・ポジションで稼ぐトレーダーを採用しようとしていた。しかし、その後の株価下落により突然採用計画を停止した。まさに「株価連動型」採用であった。勿論、外資系の金融マンには良く稼ぎ、人物としても立派な人は多いが、中には「稼ぐためにはなにをしても良い」「稼いでいるから自分は偉い」と勘違いしているMDやプロも多い。外資の「非常識」な連中である。特に若いMDや外人に多い。これが、外資系金融機関がいまだに「胡散臭い」と評価され、尊敬されない所以である。
A 外資系金融機関の本社マネジメントの懸念は、日本法人の日本人に、真の経営者や人材が十分に育っていないことである。日本法人には「職人」(商品のプロで、よく稼ぎ高額のボーナスを貰っている人)はたくさんいるが、金融マンとして高い志を持ち、部門長(MD)として成長し、本国の経営者とも互角な議論の出来る人が少ないと。また、マーケットに大きなインパクトを与える大掛かりなディールが出来るプロも多くないと。 B 人材需要の量としては若手に対するものが多い。外資系金融機関は、長期に亘り日本の金融機関から「専門性は低いが良質」な若手銀行員を採用してきた。しかし収益に対するノルマがこれほど強くなると、今後はその余裕が無くなるかも知れない。90年代の中旬外資系金融機関と日本の金融機関では、特にデリバティブと言った当時の先端金融商品で技術格差が大きく、日本の金融マンの一流外資系投資銀行への転職は難しかった。今後、当時と同じ現象が起こると懸念される。外資でのキャリアを志す若者は余程構えて望まなくてはならない。若者に求められる人物像は、スキルや経験もさることながら、やる気やプレッシャーへの強さ、大胆な発想力を持つ人である。高度な商品知識や数理力が重視されたデリバティブ時代とは違う。 C トップクラスの外資系金融機関で人材需要が強いビジネスは、第一章で詳述したように、(a)M&A関連、(b)投資ビジネス、(c)LBO・MBOファイナンスやメザニン・ファイナンスのようなリスクの高いファイナンス、(d)クレジット・デリバティブ、(e)ヘッジファンド関連、(f)個人富裕層向けのリスク商品の開発関連である。 D 過去2年−3年の間に、外資系金融機関の東京支店は「日本法に基づく株式会社」に転換された。理由は、現地化を進めているためとか、コントロールを強化したい金融庁の指令だとか、外国証券での退職金に掛かる税金対策とか言われた。いずれにしろ、これにより、外資系のプロには積み上げられていた退職金や報奨金が支払われ、転職し易くなった。。 おわりに 企業の「ミッション」とは、年月を掛けて蓄積した技術を駆使して自社製品を開発し、「企業理念」を商品化して(世界)市場に提示することである。もし商品が売れなければ、その企業の掲げる「理念」は「ひとりよがり」と判定されたことになる。そのため企業は、自社の持つすべて、即ち、設備や技術に限らず経営者や従業員の思い(企業文化)まで自社製品に込めようとする。元々、日本文化の特性は、欧米合理主義のように普遍的な哲学を求めるのではなく、身の回りの自然や事象に深い思いを寄せ、それを具体的な形で表現しようとするものである。茶碗、生け花、能、和歌・俳句等である。この文化の利点が日本の製造業に生かされていると思う。「もの作り日本」と言われる所以である。日本車が世界を席巻するのは、「設計図」で作られる米国車と違い、日本車がこの「日本文化のDNA」で作られるからである。「もの作り日本」を可能にしたのは、ある意味で、「悪しき日本的経営」と非難された企業内での年功序列・終身雇用制度や、企業外での系列・下請け制度と言った「企業一家主義」かも知れない。 しかし、今や社会・経済の変化が余りにも急速で、且つ、市場がグローバル化しているため「もの作り日本」の文化が変質しようとしている。企業は、熾烈な国際競争で生き残るためには、時間を掛けて自社で開発するのではなく他社の力を借りなければならない。即ち「時間を買う」。これが現在、日本でもM&Aが爆発的に拡大している所以である。この新しい環境下で、「もの作り日本」の文化をどのように活かすかが問われている。 一方、個人を取り巻く環境も激変している。個人の人生観は戦後から変遷を辿った。戦争直後は皆「生きるため」に働いた。高度成長期には大量の「会社命」の勤労者を生み出した。その後余裕が出来たサラリーマンには、個人生活を重視する「マイホーム・パパ」が現れた。しかし、バブル崩壊によって会社に裏切られた個人は、自分の人生を見つめ直し「キャリア構築」や「自己実現」を目指した。ユングが広く読まれた時代である。そして「失われた15年」を経た今日、個人は「キャリアと個人生活の両立」を目指していると思う。もし個人の人生観がそうであれば、人材市場や企業の経営者も、それに対応しなければならないと思う。 以上 |
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| ESPのプロダクト別アサインメント残高(平成18年7月31日現在) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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筆者のプロフィール: 小溝 勝信(こみぞ かつのぶ) 1968年東京大学教養学部国際関係論分科を卒業し、住友銀行(現三井住友銀行)に入行、主として国際部門に従事した。1984年に外銀に転じ、 ファースト・シカゴ銀行東京支店の事業法人部長に就任した。人材コンサルティングに転ずるため、1989年米国の大手ファームの一つであるホイットニー・グループ日本支社に入社し、副支社長に就任した。1993年、日本型のエグゼクティブ・サーチの創設を目指してヘッズジャパンに転じ、金融部門マネジング・ディレクターに就任した。2004年エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社を設立した。 このレポートは、筆者がヘッズジャパンで1994年以来半年毎に報告していた「外資系金融機関の最近の人事事情について」の連続版である。
エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社(ESP)のプロフィール:
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