人材市場レポート

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月例レポート

平成18年8月 第4号 (日本語版)

〜外資系金融機関に回帰する人材需要〜

金融人材市場はバブルか?


エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社
代表取締役 小溝 勝信
- 目次 -

  • はじめに
  • 要約


  • 第一章 金融プロダクト別の人材需要の様相

    M&A
    その他の投資銀行ビジネス
    株式リサーチ

    バイアウト・ファンドとプリンシパル・インベストメント
    報酬体系について
    ベンチャー・キャピタル

    LBOファイナンスとメザニン
    シンジケート・ローン
    クレジット・デリバティブと事業債
    不動産投資とその証券化
    ストラクチャード・ファイナンス

    伝統的な資産運用
    ヘッジ・ファンド



    第二章 日本の金融機関と外資系金融機関



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    はじめに
    当社が昨年12月に作成した「金融人材レポート−3」では、「不良債権問題を克服した邦銀が蘇り、資産の『健全性』から『収益性』へ大きく舵をとり始めた。不良債権の無い邦銀に対する日本のマーケットの信頼は絶大で、個人も企業もこぞって日本のメガバンク・グループに商機を持ち込んでいる。一方、それまで先端金融商品での高度な開発力と広大なグローバル・ネットワークを駆使して日本でも巨額の収益を上げていた外資系金融機関は、日本の金融機関との差が縮小しており、苦戦している。金融人材市場は『日系よ、コンニチハ!外資系よ、サヨウナラ!』の時代に移った」と報告した。しかし06年に入り、それが皮相な観察であったことが確認された。現在、金融人材市場は、再び、外資系金融機関を中心に展開しており、かって無いほどの活況を呈している。
    このレポートではその様相と理由を説明する。

    この「レポート」は、筆者が前職のヘッズジャパンで94年に執筆を開始し、以来半年毎に作成してきた「金融人材レポート」の新会社(ESP)における連続版である。今回は新会社で第4回目となる。06年前半の様相をご説明する。


    要約
    このレポートの要約は下記の通りである。

    (1)金融人材市場は、再び、外資系金融機関が主導権を取り戻した。即ち、大手外資系金融機関の日本法人は、日本及びグローバル・ベースでの高収益を背景に、大量のプロの採用をを進めている。これは、多発する大型のM&Aと資本調達、ファンド及びプリンシパル(自己資金)による投資機会の増大、これらを支援するLBOファイナンスやメザニンの拡大、個人金融資産のリスクマネーへのシフト等さまざまな局面で、金融環境が外資系金融機関に有利に展開していることによる。通常、外資系金融機関が年央にプロの採用を行うことはマレであるが、今年は優良な候補者に対してはバブルとも言える条件を提示し、外資系同士が人材の引き抜き合戦を展開している。
    一方、昨年「改革」に意欲を示していたメガバンク(グループ内証券会社を含む)が、今年に入って急激に熱意を失っている。即ち、06年3月期の好決算に安堵し、「高いコストをかけてまで『改革』する必要は無い」と。但し、メガバンクや部門により「温度差」がある。一部のメガバンクは中期計画に基づき、本格的な「改革」を進めている。

    (2)プロダクト別では、@M&A、A投資ビジネス、Bファイナンスとクレジット・ビジネス、Cヘッジファンド、D個人富裕層ビジネスでの人材需要が強い。

    (3)M&Aは、人材需要の件数では現在最大の項目である。M&Aは昨年対比、件数でも金額でも増加している。しかも大型化、国際化しており、外資系に有利な環境になっている。また、ホリエモン事件等で、M&Aへの理解や法整備が進んだ。従って、一流外資系投資銀行が「即戦力」のプロの引き抜き合戦をしている。クロスボーダーのM&Aが出来ない日本の金融機関のひ弱さが露呈している。日系のM&Aでの人材採用は必ずしも上手く行っていない。

    (4)投資ビジネスは、昨年に引き続き活況であった。既に日本で投資をしている欧米プライベート・エクイティや独立系ファンドに加え、いくつかの大型バイアウト・ファンドの上陸があった。また、規模は小さいが独自の投資戦略を持つファンドの日本進出も続い ている。米系投資銀行がファンドを通じた投資から、プリンシパル・インベストメント にシフトしている。自らリスクを取らなければ競争に勝てないとの判断である。ここでも人材需要は強い。

    (5)M&Aや投資を支えるため、LBOファイナンスやメザニンが拡大している。そのファンド化も進んでいる。これらビジネスには、難しいキャッシュフローの予測やコベナンツ条項設定のため、経験者の採用が必須である。外資系は人材難のため採用に苦戦しているが、邦銀はリスクの認識が低く普通の銀行員が対応している。そしてリスクを無視して得意の「シェア拡大」に血道を上げている。また、金利やクレジットの環境が改善しておりCDSや事業債のマーケットが活性化されている。これも需要に対して人材が少ない。

    (6)資産運用ビジネスは、昨年来の日本の株価の上昇もあり全体としては活況であった。しかし人材需要に関しては、投資顧問業では、特にアナリストや特定の資産運用会社を除いて余り聞かれなかった。投信では、販売会社である日本の金融機関で、ファイナンシャル・プランナーや支店営業マンの大量採用があった。外資系運用会社では、自社運用商品の日本の金融機関宛てのマーケターへの需要があった。
    しかし、人材需要の主体はヘッジファンド関連であった。ファンドによる日本株のロング・ショート戦略のファンド・マネジャーや、外資系のファンドや金融機関による機関投資家宛てヘッジファンドのマーケターへの強い需要があった。しかし、日本株の勢いが止まった4月以降は、ヘッジファンドのファンド・マネジャーに対する人材需要は縮小した。

    (7)個人富裕層ビジネスは、個人金融資産のリスクマネーへのシフトが本格化しており、拡大中である。個人富裕層の投資ニーズも日本の金融機関が補足しているが、日本の金融機関にはリスク商品の開発力とそれを可能にするトレーディング力が無い。外資系金融機関が商品供給して潤っており、その人材需要があった。

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    第一章 金融プロダクト別の人材需要の様相

    <プロダクト別人材需要(7月末での件数ベースアサインメント残高)>

    ESPのプロダクト別アサインメント残高(平成18年7月31日現在)
    金融ビジネス
    プロダクト
    投資銀行ビジネス
    14
    22.2
    カバレッジ、M&A、引受け、IPO
    投資ビジネス
    12
    19.0
    バイアウト等ファンド投資、プリンシパル・インベストメント、VC
    ファイナンスとクレジット
    9
    14.3
    M&Aファイナンス、メザニン等のハイイールド・ファイナンス、PFI、
    証券化等のストラクチャード・ファイナンス、シンジケート・ローン、
    CDS等のクレジット・デリバティブ
    不動産ファイナンス
    3
    4.8
    不動産の購入、ファイナンス、証券化、エグゼキューション、私募ファンド、REIT
    資産運用
    10
    15.9
    ヘッジファンド、投信・投資顧問、個人富裕層
    マーケットリスク・ビジネス
    13
    20.6
    デリバティブ、仕組み債、JGB、為替、コモディティ
    その他
    2
    3.2
    株式、リサーチ、オペレーションほか
    合計
    63
    100.0
     

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    1.投資銀行ビジネス

    06年4月以降、原油高と世界的な株式相場の低迷で先行きが懸念されたが、日本企業の業績は引き続き順調に改善している。また、06年度の日本の名目GDPの成長率は、大方2%前後と予想されており、日本経済は当面堅調な拡大を続けると考えられる。従って、多くの事業法人は事業拡大のため、積極的にM&Aや資本市場での資金調達を計画している。これらの動きに対応して、外資系投資銀行でも日本の金融機関でも、投資銀行ビジネスでの人材需要が非常に強い。特に外資系同士が壮絶な人材の引き抜き合戦を展開している。

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    M&A
    ビジネス動向
    外資系金融機関及び日本の証券会社のM&A部門は、かつて無い程の活況を呈している。05年度(05年4月から06年3月)では、日本企業を対象とするM&Aは件数、金額ともに過去最高であった。レコフ社の調べでは件数は2841件(前年比24%増)で、金額は13.5兆円(前年比2%増)であった。
    特徴の第一は、東芝によるウエスティングハウスの買収や日本板硝子によるピルキントンの買収のように、日本企業が成長戦略を進めるため海外企業の買収を進めたこと。この間での海外企業の買収は、件数で418件(前年比25%増)、金額は5兆円と過去最高であった。また、特徴の第二は大型案件が増えていること。実行されたM&Aの上位9位までが2000億円超の大型であった。さらに今年1月−7月のM&Aの累計金額は7.9兆円(前年同期比9%増)に上り、今年も過去最高を更新する勢いである。また、上位10件の内半分は海外企業の買収案件である。来年には、外国企業と日本企業との株式合併(三角合併)が可能になる。外資系投資銀行にはますますM&Aの商機が出てくる。従って、日本の証券会社が、「ムリ!」と言われながらも「クロスボーダーM&Aの獲得体制」を築きたいと考えているのは理解出来る。また、日本市場に馴染まないとされてきたTOBも、05年には3兆円(31件)に急増し、過去最高であった前年の9千億円を大きく円超えた。06年後半ももこの拡大傾向が進むと考えられる。


    M&Aの拡大の要因
    @ 世界のM&Aは06年の1月−6月で約2兆ドル(230兆円)に上った。欧米投資銀行はこの恩恵を大きく受けている。象徴的なディールは、鉄鋼最大手のミタル・スチール(オランダ)による2位のアルセロール(ルクセンブルグ)の買収である。これにより、「グローバリゼーションが進めば、世界で一定のシェアを取らなければ生き残れない」という危機感が大手の日本企業の間に広がった。また、長期計画に基づく売り上げ目標を買収で達成しようとする企業もある。実際、多くの優良な日本企業は、国内外での産業再編をにらみ、ストラテジック・バイヤーとして戦略的買収を検討している。また、長期的な戦略を遂行するため、経営者によるMBOも増加している。しかし、日本企業を対象とするM&Aは、現時点では世界全体のM&Aの5−6%程度で、日本のGDPや株式市場の時価総額が世界の10%程度であることを考えると、日本企業を対象とするM&Aはもっと拡大すると考えられる。

    ホリエモン事件、村上ファンド事件で、「会社は誰のものか」、「企業買収はどうあるべきか」の議論があり、M&Aについての理解が進んだ。また、会社法の制定に併せて、M&Aに関わる法整備が進み市場のルールが見直された。また、投資家も過度の買収防衛策に反対している。従来ご法度とされていた敵対的買収(TOB)も、王子製紙による北越製紙のTOBに見られるように、「ルールに基づき企業価値を上げるものであれば許される」という見方も広がっている。これらの環境の変化がM&Aの増大を後押ししている。

    A 外資系投資銀行や日本の銀行及び大手証券会社は、多くの日本企業から業績拡大や企業価値増大のための買収計画についてアドバイスを求められている。また逆に、敵対的買収から防衛するための仕組み作りについても相談されている。業績を回復した日本企業は、そのための手元資金は潤沢であり、資金調達力もある。上記の通り、大型案件やクロスボーダーが増えているため外資系は潤っているが、日本のメガバンク及び大手証券会社には小型のM&A案件が殺到しているという。日本の金融機関では、大型の案件でなければ、特にソーシング活動を行う必要は無い。日本の大手の証券会社は年間100−150件程度のM&Aを実行するが、案件自体はその数倍あると。従って、日系証券のM&Aはエグゼキューション(執行)ビジネスである。

    確かに、M&Aにより「企業価値(株価ではない)」は上がることは確認されている。アビームM&Aコンサルティング社が、M&Aを実施した後に「企業価値」がどう変化したかを調査した。過去10年の379件全体で、企業価値は16%増加し利益額も35%増加したと分析している。M&Aが有効な手段であると裏付けている。また、外資によるM&Aでの企業価値が24.8%増であるのに対して、国内同士のM&Aでは13.7%増であった。外資によるM&Aの方が改善率は良い。

    B ストラテジック・バイヤーによるM&Aに加え、投資ファンドやプリンシパル・インベストメント、即ち、フィナンシャル・バイヤーによる買収も増加し、M&Aを活性化している。トムソン・ファイナンシャルによれば、06年の1月−6月でファンドが関わった日本のM&A金額は49億ドル(約5640億円)あったが、日本企業が関わったM&A全体の10%未満に過ぎない。世界では15%以上であり、日本のM&Aビジネスに対するファンドの役割も増大すると考えられる。


    人材要因
    求められるポジションは、@カバレッジ・オフィサー(M&Aのソーシングと資本調達案件の獲得)とAM&A(M&Aの執行)である。いずれのポジションにおいても人材需要は強い。

    @ M&A部門では、内外いずれの金融機関でも人材需要は非常に強い。しかし人材市場は「買い手」一方であり、「売りもの」が無い。
    M&Aでの人材需要は、大手外資系投資銀行はもとより、日系の証券会社、ブティック系M&Aアドバイザリー・ファーム、戦略系及び会計系コンサルティング・ファームと多岐に亘って強い。「若手」への需要はコンスタントにあるが、外資系では特に「即戦力」が求められている。

    A 外資系投資銀行では、大型案件やクロスボーダー案件が増えているため、M&Aが採算が取れるようになった(外資では期待収益が2億円以上でなければ取り組みを許されない)。実際、外資系投資銀行のM&A部門は、グローバルでも日本でも、大型のM&Aの成約により空前の収益を上げている。従って、トップクラスの外資系投資銀行の海外本部は出遅れ感のある日本法人の陣容の強化を求めている。結果、外資同士の引き抜き合戦になっている。そのために、報酬条件が従来のスタンダードに比較して破格(バブル?)になっている。
    外資系金融機関は、通常、年央でシニアなプロを採用することは無い。外資系金融機関の決算は12月末であるため、10月−12月頃翌年度の採用計画が作られる。そのため、この頃当社のような人材紹介会社と打ち合わせる。契約を得た人材会社は求められる候補者を探すが、候補者が見つかっても、彼らは翌年初めまで転職出来ない。前年度のパフォーマンス・ボーナスが1月−3月の間に支払われるからである。即ち、外資系金融機関での転職時期は年初の一回である。しかし今年は様子が異なり、優秀なプロに対しては年央でも翌年のボーナスを保証して引き抜こうとしている。それほど人材需要が強い。また、外資系金融機関のプロは、パフォーマンス・ボーナスの一部を自社株で受け取ったり、ストックオプションを与えられる場合がある。これらは、一定の年数後に引き出しや権利行使が許される。高額のボーナスを貰うプロにはこの権利が累積している。しかし引き出しや権利行使可能日前に転職すれば、これらを放棄しなければならない。今年はこれも転職先が自社株等で補填している。この現象は、M&Aだけでなく外資系投資銀行の他の部門でも見られる。筆者はこのビジネスに17年間従事しているが、今年は異常(バブル?)である。

    B 日本の大手証券会社も組織変更や外部採用条件の改善により、積極的にM&A拡大の流れに対応しようとしている。しかし、日本の証券にとって、良質なプロの採用は容易ではない。最近の金融マンは「プロとして成長したい」とのキャリア志向が非常に強いため、「クロスボーダーのM&A」を経験出来ない日本の証券会社への転職を嫌う。このためには日本の金融機関は、(a)「投資銀行とは何か」について「国際的な経営哲学」を取得しなければならない(これが全く出来ていない!)。また、(b)大型M&AやクロスボーダーのM&Aが可能な体制を構築しなければならない(「提携」方式しかないと考えられるが、これも容易ではない!)。

    日本の証券会社とトップクラスの外資系金融機関のM&Aアドバイザリーの手法は、大きく違う。日本の証券会社のM&Aは、日々グループ内各社から流れてくる大量の顧客のニーズに対応しなければならない。外資系は、少人数であることもあり、ターゲットを絞り込む。外資系のプロは、ターゲット企業の「企業価値」を上げるために日夜戦略を練り、自社のグローバル・ネットワークにある情報を駆使してさまざまな提案を行う。日系のM&Aが提供する情報や提案とは質・量が大きく違う。そして、外資系金融機関の組織はグローバルになっているため、海外のM&Aバンカーがすぐに対応し、買収の相手先を紹介する。また、日系の役員は表敬訪問に止めるのに対し、外資系のトップは自ら具体的に提案しコミットする。結果、世界のM&Aアドバイザリーランキングでは野村証券が15位に入っているだけとなる。従って、M&Aバンカーとしてキャリアを志すものは、一流米系投資銀行への入社を切望する。

    C 日本の金融機関がクロスボーダーのM&Aの獲得体制を築きたいと切望しているが、そのためには、海外拠点で、大量の優秀な外人プロを雇用(またはM&Aブティックを買収)し、地域企業にコミットしなければならない。しかし、このアイディアには多くのプロが「日本の金融機関には不可能」とコメントする。筆者も同じ意見であるが、しかしどんなに難しくても、それが出来なければ日本の金融機関によるクロスボーダーM&Aはあり得ない。思えば20年前の日本の証券市場は、日本の四大証券が牛耳っていた。しかし外資系金融機関は長い年月と巨額のコストを掛けて、日本の金融市場で今日のプレゼンスを確保した。日系には不可能なことであろうか。

    D M&A部門の報酬の分配は定量評価より定性評価に基づく。これはM&Aが一人のスーパー・スターにより実行されるものではないことを示している。債券トレーダーの評価や報酬配分とは違う。求められる人物像は、M&Aに必要なさまざまなスキルや知識、顧客ベースを持つプロであるが、それに加え、プレッシャーに強い人、コミュニケーション能力のある人、センスの良い人。そして、顧客の企業価値のアップにはどうしたらよいかを日夜考える人と言われる。需要の対象は若いスタッフに対するものが多い。外資系の若手は24時間労働で「高給奴隷」と呼ばれる。しかし、彼らはこの厳しい経験を経て、早く一人前のプロになりたいと志している。この意志の差は外資系と日系では大きく違う。



    その他投資銀行ビジネス
    ビジネス動向
    M&Aに加え、エクイティ・ファイナンスやデット・ファイナンスも拡大している。景気の回復に伴い、設備投資やM&Aの資金需要が拡大しているからである。ここでも外資系金融機関主導である。資金調達が大型化しており、グローバルな引受け力と強いトレーディング力を持つ外資系に有利な展開になっている。05年での日本企業による内外でのエクイティ・ファイナンスや社債の発行は11.1兆円で、98年以来の高水準であった。06年度後半はデット中心になると言われる。即ち、日本の企業は、長い間過剰な債務に悩まされてきたため債務を圧縮してきた。結果、大手企業の有利子負債はピークの2割程度減った。無借金会社も多い。しかし、現在では、海外の投資家から「日本企業は債務の増加によりレバレッジを利かせて企業価値の拡大戦略を遂行すれば、企業のROEが改善する」との不満がある。また、金利上昇によるクレジット・スプレッドの開きは事業債投資利回りを上げ、機関投資家は投資意欲を増大させる。新規株式公開(IPO)も積極的に行われた。世界市場でのIPO金額は1月−8月で前年同期比40%増加しているが、同時期の日本では7400億円程度のIPOが行われ、前年比21%増であった。


    人材需要
    外資系金融機関の投資銀行部門は、M&Aやファイナンスの商機を獲得するカバレッジ・バンカーの採用を急いでいる。人材需要が一番強いのは、ジェネラル・インダストリー・グループといわれる機械、薬品、流通等さまざまな産業の営業担当である。TMT(技術、メディア、通信)やFIG(金融)にも人材需要があるが、比較的落ち着いているように思う。また、エクイティ・キャピタルマーケッツ(ECM)やデット・キャピタルマーケッツ(DCM)での人材需要も強い。特にECMでは、単なる株式発行での引受け処理に止まらず、エクイティ・ソリューションとして種類株を駆使したストラクチャリングを行い、そのポジションをとって収益機会を増やす。そのため候補者には、ECMの経験、クオンツを駆使しての仕組み力、ポジション・テーク力が求められた。また、昨年ブームであったMSCBは評判が悪く、少なくとも人材需要は拡大しなかった。外資系のMSCBグループがロスを出し解散した。IPOも活発であったが、人材需要は主として準大手やネット証券からであった。



    株式リサーチ
    大手証券各社は、株式の調査体制を強化するためリサーチのプロ(シニア)の採用を増やしている。主として外資系の大手同士が引き抜き合戦をしていた。M&Aや引受け力の支援が目的であると考えられる。しかしリサーチのプロの採用は、通常人材紹介会社には来ない。論文や分析が公開されているため、金融機関が自分でアプローチするからである。しかし、若手アナリストの採用ニーズは、引き続きセルサイドでもバイサイドでも強かった。

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    2.投資ビジネス

    このレポートで言う「投資ビジネス」とは、企業や地域の再生のための「再生ファンド」、成長企業のための「バイアウト・ファンド」、村上ファンドのような「アクティビスト・ファンド」、証券会社が行う「プリンシパル・インベストメント」及び「ベンチャー・キャピタル」である。即ち、自らの投資方針を持ち、資金を投下し、企業価値を上げ、回収するビジネスを指す。不動産ファンド(私募ファンドやREIT)は別に分析する。

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    バイアウト・ファンドとプリンシパル・インベストメント
    ビジネス動向
    @ M&Aブームの勃興で、バイアウト・ファンドやプリンシパル・インベストメント(PI)のようなファイナンシャル・バイヤーの役割が拡大している。
    国内のバイアウト・ファンドは、最大で50あると言われている。トムソンフィナンシャルによれば、今年の1月−6月でバイアウト・ファンドが実行したM&A金額は49億ドル(約6000億円)である(残高はせいぜい3兆円程度と考えられる)。これは米国の918億ドル(約10兆円)、経済規模が日本より小さい英国の244億ドル(約2.8兆円)に比べると遥かに小さく、日本でも拡大の余地がある。ファンドは、昨年から年初までのような超資金過剰の状況ではないが、現在でも資金集めに苦労することは無いと。
    既存のファンドが2号、3号のファンドを組成しているが、KKRやペルミラのような大手の海外ファンドや中規模のファンドも続々と日本に上陸している。米国、英国、香港、シンガポールからである。当社のNYオフイスの調査でも、まだ日本への投資を検討している海外ファンドが多数あると。日本経済への信任の表れであろう。しかし、日本向けのファンドの設定総額は10兆円に及ぶと思われるが、大型ファンドに対しては、「そのような大きなファンドを持ち込んで投資先があるの?」という懸念もある。

    A 投資方針はファンドにより異なる。大型企業の株式の一定比率以上を買取り、経営に介入し、ビジネスを再構築してエグジットするものから、比較的小規模の投資に限定するもの、投資先の産業を得意分野(リゾート、食品、機械等)に限定するもの、リード案件に拘らず小口投資に分散するものもある。また、PBR1以下の上場会社に狙いを付けて水面下で購入し、突然大株主として現れて増配等を要求するアクティビスト・ファンドもある。経営者が上場企業を非上場にして安定的な経営を目指すMBOもある。確かに、最近では美味しい案件も少なくなったので、目標のIRRを30%台から20%台に下げるファンドもある。大きな流れとしては、不振企業の「再生」型から、成長を通じた「企業価値向上」型へ移っている。そして、「アセットへの投資」型から「事業への投資型」にシフトしている。また、病院・介護専門ファンド、ゴルフ場専門ファンド、物流施設、開発型、IT企業等、「特化」型も増えている。

    B 日本には「ファンド悪玉論」があった。外資系ファンドには「ハゲタカ」との冠が付けられていた。確かに、日本の伝統的な商慣行に照らせば「そのような側面」が無いとは言えないが、低レベルのマスコミの造語であり、大方は、競争を忌避したいサラリーマン経営者の悪口であった。当初、外資系ファンドはこのイメージに悩まされ、人材採用にも障害になっていた。その後、ファンドの役割を認める風潮も出てきたが、今年になって堀江氏や村上氏の逮捕があり、再びファンドのイメージに悪影響を与えている。アクティビスト・ファンドに関しての議論があったが、投資銀行家によれば、現在でも企業価値の拡大の努力を怠り、保身と安寧を貪る企業経営者がたくさんいるとのこと。この点で言えば、アクティビストが発した警告(もの言う株主)は評価されるであろう。実際、03年の初頭には、PBRが1を割り込む上場銘柄が全体の6割にあたる924銘柄あったが、06年6月には350銘柄程度に急減している。しかし、だからと言って従業員等さまざまなステーク・ホルダーへの配慮を欠き、「会社は株主だけのものだ」と主張して資産を売却させ、配当として社外流出させることは「企業価値の増大」にはならない。それでは総会屋やグリーンメーラーと同じである。ここで、「中期的に企業価値の増大を目指す『もの言う株主』」としてのファンドを作ろうとしている人々がいる。彼らによれば、日本企業の株主は、株の持ち合い(傷の舐めあい)、デイ・トレーダーとしての個人投資家、短期的な株価の値上がりを期待している外人投資家、リスクを分散(保有率はせいぜい数%である)して投資する生損保・年金等の機関投資家で、「中・長期の企業価値の増大」を迫る株主がいない。即ち、従来の株主は、株主総会で「注文を付ける」ことはあっても、大きな不祥事や買収合戦でもなければ、議決権を行使し経営方針に反対することは無い。これではいつまで経っても企業価値は上がらない。そこで「村上流のアクティビストではなく、大口株主として経営者にものを言いながら、中期的な企業価値の増大を図る」ファンドの組成が目指されている。
    しかし、その長期投資哲学を世界の投資家が模範とするウオーレン・バフェット氏は「投資判断では事業の将来性だけでなく経営者の資質を見る」、「株主としてものを言わなければならない企業には投資しない」と教えている。

    C 最近は、日本の金融機関や年金基金などの機関投資家もバイアウト・ファンドへの投資を増やしている。直近の大手機関投資家の投資額は1.5兆円程度であり、増加中である。また、ファンドのエグジットも出来つつある。レコフによれば、05年のファンドの持分の売却数は67件と過去最高となり、金額も4430億円に上った。従って、バイアウト・ファンド投資への魅力も認識されつつある。

    D 従来、米系投資銀行は「エージェンシー業務」を本業とし、バイサイドとしての投資ファンドとのコンフリクトを避けるため、PIに積極的ではなかった。しかし最近、ゴールドマン・サックスの大成功に刺激された各大手米系投資銀行は、グロバーバルな戦略として、一斉にPIを強化し始めた。従って、今後は、投資銀行業務(M&A)とこれまで顧客であった投資ファンドとの、新しい関係が構築されなければならない。日本の大手証券会社もPIを強化し収益の一つの柱にしようとしている。


    人材需要
    @ プライベート・エクイティ(PE)で、マネジング・パートナーやパートナーと呼ばれるシニアな投資担当者には、投資先を発掘する(ソーシング)力が求められる。投資後は、自ら投資先の経営に関与してエグジットまで持ち込む能力が求められる。PEが日本に上陸した2000年頃は経験者がおらず、且つ、投資先を発見することが最も重要な職責であったため、多くの場合M&Aのプロが採用された。しかし現在では、一般的にM&Aのプロは適格でないと言われる。即ち、M&Aバンカーは売買の媒介者(アレンジャー)であり、特に投資後の対応には向かないとされている。また、日本でもPEが導入されてから数年経過しており、実績のあるPEバンカーの採用も不可能ではない。
    また、最近の買収ファンドは企業「再生」ではなく、事業の「成長」や「企業価値の増大」を目指すため、求める人材の対象は、1−3年前までのように財務リストラ(債権放棄やデット・エクイティ・スワップ)の経験者ではなく、事業リスクの分析や成長戦略の実行で実績のあるプロである。ターンアラウンド・マネジャーへの注目度は薄れている。また、アクティビスト・ファンドのような、短期にゲインを得ようとする投資家ではなく、「投資先の企業価値をどのように増やすか」を追求するタイプが好まれる。

    A 米系投資銀行が、自己資金によるPIの組織作りや人材を採用急いでいる。組織は各社により違うが、投資銀行部門、債券部門、株式部門のJVになっていることが多い。戦略も各社により異なる。動きは「正統」PEファンドとは違い「トレーディング」感覚である。従って、求められる人材の質も違う。日本の証券会社も国内外で強化している(メザニン・ファンドの項をご参照頂きたい)。このように、PIでの人材需要が急拡大中である。

    B 若手の採用ではM&Aからの転入も受け入れられる。即ち、若手の主な職責は、投資判断のためのデューディリジェンス、キャッシュフローの分析、バリュエーションであり、M&Aでの作業と同じだからである。最近は、一般的には、証券系より銀行マンが好まれることが多い。即ち、最近のファンド投資では、銀行借り入れに併せ劣後ローンをアレンジすることが多く、銀行での融資経験のある若手が優先されるからである。若手に求められる資質として、よく「クリティカル・インテリジェンス」が上げられる。ファンドはバイサイドであるからさまざまな売り込み攻勢を受けるが、売り手の誇大宣伝に惑わされず、且つ、対応は営業センスを持って行えという意味である。
    また、村上ファンドが注目されていた頃は、若手の間では「アクティビスト・ファンド」への人気が高かった。即ち、「正統」PEでは投資からエグジットまで5年−7年掛かる。この年月は、最近の若手のキャリア・プランには長過ぎると。従って、勝負の早いアクティビスト・ファンドでプレーしたいとの希望が多かった。しかし村上氏逮捕後はその傾向は消えた。

    C 投資を決定し、投資先の企業価値の増大を行う場合、経営者を送り込むことが多い。PEの投資担当者の多くは金融出身であるから、産業に土地勘がない。従って、インダストリアル・パートナーと呼ばれる投資先の産業で経営力を持つ人が求められる。このサーチは、当社のような金融専門のサーチ・ファームには、正直難しい。また、大手の日本企業は長らく年功序列の人事政策を採っており、ファンドが求めるような「日本企業で40歳代の経営力を持つ人」は極めて少ない。各ファンドはこの人材集めに四苦八苦しているようだ。



    報酬体系について
    @ 投資ファンドでの報酬条件は外資系投資銀行のそれとは異なる。また同じ投資会社でも、外資系の専業PE、大手外資系投資銀行の別働隊としての投資ファンド、日本の独立系PE、日本の金融機関の別働隊としての投資ファンド、外資系投資銀行のPI、日本の証券会社のPIで、報酬体系が違う。報酬額は、一般的には、外資系のPEやPIで高く、日系は低い。収益力が違い、報酬ポリシーが違うからである。勿論、エグジットの実績により大きく違う。

    A PEの報酬体系は、各社の方針と投資家との合意に従い多岐に亘っている。一般的に説明すると、ファンドの運営会社(ジェネラル・パートナー)は、集めたファンドからマネジメント・フィー(ファンド額の1−2%程度)を取るが、そこからスタッフのベース・サラリーと毎年のボーナスを支払う。エグジットしてキャピタル・ゲインが発生した場合、そのゲインからマネジメント・フィー等のコストを差し引いたネットの運用益を、ファンドの運営会社や一般投資家(リミティッド・パートナー)に分配する。ファンドの運用会社は運営の報酬として、ネット運用益の20%を得る。その20%をどのように配分するかは各ファンドの方針による。基本的に全てを分配する。例えば、同運営会社にスポンサー(大手の機関投資家等)がある場合は50%をスポンサーに配当し、残り50%を運営会社のスタッフで分ける。これをキャリード・インタレストと言うが、スタッフの上位者ほど大きな配分を受ける。即ち、マネジング・パートナーと呼ばれる投資の責任者は、同部分の30%を取ると言われる。即ち、ファンド運用でのマネジング・パートナーの責任は甚大であるからである。マネジング・パートナーは、ファンドの組成(資金集め)、投資案件の発掘、企業価値の増大(財務再構築、成長戦略の策定と執行等)、エグジット(再上場等)によるキャピタル・ゲインの実現等、一連の責任を負っている。PEを志す者にとって、このポストがキャリア・ゴールである。マネジング・パートナーより下位のスタッフに対しては、案件への貢献度とそのポストの高さに応じて配分される。若手では、アソシエートと呼ばれるレベルまでが対象になる(アナリストと呼ばれる最下層は対象にならない)。PEの報酬額は、キャリーが無ければ外資系投資銀行のレベルより低い。また、外資系ファンドほどスタッフ間での差が大きい。従って、外資系ファンドの若手は一日も早くマネジング・パートナーに昇格しようと、24時間労働を厭わない。



    ベンチャー・キャピタル
    ITバブルの崩壊後長らく苦戦していたベンチャー・キャピタルが業績を回復している。大型ファンドの設定もある。また、ベンチャー・キャピタル宛て投資に慎重であった年金や事業会社が、最近、資金を拠出するようになった。従ってベンチャー・キャピタルの活動は活発になったが、当社にはまだ人材紹介の依頼は無い。

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    3.ファイナンスとクレジット

    ここでの「ファイナンスとクレジット」とは、@クレジット・リスクの高いLBOファイナンスや劣後ローン(メザニン)、シンジケート・ローン、Aクレジット・デフォルト・スワップのようなクレジット・デリバティブ、ローン・トレーディング、クレジット・リサーチ、B不動産投資とその証券化(住宅ローンの証券化とREITを含む)、Cストラクチャード・ファイナンスを言う。

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    LBOファイナンスとメザニン
    ビジネス動向
    @ M&Aやファンド投資の際、エクイティ投資の効率を上げるためLBOファイナンスが用いられる。このファイナンスは、被買収会社の資産が生み出すキャッシュフローを裏付けとする。直近での世界のLBOファイナンスは1690億ドル(約20兆円)で、前年比20%増えている。内、74%を欧州が占めており、欧州が主戦場である。欧州でのLBO・MBOファイナンスは2−3年前から急増しており、米国を抜いているとのこと。その中で、みずほコーポレート銀行がジェレミー・ゴーシュ氏を執行役員に昇格させ、ロンドンでLBOファイナンス推進している。同氏が率いるLBO部門は欧州でもトップクラスにあると。
    国内でも邦銀がLBOファイナンスを拡大している。後に報告するシンジケート・ローンに混入されているが、データによれば、メガバンク三行が実行したLBO・MBOファイナンスは05年には合計1.4兆円実行され、前年比2000億円増加している。メガバンクに加え、日本の大手証券会社や欧米系投資銀行が積極的に推進している。外銀はこの種の融資を増やしている。日本での最近の例では、ドイツ銀行を中心に組成されたソフトバンクによるボーダフォン日本法人のLBOファイナンスがある。拡大傾向は06年も続いている。

    A 通常の銀行借り入れであるシニア・デットより返済順位が劣後するファイナンスに、メザニン(中二階)がある。拡大中のLBOファイナンス、MBOファイナンスや不動産の証券化等に使用されている。メザニンの種類には、ハイイールド債(社債)、劣後ローン、PIK(最終償還時での元本の割り増し償還)、普通株への転換権の付いた債券や優先出資証券がある。債券の格付けとしては一般にBBプラス以下である。日本の場合は社債より融資(劣後ローン)の形態をとることが多い。05年のメザニンの世界での市場規模は、欧州および米国でそれぞれ1.5兆円程度であり、バイアウトの資金調達全体の1−2割程度を占めている。日本でも企業買収、ファンド投資や不動産ファイナンスで使われるようになっている。また、劣後ローンを束ねたメザニン・ファンドも増えている。欧州で行われる典型的な取引の流れは、当初は銀行がリスクの高いファイナンス(例えばLBOファイナンス、メザニン・ファイナンス、各種の不動産ローン、消費者金融等)を許容し、それらを証券化(CLO、CMBS、RMBS等)して、最後にファンド化(メザニン・ファンドやハイマージン・ファンド等)する。このファンドを利回りの高い投資商品(L+250bpsレベルと)として投資家に提供する。メザニン・ファンドは、欧州ではみずほコーポレート銀行や野村證券がメザニン・ファンドを立ち上げているが、日本でも邦銀や証券会社に加え、生命保険、ノンバンク、政府系金融機関、独立系M&Aファーム等が立ち上げつつある。海外の年金等も日本向けのメザニン・ファンドに投資している。また、一部の外資系投資銀行がメザニンのセカンダリー・ビジネス(メガバンクからの購入、運用、転売)を始めようとしている。

    B 外資系の投資銀行やファンドが、日本でメザニン・ファイナンスへの参入を図っているが、邦銀の安易なリスク許容や金利ダンピングに阻まれて苦戦している。外資の外人プロは「邦銀は、本来メザニン(中二階)としてファイナンスすべき高いリスクに対して、銀行ローン(シニア)を許容し、しかも、考えられないような低い金利でオッファーする」と憤慨している。メザニンは、複雑な将来キャッフローの予測分析に加え、多岐に亘るコベナンツ条項(債務者の期限の利益の喪失条件)を組み入れたり、株式への転換権を付与したりするので、企業金融と不動産担保融資しか経験が無い邦銀には簡単ではないはずである。特に、メガバンクは海外でのメザニン・ファイナンスやLBOファイナンスの拡大を企図しているが、危うさを感じる。


    人材需要
    @ LBO・MBOファイナンスやメザニンに対する人材需要は、上記のブームを反映して極めて強い。メガバンクは、「このファイナンスは、所詮、伝統的な銀行業務の延長に過ぎない」と考えて社内で人材を調達している。実際、何故か邦銀には「メザニンは出来る」と言い張る役・職員が沢山いる。外資系投資銀行は、このリスクの高いファイナンスを取り上げた経験やプライシング能力(最後は市場化するため)のある人を求めているが、マーケットには少ないため苦戦している。従って、未経験者であっても海外での融資実績を持つ若手銀行員を採用して、辻褄を合わせている。しかし本格的に日本のメザニン・ファイナンスに参入する外資は、与信スキームの作成や審査の担当を海外から連れて来る。その場合、日本人への期待はマーケティング力である。また、外資系の投資銀行は、LBOファイナンスやメザニンの機会を拡大するため、バイアウト・ファンドとの人脈を持つ人や、メガバンクから仕入れる(シンジケーションに参加する)ため、メガバンクのLBO・MBOファイナンス部やシンジケーション部との人脈を持つ人材を求めている。また、外資系では、購入したファイナンスを証券化したり、トレーディングしたり、また、ポートフォリオとして運用している。これらの人材需要もある。

    A 外資系ファンドの中には、日本にはメザニン・ファイナンスの経験者が少ないので、未経験の若手を育てようとしている。候補者は銀行員か証券マンであるが、銀行員の場合、高いクレジット・リスクにチャレンジし、クレジット・リスクとは何かを極めようとする真摯な若者かであり、証券マンであれば、エクイティ・ファイナンスは経験したので、次はデット・ファイナンスにチャレンジしたいと志す若者である。



    シンジケート・ローン
    世界のシンジケート・ローンでは大手米銀や欧州のユニバーサル・バンクが残高を伸ばしているが、これは世界的なM&Aの急増を反映している。国内のシンジケート・ローンはメガバンクの独壇場である。邦銀の残高は、前年比20%増の30兆円に及ぶ。メガバンクのスタッフは多忙で人材需要もあるが、実際には内部採用している。新聞が連日のように「メガバンクがシンジケート・ローンを増やしている。特に海外のプロジェクト・ファイナンスやトレード・ファイナンスも拡大し、世界のトップクラスの銀行と比肩するまでになった」と報じている。しかしこれは、邦銀が金利ダンピングで残高を増やしているだけである。少し前まで不良債権問題で身動きが取れなかったメガバンクに、海外の良質な案件を取得出来るはずはない。良質な海外案件は「クラブ」に入らなければ獲得できない。そのためにはレシプロとして、邦銀側も美味しい案件を提供しなければならない。従って、海外でこれらのファイナンスを行うには外人プロを雇う必要があるが、高給の条件を準備しなければならないので、躊躇する邦銀にはムリである。メガバンクは、結局昔のように、したたかな外資系金融機関にババ=不良債権をつかまされることになる。
    最近のコモディティ価格の上昇を受けて、商社や電力会社が海外でのエネルギーのインフラ・プロジェクトを進めており、それに伴うファイナンスが増えている。これは、通常のプロジェクト・ファイナンスとは異なりノウハウやインフラを要する。一部の欧州系銀行が経験者を求めている。



    クレジット・デリバティブ及び事業債
    ビジネス動向
    @ クレジット・デリバティブの主要商品であるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の、05年末での世界の想定元本ベースの残高は17.3兆ドルで、これは01年の19倍に拡大している。海外市場では、債券トレーダー、CDSトレーダー、株式トレーダーが他の商品の動きを見ながらトレーディングしている。日本での05末現在のCDSの残高は11兆円(前年比2.2倍)であるが、世界合計の1%にも満たない。しかし最近、不良債権問題の収束や日銀による金融の量的緩和政策解除の影響で、日本の事業債の流通市場で国債やスワップ金利に対するスプレッドが拡大している。同じ銘柄での社債とCDSのアービトラージも機能し始めている。年金や地銀等の機関投資家もクレジットものに対する選好を強めており、キャッシュ及びシンセティックCDOやCLOへの投資も増えている。ローン・トレーディングも拡大中で、05年度には3.5兆円であった。ボリュームの増加はM&Aのためのファイナンスの拡大に因るが、シンジケート・ローンとすれば、契約が定型化しているのでトレード(転売)し易くなっている。また、ローン・トレーディングの対象は不良債権から正常債権に移っている。

    A 新BIS規制では貸出先の集中リスクも問われるため、ポートフォリオ管理を機動的に行う必要がある。このように、金融インフラの正常化を進めるため、日本のクレジット・ビジネスも拡大すると考えられる。


    人材需要
    @ 上記の状況下で人材需要が拡大している。ここでも、主として外資系金融機関からの需要である。このビジネスでも外資系投資銀行と日系金融機関との力の差は歴然である。外資系は海外でのクレジットものの組成力、トレーディング力、仕組み力を駆使して日本の機関投資家に魅力的なクレジットもの(CDO、CLO等)を提供している。従って外資系では、日本の機関投資家へのマーケティング担当者、CDSのトレーダー、CDO、CLOの組成担当(日本もの及び海外ものを扱い、クオンツ力も要する)、社債のトレーダー、ローン・トレーダーへの需要がある。また、外資系はオリジネーションが難しいため、メガバンク等からの仕入れ担当者への需要もある。CDSのトレーディングでは日本ものに加え外ものもトレードするので、求められる候補者は、現時点ではほとんど外人である。

    A 日本勢としては、ノウハウの蓄積を急いでいる生損保、信託銀行やメガバンクでクレジットものの運用者への人材需要がある。大手の証券会社がクレジットものの営業態勢の整備を急いでいる(高度な商品は外資から買ってくる)。また、邦銀ではクレジット・リスクのポートフォリオ・マネジメントのスキルを持つ人材への需要がある。このように、日本の金融機関からのクレジットもの関連の人材需要はあるが、日本の金融機関には商品を作る力も無く、リスク管理等のインフラ整備も遅れているので、一流の外資系のプロは応募しない。しかし、本格的なクレジット・トレーディング/仕組み/リスク管理の態勢を作りたいと、一部の邦銀や証券会社がチャレンジしている。採用対象は高給な外人トレーダー(チーム採用)である。

    B クレジット・ビジネスの拡大を受けて、外資系投資銀行でクレジット・アナリストに対する需要がある。また、格付け機関では格付けアナリストへの需要があった。数年前には経験者が少なく探すのは難しかったが、現在では人材も育ってきた。ここでも外資系同士が引き抜き合戦している。クレジット・クオンツアナリストへの需要もある。バーゼルUの規制への対応のための人材需要は一巡したようだ。



    不動産投資とその証券化
    ビジネス動向
    @ 確かにマネー主導の面はあるが、不動産投資は依然増加している。不動産のファンド運営会社は引き続き増収増益で、REIT、CMBS、RMBSも依然拡大中である。日本の不動産関連投資は、私募ファンドで6−7兆円、REITの時価総額で4兆円あり、合計10兆円程度である。CMBSは不動産証券化の拡大で発行が増えており、05年度の総発行額は1.5兆円程度(前年比2倍増)であった。しかし、この程度の規模では、日本の不動産時価総額が1400兆円あるとすればまだ小さい。また欧米と比較しても、日本の機関投資家の投資資産に占める不動産の割合は小さい。従って、一部地域で「不動産バブル」現象がみられ、一部不動産信託銀行やノンバンクの不適正な業務はあったものの、不動産投資は今後も拡大していかなければならない。また、日本の不動産投資に関わる情報の透明性が徐々に改善しつつあり、CMBSやREITの流動性も増えつつある。

    A しかし、金利は上昇傾向にあり、14年振りに一部の路線価格が上昇するなど不動産投資の環境に変化が起きている。特にREITは選別の時期に入ったと言われる。一方、大手の外資系投資銀行や大手私募ファンドは依然強気である。地価上昇は逆に商機(景気上昇)と見てファンドを拡大し、低いキャップレート(3%台)でも物件を購入している。彼らは優秀なプロパティ・マネジャーやアセット・マネジャーを使い、物件価値を上げている。また、日本の不動産投資業界の再編を好機として、この時期になっても日本に上陸する巨大な外資系金融機関の不動産投資部門もある。不動産投資は、これまでの「不動産価値」に依存するものから、ショッピング・モール等大型商業施設の開発、倉庫等物流施設、病院建設等、不動産を活用した「事業ファイナンス」へ軸足を移している。このように、不動産投資ビジネスは一つの踊り場に来ているのかもしれない。


    人材需要
    人材需要は、昨年までのように「あらゆる不動産関連業態が人材を求めている」という爆発的なものではないが、不動産ファイナンスに強い大手外資系投資銀行、新規参入の外資、商社、一部の私募ファンド等から引き続き人材需要があった。しかし、優良物件の発掘する優秀なプロを探すのはさすがに難しく、実際には、若手のデューディリジェンス担当者、プロパティ・マネジャー、アセット・マネジャー、CMBS組成担当等の実務者に対する需要である。


    住宅ローンの証券化
    景気の回復、金利の先高感、邦銀の体力回復等により住宅ローンが増えている。銀行だけでなくノンバンクも参入している。その証券化であるRMBSも拡大している。RMBSの05年度の発行額は5兆円で前年度比倍増している。この傾向は06年度も続いている。牽引役は住宅金融公庫の「フラット35」である。また、個人の住宅に加えアパートローンの証券化も拡大している。この証券化にはノウハウを要し、一部の米系投資銀行が米国のノウハウを持ち込んで拡大している。また、外資系では証券化の劣後部分も流動化しているところもある。RMBSを束ねたMBOも増えている。2年−3年前にはRMBSのアナリストの人材需要があったが、現在では、ほとんどの外資系証券及び日本の大手証券会社は採用を終了している。


    REIT
    REITは引き続き拡大中である。新たな上場もある。現在36銘柄で、時価総額4兆円程度である。一年前から倍増している。しかし、優良物件の品薄、金利上昇等REITを取り巻く環境は厳しくなっている。時価が上場時の公募価格を割り込むREITが半分近くある。従ってREIT各社は、投資法人債を発行しレバレッジを利かせたり、ホテルや商業施設に特化したりして生き残りのため苦闘している。まだ新しいREITの上場は続くであろうが、REIT間で二極化の動きも見られ再編は避けられないであろう。人材需要は、既存先からではなく新設のREITからがほとんどである。



    ストラクチャード・ファイナンス
    「アセット・ファイナンス」から「事業ファイナンス」へ移行している。例えば、パチンコホールを経営するガイヤは、31店舗の運営から上がるキャッシュフローをベースに700億円のファイナンスを実行した。難解なキャッシュフローを予測し、種々のコベナンツを設定して債権保全を図る。これは画期的なファイナンスである。邦銀には難しい。一部の外資系金融機関が拡大を計画しているが、人材が確保出来ない。また、ソフト、映画やアニメ等のコンテンツに対するファイナンス需要もある。受け皿としての信託業法が改正され、出資者への傾斜配当が可能なLLPが導入される等インフラの整備も進んでいる。しかし人材が足らない。現時点では大きな金額のファイナンスではないので、注目はこれからであろう。

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    4.資産運用ビジネス

    ここで言う「資産運用ビジネス」には、投資顧問及び投資信託という伝統的な資産運用ビジネスとヘッジファンドを含む。

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    伝統的な資産運用
    @ 資産運用ビジネスの業績は全般的に好調であった。即ち、06年3月期での主要資産運用会社10社の純利益の合計は532億円で、前期の2.1倍であった。4月以降の株安でも業績は好調である。これは、主として投信等リスクマネーへ資金の流れが加速していること。中高年の投資意欲が増大していること。毎月分配型、変額年金保険の販売好調等がこの背景にある。人材需要では、投信系では需給が逼迫し、投資顧問系では引き続き低調であった。

    A 投資顧問では、06年3月末での投資顧問契約資産残高は145.2兆円で過去最高になり、前年同期比37.3兆円の増加(34.6%の増加)であった。内、投資一任勘定は30.6兆円の増加であったが、その内、価格の上昇分は17.8兆円(22.4%の増加)、資金流入による増加分は12.8兆円(16.1%の増加)であった。また、特に海外顧客の一任勘定が74.4%増大した。好調な日本株相場の結果、05年度の企業年金の運用利回りは19.2%と過去最高を記録した。
    しかしながら、投資顧問業では、特定の運用会社や若手のアナリストを除いて、人材需要は低迷していた。これは、基本的には、運用の代行返上やパッシブ運用系への契約のシフトによりコスト削減圧力が続いていたことに因る。また、グローバルに資産運用会社の再編が行われており、日本拠点も影響を受けた。このビジネスでの人材採用は、主として年金宛てのコンサルタントが対象であった。

    B 一方、投資信託は好調であった。06年6月末の公募・私募合わせた投資信託(株式・債券とも)の残高は85.8兆円で過去最高となり、残高は前年比44%伸びた。内、公募株式投資信託の純資産残高は46.1兆円で、16年半ぶりに記録を塗り替えた。これは「貯蓄から投資」への流れが進展している中で、特に、銀行の窓版の貢献が大きい。昨年まで人気の高かったグローバル・ソブリン・オープン等の外債投信に代わり、不動産・債券・株式に分散し、且つ毎月分配するタイプの投信が注目されているようだ。脱デフレ用の投信とのこと。
    投信ビジネスには強い人材需要がある。実際、3月末で公募投信残高が1兆円を超える主要11社の役職員数は3200人で、前年比8%増えている。これは投信部門での増加である。外資系投信会社での人材需要の対象は、自社が運用する投信の販売会社へのマーケターであった。投信マーケターは、銀行や証券会社等の販売会社の支店営業マンに自社運用商品を説明したり、売り方をトレーニングする。また、現在無数の投信があり、販売会社は商品戦略の策定に苦慮しているが、一部の証券会社に投信戦略の策定・推進を担当するシニア・マネジャーの採用ニーズがあった。



    ヘッジファンド
    ビジネス動向
    @ 昨年から今年の初めまでヘッジファンドによる対日投資が続いていた。05年末の外資系ヘッジファンドの対日投資は、406本(前年比20%増)で、金額は548億ドル(前年比38%増)、資金流入ベースで168億ドル(前年比35%増)であった。また、日本の機関投資家によるヘッジファンドへの投資も増大した。05年末では、邦銀、信用金庫、証券会社、保険会社等1200社の内1/4がヘッジファンド投資をしており、保有総額は5兆円に上った。これに個人を含めると6兆円で、ヘッジファンド宛て投資は急速に増大していた。
    また、金余りの恩恵を受けて日本人自身によるヘッジファンドの設立も続いた(最大100社であろう)。数年前には資金集めに苦労していた新規参入者も、何らかの実績があればシードマネーを集められた。また、プライム・ブローカー、アドミニストレーション・サービス、ファンド集め等、ヘッジファンド周辺のビジネスが勃興し、拡大した。

    A しかし今年度に入って、ヘッジファンドは世界市場で苦戦している。世界的な金利上昇懸念からリスクマネーが収縮していることに起因する。ヘッジファンドの代表的な指数であるクレディスイス・トレモント指数によると、05年の指数全体の総収益率は7.61%で、04年の9.64%、03年の15.44%から低下した。かつて投資家はヘッジファンドには二桁の収益率を要求していたが、現在では7−10%でも満足している。中でもロング・ショート戦略が不振である。また、世界経済の先行き不透明感からクレジット・スプレッドが開いており、破綻証券戦略も成績が悪化している。昨年まで日本の機関投資家が選好していたファンド・オブ・ファンズの人材需要がほとんど聞かれなくなった。ファンド・オブ・ファンズは、機関投資家にとってパフォーマンスの管理に手間が掛かり、且つ、投資戦略が分かりにくいとのこと。しかし根本的な原因はヘッジファンドの数が多過ぎることであろう。即ち、現在ヘッジファンドは世界で8500もあるが、内、3500程度は最近設立されたという。市場で誰も気付かない歪みを見つけてベットする戦略がヘッジファンドの原点であるとすれば、同じポジションを取るファンド・マネジャーが多すぎて裁定の機会が無くなったと言える。即ち、「イージーマネー」を前提にしたヘッジファンド・バブルが終焉したのだ。


    人材需要
    @ しかし、ヘッジファンドのファンド・マネジャーに対する人材需要が全く無くなったわけではない。依然として外資系ヘッジファンドによる国内外での人材ニーズはある。日本株のロング・ショートや円金利を対象とするグローバル・マクロのファンド・マネジャーに対する需要である。但し最近は、全てはトラックレコード次第である。日本人ファンド・マネジャーは個人ベースのトラックレコードを持たないので、一流の外資系ヘッジファンドでよいポストを得るのは難しい。

    A 外資系金融機関の日本法人においては、引き続き、海外のヘッジファンドを日本の証券会社等のディストリビューターや、日本の機関投資家に売るマーケターへの人材需要があった(個人向けファンド・デリバティブは別に報告した)。また、日系の大手証券各社のロンドン支店や東京本社が、ヘッジファンド宛てセールスの採用を急いでいる。ヘッジファンド宛てセールスではヘッジファンドとの個人的な関係やネイティブな英語力を要するので、候補者は外人に限られる。かつて、日本の証券会社はヘッジファンドと取引をすることで彼らのポジションを知り、類似のポジションを張って儲けようとしたが、現在では、日本国債やその他円金利ものをヘッジファンドに売ろうとしている。各社とも採用に苦戦している。

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    5.債券・デリバティブ・コモディティ・為替

    @ 昨年の当レポートは「高度の金融技術を要するデリバティブ商品等において、外資系金融機関と日系金融機関との格差は縮小した」と、外資系金融機関の悲観論を報告した。しかし、今年確認されたことはその「差」はまだ大きいということだ。不良債権問題を克服した日本の金融機関に対する個人富裕層の信頼は厚く、大量の取引がメガバンクの窓口に持ち込まれている。日銀統計によれば、個人金融資産に占める株式、外貨預金、外債、投信といったリスクマネーの比率は04年度の9.5%から、05年度の12.5%に増大している。即ち、単純に言えば、45兆円以上が預貯金からリスクマネーにシフトしたり、新規に投資されたりしている。しかし、日本の金融機関はこのニーズに応えられない。即ち、商品開発力やそれを支える強いトレーディング力が無いからである。昨年当社は、日本の金融機関に対して「リスクマネーに対する力を付けるためのプロの採用」を提言した。しかし受け入れられなかった。結果、日本の銀行・証券会社はリスク商品を外資系金融機関から仕入れている。そこで外資系金融機関は大きなスプレッドを抜いている。これが、今年外資系金融機関の収益が拡大し、大量の人材需要を抱える一つの理由である。従って、日本の金融機関は今更ながら、金利もののトレーディング力を強化すべく、国内・海外で外人プロを採用しようとしている。しかし、彼らを満足させる報酬条件を提示出来るのか、彼らに大きな権限(リスク・ポジションの大きさだけでなく組織上の権限)を与えられるのか疑問である。ムリだと思う。

    A 日銀によるゼロ金利政策解除を先取りして、昨年末から大手外資系投資銀行に円債(短期ものも含む)トレーダーへの人材需要があった。円債トレーディングでは、ひとつの外資系金融機関でポストが空くと他の外資系からプロが引き抜かれる。従って相乗効果が出る(席替えのようなもの)。現在では日系・外資系の大手証券会社で円債のマーケター(円債投資への助言)に対する人材需要がある。外資系銀行の国内外で、金利や為替のプロップ・トレーダーの需要もある。候補者は実績のあるプロで、国籍を問われない。
    また、日系の大手証券は、ヘッジファンド向け円債セールスを強化したいと計画している。採用対象は高給の外人プロである。反対に、海外の大手ヘッジファンドが円債運用のプロを求めている。

    B ファンドへの投資において、リスクを回避したい個人投資家とバーゼルUの規制を回避したい地銀のニーズに対応して、ファンド・デリバティブ(元本保証の債券等に仕組む)が注目されている。ファンド・デリバティブは、従来、フランス系金融機関の独占商品であったが、最近では、彼らを米系投資銀行が破格の報酬条件で引き抜いている。米系は従来「優良なファンドには元本保証は不要」とファンド・デリバティブを無視していたが、最近方針を変えている。それほど個人や機関投資家の購買意欲が強くなったということか。しかしこの商品の経験者は極めて少ないので、彼らをめぐって争奪戦が繰り広げられている。日本の金融機関は外資系から仕入れるしかない。

    C 原油価格の上昇につられて、その他のコモディティ価格も上昇している。海外市場ではコモディティ関連の人材需要がヒートアップしている。大手の外資系投資銀行同士が超破格の条件で引き抜き合戦をしている。これにメガバンクのロンドン拠点も参戦しているようだが、巨大なリスクテーク力やリスクマネジメント・システムを要するため、採用は難しい。

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    6.個人富裕層ビジネス

    @ 日銀のデータによると、05年末に個人金融資産が初めて1500兆円を超えた。個人は、マス層、アッパーマス層(3千万円以上5千万円未満)、準富裕層(5千万円以上1億円未満)、富裕層(1億円以上5億円未満)、超富裕層(5億円以上)に分かれるが、どの層をターゲットにするかは各社の戦略に拠る。部門の名称も「個人富裕層」「ウエルス・マネジメント」「プライベート・バンク」と各々違う。
    また、上記の通りリスクマネーへのシフトが加速している。野村総研の調査では、金融資産1億円以上5億円未満の「富裕層」の資産構成は、預貯金を除くリスク性資産が全体の67%を占めていると。ITバブル時期以上の勢いである。個人富裕層に対して、邦銀は投信の販売を拡大しており、証券会社はラップ口座を売り込もうとしている。このため日本の金融機関は陣容を急拡大しているが、ファイナンシャル・プランナーのような営業職が中心であった。

    A 外資系金融機関は、これまで、本国のウエルス・マネジメント手法をそのままこの市場に持ち込もうとして、失敗してきた。いまだに同じ過ちを繰り返す外資系もある。また、自力での展開を諦め、大量の個人顧客を持つ日本の金融機関と提携してお茶を濁す外資もある。確かに、今でも日本のマーケットへの参入を検討する外資系金融機関もあり、また、既存の組織を拡大するところはあるが、外資系のウエルス・マネジメントは全体としては限定されている(主として欧州系が活発である)。人材需要も大きくない。やはり日本の個人投資家は外資系を信用しないし、日本の法・税務制度は資産の国際的な運用を許さない。従って、外資系は商品を日本の金融機関に卸して稼いでいる。

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    第二章 日本の金融機関と外資系金融機関

    第一章では、プロダクト別に、外資系金融機関と日本での金融機関の人材需要の違いを指摘した。ここでは日本の金融機関、特にメガバンク経営の問題点を人事政策面から指摘したい。しかし当社は、外資系金融機関日本法人の戦略や人事政策が「全て正しい」と主張しているのではない。その問題点も指摘する。

    1.日本の金融機関

    (1)「改革」への熱意を失ったメガバンク
    @ 昨年の当レポートでは「不良債権問題を克服したメガバンクが、いよいよ改革に向けて動き出した。一方、外資系金融機関にはもう売るものが無い。これからはメガバンクの時代だ」と報告した。実際、メガバンク各社(グループ内証券会社を含む)は大量の外部採用を進めていた。その手法はマーケット対応ではなかったが、「改革」を始めたことは十分評価された。しかし06年に入りその動きが一気に冷えた。組織改革や外部採用の熱意が急激に低下している。それでは、昨年「改革へ向けて動き出した」と期待されたメガバンクが、何故06年に入って動きを止めたのか。主因は、邦銀大手6行が06年3月期の決算で合計3.3兆円の最終益を上げたことにあると思う。ある邦銀役員はその好決算に胸を張っていた(中身を見れば、誇れるものでないことは明白であるが)。株式時価総額も世界の金融機関のトップクラスである。従って「高額の報酬を払ってまで外部のプロを採用する必要は無い」とのこと。数年前には「倒産」の危機にあったメガバンクは「のど元過ぎれば熱さ忘れる」の喩え宜しく、傲慢さを復活させている。

    A 元々、メガバンクの経営者は「失われた15年」を引き起こした主犯であり、厳しく責任を追求されるべきにも拘らず居座り、今日、昔の経営を復活させようとしている。思えば、竹中三原則の内「銀行のガバナンスの改革」が不発に終わったのが分かれ目であった。言うまでも無く、メガバンクの回復は、膨大な税金の投与(銀行全体で37兆円の公的資金の注入)や預金者の犠牲(低い預金金利による280兆円の所得移転)によって実現された。今日の巨大な資産規模や株価総額は金融当局による指導の結果(メガバンクへの収斂)であり、銀行経営者が仕掛けたものではない。しかし何故か彼らは「勝ち組」経営者であると自負している。「失われた15年」は「不良債権問題」の「結果」ではない。「閉鎖的で、グローバル・スタンダードでの経営を拒否する邦銀経営」の「結果」である。この経営は現在も続いており、マーケットでは「邦銀は、早晩、次の『失われた15年』を作る」と言われる所以である。
    メガバンクが「劣等生」であることは議論の余地が無い。メガバンクの財務諸表を欧米の大手金融機関のものと比較すれば誰にでも分かる。最新のBISの年次報告書でも「邦銀の収益力が主要国と比較して大きく下回っている」と報告されている。日本の企業は政府の補助も無く国際市場で戦っているため、嫌でもグローバル・スタンダードで経営しなければならない。しかし、なぜ邦銀だけが「閉鎖的・独善的な経営」を許されているのだろうか。

    B 「批判勢力」がいないのが一因だと考えられる。メガバンクの株式の過半は、海外の投資家や個人投資家に所有されているが、彼らは投資先の「中・長期的な企業価値の増大」に興味がない。「明日または3ヶ月先の株価が今日より上がっているか」が関心事である。
    証券会社の銀行株式アナリストが「守旧派」に成り下がっていることも一因である。インサイダー情報によれば、現在の銀行アナリストの多くは高齢で、銀行の広報担当と馴れ合っている。銀行の財務諸表は巨大で複雑であるから、批判して出入り禁止になると内部情報が取れなくなる。また、ネガティブな分析をすると金融庁から圧力が掛かると。金融庁のこのスタンスは、不良債権金額の推定分析の際に発動されたことは広く知られている。従って、銀行の決算発表があると、銀行アナリストは発表された数字を淡々と分析し、邦銀間での違いを解説する。邦銀間の比較表の作成であれば素人でも出来る。また、バーゼルUの規制は、資本コスト経営への移行の強いプレッシャーになるかと期待されたが、そのような雰囲気はない。また、最近の金融庁は「事後チェック」が原則として、かつてのMOFのような経営指導はしない。また、彼らは多発する金融会社の不祥事への対応に多忙で、それどころではないと。そして、マスコミはメガバンクの活躍振りを無批判に報じている。

    C 筆者が会うトップクラスの欧米投資銀行の本社の経営者は、口を揃えて「邦銀経営者は良識を持っていると思うが、経営者として致命的な欠陥がある。これは彼ら自身気がついていない」と。そして「この話は秘密にして欲しい。邦銀は大きな顧客でもあるから」と。また、慶応大学大学院政策・メディア研究科教授の高橋俊介氏も論文で「日本の銀行の人事部には戦略的思考が欠落している」「銀行経営者は現状に目を向けず、漠然とした一般論でしか人事を語らない」と述べている。これらのマーケットでの評価を知らないのは邦銀マンだけだ。

    D メガバンクの組織で奇妙なことは、CFOやトレジャラーがいないことである。そう指摘すると必ず反論があるが、我々は形式論を述べているのではない。資本コストを計算し、資本の最適配分を担当する最高レベルの経営者がいないと指摘しているのだ。株式アナリストの証言によれば、欧米の金融機関には当然にある「部門別の資本コスト計算」が無い。アナリスト・ミーティングで質問しても答えられる頭取は殆んどいないとのこと。メガバンクに資本コスト経営が無いことは、邦銀間の融資シェア争いでの金利ダンピング合戦、儲かりもしないビジネスへの大量の経営資源の投入、リスクを省みない海外融資の拡大、新規ビジネスへの参入の判断の遅さを見れば明らかである。また、あるメガバンクは不得意な「投資銀行ビジネス」を捨て、「リテール・バンキング」に資源を投入するとのこと。しかし「貴行のリテール・ビジネスが本当に儲かっているか確認しましたか」と聞きたい(否定的な分析が多い)。日本の金融機関は、判断に「慎重」なのではなく「資本コスト経営に基づく意思決定のシステム(本当のコーポレート・ガバナンス)が無い」だけである。


    (2)メガバンクの中にも改革派はいる。
    しかし、「メガバンク(グループ内の証券会社も含む)の『全て』が改革の努力を拒否している」と主張しているわけではない。メガバンク間や部門間で爬行性が見える。大掛かりな改革を目指して、既に動き出している部門やグループ内の会社もある。やはり銀行のビジネスは限定されているため、証券部門を先兵とし改革しているメガバンク・グループもある。しかし動かないメガバンクもある。従って、メガバンクの経営指標に差が開き始めている。これはメガバンクの経営者や部門長の見識の差であろう。当社は、「改革を志す」日本の金融機関を支援させて頂きたいと願っている。


    (3)日本の金融機関の中途採用の問題点
    下記に、日本の金融機関の「外部採用の問題点」のいくつかを記述した。これらの問題点はメガバンク経営の構造的な欠陥から生じているため、改善は不可能と考えられる。

    @ 現場の長が素人であること
    最近の米国資本主義では、経営(取締役)と執行(執行役)が分離されている。従って、経営者のポストにそのビジネスの未経験者が就任することがある。これは、内部の部門長が経営レベルに昇格すると、自分の出身部門を擁護することがあるからである。日本の企業倒産のいくつかは、この経営スタイルにより変革が阻止されたために起こった。しかしメガバンクの頭取やトップ経営者は、必ず生え抜き行員の中から選ばれる。例えば、大企業部門出身の役員は大企業宛てビジネスを守ろうとするであろう。それでは改革は起こらない。元々「経営力」と「執行力」は別の能力であるが、メガバンクはそれを認めない。
    メガバンクは「年功序列」の人事政策を堅持し、「ジェネラリスト至上主義(スペシャリストはバランス感覚が無い!と)」に固執している。従って、部長や部門長等現場のトップが「ジョブ・ローテーション」で転勤して来る。即ち「素人」が現場のトップとなる。「最近は変わった」と主張する向きもあるが、詭弁である。外資系金融機関のマネジング・ディレクター(MD)といわれるポストを和訳すると、部長または部門長(執行役員)である。外資系では、このポストにはその部門のプロの内、一番稼いで、リーダーシップのある者が就任する(そうでないケースもあるが)。実績があり自分と同じ経験をした上司であればこそ、部下は命令に服する。プロは素人部長の下では戦えない。従ってメガバンク(グループ内の証券会社を含む)には、外資系のプロが応募することは無い。また、プロのいない企業は国際市場では戦えない。

    A マーケットで通用する人材が育っていないこと
    メガバンクでは人材の流動化が進んでいないため「開かれた企業文化」への改善が進んでいない。確かにグループ内の証券会社で外部採用は行われているが、確固たる経営方針に基づくものではない。単に忙しいから外部採用しているだけだ。言うまでも無く、閉鎖的な企業文化では職員にマーケット対応の意識が育たない。グローバルに熾烈な戦いが繰り広げられている金融ビジネスで、マーケットで通用する意識で武装された職員がいなければ勝てるはずは無い。現在、外資系金融機関日本法人の各部門のリーダー(MD)は40歳代前半である。彼らは80年代の後半に一流大学を出て、トップクラスの外資系金融機関に入社した強者である。彼らは強固な資本主義的意識に武装され、プレッシャーにも強い。前記したように、最近再び、外資系金融機関と日本の金融機関の間で、「金融技術力」だけではなく「職員の意識」においても差が開いている。従って、邦銀カルチャーで育った高齢者(と言っても40歳過ぎから)の外資系への転職が難しくなっている。最近頻繁に経験するが、外資系金融機関に40歳前後の邦銀マンが応募する場合、採用担当の中には邦銀マンの良い面を見て採用しようとするMDもいるが、生え抜きの若手から猛反発がある。日々リスクにさらされ苦闘している若手にとって、「カッタルイ邦銀マン」が上に入社してくることは受け入れられないと。

    B 人事採用計画が場当たり的であること
    メガバンクの新卒採用はご都合主義で、長期的な人事政策に基づいて行われなかったため、メガバンク職員の年齢別構成が歪になっている。これは銀行が長い間経営危機にあったことにも因るが、どの金融機関でも現在36−37歳以下の職員数が非常に少ない。従って景気が回復した今日、外部採用では若年齢層が対象になる。しかも喫緊のニーズであるから「競合するメガバンクの同じグループから採用したい」と。これがナンセンスな希望であることは明らかである。マーケット(雇われる側)の事情を考えない邦銀マンの典型的な発想である。そこで、採用担当者に「それでは貴方自身は他行に今と同じ雇用条件で転職しますか?」と聞くと「失礼だ!」と怒り出す。メガバンク各行は昨年大量の若手を採用したが、ほとんどが非金融の人々で、失礼ながら、即戦力ではないし将来の戦力になることも無い。人事部の「我々は働いている」という「アリバイ作り」に過ぎない。

    C 但し、メガバンクすべてが改革の意思を放棄したわけではない。メガバンク3行の間で大きな「温度差」がある。銀行は最近まで公的資金を受けていたので動きにくい面もあったが、公的資金の返済を先取りして、組織改革の遂行と積極的な外部採用を行ったメガバンク(グループ内の証券会社を含む)もある。ここでの採用は整合的なものではなかったが「ともかく動き出したこと」は評価された。また、出足は遅れたが、態勢が整うと、一気に本格的な動きを始めているメガバンク系証券会社もある。しかし、現状維持で良いとするメガバンクもある。メガバンク各行のこの経営方針が外部採用へのスタンスや社内の人事制度に表れている。メガバンクへの転職を考える者は、自らの将来に関わるので、違いをよく見極めなければならない。

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    2.外資系金融機関

    概観
    @ 大手の外資系金融機関(米系投資銀行及び一部の欧州系ユニバーサル・バンク)の日本法人の業績が急拡大している。報道によれば、それらの金融機関の最終益の合計は昨年の3倍以上となっていると。しかし、外資系金融機関は国を跨った取引を行うため、実質的な「日本がらみ」取引の収益額は分からない。日本法人の公表の収益額から推測すると、トップクラスの実際の最終益は1000億円を越えていると考えられる。日本法人の従業員数はトップクラスで1000人−1500人程度であるから、日本の金融機関とは比較にならない収益力を持っている。但し、外資系金融機関全体の中では、厳しい「二極化」が起こっている。即ち、「勝ち組」は米系10社程度と欧州系数行である。彼らは世界市場でも戦っている。

    A 外資系金融機関の日本法人(または東京支店)の収益が飛躍的に伸びた理由は、(a)昨年に比較して、M&Aが件数で増えていると同時に大型化していること。しかもクロスボーダー案件が増えているため、外資系の強さが発揮されていること。(b)設備投資やM&Aのため資本市場での大型の資金調達が続いたこと。(c)外銀の融資が積極的に行われたこと。実際、06年7月末の外銀の国内向け融資残高は7.9兆円で前年比倍増している。景気の拡大、市場金利の上昇やM&A関連融資の増大、PFIの協調融資の増大で潤った。また、(d)世界的な金余りと好調な日本株相場により、ヘッジファンド等の外国法人が活発に日本株を売買したこと。また、(e)今年に入って大量の資金のリスクマネーへのシフトがあったが、日本の金融機関には対応する商品開発力やトレーディング力が無いため、外資系が商品供給して稼いでいたこと。

    B しかし、外資系金融機関の日本法人の経営やそのプレーヤーが、「全て」すばらしいと肯定しているわけではない。時として戦略が近視眼的であったり、整合性に欠けることがある。例えば、今年の3月頃まで日本の株価が上昇していたが、外資系金融機関が日本株のロング・ポジションで稼ぐトレーダーを採用しようとしていた。しかし、その後の株価下落により突然採用計画を停止した。まさに「株価連動型」採用であった。勿論、外資系の金融マンには良く稼ぎ、人物としても立派な人は多いが、中には「稼ぐためにはなにをしても良い」「稼いでいるから自分は偉い」と勘違いしているMDやプロも多い。外資の「非常識」な連中である。特に若いMDや外人に多い。これが、外資系金融機関がいまだに「胡散臭い」と評価され、尊敬されない所以である。


    人材需要
    @ 外資系金融機関に有利な環境下において、外資系金融機関の多くの部門で、人材への需要は非常に強い。そこでは「即戦力」が求められる。前記したように、シニアな邦銀マンの転職は難しい。従って外資系同士の引き抜き合戦となっている。このため報酬条件も破格(バブル?)となっている(詳細は前記した)。加えて、トップクラスの投資銀行はグローバルに大きく儲かっているため、本社は日本法人の陣容の拡大を要請している。外資系金融機関のMDによると、毎日、本社から「人を雇え!」とプレッシャーがくると。

    A 外資系金融機関の本社マネジメントの懸念は、日本法人の日本人に、真の経営者や人材が十分に育っていないことである。日本法人には「職人」(商品のプロで、よく稼ぎ高額のボーナスを貰っている人)はたくさんいるが、金融マンとして高い志を持ち、部門長(MD)として成長し、本国の経営者とも互角な議論の出来る人が少ないと。また、マーケットに大きなインパクトを与える大掛かりなディールが出来るプロも多くないと。

    B 人材需要の量としては若手に対するものが多い。外資系金融機関は、長期に亘り日本の金融機関から「専門性は低いが良質」な若手銀行員を採用してきた。しかし収益に対するノルマがこれほど強くなると、今後はその余裕が無くなるかも知れない。90年代の中旬外資系金融機関と日本の金融機関では、特にデリバティブと言った当時の先端金融商品で技術格差が大きく、日本の金融マンの一流外資系投資銀行への転職は難しかった。今後、当時と同じ現象が起こると懸念される。外資でのキャリアを志す若者は余程構えて望まなくてはならない。若者に求められる人物像は、スキルや経験もさることながら、やる気やプレッシャーへの強さ、大胆な発想力を持つ人である。高度な商品知識や数理力が重視されたデリバティブ時代とは違う。

    C トップクラスの外資系金融機関で人材需要が強いビジネスは、第一章で詳述したように、(a)M&A関連、(b)投資ビジネス、(c)LBO・MBOファイナンスやメザニン・ファイナンスのようなリスクの高いファイナンス、(d)クレジット・デリバティブ、(e)ヘッジファンド関連、(f)個人富裕層向けのリスク商品の開発関連である。

    D 過去2年−3年の間に、外資系金融機関の東京支店は「日本法に基づく株式会社」に転換された。理由は、現地化を進めているためとか、コントロールを強化したい金融庁の指令だとか、外国証券での退職金に掛かる税金対策とか言われた。いずれにしろ、これにより、外資系のプロには積み上げられていた退職金や報奨金が支払われ、転職し易くなった。。

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    おわりに
    企業の「ミッション」とは、年月を掛けて蓄積した技術を駆使して自社製品を開発し、「企業理念」を商品化して(世界)市場に提示することである。もし商品が売れなければ、その企業の掲げる「理念」は「ひとりよがり」と判定されたことになる。そのため企業は、自社の持つすべて、即ち、設備や技術に限らず経営者や従業員の思い(企業文化)まで自社製品に込めようとする。元々、日本文化の特性は、欧米合理主義のように普遍的な哲学を求めるのではなく、身の回りの自然や事象に深い思いを寄せ、それを具体的な形で表現しようとするものである。茶碗、生け花、能、和歌・俳句等である。この文化の利点が日本の製造業に生かされていると思う。「もの作り日本」と言われる所以である。日本車が世界を席巻するのは、「設計図」で作られる米国車と違い、日本車がこの「日本文化のDNA」で作られるからである。「もの作り日本」を可能にしたのは、ある意味で、「悪しき日本的経営」と非難された企業内での年功序列・終身雇用制度や、企業外での系列・下請け制度と言った「企業一家主義」かも知れない。

    しかし、今や社会・経済の変化が余りにも急速で、且つ、市場がグローバル化しているため「もの作り日本」の文化が変質しようとしている。企業は、熾烈な国際競争で生き残るためには、時間を掛けて自社で開発するのではなく他社の力を借りなければならない。即ち「時間を買う」。これが現在、日本でもM&Aが爆発的に拡大している所以である。この新しい環境下で、「もの作り日本」の文化をどのように活かすかが問われている。

    一方、個人を取り巻く環境も激変している。個人の人生観は戦後から変遷を辿った。戦争直後は皆「生きるため」に働いた。高度成長期には大量の「会社命」の勤労者を生み出した。その後余裕が出来たサラリーマンには、個人生活を重視する「マイホーム・パパ」が現れた。しかし、バブル崩壊によって会社に裏切られた個人は、自分の人生を見つめ直し「キャリア構築」や「自己実現」を目指した。ユングが広く読まれた時代である。そして「失われた15年」を経た今日、個人は「キャリアと個人生活の両立」を目指していると思う。もし個人の人生観がそうであれば、人材市場や企業の経営者も、それに対応しなければならないと思う

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    ESPのプロダクト別アサインメント残高(平成18年7月31日現在)
    金融ビジネス
    プロダクト
    投資銀行ビジネス
    14
    22.2
    カバレッジ、M&A、引受け、IPO
    投資ビジネス
    12
    19.0
    バイアウト等ファンド投資、プリンシパル・インベストメント、VC
    ファイナンスとクレジット
    9
    14.3
    M&Aファイナンス、メザニン等のハイイールド・ファイナンス、PFI、
    証券化等のストラクチャード・ファイナンス、シンジケート・ローン、
    CDS等のクレジット・デリバティブ
    不動産ファイナンス
    3
    4.8
    不動産の購入、ファイナンス、証券化、エグゼキューション、私募ファンド、REIT
    資産運用
    10
    15.9
    ヘッジファンド、投信・投資顧問、個人富裕層
    マーケットリスク・ビジネス
    13
    20.6
    デリバティブ、仕組み債、JGB、為替、コモディティ
    その他
    2
    3.2
    株式、リサーチ、オペレーションほか
    合計
    63
    100.0
     



    筆者のプロフィール:
    小溝 勝信(こみぞ かつのぶ)
    1968年東京大学教養学部国際関係論分科を卒業し、住友銀行(現三井住友銀行)に入行、主として国際部門に従事した。1984年に外銀に転じ、 ファースト・シカゴ銀行東京支店の事業法人部長に就任した。人材コンサルティングに転ずるため、1989年米国の大手ファームの一つであるホイットニー・グループ日本支社に入社し、副支社長に就任した。1993年、日本型のエグゼクティブ・サーチの創設を目指してヘッズジャパンに転じ、金融部門マネジング・ディレクターに就任した。2004年エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社を設立した。
    このレポートは、筆者がヘッズジャパンで1994年以来半年毎に報告していた「外資系金融機関の最近の人事事情について」の連続版である。

    エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社(ESP)のプロフィール:
    小溝勝信が15年の経験の集大成として2004年に設立された。日本の金融人材市場に、初めての、本格的な、日本版の「エグゼクティブ ・サーチ・コンサルティング」の創設を志します。
    詳細はホーム・ページ をご参照頂きたい。

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