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半年毎レポート

平成23年2月 第13号 (日本語版)

金融市場の最近の人事事情について

第一部 金融雇用市場での「ミスマッチ」の様相

第二部 金融ビジネス別の人材需要の様相

エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社
代表取締役 小溝 勝信


- 目次 -


はじめに

第一部 金融雇用市場での「ミスマッチ」の様相



3.提言

第二部 金融ビジネス別の人材需要の様相


エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社(ESP)のプロフィール

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はじめに


 株価で表される世界経済は回復の兆しを見せており、世界的に金融機関の収益も改善している。しかし日本の雇用状況は改善しておらず、完全失業率は5%台に高止まりしており、パートや非正規雇用も加味すると、実質的な失業者数はさらに多くなる。金融人材市場、とりわけ外資系金融機関での人材需要は引き続き低迷したままで、現在でも採用をフリーズしたり、リストラしている金融機関もある。
 今回の『レポート』は、金融人材市場の雇用状況について当社のデータを分析し、金融機関及び金融人材の双方が、環境の変化に対応出来ていない「ミスマッチ」の実態を報告する。


 当社は、これまでの『レポート』で08年3月〜10年6月の間、外資系金融機関(『レポート』では外国資本が所有する銀行・証券会社・資産運用会社・ヘッジファンドとプライベート・エクイティ等の投資会社を指す)の従業員数は、28,481人から23,724人へ4,757人減少したと報告した。しかし、現在でもリストラが行われており、外資系金融機関の従業員数は20,000人以下に縮小しかねないと懸念している。90年代からリーマンショックまで、外資系金融機関は日本の金融市場に金融先端商品を持ち込み、グローバルなネットワークと巨大な資金力によって日本での「投資銀行業務」をリードしてきたが、今やその役割を終えようとしている。外資系金融機関に代わり、日本の金融機関が本格的な投資銀行業務に参入し、リストラされた金融人材の受け皿となれば問題は無いが、メガバンクはいずれも「商業銀行業務」中心の経営から脱却せず、成長戦略に必要な「リスクマネー」の供給に本腰を入れていない。ひとり野村証券がグローバルな投資銀行化を目指しているが、まだ「道遠し」の感がある。


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第一部 金融雇用市場での「ミスマッチ」の様相

1.当社のデータによる失業と人材需要の定量分析

「実質失業者数」

 当社は46,626人の金融プロのデータを保有しているが、そのデータから「現在、求職中の人」と「就業しているものの、不本意な雇用条件であるため、新たに金融機関への転職を希望している人」の合計466人を「実質失業者数」とした(これらの人々は転職・就職先を求めて日々活動していることから、当社は現時点での正確な状況を把握しているわけではない。しかし、直近6ヶ月以内に上記の状況を確認出来た人たちである。なお、「実質」失業の判定は担当コンサルタントが行った)。なお、本『レポート』では構成比率の図表だけを示す。


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「人材需要数」

 当社は、多くの外資系金融機関や日本の金融機関から人材紹介の依頼を受けており、現時点でのポジション数106件を「人材需要数」とした(リテーナーベースからコンティンジェンシーベースまでのアサインメントを含み、採用ニーズの強さでウエイトをつけずに一律に計算した)。


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「結果分析」

@ 金融プロダクト別のミスマッチ

 金融プロダクト間の需給のミスマッチの状況は図表1と図表5との比較に表れている。
 「グローバル・マーケッツ(債券、為替、クレジット、コモディティ、株式、それぞれのデリバティブ、調査や格付けを含む)」は、「実質失業者」の構成で39%と最大であるが、「人材需要」での構成比は17%にとどまる。このプロダクトでの多くのプロはいまだに自宅待機している。内訳では金利・為替系のプロが最多である。
 「企業金融(外資系の投資銀行ビジネス、商業銀行ビジネス、不動産等の証券化を含む)」は、「実質失業者」で構成比27%を占める一方、「人材需要」の構成比は31%であった。ただし、「企業金融」にはさまざまなビジネスが含まれており、各分野別での状況は区々である。現在、不動産関連(証券化も含む)の金融プロへの需要はほとんどない。一方、M&A関連では需要が強い。
 「資産運用」は、「実質失業者」での構成比は11%だが、「人材需要」では35%と最大である。しかし、このプロダクトではアサインメント件数は多いが、必ずしも強い需要を意味していないのかも知れない。
 「富裕層ビジネス(プライベート・バンク/リテール)」は、「人材需要」での構成比は10%に過ぎないが、実際には人材需要が強い。これは、適格な候補者のサーチが難しいため、アサインメントとして顕在化していないことによる。
 また、プライベート・エクイティやヘッジファンドへの「人材需要」はまだ回復していない。


A 内・外資本別のミスマッチ

 図表4でみられるように、「実質失業者」の発生源は77%外資系金融機関である。一方、かつてほとんどの「人材需要」は外資系金融機関からであったが、図表6でみられるように、現在ではその構成比は54%に止まり、日本の金融機関とほぼ拮抗している。外資系金融機関のわが国市場での戦線縮小の傾向がうかがえる。


B 年齢別のミスマッチ

 「実質失業者」を年齢別にみると、図表2から明らかなように、45歳以上が構成比で47%と、ほぼ半分を占めている。現在の金融人材市場では高齢者の転職は難しいことが分かる。



2.失業の原因分析

(1)労働経済学による分析の限界

 失業に関して労働経済学の教科書によれば、「ケインズ経済学」では、失業は有効需要不足が原因であるから総需要政策が有効としており、一方「ワルラスの一般均衡モデル」では労働市場は完全競争状態にあり、労働者は均質で、需給は賃金水準により均衡することになっている。これに対して、昨年、ノーベル経済学賞の受賞対象となった「サーチ理論」では、労働者の能力や意思は多様であるから「ミスマッチ」が発生し、求人側と求職者による複雑なサーチ活動を通じてニーズがマッチングするとされている。
 しかし、金融プロの失業は複雑な要素が絡み、これらの理論では十分に解明出来ない。即ち、外資系金融機関の金融プロの賃金は、同人が稼ぎ出す収益の一部ペイアウト(成果主義)であるが、労働経済学がいう賃金=限界生産性→労働需要曲線となっていない。金融プロが創出する収益に対しては、定量評価だけでなく、定性評価も行われる。長期評価から短期評価まである。その対価は賃金だけでなく、昇進や権限の拡大もある。しかも同じ金融ビジネスでもM&Aと債券トレーディングでは儲け方が違うし、求められる能力も異なる。従って、これらの能力は一律の方法では評価出来ないし、まして能力の代替は難しいとされる。これらの理由で、労働経済学の理論は「高度の専門性を持つ金融プロ」に対しては単純に適用出来ないものと考えられる。
 また、10年の「財政金融白書」等での失業要因分析では、原因を「需要不足要因」と「構造的・摩擦的(ミスマッチ)要因」に分けており、多くは、日本の5%台の失業の2/3は「構造的・摩擦的要因」によるとしている。当社はこの二つの要因は定量的には区分出来ないと考えているが、この『レポート』では、定性的に「需要不足失業」と「構造的・摩擦的失業」に分けて分析する。


(2)「人材需要不足」の背景

@ 投資銀行ビジネスモデルの変化

 リーマンショック後、外資系金融機関は従来の投資銀行ビジネスモデルの見直しを余儀なくされ、収益が低下している。確かに一時、欧米大手金融機関の投資銀行部門収益は回復していたが、その主因は各国中央銀行による低金利・流動性供給政策の下でのディーリング部門の巨額の収益によるものであり、投資銀行業務が全般的に回復したわけではない。
 このことは、ゴールドマン・サックスの収益推移をみれば明らかである。同社の10年度決算は前年度比減収・減益となり、かつ、前年度に全収益の79%を稼いだTrading & Principal Investments部門が75%に低下している。さらに、同社は今後の顧客重視の姿勢を表すため、同部門をInstitutional Client Services部門とInvesting & Lending部門に分離したが、前年度に全収益の72%を稼ぎ出していたInstitutional Client Services部門は56%に縮小している。逆にInvesting & Lending部門は10年度で全収益の19%を占め、同社の収益構造は依然として自己資本を投入するビジネスに依存していることが分かる。今後、ドッド・フランク法やバーゼルVの規制強化により自己資金を使ったトレーディングや投資が制限されるため、この収益源は大幅に縮小すると考えられる。他の大手金融機関の決算も同様で、いずれも債券や株式のトレーディングの収益低下が足を引っ張っている。この結果、今後、大幅な収益減が予想され、リーマンショック以前に20%台とされていた大手金融機関のROEターゲットは、現在10%台に引き下げられている(10年度のゴールドマン・サックスのROEは14%)。このようなビジネスモデルの見直しは金融人材への需要を低下させる要因と考えられる。


A 日本の金融部門の付加価値創造力の低下

 日本の金融ビジネスの付加価値創造力(GDP)が低下している。金融・保険部門のGDPは06年の35.2兆円から09年に27.4兆円に急減している。一方、同部門の就業者数は06年の177.2万人から09年に184.7万人に増えている。つまり日本の金融機関は全体としてリストラしておらず、人材過剰といえる。従って、新規の人材需要はきわめて弱いと考えられる(詳細はNPO法人のホーム・ページでの分析をご参照下さい)。
 また、日本の金融業界で圧倒的な地位を占める商業銀行はリスク回避の傾向が強く、メガバンクの収益力(ROE、ROA)は欧米金融機関と比べて著しく低い。メガバンクもリスクマネーを扱う投資銀行業務部門を強化しなければ、収益力は向上せず、人材需要を創出することは難しい。


B ジャパン・パッシングの進行

 日本経済は「失われた10年」を経ても、依然として低迷基調から脱却できず、海外からは「リスクを取らない国」、「リスクを取るに値しない国」とみなされている。したがって、外資系金融機関は日本法人の陣容を縮小させ、経営資源を成長著しいアジア市場にシフトしている。東京証券取引所のアジアトップの地位も香港、シンガポール、上海に奪われつつある。日本の大手証券ですらアジアフォーカスを鮮明にしており、大手5社のアジア拠点での人員数は全従業員の1割を突破しているとのこと。このような「ジャパン・パッシング」の下では、金融人材に対する需要は出てこない。


(3)「ミスマッチによる失業」の背景

@ 金融プロダクトでのミスマッチ

 図表1と図表5でみたように、金融プロダクト間で人材需給に大きな懸隔がみられる。これに対して金融機関、金融人材の双方が対応出来ていない。また、金融危機後、金融はエージェンシー・ビジネスに回帰するといわれている。すなわち、フィナンシャル・キャピタルに依存した経営から、今後、ヒューマン・キャピタルを重視する経営に回帰するという潮流に対し、金融人材にどのような能力が求められるか明らかでない。これが採用現場で混乱を招いている。


A 年齢でのミスマッチ

 図表2でみたように、「実質失業者」の半分近くは45歳以上の金融人材で、彼らの職場復帰は容易ではない。日本企業では年齢の有為性が評価されるが、外資系金融機関では必ずしもそうではない。実際、外資系金融機関のMD(マネジング・ディレクター)の多くは30歳代である。MD の年齢が若年化しているのにはさまざまな理由があろうが、筆者は、欧米本国の経営者が「若いMD は年収が比較的低く、将来、日本から撤退する場合、使い捨ても可能」と考えているのではないかと疑っている。また、これら30歳代のMD に、難しい環境下での経営の舵取りや、顧客企業の経験豊富な年長の経営者への対応が十分出来るとは思えない。
 日本の金融機関では基本的に「年功序列」が堅持されているので、外部から年齢の高い金融人材を採用することはまず無い。


B 報酬条件でのミスマッチ

 外資系金融機関の収益力が低下しているが、金融プロはかつての高額報酬が忘れられず、報酬水準でもめることが多い。また、報酬決定のスキームも変更されつつある。欧米各国政府による「ボーナス規制」への対抗措置として、外資系金融機関では年収におけるボーナス比率を下げたため、逆にベース・サラリーが平均で5割程度引き上げられた。30歳代半ばのVP(バイス・プレジデント)の場合、かつてベース・サラリーは16〜17百万円程度であったが、現在は20百万円台にアップしている。しかし、総人件費は引き下げられるから、ボーナス支給分は減るはずである。「現金でのボーナス支払いが短期的な収益至上主義を助長した」との批判に対応するため、ボーナスの支払い繰り延べとか、売却や執行に制限付きの自社株やストックオプションのケースが増えている。また、赤字決算となった場合、支払ったボーナスの返還を請求出来る「クローバック条項」も付けられている。
 現在、外資系金融機関では昨年の実績に対するレビューが行われているが、投資銀行部門は減益であるから年収は下げられる方向にある。一方、「ボーナス規制」によりベース・サラリーは上げられているから、ボーナス支給額は前年比減るものと考えられる。しかし、米国の金融機関の決算を見る限り、投資銀行部門の収益が低下する中で人件費総額はさほど低下していない(従って人件費比率が高まっている)。これらを背景として、外資系金融機関日本法人でのボーナスが前年比どの程度下がるのかを注視する必要がある。既に現場で混乱が起きている。
 かつて外資系金融機関の金融プロは、受け取るべき年間報酬額を自ら稼いだ収益の一定比率として推計出来た。トレーダーであれば自己のブックの収益が、営業職であればセールスクレジットが推計のベースであった。しかし、最近、このフォーミュラが崩れており、ペイアウト比率も低下している。これに不満を示す金融人材は、外資系金融機関で採用に至らないケースが散見される。


(4)「ミスマッチによる失業」の原因

「ミスマッチ失業」の原因は多岐にわたり、しかも需要側と供給側の双方の要因が相俟って発生する。そこで、需要側(金融機関)の行動に起因する原因、供給側(金融人材)の行動に起因する原因、日本の転職市場のあり方に起因する原因、の3つに分けて説明する。

(A)需要側(金融機関)の問題

@ ピンポイント採用と過度の実績依存
 外資系金融機関は、厳しい環境下でも高い収益をあげなければならないことから、採用の基準に極めて高いハードルを設けている。そのハードルとは「当該ビジネスでの長期の経験、大きな実績、高度のスキル」である。この条件を満たす人材だけをピンポイントで狙っているが、この条件をすべて満たす人材は極めて稀で、その発掘は難しい。
 そもそも、「過去の大きな実績が、急激に変化する環境下で将来の高い成果を保証するのか」という基本的な疑問がある。長年に亘って人材サーチに従事している当社としては、「環境の変化に伴い、既存の専門性は急激に陳腐化する。したがって採用に際しては、ビジネスの本質を捉え、普遍的で汎用性の高い能力を重視すべき」と考えている。外資系金融機関の採用担当者にはそれを「見抜く能力」が求められるが、極めて難しいのが現実である。
A 採用担当者の新規ビジネス分野での人材を見抜く能力の不足
 最近、ビジネスの変化に伴い新しい人材需要が出てきている。たとえば、個人富裕層ビジネスでのプライベート・バンカー、複数のセクターを担当出来るカバレッジ・バンカー、デリバティブを組み込んだキャピタル・マーケッツでのプロ、セルサイド出身の総合型年金宛て営業担当者等である。
 ところが、これら新規ビジネス分野の経験者は稀少で、採用は容易ではない。採用担当者は、その一部のビジネスに専門性を持つ候補者の中から、適材を選ばなければならないが、「見抜く能力」が欠けているため、結局は当該新規ビジネスの経験者を探すことになる。これは「無いものネダリ」で、いつまでも見つからない。
B 依然として強い外部人材への拒否反応
 メガバンクは投資銀行業務強化のため、外資系金融機関出身の金融プロを採用する動きをみせているが、内・外金融機関の間には、依然として企業文化、経営手法や報酬制度に大きな違いがある。日本の金融機関は、証券子会社も含めて依然として「生え抜き」中心の人事体系を崩しておらず、外部採用者は「よそ者」として処遇されている。従って、経営レベルへの出世が望めないことはもとより、入社の際も、自社の企業文化や慣行に合わせるように求められる。確かに最近、一部の金融機関の経営者は外部採用によってグローバルな企業文化を築こうとしているが、中堅幹部が自らの権益縮小を恐れてか抵抗する事態がみられる。さらに、雇用条件も外部採用者は「期限を定めた契約」で、報酬は成果対応だが、年収にキャップが設けられる場合もある。
C 外資系金融機関の本社指令による混乱
 外資系金融機関の日本法人は本社指示の下で運営されているが、最近では本社からの指示が錯綜し、採用現場に混乱を引き起こしているケースが目立つ。それにより、たとえ本社からヘッドカウントを取得しても、突然、採用中止の指示が下りてくることがある。また、現在、外資系金融機関ではパフォーマンス・レビューが行われている最中だが、例年に比べて遅れており、今期の方針も明確ではないようだ。


(B)供給側(金融人材)の問題

@ 求められる専門性の変化への対応不足
 金融人材が保有している専門性は環境の変化によって急激に陳腐化する。金融人材はこの変化に柔軟に対応し新しい専門性を具備しなければならないが、それは容易なことではない。日頃から普遍的で汎用性のある能力の向上に努めなければならない。
A 高額報酬への拘り
 多くの金融人材は、依然として最大の転職動機として「高額報酬」を挙げている。しかし、本来、金融のプロは「顧客の企業価値の極大化が金融のミッションであり、報酬はその成果の対価に過ぎない」ことを理解すべきであろう。「報酬目当て」の転職で失敗した例は数え切れないほどある。もっとも最近では、自らにミッションを課して、キャリア構築を志す若者も増えていることは心強い。
 また、年齢の高い金融プロの中で、かつて得ていた高い地位に固執する人がいる。しかし、外資系金融機関では世代交代が進んでおり、ライン部長のポストは若手のものとなっていることを理解すべきであろう。
B 国内金融機関への転職忌避
 外資系金融機関で長く勤務したことのある金融プロは、外資系での就業に固執し、日本の金融機関への入社を嫌がる傾向がみられる。確かに外資系金融機関は報酬も高いし、新しい商品も多く勉強になり、企業文化や人事・報酬制度が成果主義で分かり易い。しかし、前記のように外資系金融機関は戦線縮小しており、外資系金融機関に限定すると、職場復帰の選択肢は狭くなる。
C 英語力の不足
 日本の金融機関が海外から撤退して久しいため、いまや英語力のある金融人材が少なくなっている。しかし、経済のグローバル化は「帰らざる河」であり、これからのビジネスでは英語力がなければ生き残れない。最近、国内金融機関への応募でも英語力不足のため門前払いとなったケースも目立つ。
D 「幸せの青い鳥」症候群  
 金融人材の中には、「自分を幸せにしてくれる職場」を探し続ける人がいる。彼らは、問題の所在が客体(職場の良し悪し)にあるのではなく、主体(自己を改革すること)にあることに気づかない。転職回数の多い金融人材によく見られる現象である。


(C)「転職市場」の問題

 当社はかねてから、適正な「転職市場」の創設の必要性を訴えている。日本でも金融人材の転職が頻繁に行われるようになったが、「市場」としての要件が欠落しているため、適正な転職が行われず、失業の「摩擦的要因」となっている。以下で、金融人材市場の構造問題を整理する。
@ 情報不足
 「摩擦的失業」解決のためには「採用情報」と「求人情報」の双方の整備が不可欠であるが、元々、転職は極秘裏に行うことから、転職情報は金融商品のように自由に入手出来るものではない。重要なポジションになればなるほどその傾向に強い。金融プロへの情報不足を解決するには、適正な仲介業者が機能しなければならない。しかし日本の人材紹介会社は零細業者が多く、その責務が十全には果たされていない。また、過度な個人情報の保護も阻害要因となっている。
A 非合理な報酬条件
 日本の金融プロの報酬条件には、合理性がみられない。本来、「報酬」は金融人材が生み出す「付加価値」からの分配であるが、日本では適正な成果報酬体系が構築されていないため、フェアなプライシングとなっていない。特に日本の金融機関の報酬体系は相変わらず「年功賃金」であるため、外資系金融機関で実績のある金融プロの日系での採用や、逆に、日系から外資系金融機関への転職の際に、適正な折衝が行われない。これも「ミスマッチ」要因となっている。
B 労働法のダブル・スタンダード
 日本の労働法では硬直的な「解雇の4要件」がある。これにより労働者の解雇は、通常、ほぼ不可能である。これが労働の適正な流動化を阻止し、結果として日本経済の活性化を阻害している。日本の金融機関も同様で、低収益をワークシェアするため「年功序列」人事制度が堅持されている。
 一方、外資系金融機関ではリストラが日常茶飯事である。本来、労働法は国内強制法規で、外資系でも国内で事業展開する企業として一律に適用されるはずだが、「社会的相当性」という法概念を盾に、「外資でのリストラは可能」とされる判例がある。具体的には「合意による離職=自己都合による退職」という形でリストラされるが、事実上は「強制」的な雇用契約の解除=ロックアウト型の解雇である。多くの金融人材は人事部から、「他の人は応諾している。裁判に持ち込んでも良いことはない」という説得を受けサインしている。弁護士によれば、「リストラされても裁判に持ち込む人が少なく、外資系金融機関のリストラの法的な妥当性が確認出来ない」と。なお、日本の金融機関の中には今後のリストラに備えるため、「解雇要件」に「成果不足」を加えるように対策を検討していると聞く。
 筆者は、「適正な解雇」は必要と考えているが、法的根拠を明白にせず「事実上の解雇」が認められると、外資系でも国内金融機関でも「安易なクビ切り」が蔓延すると懸念している。
 上記のような内・外金融機関での労働法適用のダブル・スタンダードが、金融人材市場への不信感を増幅させている。

3.提言

今後のわが国が進むべき方向を下記の通り提言する。
@ 日本経済に対するペシミズムが蔓延しているが、日本には1,400兆円余りの個人金融資産と約200兆円の企業の手元流動性がある。事態がより深刻になる前に、官民あげてこの活用法を考え出さなければならない。
A 雇用問題の解決のためには新しいビジネスを興し、産業構造を変革しなければならない。そのためには「リスクマネー」を提供し、「労働の流動化」を進めなければならないし、さらにそのためには転職市場を「市場」として整備し、「ミスマッチ失業」を極小化させなければならない。
B 日本の大手金融機関は、商業銀行業務に過度に偏ることなく、リスクマネーを供給する体制を築かなければならない。そのためには「日本版」投資銀行業務の構築が不可欠である。外資系金融機関が日本を見限るのであれば、日本資本による投資銀行を創設すれば良い。
C グローバル化は必然の流れであるから、日本の金融機関も金融人材も、その流れに対応しなければならない。したがって「日本からの発想」を改め、「グローバルな視点から日本を見直す」姿勢が肝要である。
D 日本の硬直的な労働法はグローバルな流れに沿って改定されなければならないが、日本では人材の流動化市場が整備されていない現状、経営改善のために安易に人材に手をつけることは反対されなければならない。かつて企業がリストラを行う場合には、工場や金融資産等の処分を優先し人材の処分は最後であったが、いつしか、人材のリストラが先行するようになった。
E 今回の「金融危機」の勃発は「歴史的必然」である。これは、世界的な「規制緩和」の流れを決定付けた85年の「プラザ合意」が引き金で、その後、「グローバル・ベースでの競争の激化」「リスクテークに必要な巨大資本調達のための、大手金融機関同士の合従連衡」「技術革新の産物としての金融先端商品やIT化の進展」「新興国の貿易収支黒字化や、先進国の金融緩和政策による過剰流動性」「過度の短期株主利益中心主義」等が絡み合って発生したものである。今回の「金融危機」から学ぶべきは、「危機を引き起こしたファンダメンタルズの分析」の必要性である。歴史をみても、恐慌や戦争は特定の勢力が起こすのではなく、ファンダメンタルズの衝突(「超越的実在の動き」とか「上部構造と下部構造の矛盾」と呼ばれる」)による、いわば「歴史的必然」である。歴史の底流にある本質的なものの動きに焦点を当てて対応しなければ、世界は再び大きな危機に陥ることになる。

以 上

第二部 金融人材需給の現況

1.投資銀行ビジネス

 2010年における日本の投資銀行ビジネスは全般的には堅調であった。新聞報道によると、日本企業関連の手数料収入額は42億ドル(3,444億円)で、過去最高の09年対比3%減少したものの、過去3番目の大きさであった。ただし、プロダクト毎に事情が異なっており、人材需要も区々であった。

(1) 株式引受と債券引受

 10年の日本企業による株式での資金調達は件数ベースでは前年比19%増加したが、金額ベースでは約5兆4000億円で前年比10%の減少となった。三井住友FGやみずほFGでの大型増資があったものの、新たな自己資本比率規制への対応のための銀行の公募増資ラッシュが一巡したことから、金融機関全体の株式発行額は前年比20%強減少した。一方、大手事業会社の株式発行は、国際石油開発帝石や東京電力による大型増資を主因に前年比14%増加し、約2兆4000億円と4年ぶりの高水準となった。また、日本企業が海外で同時に公募増資するグローバル・オファリングも増加したため、資金調達を実施する企業は、グローバルな調査・分析能力を有する外資系金融機関を引受幹事に加える傾向が強まった。
 このため採用においては、内・外資本とも、グローバルに通用する金融プロに対する人材需要がいっそう強まり、株式資本市場部の採用現場では若手に加え、シニアな金融プロを求める動きがみられた。その中で銀行の増資は金額が大きいことから、引受獲得の成否は投資銀行部門の収益を左右するが、ここで大きな実績が無かった一部の外資系金融機関のトップが責任を問われたと聞いている。

 10年での社債の発行額は9兆4,100億円で、好調であった09年から21%減少している。その中で、社債の引受主幹事ランキングをみると、依然として国内証券会社による寡占状態にある。もともと外資系金融機関は、社債の引受手数料が低いためハイブリッドものやデリバティブを組み込んだ収益的なものに照準を当てている。このため、国内証券、外資系証券会社とも一部で、社債発行とデリバティブの両方の経験を持つプロが求められた。また、一部欧州系金融機関が債券資本市場部でヘッドクラスを採用した。リスクの高いBBB格の社債の発行も引受環境の改善を受けて増加したが、人材需要には反映されなかった。


(2) M&A

 世界全体の10年のM&Aは、金額ベース、件数ベースともに前年比20%近く増加し、07年以降の低下傾向に歯止めがかかった。特にアジアなどの新興国でのM&Aが急増し、全体の3分の1を占め、初めて規模として欧州でのM&Aを上回った。しかし、日本国内でのM&Aは、金額ベース(9.5兆円、前年比約16%減少)、件数ベース(約2,600件、前年比約10%減少)とも前年を下回った。ただし、そのうちIN-OUT案件は急増(金額ベースで前年比約85%増)しており、国内M&Aの3分の1を占めるまでになった。IN-OUT案件の増大は、日本企業が国内での成長余地が限定的とみて海外に活路を求めたもので、これを円高相場が後押したといえる。一方、IN-IN案件は大幅に減少(金額ベースで約40%減)しているが、これは国内での、一段落した事業再編や新分野への参入意欲の低迷を反映している。急増するIN-OUTのM&Aに対しては、外資系金融機関や大手国内金融機関が体制の強化を図っているだけでなく、ブティック系や海外支店網の少ない国内金融機関も、海外のM&Aハウスと提携してM&Aニーズに対応している。その中で、公表されたM&A統計では把握できないが、中・小型ながら、海外進出や提携のための案件が増えているようだ。企業へのアンケート調査をみても、国内上場企業の9割がM&Aを検討している。
 このトレンドを反映して、クロスボーダーのM&A経験者に対して、主として国内金融機関やブティック系M&Aハウスからの強い人材需要がみられた。外資系投資銀行による若手への人材需要は、09年後半から増えていたが、10年夏場以降やや頭打ちとなった。11年でもIN-OUTのM&Aは引き続き堅調に続くとみられるので、国内証券会社などからのグローバル人材への需要拡大が予想される。
 日本企業によるM&Aは拡大すると言われて久しいが、なかなか大きくならない。日本のGDPは世界のGDP合計の7〜8%あるが、日本のM&A総額は世界の4%程度に過ぎない。日本でM&Aが拡大しないのにはさまざまな原因があるが、日本企業の経営者に資本コスト経営意識が欠落していることが主因であるといわれる。明確な資本政策に基づく買収を行わなければ、買収の際、通常支払う約40%ものプレミアムを買収後に吸収することは出来ない。日本企業がいつまでもグローバル経営を忌避し続ければ、現在拡大しているIN-OUTのM&Aも早晩腰砕けになる。


(3) IPO

 IPOは、10年に件数ベースで22件と09年の19件対比増加したが、ピークであった06年の188件に比較すれば大きく減少したままである。一方、金額ベースでは、09年の573億円に比べて、約1兆3000億円と大幅に増加した。しかし、これは第一生命と大塚ホールディングスという2件の大型IPOが全体の9割以上を占めたためで、成長期待分野での新規上場の事例は相変わらず少ない。また、IPO銘柄のうち70%以上が、発行後、公募・売り出し価格を割り込むなど、09年に続いて低迷したままである。理由は区々であるが、日本ではIPO、ベンチャー・キャピタル、プライベート・エクイティ、起業支援マネーの循環が小さいことによる。従って、人材需要はほとんど聞かれなかった。


(4) カバレッジ・バンカー

 シティグループが日興コーディアル証券の一部業務を三井住友銀行に譲渡したことに伴う人員手当てや、外資系のシニアバンカーの退社に伴う採用などがみられたが、外資系投資銀行全体で採用需要が強かったわけではない。外資系金融機関がグローバル・ベースでの新しい経営戦略を策定し、日本戦略を進めることを期待したい。その中で、ゴールドマン・サックスのブランクファインCEOは、「今後は、ビジネスの中心を巨額の自己資本を使ったトレーディングから対顧客の手数料ビジネスに変更する。投資銀行業務は最も成長する分野である」と明言している。日本でも企業の手元資金は200兆円もある。今後は、これを有効に使った設備投資拡大に伴う資金需要が増加するし、日本企業によるIN-OUTのM&Aも引き続き増加傾向にある。人材需要の拡大に期待したい。
 企業が投資銀行を選定するに当たっては、従来どおり、主幹事やメインバンクとしての地位やグローバルなネットワーク、調査・分析能力が重要であるが、それに加えて、担当者個人の提案力や自社のニーズに対する応援体制を取っているかが、選定の基準になっているようだ。従って、求められる人材とは、単なるマンデート・ハンターではなく、顧客企業の資本政策全般に亘り的確なアドバイスが出来るバンカーである。プロダクトや業界知識及び海外との連携などにおいて高いレベルが要求され、英語力は必須である。これらの条件を備えた人材に対しては、国内・外資系を問わず強い引きがあり、高額の報酬が支払われる。採用側の選別指向が強まっている。
 最近の人材需要の中心は国内証券会社であり、10年後半に外資系投資銀行での経験がある人材に対する採用がみられた。国内証券会社は外資系金融機関のプロを雇用するために雇用条件を一部見直しているところもある。日本での外資系投資銀行ビジネスに限界を感じた一部のシニアバンカーは、国内証券会社への関心を示している。
 産業別では、日本企業による海外の資源獲得に向けたM&Aが活発化していると聞く。資源・エネルギー関連の専門カバレッジ・バンカーに対する人材需要の拡大が予想される。

2.プライベート・エクイティ(PE)

 PEはリーマンショック以降、低迷基調が続いている。レコフ社調べでは、10年の日本企業に対する投資会社のM&A金額は6,146億円で、03年以来最低であった09年の4,231億円対比45%増加した。しかし、ピークの05年の2兆92億円に比較すると、31%に過ぎない。一方、売却は1,152億円で04年以来最低であった。従って、外資系大型ファンドでの人材需要は低迷している。外資系投資ファンドにとって魅力的なのはアジアであり、ここでも「ジャパン・パッシング」がみられる。
 このようにまだ苦戦中のPE業界だが、最近では国内ファンドによる中小企業買収が活発化している。ごく一部ではあるが、これらの国内ファンドでの人材需要が、ソーシングやファンドレイジング担当者宛てなどでみられた。今後、PEがどの程度回復するかは分からないが、銀行が買収関連融資に対して前向きな姿勢を示し始めているので、環境は改善しているといえる。今後に期待したい。

3.不動産関連

 10年の不動産関連ビジネスでは、注目すべき案件がいくつかみられたが、全体としては引き続き低迷していた。09年にはまったく行われなかったCMBSの組成が、10年には5件440億円実現した。また、ブラックストーンがBNPやモルガン・スタンレーの不動産関連資産の取得に続いて、メリルリンチの不動産投資ファンドも取得した。9月以降は2年半ぶりに東京都心でオフィス空室率に下げ止まりがみられた。さらに10月以降、日銀によるJ-REIT購入により価格が急騰した。これに引きずられて、11年明け早々から立て続けにJ-REITの増資が行われ、物件取得に向けたエクイティ・マネーが積み上がっている。また、日本の銀行は引き続き既存ローンのリファイナンスに概ね応じているといわれている。これらはグッドニュースではあるが、まだ不動産市場全体に大きなインパクトを与えるまでには至っていない。日本国内のメザニンレンダーは引き続き枯渇しているため、オポチュニティ・ファンドも十分なレバレッジを得ることが出来ない。
 欧米投資家の日本における不動産市場でのプレゼンスは低下しているが、代わって韓国、台湾、シンガポール、マレーシア、中東などの投資家が日本への投資を活発化させている。ちなみにブラックストーンによる一連の不動産関連資産取得の裏にも、アジアのSWFが資金提供しているとの噂がある。金融危機以降、国内機関投資家は不動産投資においても流動性リスクを強く意識しており、投資対象を都心のランドマーク的な物件としていた。さらに、デットを使わず全額エクイティーでの投資も増えていると聞く。しかし、まだ都心など一部地域での動きに過ぎず、不動産投資の本格的な回復にはもう少し時間が必要なようだ。
 上記のような環境下では、不動産投資分野での人材需要は引き続き限定的である。

4.債券ビジネス

(1) フロー債券

 世界及び日本経済はさまざまな問題を抱えながらも回復基調にあるようにみえる。実際、10年10月初旬までは、主要国政府の景気下支えのための積極的な財政政策や超金融緩和政策で、債券市場に対する信頼感が回復し、金利は低下、クレジットスプレッドはタイト化していた。また、日経平均株価は10年末時点で前年末比3%下落したが、ドル建てでみた場合は約1割上昇し、リーマンショック前対比約1割高い水準に改善していた。その環境下で、メガバンク、生損保、年金、地域金融機関等は運用ポートフォリオの中で国内株式を圧縮する一方で、国債・公社債の保有比率を高めていた。実際、円債の購入では生保等の機関投資家が利回り改善を目指して超長期国債に対する投資を増やしていたし、外債の購入では、10年1〜9月の買い越し額は前年同期比6割増の20.9兆円に上り、買い越し額の6割は銀行部門であったとのことである。また大手生保も外債投資を増やしていたようだ。実際、債券売買の好環境の恩恵を受けて、日本の6大銀行の9月中間決算は前年同期比1.8兆円増えたが、この内、4,000億円は債券売買によるものであった。これにより国内・外資系大手証券会社は、国債、米国債、欧州国債といったフロービジネスの対顧客トレーディングで大きな収益を上げた。
 しかし、10月初旬を境に、日本の長期国債の利回りは0.84%で底打ちして反転し、12月中旬には1.27%を付けた。米国FRBは11月、6,000億ドルの長期国債購入という超積極的な量的緩和策(QE2)を発表したが、一方で発表された減税延長措置等による米財政赤字拡大と米国債の格下げ懸念から、10年もの米国債の利回りは10月初旬の2.38%から僅か2か月の間に1%以上上昇した。この中で、メガバンクや一部生保、地銀・信金の中には大きな損失を蒙ったところも多いと聞く。このため、フロー債券市場は、巨額の運用資金を持つ機関投資家と、恒常的に預貸率の低迷にあえぐ金融機関だけが参加するますます裾野の狭いマーケットとなっている。
 その中で、従来はプロの投資家に対して大量のロットを瞬時に捌く執行力を武器に、外資系証券会社が日本国債のマーケットメーキングを寡占していたが、最近では一部大手国内証券が巻き返しを図ろうとする動きがみられた。この背景として、外資系金融機関が経営資源を配分するにあたって投入コストやリスクキャピタルを本国通貨に換算する際、昨年来の円高水準が大きなネガティブインパクトを与えたことが指摘されている。そして、一部外資系証券会社では、対顧客トレーディングのポジション枠を大幅に削減されたところもあったようである。折から、外資系証券で、債券ビジネスに従事するフロントのプロに支払われるベース・サラリーは、09年以降、おおむね3割以上引き上げられたが、反対にインセンティブボーナスが抑制され、結局、ベース・サラリーとボーナスを合わせた年収額では頭打ちとなっている。また、外資系金融機関各社の経営がますます短期収益指向を強めており、フロントプレーヤーを全般的に若年化させる傾向が強まっている。このような環境に鑑み、国内金融機関にとっては外資系金融機関との「周回遅れ」を一気に取り返す好機となっている。
 上記の状況の中で、「透明性(ブラックボックスがない)」「流動性(随時売戻しが可能)」「単純性」の三拍子揃ったフロー債券ビジネスが、グローバル・マーケッツ部門での強固な収益源とみなされており、優秀なトレーダーやセールスの引き抜きの動きがみられたが、これに応えようとするプロは極めて限定的であった。90年代には、雪崩を打つようにして国内金融機関から外資系金融機関への転職の動きがみられたが、現状、このトレンドは全くと言ってよいほど終息してしまった。


(2) 低格付け債、ハイイールド債、CDS

 米国政府による積極的な金融緩和政策や米国の景気回復にリードされ、グローバル・ベースでクレジットスプレッドがタイト化し、低格付け債やハイイールド債が投資対象として見直されつつあるようだ。しかし、日本市場においては、これが目立った人材需要をもたらしたという話は聞かない。また、金融危機に対する反省からかCDSマーケットは縮小しており、10年11月末の世界のCDS残高はピークから40〜60%減少している。従って、ここでも人材ニーズはまったく聞かれなかった。


(3) 仕組み債・仕組みローン

 金融危機以来、複雑な仕組み商品や運用の中身がブラックボックス化しているものは完全否定されている。また、高レバレッジの仕組みものについても、一部のリスク選好者を除いて見向きもされない。この中で、単純なコーラブル債やリバースフローター債、日経リンク債、EB(他社株転換可能債)などに対しては、マス富裕層個人投資家や一部のスーパーリッチ個人投資家が購入しているという。従って、リテール投資家をターゲットとする外資系金融機関による仕組み商品の卸売りは好調で、国内販売証券会社宛てのマーケターや、仕組み商品のストラクチャラーの陣容を強化しようという動きがみられた。しかし、ほとんどの場合、自社内の異動で対応していた。外資系金融機関では、このようなサードパーティ宛て卸売部門は新卒者の登竜門となっており、結果的に内部登用で賄っているようである。
 国債や米国債が急落した際、機関投資家の中には運用資産を円建てローンに振り替える動きもあった。これは、国際機関や高格付けの海外借り手宛ての単純なバイラテラルの長期円ローンに加えて、特別目的会社(SPC)を設立し、そのSPCに顧客のリスク許容度に応じた資産を保有させ、SPCを借り手とする仕組みローン商品である。現行の会計基準では時価評価はパーで行うことが許容されていることもあり、その動きが進んだ。しかし、これらの組成や販売は既存の陣容で十分に対応出来、新規の人材需要を喚起するには至らなかった。


(4) 長期為替ビジネス

 5年から7年の長期為替ヘッジ取引を行った事業法人の中には、円高によって巨額の損失を蒙ったところがある。これは大きな社会問題となっており、金融庁が指導に乗り出している。このような状況下で、金融機関は長期為替の新規取引を自粛しており、また、企業からのニーズも少ないようだ。従って人材需要も聞かれない。
 一方、クロスボーダーM&Aなど、投資銀行業務に関わる為替デリバティブ・ビジネスを拡大しようとする動きがみられた。これは、投機的な金融取引とは対照的にリアル・ニーズに基づくものである。今後、この分野が伸張する可能性があるが、経営トップはまだその収益性に懐疑的で、結果として内部の人繰りで賄われている。


(5) 今後の債券ビジネスと人材の動き

 機関投資家に対しては、透明性・流動性・単純性を備えた金融商品の提案がますます重要となっている。ここでは、国債など流通量の多い円債、CDSを用いた単純な仕組み債、米国債・欧州国債が主流である。加えて、新興国市場の高格付け債が機関投資家のポートフォリオに組み入れられ始めている。新興国に本社を置く外資系金融機関に続いてグローバルな金融機関でも、新興国市場の債券のセールスに注力する動きがみられる。大手証券各社は、これらの債券を幅広く品揃えし、スピーディーで確実に執行し、グローバルなネットワークを駆使して情報提供を行い、ストラテジー・トレード・アイデアをタイムリーに提案する能力を向上させ、差別化を図ろうとしている。
 リーマンショック以降、人員削減全体の4割程度が債券本部で行われたが、それらリストラされた金融人材の内、他社での同じ部門に復帰出来た人は極めて少ない。金融以外の分野に転身する人や、プライベート・バンクや資産運用など他の金融分野で新天地を見出そうという動きも目立った。07年央をピークとする債券本部の人員は今後さらに減少する可能性がある。特に仕組み商品の組成・販売を機関投資家宛に行う部門の縮小傾向は続くものと考えられる。
 一方、金融人材側が保守化しており、現在の会社に留まろうとする傾向が顕著になっている。現状を凌駕する魅力的なオファーを蹴るケースもみられるようになった。一方、07年ごろまでは、札びらで頬を叩くような強引な人材引き抜きがみられたが、現在ではこうした動きは完全に影を潜めている。従って、新規採用でもボーナス・ギャランティなどの優遇措置はめったに聞かれなくなった。
 11年では、日本国債等の流動性の高い債券のトレーディングや対顧客セールスは収益を生むかもしれない。今回の「金融危機」から世界の金融業界が学んだことは、「リーマンショックのような大きな危機においては、各国政府がこぞって対策を打出すし、事前に再発防止のための規制や管理が行われる」ということである。従って、あるプロのトレーダーは、「マーケットにクラッシュは無いとの安心感が醸成されおり、トレーダーは当面、心地よい適度のボラティリティを楽しむことが出来る」と語っていた。


5.コモディティ

 世界的な過剰流動性を背景に世界のコモディティ価格は大幅に上昇している。19 商品から構成されるThomson Reuter/ Jefferies CRB Indexは10年に17%上昇しており、これは株式や債券の利回りを大きく上回っている。内・外の金融機関に関わらずコモディティが東京市場でトレーディングされることはないので、日本での人材需要は営業担当者宛てに限られる。このビジネスの対象は主として事業会社のヘッジ取引である。しかし、顧客宛て提案では、航空会社向けのジェット燃料スワップ等の一部定型化商品を除いてカスタマイズされる場合が多いため、成約までに時間を要する。従って、外資系金融機関の短期収益志向に合わないようだ。かつて大手外資系金融機関の日本法人はそれぞれ数人のプロを抱えていたが、現在では一部を除いて、担当者を東京に配置していない。ロンドンやシンガポールから東京市場のニーズに応じている。また、コモディティ関連の日本人プロは互いに知人であり、採用は直接声をかけて行っている。

6.株式関連

(1) 株式ビジネス

 世界的な金融緩和を受け、企業収益の拡大基調が続いている。従って、債券から株への資金シフト、日本株に対する割安感といった楽観的シナリオが増えている。しかし、世界経済はいまだに克服すべきさまざまな問題を抱えており、それに加え、日本経済が早期にデフレから脱却することが難しいので、日本株が上昇基調に転じ、魅力ある投資商品と認定されるとは期待し難い。
 このような環境下でも、一部の証券会社に株式部門を強化する動きがみられた。日興コーディアル証券は三井住友FGの傘下に入ったが、シティグループ証券からの譲渡に株式部門が含まれなかったため、日本株のアナリストやトレーダーを採用したようだ。また、一部の欧州系大手投資銀行が、同じ欧州系証券の日本法人の株式部門全体を買収した。マーケットには、しばらく続いてきた日本株離れの流れが修正されているとの楽観論もあるが、もう暫く様子をみる必要があろう。
 一方、個人投資家のアジア株購入意欲は強く、各国内証券会社はこのビジネスを拡大・強化している。国内証券会社によるアジア拠点での外国人プロの採用の詳細は承知しないが、準大手以下の国内証券会社では、国内リテール向けにアジア株を売るポジションで外部採用があった。


(2) 株式調査

 10年に入って、一部の金融機関がかなりの数の日本株アナリストを採用した。理由は2つあり、ひとつは日興コーディアル証券での採用である。これは、シティグループ証券からの譲渡で株式部門が含まれていなかったことや、シティグループとの提携解消に対する措置である。
 もうひとつは、外資系金融機関での若いアナリストの大量採用である。日本株の上昇は、企業業績の回復により設備投資が増えたため、キャペックス(資本支出関連)と呼ばれる資本財製造会社の業績が急回復した。一方、世界の機関投資家は日本株をアジア株の一部とみなしており、アジア株投資での分散のため日本株のシェアを回復させる必要があった。そのため株価の上昇が見込める日本株が物色され、キャペックスで技術力をもつ日本株(ファナック等)が注目されていた。このため、海外の機関投資家が、購入株式の選定で外資系投資銀行の日本法人を選定しており、外資系証券会社で若手アナリストへの人材需要が発生した。
 しかし、この流れはすでに一巡し、その人材ニーズは収束しつつある。即ち、経済の牽引役が設備投資から消費に移行した段階では、日本の消費者向け商品の製造は、現在、韓国や米国のメーカーに遅れをとっており、日本産業の弱さが露呈することになる。結論として、日本株のアナリストに対する人材需要は一時的なものかもしれない。


7.ヘッジファンド/プロップ

 ヘッジファンド・リサーチ(HFG)によれば、10年第4四半期のヘッジファンド資産残高は1,490億ドルという過去最大のペースで増加し、その結果、資産総額は1.9兆ドルと08年半ばのピーク近くにまで回復した。ユーリカヘッジの調べでは、10年の世界のヘッジファンドのリターンは10.9%であり、MSCI世界指数のリターン9.6%を上回った。その中で、日本のファンドのリターンは6.8%であった。これは、他の地域のヘッジファンドに比べてパフォーマンスは見劣りするものの日経平均株価(マイナス3%)を上回った。
 日本人による和製ヘッジファンドは、ファンド・オブ・ヘッジファンズも含めて多くはないが、各社のパフォーマンスにばらつきがあると聞く。いずれにしろ人材需要でみるべきものはなかった。
 一時期、ヘッジファンドへの投資を控えていた機関投資家が投資を再開している。大手年金基金の内、3割程度がヘッジファンド投資を増やす方針に転換したといわれる。この動きを受けて、外資系大手ヘッジファンドが投資資金の獲得のための拠点を設ける動きもあったようだが、大きな流れではなかった。
 一方、海外ではヘッジファンドの動きが急である。ドッド・フランク法により銀行がプロップトレーディング部門を廃止するとか、トレーディングでのリスクを圧縮している。これに不満を持つトレーダーが独立してヘッジファンドを作っていると。しかし、このような動きによるヘッジファンドの回復に異を唱えるプロもいる。金融危機勃発の理由のひとつは「ヘッジファンドによる極端に高いレバレッジ取引」であったが、これは、収益性の低い資産への投資で、高い収益を上げるために高いレバレッジを掛けたものである。良質でないヘッジファンドの増加により、過ちを繰り返す恐れがあると。
 金融危機の反省から「リスクテークは悪だ」という風潮がある。世界的な規制強化がそれを後押ししている。しかし、経済発展はイノベーションやリスクテークで実現するし、世界にはリスクを選好する投資家もいる。世界の金融機関が全て銀行化することは適当ではなく、「リスクマネー」のニーズに応える業態が必要である。この意味から投資銀行やヘッジファンドの役割は欠かせないと思う。


8.プライベート・バンク(PB)

 日本の個人富裕層の内、5億円以上の金融資産を保有するのは6万世帯、総額で65兆円あるとされる。日本の金融機関や外資系PBがこのスーパーリッチをターゲットとして組織を拡大し、人材を採用しようとしていた。日本の個人富裕層ビジネスはさまざま問題を抱えながらも、今後拡大すると考えられる。

(1) 既存のPBにおける採用

 採用の対象は、プロダクト担当と顧客を持つリレーションシップ・マネジャー(RM)であった。プロダクトでの人材ニーズは基本的に一巡した感があるものの、最近では富裕層の投資対象は多岐に亘っていることから、金融商品に対する幅広い知識とグローバル市場を俯瞰する能力を持って、顧客宛てにポートフォリオのアセット・アロケーションの助言が出来るプロへの需要が強まっている。プロダクト・グループは、仕組み預金、株式、債券(仕組み債を含む)、ファンド(投信やヘッジファンドを含む)のチームに分かれており、それぞれのチームで欠員補充のための採用がみられた。
 PBの経営者はバジェットの早期達成を目指しており、RMへの需要は引き続き強いが、採用側と応募者側で期待や思惑でギャップが表面化している。即ち、外資100%のPBには総計150人程度のRMがいるといわれているが、採用側は相変わらず「50億円の預かり資産の持ち込みと初年度の1億円以上の収益を稼ぐ」プロを求めている。一方、誘われるプロにとっては転職によって報酬条件がさほど良くなるわけでもなくメリットが小さい。また、顧客側は取引金融機関を厳しく選別しており、担当のRMが転職したからといって取引を新しい金融機関へ移すことにはならない。そもそもPBは他部門または他社から商品を仕入れ、かつ1件当たりの取引金額も少ないことから収益性が低く、従って報酬額は他部門より低くなる。これらの理由により、外資系PB各社は採用に苦戦している。
 欧米で歴史的に実績があるPBは自社のPB哲学を確立している。彼らは一様に「アドバイザリー・プロセスの重視」として、中・長期的視点でのあるべき資産運用・ポートフォリオの構築を提案しようとしている。一方日本の商慣習では、「顧客の要望に応えることが営業の使命」との考えが根強い。このミスマッチが採用の際のインタビューで露呈し、合意に至らないケースが多い。ビジネス文化の違いによるミスマッチである。
 PBは成長分野とみられていることから、金融法人、大手事業法人、ミドルマーケッツ宛で仕組み商品のセールスや仕組み商品の担当者は、新たなキャリアを求めてPBへの移籍を希望している。しかし、採用側は「PBで長い経験があり、顧客ベースを持つ即戦力」の採用に拘っている。ここでもミスマッチが起こっている。

(2) PBへの新規参入

 PBが抱える上記の構造的な問題にも拘わらず、日本のPBビジネスの成長性を見て参入しようとする内・外の金融機関がある。米国で巨大なリテール網を持つ投資銀行が参入を企画しており、また、メガバンクの一つが外資系金融機関や日本のブローカーとのジョイントでPBを立ち上げている。ここでは、2〜3年以内に数千億円の預かり資産を獲得するという意欲的な目標を掲げている。このように、基調としてはPB市場が拡大し、それに伴い人材需要が創出されていくと考えられる。
 しかし、国内金融機関はPBの歴史を持たないため、設立されるPBは商業銀行やブローカーの本体業務の品揃えのためのものとなっている。それでは富裕層のニーズに応えることは出来ない。

9.資産運用

前号の『レポート』でも予想したが、09年後半以降の投信関連での強い人材需要は、10年には一服した。しかし、多くはなかったものの、好調な運用会社や分野での人員拡大や巻き返しのための陣容強化のための採用は引き続き行われていた。また、海外の資産運用会社には日本の巨額の個人金融資産や世界第2位の年金資産が魅力的と映るらしく、日本市場への新規参入に伴う採用や、日本に進出して間もなく日本での知名度はまだ低いが優良な運用会社による求人があった。 一方、日本市場の成長には限りがあるとみた国内運用会社による海外拡大のための人材需要がみられた。即ち、海外の運用会社の買収、提携、出資や、海外運用拠点の設立や拡充の動きがあり、そのために高い英語力を持った若手やシニアの採用があった。しかし国内運用会社は依然として余剰人員を抱えていることから、人材は内部で賄われ、新規採用は退職者の補充が中心であった。


(1) 投信ビジネス

 投資信託協会によると、10年末の国内公募投信の純資産残高は前年比4%増の63兆7,201億円で、2年連続の増加であった。また、10年年間では、前年の2倍にあたる6兆213億円の資金が純流入したが、これは21カ月連続の流入超であり、個人マネーの投信への流入が続いていることを示している。しかし、円高と欧州危機の影響を受けて運用のパフォーマンスは悪化しており、残高は流入額ほど伸びていない。その影響もあり、10年後半での投信関連の人材需要は減速していた。
 具体的な人材採用では、外資系運用会社による日本市場への新規参入に伴う採用や、日本進出して間もなくまだ日本での知名度が低いが優良な運用会社による求人があった。海外資産で運用する投信の購入需要は引き続き強く、運用を行っている外資系運用会社でのサブ・アド関連の人材需要が引続きあった。そして、公募投信残高の4割を超える、海外債券等で運用する外貨建て運用商品に対して資金流入が続いており、その商品開発やマーケティングのポジションでの人材需要があった。また、中長期的な拡大が見込まれるノーロード投信を多く扱うインターネット銀行や証券チャネルへの営業力強化を行った運用会社もあった。ここでも人材需要はあったようだ。
 一方、外資系金融機関の小規模な日本拠点では、少人数で販売会社への対応や海外との英語でのプロダクト・コミュニケーションが必要なことから、その二つの職責を高いレベルで遂行出来る担当者を探していた。しかし適格な候補者が多くないため、採用で苦戦していた。
 12年末までに払い戻される約30兆円の個人マネー(ゆうちょ銀行の定期貯金と個人向け国債)のうち、投信にどの程度移るかが注目されている。運用会社各社は、09年後半から銀行/ゆうちょ銀行宛て対策を進めていたが、追加の人材需要がどの程度で、いつ出てくるかは状況次第というところであろう。
 一方、日本の個人投資家はリスク意識が薄いといわれ、投資ニーズが強い海外ものにある為替リスク、過熱するエマージング国の経済状況、過度な毎月分配金等の持つリスクが、突然実現する危険性を指摘する運用の専門家も多い。これは、今後の人材市場で大きな問題点になると懸念される。


(2) 年金/機関投資家宛てビジネス

 野村総合研究所の推定によると、10年3月末での日本の年金資産残高は約272兆円である。これは世界で2番目に大きい規模であるが、今後の日本の人口推移に鑑み先細りすると言われている。従って、今後年金ビジネスでのパイの奪い合いが加速するとみられるが、その中で、良質なプロの争奪戦は厳しくなると考えられる。
 金融危機は、機関投資家に伝統的な資産だけでなく、分散効果として期待されたオルタナティブ投資に対する失望も引き起こした。機関投資家の市場への信頼を喪失させ、ポートフォリオ戦略を大きく狂わせた。加えて12年3月から導入される新会計基準(IFRS)への対応もあり、年金等の機関投資家は日本株への投資を圧縮し、十分なリターンを得られない国内債券への投資を増やしている。しかし、リスクを取らなければリターンも期待出来ないことから、最近では外国債券、外国株(アジア株を含む)、オルタナティブ(シングル・ヘッジファンドやプライベート・エクイティ,インフラファンドなど)への投資を検討し始めている。従って、今後は、これらの運用に強い運用会社や証券会社が勝機を見出し、プロの採用を始めるかもしれない。また、このような厳しい競争により、内・外の運用会社は、更に「勝ち組・負け組」に二極化すると推測される。
 実際の採用では、10年前半にあった年金基金や銀行・生損保等の金融機関宛てのセールスのポジションの多くは基本的に採用を終えているが、一部では採用した人材が成果を発揮出来ず、引き続き代わりの人材を探している運用会社もある。このように、資産運用会社は厳しい環境に対応するため即成果を上げる人材を探しているが、採用ニーズと人材がマッチせず採用は長期戦となっているようだ。
 09年前半から採用ニーズがあった外資系金融機関(証券会社)での総合型年金基金宛てオルタナティブ投資商品の営業担当に対する人材需要は引続き見受けられるものの、資産運用会社で年金基金宛ての営業に携わってきたプロが証券会社のカルチャーに馴染むのは難しく、採用に至ったという話はほとんど聞こえてこない。ここでも採用ニーズと現実のプロの経験との間にミスマッチが起こっている。
 近年、年金コンサルティングの重要性が見直されていることから、外資系を中心にRFP作成や年金コンサルティング宛てのリレーションシップ担当のポジションで幾つかの求人があった。


(3) 運用部門

 日本株の長期投資に対する悲観論があり、日本株のファンドマネジャーやアナリストに対する人材ニーズは引き続き聞こえてこなかった。プロダクトマネジャー(プロダクトスペシャリスト)の採用では、外国株、外国債券、オルタナ投資の経験者が採用されるケースがあった。国内運用会社のアジア拠点でアジア株運用のプロの採用があったようだ。


(4) オペレーション部門等

 オペレーションのアウトソーシングの動きは、コスト削減の観点から加速して行くとみられる。その中で、部門全体でアウトソース先に移籍した人員もいつかは合理化されると懸念される。
 外資系・日系を問わず、投信計理、投信レポーティング、約款・目論見書作成、パフォーマンス分析、コンプライアンスなどで人材採用があった。これらの採用には退職者の補充目的もあった。
 09年後半より続いた再編によるスクラップ&ビルドの中で、長期的展望でのビルドアップの段階に移行した資産会社では、新しい戦略に基づいた人材ニーズがあると予想される。
 資産運用業においても、年齢層の偏りから、各社とも30才代の中堅層の確保が急務である。特に海外経験をもつ若手へのニーズが逼迫している。
 一部外資系運用会社では、投資銀行部門での金融機関宛てカバレッジ・バンカーを金融機関担当として採用するとか、セルサイドでの営業経験者を顧客担当として採用する等の動きもみられた。今後は、分野の垣根を越えた採用も検討されていく可能性もある。




以 上

代表者のプロフィール:

小溝 勝信(こみぞ かつのぶ)

1968年、東京大学教養学部国際関係論分科を卒業し、住友銀行(現三井住友銀行)に入行、主として国際部門に従事した。1984年に外銀に転じ、ファースト・シカゴ銀行東京支店の事業法人部長に就任した。人材コンサルティングに転ずるため、1989年、米国の大手ファームの一つであるホイットニー・グループ日本支社に入社し、副支社長に就任した。1993年、日本型のエグエグゼクティブ・サーチの創設を目指してヘッズジャパンに転じ、金融部門マネジング・ディレクターに就任した。2004年、エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社を設立した。
このレポートは、筆者がヘッズジャパンで1994年以来、半年毎に報告していた「外資系金融機関の最近の人事事情について」の連続版である。

エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社(ESP)のプロフィール:

小溝勝信が永年の経験と主張の集大成として2004年に設立した。日本の金融人材市場に初めての、本格的な、日本版の「エグゼクティブ・サーチ・コンサルティング」の創設を志す。

詳細はホーム・ページをご参照頂きたい。

※本稿の無断転載を禁じます。詳細は弊社までご照会ください。

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