平成24年2月 第15号 (日本語版)
代表取締役 小溝 勝信
- 目次 -
はじめに
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はじめに
2011年は、日本の社会・経済にさまざまな不幸な出来事が起こり、忘れられない年になった。3月11日の東日本大震災の直後には「これを機に日本経済の再構築を!」との声が上がったが、結局、掛け声倒れに終わった。年の後半では、欧州危機と円高でペシミズムがマーケットを覆った。世界市場ではリーマンショック以降、主要国で大量に供給されてきた世界のマネーはリスクを回避し、日本、米国、ドイツ、英国の国債に流れ、預金が急増し、従って、金利は下限近くにまで低下した。また米国を除く各国の株価はいずれも下落した。即ち、リスクマネーが大幅に縮小した。同時にリーマンショックの再発を避けるため世界的に金融規制が強化された。その結果、世界の金融機関は収益が低下し、縮小均衡するために大幅なリストラを断行した。
第一章 外資系金融機関でのリストラの状況
日本における外資系金融機関はリーマンショック直後の「リストラの第一波」に続き、2010年6月から2011年9月までの1年余りの間に、「リストラの第二波」に襲われた。 日本の外資系金融機関の従業員数の減少の規模とその原因を、下記の通り分析した。
1.外資系金融機関の従業員数の減少
(1)従業員数の推移
・当社は、都度、日本における外資系金融機関の従業員数を推計している。これは、各社の公表人数だけでなく、当社のネットワークを駆使して各社別に従業員数を推計したものである。ここで言う「外資系金融機関」とは、外国資本が所有する銀行、証券会社、資産運用会社、投資会社であるヘッジファント、プライベート・エクイティ、不動産投資会社等である。従って、外資系の保険会社、ノンバンク、コンサルティング会社等は含まない。
・2011年9月現在の従業員数を22,139人と推計した(第1表)。 これは当社が調査した2010年6月対比1,832人減少したことになる。減少率は7.6%である。そしてその減少数は、リーマンショック後の大掛かりなリストラによる減少数4,198人の44%に相当する。「リストラの第二波」と呼ぶに相当する規模である。従って、外資系金融機関の従業員総数はリーマンショック前に比較して6,030人減少し、減少率は21.4%となる。
・第二波のリストラの大半は欧州危機後に行われたと考えられる。2011年の年央までは採用も見られたが、年末近くから現在まで大手の外資系金融機関での採用計画はほぼ凍結されている。
・現在もリストラは継続しており、200人程度の上積みがあったと推測される。さらに、現在進行中のボーナス・コミュニケーションによっていっそうリストラ数が増えるものと懸念される。
・さらに、日本の金融機関の国内でのリストラは、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、みずほ証券、野村証券の3社合計で1,000人に及ぶ。
・世界の金融市場でも欧米金融機関のリストラ計画が相次いで発表されており、現在も続いている。2011年での世界の金融機関のリストラ総数は23万人との報道もある。また、ブルムバーグによれば、2007年から2011年9月までの間に、世界の金融機関が発表した人員削減の合計は60万人に及んだとのことである。
(2)母国別の様相
・従業員の減少数を母国別にみると、下記の通りである。
これまでは欧州系金融機関でのリストラは米系に比較して緩やかであったが、最近では米系並みに厳しくなっている。
(3)金融ビジネス別の様相
・資産運用ビジネスの従業員数は、上記の調査期間ではわずかながら増えていた(1%程度の増加)。全体で大きなリストラが断行されたにも拘らず、資産運用ビジネスは健闘していたことになる。
・2011年に資産運用以外で採用が見られたのは、クロスボーダーM&A(ブティックやコンサルティング・ファーム)、ヘッジファンド関連、一部の不動産ファンド、勝ち組金融機関のJGBや為替等のフロービジネスであった。
・目立ったリストラは、デリバティブ関連、クレジット関連、投資銀行本部のカバレッジとECM/DCM部門、不動産投資関連、不動産の証券化等のアセットファイナンス、日本株セールス、負け組金融機関の外国為替や債券販売の各ビジネスであった。
(4)年齢別の様相
・本社からのヘッドカウント縮小の指示であったことから、リストラはシニアから若手まで満遍なく行われた。一部の外資系金融機関では入社1〜2年目の若手までリストラしたため、マーケットで顰蹙を買っていた。
2.外資系金融機関のリストラの要因
・リストラはグローバルな要因と日本固有の要因による。
(1)グローバルな要因
@.米国主要金融機関の投資銀行部門の収益の悪化
・米国の大手金融機関5行のリーマンショック以降、2011年までの決算をみると、投資銀行部門の純収入合計が減少トレンドにある(第3表)。リーマンショック直後の主要国による流動性供給政策の恩恵を受けて、2009年の5社のFICC部門の純収入合計は783億ドルに達し、投資銀行部門の純収入合計1,413億ドルの55%に相当したが、その後、漸減に転じ、2011年では530億ドルとなっている。特に2011年第4四半期には60億ドルに激減している。これは第3四半期比59%もの大幅減収で、投資銀行部門における比率も33%に低下している。
・マーケットリスクの程度を表す指標VaRは、業務報告書で開示しているGS、MS、JPの3社をみると、いずれも2009年から低下トレンドにある(第4表)。即ち、米国の主要投資銀行はマーケットリスクの縮小を余儀なくされている。これが、投資銀行部門の減益の理由のひとつであり、言うまでもなく、ボルカー・ルール等の規制強化の影響による。
・投資銀行部門の人件費の推移を業務報告書で開示している上記3行でみると(第5表)、2009年〜2011年の3社の投資銀行部門の人件費合計は、純収入の減少と歩調を合わせて減少している。従って、純収入に対する人件費の比率は40%弱とほぼ一定である。2011年の3社の人件費合計は第1四半期の105億ドルから第4四半期の49億ドルに急減しているが、比率一定の傾向は2011年の四半期毎の実績でも概ね確認出来る。特にGSでは純収入の低下と人件費の低下が第3四半期まで平行して行われていた。
・米系投資銀行は、経営方針として純収入減少に対応するため最大のコスト要因(純収入の40%前後)である人件費の削減方針を打ち出し、従業員のリストラと報酬額の引き下げを行っている。即ち、収入と人件費は「縮小均衡」しながら減少している。
・なお、主要5行の全社ベース(第6表)では人件費合計は減少傾向にないものの、2011年の投資銀行部門の総経費は期を追って減少している。
・欧州系金融機関の決算発表はこれからだが、欧州系は欧州危機の影響を直接受けているだけにその傾向は米系金融機関より顕著に見られると思われる。
・某大手外資系金融機関は、世界の投資銀行上位20行の純利益に対する報酬額の比率は、2009年の55%から2011年には65%に上昇すると分析している。この高い報酬額の純利益に対する比率はいずれ調整されることになる。今後もリストラが続くといわれる所以である。
・欧米大手金融機関の投資銀行部門でのボーナス・カットの平均は25%程度になると報道されている。また、一定額以上のボーナス支払いに対しては、自社株の支払いで現金部分が小さくなり、支払いが繰り延べられるケースが一般化しているといわれる。
A.収益悪化の背景
リスクマネーの縮小
・世界の大手金融機関の収益悪化は、実体経済の回復の遅れ、世界経済の不安定性の増幅、特に欧州危機の勃発、主要国の財政・金融政策の行き詰まり等のマクロ経済条件の悪化に起因する。そして、それらを背景として、経済成長に必要なリスクマネーが世界の金融市場で縮小したことによる。これは、世界の機関投資家や個人投資家がリスク回避傾向を強めているからである。
・日本でもリスク回避の動きがマネーフローで確認される(第7表)。
金融機関に対する世界的な規制強化
・欧米大手金融機関の活動には、ドッド・フランク法、ボルカー・ルール、バーゼルVや国際市場での大手銀行に対する自己資本比率の引き上げ等、さまざまな規制が課される。また、IFRSでの会計基準の変更も金融機関の自由度を制約するものである。従って、銀行は資産を積めず、自己資金を使ってのトレーディングも規制されている。これが大手金融機関の収益を低下させる一因となっている。
新しい金融ビジネスモデル構築の未構築
・リーマンショック後の新しい投資銀行モデルが未だに構築されていない。巷間、「金融ビジネスは伝統的な金融仲介業に戻るべきだ」といわれる。規制強化はその考え方に基づいているのだろうが、「金融技術を開発して、産業の資金調達や個人・企業の資金運用に新しい付加価値を提供すること」は金融機関の本来の使命でもある。過度の規制強化はその活動を制約するものと懸念される。
・確かに世界的に「所得の不均衡」が拡大しており、「占拠せよ!」をスローガンに金融機関に対する抗議行動が広がっている。資本主義は根本的な変革を求められているのであろう。「アラブの春」もこの種の動きのひとつだろうが、しかし、格差拡大への抗議の動きは「新しいイデオロギー」で理論武装されているわけではない。従って、歴史を変えるうねりとはならないかもしれない。
(2)日本固有の要因
・日本経済は80年代に資金不足から資金余剰の経済構造に移行した。日本の金融機関は、このファンダメンタルズの変化に沿って、オリジネーション機能とリスクの加工・移転機能を強化すべきであったが、対応出来なかった。即ち、国際金融市場で通用する本格的な「投資銀行ビジネス」とグローバルな「資産運用ビジネス」の欠落が、日本経済の低迷と運用難の根本的な原因となっている。
@.商業銀行優位の金融構造
・日本の金融の最大の問題点は、その構造が圧倒的に商業銀行優位となっていることである。間接金融支配(デット中心)の金融市場では大きな付加価値の創出は望めない。
(「レポート」−14で説明)
A.ジャパンパッシング
・日本経済にはデフレ構造がビルトインされており、収益的な市場とは言えない。また、金融庁の自己保身により金融ビジネスに対する規制が強過ぎる。また、会社法や労働法等の法体系が余りにも内向き志向でグローバルスタンダードから乖離しており、外国資本が日本進出をためらう一因になっている。従って、投資効率を求める世界の企業やマネーは日本を回避することになる。これは、グローバルに展開する外資系投資銀行としては当然の戦略である。
・現在、日本法人を傘下に置く外資系金融機関のアジア本部は、非効率な日本市場への人材等の経営資源の投入に否定的である。実際、それらの日本法人では、営業担当はともかく、トレーディングやプロダクト担当の機能がシンガポールや香港に移されている。
B.既得権者による改革への抵抗
・日本の金融ビジネスの活性化に抵抗する既得権者がいる。確かに欧米金融資本は大きな間違いを起こした。しかし、誤解してはならないことは、欧米金融資本が世界市場で過ちを犯したからと言って、その非難がそのまま日本の金融機関に投げられるべきではない。日本の金融ビジネスは歪であり、欧米に比較して大きく遅れている。これが、日本経済が活性化しない一因となっている。資本主義では「付加価値を創出し、報酬を得ようとすること」自体は正当な行為として認められなければならない。参加者の志や目的、手法や程度が問題なのだ。既得権益者は、欧米金融資本が犯した「過ち」と日本の金融の現状を意図的に混同して議論し、自らの権益を守ろうとしている。
3.外資系金融機関のリストラの影響
・日本の金融構造は過度に商業銀行業務に偏っている。そして、日本の投資銀行業務と資産運用業務は海外先進諸国に比較して大きく遅れをとっている (「レポート」−14で説明)。
現在、政府やマスコミ等は、「日本が抱えている諸問題の解決のためには経済成長が必須である」と言いながらも何の対策も取っていない。言うまでもなく、経済成長のためにはリスクマネーの供給が必須であり、それを提供するのが投資銀行であり資産運用会社である。日本の金融機関がその役割を果たせない現状、日本の外資系金融機関の縮小は、日本の金融や産業の将来に大きな打撃となると懸念される。
4.今後求められる金融マン像
・どんなビジネスでも、商品・サービスが売れるか否かは商品性と営業力(マーケティング力を含む)に掛かっている。金融ビジネスで言えば、現在、ほとんどの金融商品の付加価値が低下している。新しい金融サービスモデルが構築されるまでは高付加価値商品の登場は期待出来ない。このため、多くの金融マンは「儲からない!」と嘆き、ペシミズムに陥っている。しかし、モノは商品力だけで売れるわけではない。どの産業でも「不利な環境下で大きな成果を上げる営業力の強いプロ」がいる。発想力や実行力の問題である。
・「若手金融マン」への期待が膨らんでいる。リーマンショック以前の成功体験を持つ金融のプロは、金融ビジネスの基礎的条件が変わったことを認めようとしない。旧来のビジネスモデルに固執し、経済実体の変化にフォロー出来ていない。従って、外資系金融機関はベテランを見限って若手に期待している。実際、現在の人材ニーズの大半は若手に対するものだ。現在、多くの金融商品はコモディティ化しており、やる気と柔軟性さえあれば若手でもキャッチアップ出来る。また、雇用側ではマネジメント層が高齢化し「後継者問題」が深刻化している。そのニーズからも若手への期待がある。
・若手金融マンに対しては、マーケットの変化をつぶさに見ること、そのためにはなるべく現場に近い職場で経験を積むこと、常にグローバルな視点でものごとを捉えること、そのためには英語力をつけることを提言したい。
第二章 最近の金融人材需要の様相
概 観
・第一章で説明した通り、2011年後半では欧州危機を契機に世界の金融市場でリスクマネーが後退し、金融ビジネスの商機が縮小していた。それを受けて、大手金融機関は大規模なリストラを断行した。日本でも、内外の金融機関は投資銀行部門・ホールセール部門を大幅に縮小した。日本の外資系金融機関はリーマンショック直後に次ぐ「リストラの第二波」に襲われている。
・一方、最近の株価の回復を受けて「2012年では危機感が一服し、リスクマネーが戻ってくる。従って株価は回復し、金利は上昇して金融資産への投資収益は改善する」との期待もある。
下記の通り、2011年の後半に当社が観測したビジネス別の人材需給の状況を報告する。
1. 投資銀行ビジネス
日銀の発表によると、金融機関を除く民間企業の株式、債券等を含む負債残高は、2011年9月末の時価ベースで992兆円であった。残高は1,000兆円を下回っているものの依然高い水準にある。デフレが継続する中で企業は財務体質の強化を優先しており、資金調達を伴う新規投資には依然として慎重である。「失われた10年」後、企業の雇用と設備の過剰感は解消されたが、債務の過剰感は残っているようだ。
(1)株式引受と債券引受
・2011年の全世界の企業による資金調達額は株式、債券ともに減少した。世界の株式引受額は、$617billion(49.4兆円、Thomson Reuter)で前年比28%も減少した。債券は、$5trillion(400兆円)で前年比7%の減少であった。特に欧州金融危機を反映して下半期での低迷が目立ち、第4四半期では株式、債券の引受ともリーマンショック以来の低水準となった。特にアジア市場での株式引受は、年間で前年比50%減(Thomson Reuter)の大幅な減少であった。
・2011年の日本での株式引受額は1.8兆円(117件)で前年比64%の大幅な減少となった。これは、金融機関や事業会社の大型増資が一巡していたことや、環境悪化により発行が見送られたことに起因する。従って、下半期においてECMでの採用の動きはほとんど聞かれず、一部の欧州系や米系投資銀行ではリストラの動きもあった。しかし、IPOの件数は着実に増えている。12月にはネクソンなどの大型IPOもあり、2012年では、2011年でIPOやPOを延期された反動もあり案件が増えると期待する関係者もいる。
・2011年の日本での債券引受は、1,042件、19.1兆円(Thomson Reuter)と前年比わずかながら増加した。特徴としては、3月以降電力債という最大の起債市場が機能不全に陥ったものの、それをメーカーや銀行の劣後債の発行によりカバーしたことである。国内市場で発行された劣後債の累計額は1兆1,979億円と、2010年の1兆1,265億円を上回っている。銀行による劣後債の発行増加は、劣後債が2013年以降のバーゼルVで規制資本として認められなくなることによる。
事業会社の社債の発行総額は8.7兆円で、前年比7%の減少であった。特に夏場以降、欧州危機や円高等の要因で発行延期が相次ぎ、さらに9月には大王製紙が社債発行直後に元会長の不正を公表するなど、コーポレートガバナンス不在が大きな問題となり、発行市場も混乱した。
・上記の環境下で、外資系投資銀行の資本市場本部(ECM/DCM)での採用はフリーズとなっている。
・2012年の資本市場では、株式・債券市場の動向にもよるが、昨年来の発行延期分や邦銀の増資期待もあり、人材需要の回復が期待される。また、高格付け社債に対しては余剰資金を抱える銀行等の機関投資家による購入需要は強い。また、昨年秋以降、欧州の債務問題を背景に、一部の海外発行体がサムライ債に注目していると。人材ニーズを期待したい。
(2)IPO及びMBO
・2011年の日本のIPO市場は、金額では83.9%減の1,648億円(Thomson Reuter)であったが、件数では63.6%増の36件となった。それでも過去10年間のピークであった2006年の188社の2割程度でしかない。2011年では、さまざまな事件が頻発したことからIPO市場は混乱し、日興アセットマネジメント等の上場延期が続出した。しかし第4四半期に年間の約半数の17件の上場が見られ、中にはネクソンのような大型のIPO(公募規模980億円)もあった。2012年では、昨年までの反動に加え、新興市場の売買代金が底入れするなど投資家の期待が高まりつつあり、50社程度のIPOがあると予想されている。しかし、それでも人材需要を生むほどではない。
・2011年の世界のIPOは、前年比40%減の$163.8biliion(13.1兆円、Thomson Reuter)であった。但し2012年では、Facebookの上場が予定されるなど大型IPO案件が多数控えている。米国のIPOの急拡大が世界の株式発行市場を活性化するように期待したい。
(3)M&A
・2011年の日本のM&Aは、2005年以降の下落傾向から増加に転じ、前年比28%増の13.5兆円を記録した(Thomson Reuter)。世界のM&A総額が2兆2,500億ドル(180兆円)で前年比3%増に止まったのに対し、日本は突出していた。
・特徴のひとつは、1兆円以上の大型案件が2件(新日鉄と住金の経営統合、武田薬品のナイコメッド買収)あったほか、数多くの大型案件(三菱商事によるアングロ・アメリカン・スールの少数持分取得、野村ホールディングスによる野村土地建物買収など)が公表され、トップ10案件の全体に占める割合が44.2%に達したことである。
また、In-Outのクロスボーダー案件がM&A全体の40.1%、5.5兆円を記録(Thomson Reuter)し、前年比63.9%の大幅な増加となった。特に、海外脱出を目指す中堅以下の企業によるIn-OutのM&Aが年後半にかけて加速度的に増加しており、把握出来ない中小案件も含めると相当な件数ならびに金額になると思われる。In-Outの業種別ではヘルスケアや資源関連が目立った。
一方、M&A全体の5割以上を占めてきたIn-In案件は、6.7兆円で前年比10.5%増に止まっている。これは2007年の6割程度への減少であるが、理由は、国内の企業間に「再編」が起こらないからと言われる。国際競争力の強化のためには再編が必須だが、キリン・サントリーの経営統合の不成立に見られるように、日本では上手くいかない。
・大手金融機関間のランキングでは、野村証券が5年連続で首位を守ったものの2位のゴールドマン・サックスが肉薄し、手数料ベースでは外資系が過半(52%)を占めたようだ。海外企業の買収が増えたため、海外の拠点網や情報収集力が強みの外資系が優位となっている。
しかし最近では、グローバルに大手投資銀行間の競争が激化しており、フィーのダンピング合戦が起きていると聞く。元々M&Aのフィーは株式引受手数料に比べて小さいが、M&Aの急拡大でもどの程度収益を上げているか疑問である。
・上記を背景として、投資銀行ビジネスでの人材ニーズはM&Aに集中している。その中で、大手の外資系投資銀行では、リーマンショック時に大量の中堅・若手をリストラしたため「働き手」が極端に不足している。しかし金融危機の拡大のため、ほとんどの大手外資系投資銀行では採用が凍結されている。2012年でのヘッドカウントはまだ調整中だが、近々凍結が解除されると話す関係者もいる。エグゼキューションに強く、グローバル対応が出来るシニア・アソシエイトクラスの若手人材に対しては、採用ニーズが出て来ると予想される。
・大手投資銀行がカバーしない、中堅以下の企業によるクロスボーダーM&Aの拡大に応えているのが、外資系監査法人のFASや日系及び外資の独立系M&Aブティックである。中堅以下の企業に対しては、これまで日系証券や銀行が支店でカバーしていたが、In-OutのM&Aに対応出来るグローバルプラットフォームが無い。その点、外資系監査法人やM&Aブティックは海外に提携網もあり、積極的に取り組んだため取引が飛躍的に伸びている。これらでは陣容を拡大しているところが多く、若手から中堅人材に対する強い需要が見られた。また、それ以下の小企業の事業承継を中心とするM&Aニーズに対しては、マッチング型仲介業者が対応しており、ニーズの増大に併せて人材を採用している。マッチング型M&Aは、大手金融機関がアドバイザリー型に固執する中で、中小企業のニーズに合致した動きといえる。
・2012年でもM&Aの増加傾向は続くと考えられるが、クロスボーダー案件では候補者に英語力が求められる。しかし近年英語力を持つ若手が希少で、これがM&Aにおける人材需給ギャップをもたらしている。
・クロスボーダーM&Aの拡大にあわせ買収ファイナンスも拡大している。しかしこれは邦銀の独壇場で外資系は対抗出来ない。従って人材ニーズはない。
(4)カバレッジバンカー
・2011年のGlobal Investment Banking Feeの総額は$81 billion(6.5兆円、Thomson Reuter)で、前年比6.2%の減少となり、下半期に至っては前年同期比30%減となった。欧州危機が大きく影響していると考えられる。日本では年間で前年比28.6%減となり、海外市場と比較して最大級の落ち込みとなった。これには資本市場取引の低迷が影響していると思われる。
・第一章で説明したように、外資系金融機関の業績が低下し海外で大規模なリストラが断行されている。日本でのリストラでは、当初は若手からシニアまで万遍無く行われていたが、年末にかけてはシニアバンカーが中心であった。また、年の後半には、特に欧州系投資銀行で大幅な人員削減が見られた。
・一方、外資系監査法人のFASやブティックが、拡大するニーズに応えるためこれらのバンカーたちを受け入れていた。しかしこれらを全て受け入れるだけのキャパシティーがないため、採用のハードルは高い。また、早期退職などで人員を縮小した日本の銀行系証券会社が、最近では人材の補強を検討し始めたとのこと。ここでは、外資系投資銀行で活躍し、グローバルな対応が出来るシニアバンカーが対象であったようだ。今後は、強い顧客グリップ力に加え、エグゼキューション能力ならびにプロダクトや業界知識を有し、海外の企業や連携先との折衝で有効な能力を持つ人材が求められると考えられる。
・外資系投資銀行で見られる近年のトレンドは、カバレッジ部門の人員縮小である。米系投資銀行の投資銀行本部の総人員数はかつて100人を超えていたが、現在では平均で100人を下回っている。従って、大手の米系投資銀行でも、縮小されたカバレッジバンカーではすべての主要企業や産業をカバー出来なくなっている。結果、収益的な案件や企業だけにフォーカスしようとするが、上手くいくかは疑問である。
2. プライベート・エクイティ(PE)
・2011年では、ピークであった2005年前後に設定されたファンドが一斉に償還期限を迎え始めたことで、エグジットとしての売却案件が大幅に増加した。ファイナンシャルスポンサー関連のM&Aは、2011年に254件、約2兆円に上った(Thomson Reuter)。特にセルサイド案件は1.6兆円で、前年比約7.5倍の大幅な伸びとなった。また、バイサイド案件でも7,072億円で2.5倍の伸びとなった。野村ホールディングスによる野村土地建物買収や、ベインキャピタルによるすかいらーくの買収などの大型案件も見られた。しかし、これらはすべてファンドの償還に対応するセカンダリー案件で、プライマリーでの大型MBOはほとんど聞かれなかった。
・日本のPEファンドはさまざまな理由で苦戦している。高いリターンを見込める投資対象が希少であること、優良案件にファンドが殺到し買収価格がつり上がること、継続する株式市場の低迷でエグジット戦略が描けないこと、日本企業の経営者には戦略性がないとして海外ファンドに評価されないこと等である。さらに、グローバルファンドが逡巡する大きな理由は為替リスクと言われる。一部の海外ファンドの本社は、円高傾向にも拘わらず日本経済を評価しておらず、円相場は中・長期的には下落すると見ているようだ。また、国内年金基金は、海外の大手年金基金と違い、PEファンドへの積極的な投資に踏み切っていない。
従って、グローバルファンドは必然的にアジア市場に向かう。2011年では、日本での投資がないままに撤退したファンドや、半分以上が未投資のまま期限を迎えてしまったファンドもあった。
・しかし2012年ではエグジット案件が多く、取引は増加すると予想されている。また、小規模なバイアウトや地方での企業再生などが活発で、若手やソーシング担当を中心とした人材需要が期待される。さらに、セカンダリー案件が増えるに従い、ファイナンスのニーズも増加すると思われる。また、シニアデットの不足分を補うエクイティー性の強いメザニン(優先株など)への需要が増加すると予想されている。昨年、大和証券CMとあおぞら銀行の合弁会社が設立されたが、おそらくメザニンファイナンスを目的とした動きと思われる。これらの分野でも人材需要が起こる可能性がある。
3. 不動産関連
(1)不動産投資
・2011年の不動産市場も、大震災、原発事故、欧州危機、急激な円高などにより大きな影響を受けた。年初には日本での不動産投資を拡大すると発表していた外資系投資会社も、震災以降は海外投資家への説明に奔走することとなった。従って、大半の投資ファンドで日本での不動産投資が控えられ、リストラが行われた。
・しかし夏以降では前向きな動きも見られた。某大手外資系不動産投資会社は、大手PEの不動産部門のトップを採用し、日本での不動産投資のため海外でファンドレイズを始めるようだ。某国内独立系不動産ファンドも、投資担当のトップを外部から招請しファンド組成を準備している。また、昨年秋に、米系不動産投資会社が保有していた約1,200億円の物流施設がアジア系の物流施設専門投資会社に売却された。購入した投資会社はさらに投資を拡大すべく人材を求めている。別のアジア系物流・興業系不動産投資会社も日本での投資拡大を図っている。グローバルに統合された某米系の物流施設不動産投資会社は、日本での統合を完了し投資拡大を計画しているという。また、某米系大手不動産コンサルティング会社は、欧州と日本を含むアジアを投資対象としたポートフォリオを保有する欧州系不動産投資会社を買収し、新たなファンドの組成を検討している。他にも、日本とアジアの不動産を投資対象とするファンドの組成を計画している投資会社もある。
・これらの動きに共通しているのは、日本の不動産投資に対し、従来のように高収益の「オポチュニティー」(高レバレッジで20%〜30%以上のリターン)を求めるのではなく、安定的なリターンを追求する「コア・ファンド」(5,6%〜10%程度)を目指していることだ。日本を成長市場ではなく安定市場と位置づけている。これらが、物流施設や興業系施設(データセンター、R&D施設、コールセンター、サイエンスパークなど)を投資対象とするのは、長期テナント契約が見込め、安定的なリターンを得られるからだ。このような日本の不動産向け投資に対しては、海外の資金も集まりつつあるという。投資対象は物流系にとどまらず、都心のオフィスや地方都市も含めたレジデンシャル、商業施設などさまざまだ。今後これらの計画が実行に移され、人材需要をもたらすことを期待したい。
・一方、一部の海外不動産投資ファンドは投資利回りより、外貨投入による為替リスクを懸念しているという。海外PEファンドと同じく、彼らも円の実力を中・長期的には評価していないようだ。従って、安定的な円資金を調達するために、日本の機関投資家に顧客ベースを持つベテランバンカーに生保や年金からのファンドレイズを委託するケースも見られた。しかし上手くいったという話は聞かない。
・海外のREITは堅調だったようだが、J-REITの価格は低迷していた。従って、J-REIT関連の人材需要は全く聞かれない。
(2)不動産ファイナンスと証券化
・不動産ファイナンスは相変わらず邦銀の独壇場である。モルガン・スタンレーの証券化商品部は、かつて兆円単位の投融資残高を誇り200人余のスタッフを抱えていたが、現在では数人となっている。欧米の大手銀行は大幅なバランスシートの縮小を余儀なくされており、不動産宛てノンリコース・ローンから撤退している。縮小のもうひとつの理由は、不動産証券化商品に対する投資意欲の減退である。機関投資家はいまだに「悪夢」を忘れられない。日銀が発表した2011年9月末での証券化商品の残高は38.2兆円である。これはピークであった2008年3月末から19%減少している。住宅機構が発行するMBSは伸びているが、不動産を裏付けとするCMBSやその他の資産を担保とするABSは減少している。従って人材需要は全くない。
(3)人材の動きと求められる人材像
・今後は、高利回りを期待する不動産投資ファンドの苦戦が予想され、オポチュニティ・ファンドからさらなる人材の流出が予想される。また、不動産投資ビジネスでの平均報酬水準は半減すると考えられる。
その中で、一部の機関投資家が、ファンドから引き揚げた資金と引き取った人材で自己投資を始めている。これは不動産投資における「中間搾取」の排除の動きである。この直接投資の動きは、機関投資家による他の資産運用でも見られるようになるかもしれない。ここでは自己資金での投資だから、人材は、よりプロとしての実力が問われるであろう。
・某不動産投資のプロによれば、「『不動産投資の環境が悪いので儲からない』と嘆く者はビジネスの要諦を理解していない。不動産価格は合理性に欠けているので、逆に、儲けることが可能。『割安に買い、割高に売ることだ!』」と。そして「それを可能にするのは優秀なプロとの親密な人間関係の構築であり、不動産を見る目を養うことだ。見る目を養うためには、若い頃には現場に近いところで苦労したらよい」と。卓見だと思う。
4. グローバルマーケッツ
外資系投資銀行のグローバルマーケッツ本部は金融危機を起こした主犯だが、現在でも投資銀行部門の過半の収益を稼ぎ出している。しかし、リーマンショックの反省からさまざまな規制が課され、その収益性は大きく縮小している(第一章を参照頂きたい)。日本でも同じ傾向が見られるが、特徴のひとつは、勝ち組投資銀行とその他の金融機関の一人当たりの収益性に開きが見えることだ。勝ち組の債券本部のプロ1人当たりレベニューは7〜8百万ドルであるに対し、その他は3〜4百万ドルに低下している。報酬でも、勝ち組プロの年収は平均で50百万円程度であるのに対し、その他はその半分程度で大きく開いている。しかし、今後は勝ち組プロの年収も低下する。いずれにせよ、現時点では外資系金融機関のプロの年収は高いが、高齢になっても続くはずはない。外資系金融機関は「金儲け」のための職場では無くなっており、外資系金融機関に勤務する者は、なぜ今外資系で働いているのかを自らに問うべきである。
(1)フロービジネス
リーマンショック後の巨額の流動性の供給で金利は低下し、金融機関への規制強化により取引の透明性が求められるようになった。結果、それらに沿うビジネスが収益的で、人材採用もあった。具体的には、2011年の初頭までがJGB関連で、後半は外国為替関連であった。
(a)公社債ビジネス
・2011年の公社債の売買高は、963兆円と過去最高になった。年後半では長期金利の変動幅は縮小したが、機関投資家がこまめに売買を繰り返し収益を狙ったため、売買高は膨らんでいた。投資家別では、大手銀行の売買高が283兆円で全体の3割を占めた。これにより、大手邦銀の9月中間決算では国債のディーリング益が大きく寄与した。海外投資家の売買高は156兆円であった。ちなみに、海外投資家は安全な1年以下の短期債を好むとのこと。生保は引き続き超長期国債を買っていた。これらを背景に、大手の勝ち組金融機関がJGB取引で大きな収益を稼ぎ出していた。
・勝ち組投資銀行は、マーケットメーカーとして世界の資金フローが見えるという利点を生かし、ベスト・インテリジェンス、ベスト・リクイディティ、ベスト・プライスを提供する。これにより機関投資家との親密な関係を構築出来るため、大口取引では公表されるビッド・オッファーによらないプライスシングが可能になり、大きな収益を上げることが出来る。大手証券会社のJGBグループは、各社とも年間100億円のネットレベニューを目指すが、実現は難しい。それを達成しているのは勝ち組数社といわれている。
大手外資系各社にはJGBの営業プロに対する潜在需要はあるが、大きな収益をあげるためには上記のようなインフラが必要で、真のプロの採用は容易ではない。同様に、トレーダー宛ての潜在需要はあるが、ターゲットは、顧客フローを対象にひとりで50億円程度を稼ぐプロである。
(b)外国為替と外国債券ビジネス
・2011年では日本政府の大幅な為替介入や、大震災、欧州危機による為替レートのボラティリティ上昇があったため、貿易企業のヘッジや個人の投機ニーズがあった。従って、2011年では勝ち組金融機関は危機以降のレコードハイの収益を上げていた。これは、元々外国為替の参加銀行が減っているところに、格付けの低下もあって勝ち組外銀に取引が集中したためである。大手外資系銀行は年間100億円のネットレベニューをターゲットとしているとのことであるが、これも達成は至難のようだ。ここでも稼ぐプロはかつてのように数千万円の報酬を得ている。
一方邦銀は、かつてのように資金力に任せて大きなポジションを取りマーケットを支配しようとする戦略ではなく、外資から買って顧客に提供するという顧客取引重視の戦略に転換している。
収益源はプロップではなく顧客フローである。勝ち組は、JGBと同じく、グローバルな金融情報、親密な顧客関係の構築、大口取引でのベスト・プライスでの巨額の流動性提供が可能な外銀である。この手法であれば大口取引で大きく儲けることが出来ると。取引内容では、収益的であった生保の外債為替ヘッジ取引や、長期のフォワードやオプション取引の収益性は、米国金利の低下により小さくなっているとのこと。また、地銀も収益的な顧客でなくなったとのこと。
2012年の予想では、相変わらず勝ち組外銀にディールは集まるだろうが、2011年のようなボラティリティがなければ儲からないと。
・日本市場の外国為替フローの半分は、現在では個人向けのFX証拠金取引が占めている。そのシステムを先行して構築したところが収益を上げていた。最近証拠金取引でのレバレッジ規制が強化されたが、個人の取引は減らなかったとのこと。従って、大手のネット証券が海外の専業者を買収して本格参入する動きもあった。このように競争は激化しており、FX証拠金取引の収益性にも陰りが見えているようだ。しかも、証拠金取引は人材ニーズをもたらすものではなかった。
・外国為替の収益性の拡大により人材需要は強いものの、為替本部はグローバルマーケッツ部門に属していることから、人員の目立った増加は認められなかった。具体的な人材の動きとしては、一部の外銀が、縮小し過ぎていた人員を戻すとして数人のプロを採用していた。また、外資系から邦銀に移ったプロもいる。
・米国債を中心とする外債ビジネスでは、2011年前半までは米国と日本の金利差があったため、メガバンク等の日本の機関投資家が米国債を積極的に購入していた。そこで外資系金融機関が大きな収益をあげていた。しかし年後半には、米国金利が低下したことから販売も縮小したようだ。いずれにせよ、先進国の国債を扱っているのは欧米金融機関数社であり、人材採用も見られなかった。
(2)ノンフロービジネス
(a)クレジット投資とトレーディング
・2011年央までは、資金余剰と景気回復期待からクレジットものへの投資需要がみられた。グローバルにも「今がクレジットものの買い時」とするファンドや機関投資家があった。日本でも、一部の投資ファンドや投資枠を持つ外銀が拡大しようと準備し、採用計画もあった。ここではソーシングやクレジット審査のプロへの需要であった。しかし欧州危機の拡大で資産価格は下落したため投資家が損失を被り、そのビジネスは霧散した。現在でも、運用難に悩む地銀向けとしてクレジットリンク債やバンクローンファンドが組成されているようだが、大きなビジネスとはならず人材需要もない。
・日本でのクレジットトレーディングは大きくならない。理由は、社債引受のほとんどが邦銀系証券で占められており、邦銀がローンの代替として購入しているだけだからだ。従って、プライマリーに参加しない外資系はトレーディングが出来ず、顧客宛てセールスも活発でない。また、日本のCDS市場は歪で合理性がない。さらに世界のクレジット市場でも、国も含めて発行体の業績、債券格付け、CDS価格に連動性が見られず合理性がない。クレジット市場に合理性がなければトレーディングは成立せず、売り繋ぐだけのビジネスとなる。
・2012年では、欧州系銀行による資産売却が加速すると考えられるため、日本の銀行に提案する人材へのニーズが起こるかもしれない。既に売却は始まっているようだ。しかし東京での活動ではなく、売り・買いともロンドンや欧州で行われるとも言われ、日本でその人材需要が起こるかはわからない。
(b)デリバティブと仕組み債
・相変わらずデリバティブ/仕組み債ビジネスは不振である。売れたのは外国為替の仕組みが中心であった。しかし、邦銀が支店顧客の中小企業や個人に対して大量に販売したデリバティブ商品は、急速な円高で大きな損失を出している。結果、邦銀は大量のADR訴訟を抱えている。また、仕組みを提供した外資系金融機関も、反対取引での巨額のポジションで相当額の含み損を抱えているとのこと。従って、外資系金融機関のデリバティブのトレーディング、仕組み組成、サードパーティ卸、地銀やミッドキャップの事業法人宛て営業等、あらゆる職責で人材需要は見られない。さらに、今後のデリバティブ・ビジネスは、透明性を求める規制強化やIFRSによるデリバティブ会計基準の変更で、収益を得ることはさらに難しくなると考えられる。
・しかし現時点では、外資系金融機関のデリバティブ・ビジネスでの収益源は、依然として個人向け商品の組成が中心とのこと。また、一部の外資系金融機関は、生保にソルベンシーマージン問題や運用不振への対策を提案している。また、銀行の店頭デリバティブ取引での担保問題に商機があると。それらにアイディアと執行力のあるプロの発掘が求められる。
(3)株式関連
(a)日本株ビジネス
2011年末の日経平均株価は8,455円で、年間17.3%下落した。年末の株価としては29年振りの安値であった。現在、売買の過半は海外ヘッジファンドと個人のデイトレーダーであるが、国内機関投資家やヘッジファンドからの売買手数料率は極限にまで低下しており、デイトレーダーはネット証券で取引している。しかも、日本の株価はデフレ継続を反映していつまでも回復せず、東証一部銘柄全体のPBRは依然として1を下回っている。一部のヘッジファンドがPBRやPERを見て割安株に投資したが失敗した。日本の国内証券会社の全収入に占める株式委託販売手数料の比率は依然として高いが、手数料収入は低下の一途を辿っている。
そのような環境下で、一部の外資系が日本株の人材を採用したが、全体としてはさらにリストラが進んでいた。
(b)エクイティアナリスト
・上記の通り日本株の営業やトレーダーの人材需要はないが、折々、アナリストの採用はあった。即ち、海外の機関投資家は世界の8%程度を占める日本のGDPの大きさに鑑み、ポートフォリオに日本株を一定比率組み込まなければならない。また、海外ヘッジファンドが日本株を投機の対象にしている。ここで割安株や成長株を買いたいとのニーズが出る。そのニーズへの対応で、折々アナリストに対する人材採用が行われた。
・具体的には、グローバル化を急ぐ日本の某大手証券会社が多数のアナリストを採用し、一部の欧州系証券会社が海外からの要請に応えるため人員を増やした。カバー対象企業を増やすとのこと。
5. ヘッジファンド関連
・2011年の世界のヘッジファンドの平均的な運用成績は、2008年以来3年振りのマイナスとなった(ユーリカヘッジ指数は4.1%低下)。株価下落や為替・商品市場の混乱で損失を出したファンドが相次ぎ、投資家の解約も加速しているようだ。残高は1.72兆ドル(138兆円)と2兆ドルを下回っている。
・日本の株や債券で運用されるファンドが健闘している。2011年の成績は1%のマイナスで、全体の4%のマイナスと比較して底堅い。和製ヘッジファンドの立ち上げも見られた。彼らは、リーマンショック以降の混乱を乗り切った第三世代のファンドマネジャーで、バブル期の上げ相場を知らず、最新の理論と複雑な運用技術を駆使すると。
その中で、個人向けのヘッジファンド型投信が注目されている。ヘッジファンド型投信の純資産残高は、リーマンショック後大きく減り1,500億円程度に減少したが、最近ではリーマンショック直前の4,000億円に迫っていると。人材の動きでは、わずかであるが、ブティック・ヘッジファンドで営業担当の採用があった。
個人向けのヘッジファンドはネットで売る動きもあり広がりを見せているが、現時点では、ヘッジファンドが個人の資産運用の対象として根付いているとは言えない。関連の人材需要もこれからだろう。一方、某国内資産運用会社が、執行コストが嵩むとしてヘッジファンド運用から撤退した。
6. 資産運用
・外資系資産運用会社は、リーマンショック直後に広範なリストラを断行したが、その後、個人の投信購入意欲の急回復を受けて投信関連での広範な人材採用があった。また投資顧問業でも、運用モデルの見直しによる新しい運用・マーケティング戦略に基づく人材採用があった。従って、資産運用業では、投資銀行部門やグローバルマーケッツ部門などのセルサイドに比較して、顕著な人材需要の回復が見られた。
・しかし2011年後半では、大震災という国内要因に加えて、ギリシャに端を発した欧州危機という海外要因により、2010年以降回復基調にあった資産運用各社の収益が悪化に転じた。従って2011年後半の資産運用業では、それまでヘッドカウントがあった人材の採用計画も凍結されるなど、動きの鈍いものになってしまった。さらに、一部の外資系運用会社はフロント(営業・運用)、ミドル、バックオフィスで全般的な人員削減を行った。
・ただこの状況下でも、少ないながらも、退職者の補充や次の世代を担う有望な若手への人材ニーズはあった。
・日本の信託銀行や資産運用会社は、海外での運用会社の買収や資本提携を積極的に進めているが、この動きに関連する人材ニーズは聞こえてこない。
(1)投信ビジネス
・上記の表(投信協会発表)に見られる通り、月間42本程度の新規ファンドが設定され、2011年末のファンド数は4,196本となっている。しかし、2011年末での公募投信の純資産残高は57.3兆円で、前年比6.4兆円減少した。これは、過去2年間でのピークであった2010年4月の残高から10兆円近くの下落であった。従って、信託報酬を大きな収入源とする運用業界の収益環境は厳しいものがあった。それが2011年後半の資産運用ビジネスにおける人材市場を直撃した。
・上記のように厳しい投信ビジネスでの人材採用では、「どのようなファンドが売れるか」「どのよう売ったら良いか」「売るためにはどのような資料を作れば良いか」といった、きちんとマーケティングが出来る人材が求められていた。どのようなビジネスでも商品(運用)が悪い状況では、マーケティング力や営業力が求められる。しかし現実には、広報やプロモーションの専門家はいても、"プロダクトやマーケットを理解し、セールスストーリを考案し、それに添った販売資料を作成し、プロモーション出来る"人材は少ない。
・投信ビジネスは機関投資家宛てとは異なり、魅力的な投資商品の開発に成功すれば短期間で好業績をあげることが出来る。従って、そのアイディア(目先を変えた投信の開発)をもたらす人材が常に求められている。
・2011年までの売れ筋投信は、通貨選択型や不動産投資信託などの高分配型投信が主流であった。しかし、これらの商品に内在するリスクを理解して購入する個人投資家がどの程度いるか?この問題に対応するための投資家教育や販売員教育のための人材採用が期待される。
・急激な円高やエマージング市場の混乱で、投信購入者のほとんどが損失を抱えており、今後販売会社へのクレームが急増すると懸念される。先日金融庁は、金融機関に対して投信での過剰な分配の禁止とリスク説明の徹底を指導した。この混乱が運用会社にどのように跳ね返ってくるか注視を要する。
・投信営業で肝要なことは販売後の販売会社や個人投資家宛てケアである。外資系運用会社は販売金融機関の本支店に出向き、投資家宛てセミナーを支援し、販売員教育を行わなければならない。しかし各運用会社はコスト縮減のため人員を絞っていることから、その対応に苦慮している。もし投信販売が回復する場合は、その人材需要が出て来ると考えられる。
・苦戦する日本の投信業界であるが、投信が日本の家計の金融資産全体に占める比率は3.1%で、米国の11.7%、欧州圏の7.1%を大きく下回っている。個人の資産運用支援のためにも、また個人金融資産の一部をリスクマネーに誘導し日本経済を活性化させるためにも、投信に関わる人々のいっそうの奮闘が期待される。
(2)年金/機関投資家ビジネス
・2011年後半では、年金、金融機関宛て共に人材の動きはほとんど見られなかった。2011年の初頭までは、一部のグローバル資産運用会社が従来の運用方針を見直し、新しいバランス型運用としてグローバル株式、グローバル債券、エマージングもの、クオンツ、オルタナティブ等、多様な資産の運用を提案出来る体制を構築していた。日本法人がその戦略に対応してグローバル人材を探していた。しかしその後、資産運用業のパフォーマンスの悪化のためか、そのような人材ニーズは聞かれなくなった。
・野村総研の試算によると、運用会社に大きな収益をもたらす機関投資家である日本の年金基金の金融資産額は、2011年3月末では264兆円(公的年金:約171兆円、企業年金など:約92兆円)である。残高は前年比で8兆円減少しているが、これは、運用損に加え厚生年金での積立金の取り崩しがあったことによる。少子高齢化のトレンドを受けて年金基金の資産額は今後も減少する。
一方金融機関も、約764兆円(全国銀行:258兆円、信用金庫・信用組合:63兆円、ゆうちょ銀行:175兆円、生保:171兆円、かんぽ生保:77兆円、損保:20兆円)と大きな金融資産を有している。しかし金融機関は短期運用が中心であり、かつ、BIS規制や国際会計基準の変更に対応して資金を低リスク債券などの安全資産へシフトしているため、資産運用会社にとっての収益性は小さい。
従って、年金基金や金融機関宛て資産運用ビジネスでは、リーマンショック直後のリストラから人材を戻すという大きな傾向は見られなかった。
(3)運用部門
・欧州危機を起因とする世界株安状況から脱却出来ない日本株の運用では、引き続き、人材ニーズが起こることはなかった。
・リーマンショック以降にニーズがあった海外資産に関わるプロダクトマネージャーや、IFRS導入に伴うリスクヘッジのソリューションマネージャーといったポジションでの採用も、最近では少なくなった。採用は一部で、次世代を担う若手宛てが見られただけであった。
(4)オペレーション部門、その他
・日本国内で運用部門を持つ外資系運用会社が少なくなる傾向の中で、度々報告した通り、オペレーション部門は、コスト削減のため、引き続きバックオフィスのBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)専門会社へ業務移管を進めていた。従って人材の採用はほぼなかった。
・コンプライアンス部門やリスク管理部門での人材の動きも限定的であったが、今後は、コンプライアンス部門での若手人材の枯渇が問題になってくると考えられる。
(5)証券会社による私的年金基金宛てビジネス
・年金基金宛てビジネスは本来資産運用会社の領域だが、一部の外資系証券会社が収益化を試みている。このビジネスは金融危機前にリーマンブラザーズが始めたもので、海外の高利回り証券やファンドを私的年金に提案する。年金の負債側からの要求利回りは総合型で6%、単独型で4%といわれている。伝統的運用でこれを超えることは不可能であるが、そのニーズに証券会社が応えようとするものである。
私的年金の資産総額は100兆円弱で、2,500基金ある。内、1,000億円以上の資産を持つ基金は100程度あるとのことで、これらがターゲットのクライアントである。アプローチは、運用や管理を受託する資産運用会社、生命保険会社、信託銀行に提案する場合(サードパーティ卸)と、私的年金に直接提案する場合がある。2年前にゴールドマン・サックスが着目して大きく儲けたといわれ、他の外資系証券会社が追随した。しかし、一部を除いて収益を上げることは至難の業であったようだ。理由はさまざまだが、年金基金での運用業者の選定は年に一回であり契約獲得までに年月を要すること、適格な営業担当者が採用出来ないこと等である。
・証券会社のこのポジションの候補者は、証券会社のルール(証券会社の収入は基本的に販売した時点でしか発生しない。従って一年毎に業績評価される)を理解し、年金基金(または運用会社)に強い顧客ベースを持ち、年金制度を熟知して、年金基金の運用ニーズに適合した証券やファンドを提案出来るプロとなっている。また、企業型年金をターゲットとする場合は、親会社の事業法人との親密な顧客関係を持っていることが条件となる。これらのすべての採用条件に適合するプロは極めて希少である。しかし、このポジションでの潜在的な人材需要は強い。
(6)資産運用業への提言
・野村総研によると、個人、金融機関を含む各種法人や年金基金が保有する金融資産は全体で約1,620兆円と推定されており、その内、資産運用会社が運用委託を受けている金額は約340兆円で、全体の2割に過ぎない。しかもこれは過去5年間変化がない。運用ビジネスに携わる方々の奮起を期待したい。
・前号でも報告したように、資産運用ビジネスは1990年代後半以降歴史的な転換期にあると指摘する人も多い。日本の経済成長には、個人、法人(年金基金、金融機関、事業会社など)が蓄積した金融資産の有効活用が必須であるが、そのためには、どのような資産で運用すべきか、どのような人材が投入されるべきかが問われる。しかし資産運用業として、この問題に対して十分な対応がされているとは言い難い。その戦略が見つかると、運用業界全体に次の成長機会がもたらされると考えられる。
・日本の個人投資家も年金等の機関投資家も、グローバルな観点から見ると、"皮肉を込めて"「独特な投資家」と表現されている。従って求められる人材は、ドメスティックな投資家とグローバルな投資商品をうまく繋ぐことが出来るプロである。
・2000年代前半に新卒として運用会社に入社し、現在各社で活躍している若手の中には、学生時代から運用に慣れ親しみ「運用業界で働きたい」と高い志を持つ人も多い。彼らが日本の運用ビジネスの"次世代を担う"と期待されるが、グローバルな観点からキャリアを構築して欲しい。
・外資系資産運用会社の経営者には、"後継者の育成"に一段と注力して欲しいと考える。外資系運用会社では新卒採用が少なく、大半は外部採用に依存している。しかし、現在、外資系金融機関一般に対するイメージが悪化しており、日本の金融機関から外資系へ転職したいとする若者が減っている。これは、勿論彼らの保守性にも起因するが、採用側にも問題がある。リストラを頻繁に繰り返したり、若手教育をおろそかにすると優良な若手の採用が出来ず、自らを苦しい立場に置くことになる。
・世界の金融界では「総合金融業化」の見直しが行われているようだ。欧州で進められている商業銀行と投資銀行の分離もそのひとつである。1990年代の後半から、欧米の巨大銀行はグローバルな総合金融業化を進める流れの中で、資産運用業にも進出した。彼らは資金力を使って複数の運用会社を次々と買収し、資産と人材を獲得した。しかし買収後、統合した複数の運用会社の投資哲学や投資スタイルなどの違いが考慮されず、運用の質よりも運用資産の規模が重視された。結果、自由な発想による個人の能力の最大限の発揮が求められる資産運用業と馴染めず、資産運用部門の収益性が低下した。現在、欧米の一部の巨大銀行は、資産運用事業の売却を検討しているとのこと。今後それらの動きを注視する必要がある。
7. 個人富裕層ビジネス(PB)
・当社は日本において富裕層ビジネスは拡大すべきだと考えている。また、いくつかの外資系プライベート・バンク(PB)本社も日本市場に強い期待を抱いている。しかし現実には既存のPBやプレミア各社は苦戦している。先日、HSBCが日本のPB部門をクレディスイスに売却すると発表したが、その他の外資系金融機関のPBやプレミアも売りに出されているとの噂である。
・富裕層ビジネスが日本で根付かない理由はさまざまであるが、@高い税率に加え、厳しい税制や法規制により富裕層が持つ多様なニーズに対応出来ないこと。個人富裕層からは資産運用に止まらず、税、相続、絵画やワイン等の趣味までさまざまな相談を受けるが、そのいずれにもPBが直接関わることを法・規制が許さない。非金融サービスの提供はコンプライアンス上禁止されているが、これはスイス等海外でのPBと大きく異なる。A日本の金融機関が個人取引において圧倒的に高いシェアを堅持していること。日本の金融機関の経営者は、依然として「顧客には企業とリテール個人しかいない」と見ており、その中間に「富裕層」という独特のマーケットがあることを理解しない。従って、日本の金融機関は富裕層をターゲットとした戦略を構築出来ない。また、社会的な背景として、元々富裕層ビジネスは格差社会のビジネス(北欧には富裕層ビジネスは存在しない)とされ、日本では「平等主義」により、個人を差別化するビジネスは受け入れられないと見られている。B外資系PB各社は預かり資産を増やすために優良なリレーションシップマネージャーを求めているが、採用基準が現実的でなく、他社や他のビジネスからの採用が難しいこと等である。
・日本の個人金融資産は依然としてグロスで1,400兆円余りあり、それには富裕層の巨額の金融資産も含まれている。日本経済の活性化のためには、その一部をリスクマネーに誘導して有効活用しなければならず、その牽引車のひとつがPBである。この観点から、PBが日本の富裕層に対する戦略や人材採用方針を抜本的に見直し、拡大して欲しいと期待している。
以 上
代表者のプロフィール:
小溝 勝信(こみぞ かつのぶ)
1968年、東京大学教養学部国際関係論分科を卒業し、住友銀行(現三井住友銀行)に入行、主として国際部門に従事した。1984年に外銀に転じ、ファースト・シカゴ銀行東京支店の事業法人部長に就任した。人材コンサルティングに転ずるため、1989年、米国の大手ファームの一つであるホイットニー・グループ日本支社に入社し、副支社長に就任した。1993年、日本型のエグゼクティブ・サーチの創設を目指してヘッズジャパンに転じ、金融部門マネジング・ディレクターに就任した。2004年、エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社を設立した。
このレポートは、筆者がヘッズジャパンで1994年以来、半年毎に報告していた「外資系金融機関の最近の人事事情について」の連続版である。
エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社(ESP)のプロフィール:
小溝勝信が永年の経験と主張の集大成として2004年に設立した。日本の金融人材市場に初めての、本格的な、日本版の「エグゼクティブ・サーチ・コンサルティング」の創設を志す。
詳細はホーム・ページ(http://www.espartners.co.jp)をご参照頂きたい。
※本稿の無断転載を禁じます。詳細は弊社までご照会ください。
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