人材市場レポート

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月例レポート

平成22年8月 第12号 (日本語版)

金融市場の最近の人事事情について

第一部 縮小する外資系金融機関の日本市場に対するコミットメント

第二部 金融人材需給の現況

第三部 欧米投資銀行の最近の業績とその特徴

エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社
代表取締役 小溝 勝信
- 目次 -

  • はじめに









    (8)株式関連
    (9)資産運用





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    はじめに

    世界の金融市場に「壊滅的」な打撃を与えたリーマンショックから2年が経過しようとしている。その間、主要国はあらゆる財政・金融政策を発動し、世界の金融・経済は「危機を乗り切った」かにみえたが、その後のギリシャショックを契機としたユーロ危機により「二番底」に落ち込む可能性も指摘されている。そのような環境下で日本経済の回復が遅れているが、日本の場合、加えて国際的な競争力の低下と日本を見限った外国資本のジャパンパッシングに晒されている。これらを背景に日本の金融ビジネスは力強さを欠いており、従って、金融人材需要は一年前から回復しているものの力強さがない。また、ごく最近であるが、一部の外資系金融機関の日本法人で「採用フリーズ」や「再度のリストラ」が検討されている。外資系金融機関の人材市場は、「二番底」を見るのかも知れない。

    第一部は、「縮小する外資系金融機関の日本市場に対するコミットメント」として、過去2年間に行われた外資系金融機関のリストラの深刻さとその原因について報告する。
    第二部は、「金融人材需要の現況」として、2010年上期における日本の金融人材市場での需要がどのようなものであったかを報告する。
    第三部では、「欧米投資銀行の最近の業績とその特徴」として、当社が後援するNPO法人「金融人材市場の改革を進める会」からの分析結果を報告する。
    (詳細はNPO法人のホーム・ページを参照下さい)


    「警鐘」

    当社は、『レポート』−10で、08年9月に勃発したリーマンショックから09年8月までの間に外資系金融人材4,500人(全体の16%)がリストラされたと推計した。今回の『レポート』では、更に、08年3月と10年6月現在の外資系金融機関の従業員数を比較して、外資系金融機関の日本法人の陣容がどうなったのかを説明する。
    当社は、金融ビジネスは、本来、「商業銀行」「証券ブローカー」「投資銀行」「資産運用会社」が、バランス良くその役割を発揮し、産業の発展や個人のニーズに応えるべきだと考えている。しかし日本では、歴史的経緯もあり「商業銀行」が圧倒的な地位を占めている。その主役であるメガバンクは、いまだに「自己改革」を拒否し、日本の金融・経済の発展に大きな阻害となっている。そして、日本市場で「投資銀行」の役割を担ってきた外資系金融機関は、日本市場へのコミットメントを喪失しつつある。
    結論として、当社は、外資系金融機関が日本市場に新たな商機を見出し、コミットメントを復活させて欲しいと願っている。また、日本勢ではグローバル化に大きく舵を切った野村証券に期待している。

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    第一部 縮小する外資系金融機関の日本市場に対するコミットメント

    1. 外資系金融機関のコミットメントが縮小している状況

    (1)外資系金融機関の従業員数の減少

    当社は外資系金融機関の従業員数を、公表数及び当社の情報に基づいて下記の通り推測した。

    (図表−1)外資系金融機関の従業員数と地域(本社所在地)別比較

    外資系金融機関の従業員数
    08年3月末の従業員数 28,481人
    10年6月末の従業員数 23,724人
    減少数 ▲4,757人
    減少率 ▲16.7%
    地域別減少数
      減少数 減少率 構成
    北米の金融機関 ▲3,011人 ▲18.5% 63.30%
    欧州の金融機関 ▲1,949人 ▲18.8% 41.00%
    その他 203人
    合 計 ▲4,757人

    ・外資系金融機関従業員数の減少の中には、外資系金融機関から日本の金融機関に転職した人も入っている。例えば、リーマン・ブラザーズから野村証券、日興シティグループ証券から日興コーディアル証券に移籍した人も含まれている。また、三菱UFJ証券とモルガン・スタンレー証券の融合に伴う人員異動は含まれていない。

    ・上記の通り、日本の外資系金融機関の従業員数は、その間16.7%減少した。これは、リーマンショックで2割以上が解雇されたと報道された米国の金融界のリストラより小さいが、転職のインフラやセーフティネットが準備されている米国と、それらが未整備の日本とを単純に比較することは出来ない。しかも、ウォール街では既に採用が復活しており、高額な年収を保証した人材の争奪戦が復活している。ニューヨーク市労働局によると、5月末での同市の金融業界の雇用者数は429千人で、ピークであった07年8月末の474千人の91%まで回復している。一時7割台に落ち込んでいた状況から大きく改善している。

    ・北米系と欧州系の比較では減少率はほぼ同じである。米系では、大手の投資銀行での大規模なリストラが主因であり、欧州系では、大手ユニバーサル・バンクでのリストラに加え、銀行の合併・売却の影響があった。

    (定義)
    ・ここで言う「外資系金融機関」とは、外国資本が所有する銀行、証券会社、資産運用会社に加え、プライベート・エクイティ、ヘッジファンド、不動産投資会社等を含む(従って、厳密には金融機関でない法人も含む)。保険会社やノンバンクは、対象とされない。
    外資系金融機関を含む日本における金融機関の従業員総数は、銀行308,030人、証券会社93,308人、資産運用会社13,288人で、合計414,626人である。内、上記の「外資系金融機関」の従業員数の比率は5.7%となる(各々の従業員数は昨年末から今年に掛けて発表されたものである)。
    ・上記の定義の詳細は『レポート』−9を参照下さい。

    (2)低下する外資系金融機関のシェア

    ・下記の表に見られる通り、外資系金融機関の投資銀行ビジネスでのシェアが低下している。
    株式の引受では、06年では外資系が39.0%を占めていたが、09年には23.1%に低下している。
    社債の引受では、この項目では06年の実績値は無いが、09年での外資系のシェアはわずか4%である。メガバンク系証券会社が大きなシェアを占めている。 M&A(M&Aでは当事者双方がアドバイザーを立てるため、シェアの計算が複雑になる)では、 06年のM&A実績(取引金額ベース)では外資系が合計で1,972億ドル、日系の合計は761億ドルで、外資系が圧倒的なシェアを占めていた。しかし、09年では外資系が1,287億ドル、日系が1,243億ドルとほぼ互角となった。即ち、この間、日系が63%増大したのに対し、外資系は35%減少している。
    その中で、野村証券は、09年でM&A、株式引受、社債引受のいずれでもトップにランキングされている。金融ビジネス全体で、日本市場の4割を押さえたと言われる野村証券が、世界市場に打って出るのは当然の動きであろう。

    (図表−2)日本の投資銀行ビジネスでのシェア

     M&A
    [図表]
     株式引受
    [図表]
    債券引受
    [図表]

    ・米調査会社のフリーマン社にとると、世界全体の金融機関の投資銀行部門の10年1−6月の総手数料収入は371億ドル(3.3兆円)あった。その内米国が半分で、日本は4%程度だといわれている。従って、日本の投資銀行ビジネスは経済規模に比較して非常に小さいと評価される。

    2. 外資系金融機関のコミットメントが縮小している理由

    日本市場で「投資銀行」の役割を果たしてきた外資系金融機関は、日本へのコミットメントを縮小させている。その理由は下記の通りと考えられる。

    (1)金融危機以降「新しい」金融ビジネスモデルが開発されていないこと。

    金融危機の修復過程では、バブル期までのビジネスモデルが抑え込まれていたが、現実には大手金融機関の収益は急速に回復した。これは、各国政府の危機対策にフォローした債券・金利・為替・株式等のフロービジネス、信用市場の正常化によるクレジット商品の値上がりに起因したものであった。即ち、最近の金融機関の収益の改善は、「新しい」金融ビジネスが開発されたからではない。従って、これらが一巡した4−6月の決算では、大手金融機関の投資銀行部門の収益が低下している。新しい収益モデルを開発出来ない外資系金融機関の経営者が、日本において「保守的な経営方針」を維持している。

    (2)外資系金融機関の日本における「法人取引」での戦略が描き切れていないこと。

    日本には一部上場企業が約1,700社あるが、トップクラスの外資系金融機関でもカバー出来る顧客数はせいぜい250社と言われている。しかも、外資系では一件当たり3億円以上の収益が見込めなければ取り組むことを許されないため、実際には100社程度がターゲットとなっている。しかし、このターゲット企業に各社が群がるため競争は激化し、外資系同士で消耗戦を展開している。本社からの厳しい収益ノルマに追われるバンカーは、儲かる案件に専念するが、そのやり方では日本企業との間に親密な関係を築き、安定的な収益を確保することは難しい。最近、その傾向がますます強くなっている。

    (3)日本市場に対する低い評価が定着し、ジャパンパッシングが起こっていること。

    日本の産業の国際競争力は、総合順位で、58ヶ国中昨年の17位から今年の27位に急落している。このため、日本は「リスクを取らない国」「リスクを取るに値しない国」と評価されつつある。ジャパンパッシングである。この評価は一般産業に対してだけでなく金融でも見られ、欧米金融資本は日本を素通りしてアジアに投資されている。一部の外資系金融機関は、東京に置いていたアジア本部を香港やシンガポールに移している。そして、日本法人の各部門は海外本部から直接コントロールされ、日本から意思決定機能が剥奪されつつある。実際、日本法人でのマネジメント・スタッフの採用計画が取り消された例もある。現在発表されつつある大手金融機関の4−6月の決算では、いずれも投資銀行部門の業績が悪化している。従って、いくつかの大手外資系金融機関が低収益の日本法人でリストラを検討しているが、これは、日本のヘッドカウントをアジアに廻すためのものと見られる。

    3. 「投資銀行」について

    ここで、「投資銀行」とは何かについて説明したい。

    (1)「投資銀行」の歴史的変遷について

    「投資銀行」とは、本来、大手企業や公共法人による資金調達と機関投資家による資金運用の間に位置し、プロとしての情報力、商品力、グローバルなネットワークをもって対応し、金融の発展に寄与する業態である。歴史的には、主として19世紀に創設された米国の「投資銀行」は、当初、新興企業の株式公開の支援やファイナンスに従事していた。その後時代の変化に従って、トレーディング(対顧トレーディングからプロップ・トレーディングまで)、証券セールス、M&A、プリンシパル・インベストメント、資産運用(ヘッジファンドを含む)、プライベート・エクイティ、プライム・ブローカレッジへと業務範囲を拡大した。 この業務拡大は、折々の金融環境に対応した変化である。即ち、1929年の大恐慌の反省から米国ではグラス・スティーガル法が制定され、預金を受け入れない投資銀行部門が銀行から分離された。80年代後半には、プラザ合意や英国のビッグバンに象徴されるような世界的な規制緩和とグローバル化が進展し、投資銀行は飛躍的に拡大した(図表−3)。この変化は世界の金融機関に変革を迫り競争を激化させた。今世紀に入りITバブルの崩壊への対策として低金利政策がとられ、金融機関の運用収益が低下したが、これに対し短期的な収益指向を強める米国投資銀行は、自らリスクをとる自己資金運用(ヘッジファンド運用を含む)に傾斜していく。これらの流れに対応するため大手金融機関は資本を増強し、特に非銀行系投資銀行は、パートナーシップ制を廃止して株式を公開した。グラス・スティーガル法も廃止され、金融機関はコングロマリット化していく。現在ではリテールビジネスにまで進出している。

    (図表−3)
    [図表]

    ・1985年頃から世界の投資銀行業務は急拡大している。
    ・特にM&Aは90年代後半に急伸した。

    (2)外資系金融機関における投資銀行部門の比率について

    @ 純収入全体に占める投資銀行部門の比率とマーケット・ビジネスの寄与度 コングロマリット化した米国の大手金融機関や欧州のユニバーサル・バンクは、概ね、リテール部門、国内企業取引部門、投資銀行部門(大口法人取引を含む)、資産運用部門により構成されている。 大手金融機関で、「全社ベース」の「純収入」に占める「投資銀行部門」の比率は、投資銀行専業のゴールドマン・サックス、投資銀行とリテールを兼営するモルガン・スタンレーや野村証券、投資銀行と商業銀行を兼営するJPモルガン・チェース、BOAメリルリンチ、シティグループと、UBSやドイツ銀行等の欧州ユニバーサル・バンクで異なる。各社の「投資銀行比率」は、概ね30%台〜70%台で、平均で50%以上となっている。さらに「純収益」ベースでは「投資銀行部門」が、より大きく寄与している(詳細は第三部の第1表を参照下さい)。また、「投資銀行部門」の「純収入」の内、「セールス&トレーディング(債券、株式、プリンシパル・インベストメントを含む)」の比率は、09年には高いところでは90%にも達し、多くは50%以上となっている(詳細は第三部の第2表を参照下さい)。この高い比率は09年の経済環境に起因している面もあるが、通常の年度でも、「投資銀行部門」、その中でも「マーケット・ビジネス」に大きく依存している。しかし、10年の4−6月の決算ではギリシャショックの影響もあり、各社とも「投資銀行部門」の収入が大幅に減少している。 投資銀行部門への高い依存度に対してはさまざまな批判もあるが、これは、産業のニーズに応えるだけでなく、経営的には「収益源の分散効果」があると言える。
    A 歴史的に変化する投資銀行の収益モデル ゴールドマン・サックスの00年と09年の財務状況を比較すると、この10年に投資銀行がどのように変わったかが分かる。

    (図表−4)ゴールドマン・サックスの収益要因の変化 (単位百万ドル)
      00/11期 09/12期 倍率
    純収入 16,590 45,173 2.7
    純利益 3,067 12,192 4
    トレーディング&プリンシパル収入 6,528 34,373 5.3
    (純収入に対する比率) -39.30% -76.10% 1.9
    VaR 25 218 8.7
    ネット金利収入 986 7,407 7.5
    (純収入に対する比率) -5.90% -16.40% 2.8
    レベル3資産 N. A. 43,348
    総資産 289,760 848,942 2.9
    株主資本 16,530 70,714 4.3

    この間、ゴールドマン・サックスの純利益は4倍に膨らんだが、これは同社の積極的なリスク・テイクの成果であったことが分かる。即ち、同社が取ったマーケットリスクを表すVaRは8.7倍に増大し、クレジットものへの積極的な投資により、ネット金利収入は7.5倍に拡大した。 但し、この積極的なリスク・テイク戦略は、米国政府を中心とした主要国の超低金利・巨額の流動性供給・積極的な規制緩和政策の流れに乗ったものでもあった。

    (3)投資銀行部門の人件費について

    商業銀行に収益をもたらす要素は、店舗網、システム投資、人材、広告等多岐に亘るが、これらは「経費」としてそれぞれ極小化されることが望ましい。しかし投資銀行ビジネスでは、人材への支出は収益を生み出す「投資」と考えなければならない。近年の投資銀行の経営では、資源を、増大するリスクへの対応やIT投資のために「金融資本」の増加に向けるか、「人的資本」に向けるか難しい判断である。 第三部の第3表での分析の通り、大手金融機関の「人件費比率」(純収入に対する人件費の比率)の推移をみると、投資銀行部門主体のゴールドマン・サックスで40%前後、モルガン・スタンレーで同50%〜60%、ドイツ銀行やクレディスイスで40%台である。銀行系では、欧米とも概ね同30%前後である。わが国では、野村証券が欧米金融機関並みに40%台だが、3大メガバンクではいずれも商業銀行業務のウエイトが高いため、10%台〜20%の水準である。 投資銀行では人件費は「投資」と考えられており、これは、人件費比率が40%の場合、その2.5倍の純収入を稼ぎ出すことを意味している。リーマンショックの経験から、「グリードに汚染された投資銀行のプロが金融危機を作ったから、彼らの報酬を下げてリスクを制御すべきだ」との批判があるが、人件費を縮小すればその分収入が減ることになり、投資銀行業務が縮小すれば、産業への貢献度も低下する。

    (4)「投資銀行」の今後について

    ・金融危機の反省から、米国では「金融規制改革法」(ボルカー・ルール)が制定された。これにより、80年ぶりに金融取引のルールと監督体制が抜本的に改革される。この影響は米国にとどまらず、世界の金融市場にも及ぶと考えられる。この規制により、銀行の高リスク取引は大幅に制限される。特にCDSが規制強化の標的になり、通貨や金利取引など銀行の本業以外でのデリバティブ取引は銀行本体から分離され、相対のデリバティブ取引は透明性を図るため清算機関で決済される。自己勘定でのヘッジファンドや買収ファンドへの投資は自己資本の3%までに制限される。ヘッジファンドは登録を義務付けられ、徹底した情報開示を求められる。 これらの規制により、米国の金融機関の収益性は大きく低下すると考えられる。 ・7月に、ユーロ加盟各国の91銀行を対象としたストレステストが行われた。不合格は7行で、不足する資本総額は45億ユーロとのことであった。現在、マーケットではこの結果に対する評価が割れており、欧州の金融機関が危機を乗り切ったかどうか予断を許さない。

    4. 日本に「投資銀行」は必要ないのか?

    極端な「市場原理主義」や「短期的収益至上主義」が好ましくないのは当然で、また、米国でも金融資本主義が修正されつつある。日本には、日本の商慣行に沿い、グローバル・スタンダードにも叶う『日本版』投資銀行が必須である。外国資本でも日本資本でも良いが、「適切なリスクを取って付加価値を創出する」金融業態が無ければ、日本経済はいっそう地盤沈下する。

    『日本版』投資銀行が必要であると考える理由は下記の通りである。

    (1)日本経済の「成長戦略」支援

    ・日本にも「成長戦略」(名目GDPが安定的に2%以上拡大する)がなければ、日本が現在直面しているさまざまな問題(財政悪化、年金崩壊、デフレ、格差拡大、少子化等)を解決することは出来ない。経済成長のためにはリスクを取って付加価値を創出し、企業のグローバルな展開を支援する業態が必須である。しかし日本市場で圧倒的なシェアを占めている商業銀行は、融資を通じて日本企業に「保守的な経営」を強いている。しかし、元来、商業銀行の役割とは、大衆から預金を集めて安全な運用を行うことであり、リスクマネーの供給ではない。従って、日本の成長戦略を実現するためには、「『日本版』投資銀行」の育成が喫緊と考える。 ・6月に経済産業省が発表した「産業構造ビジョン」では、20年までにインフラ輸出、環境・エネルギー、医療・介護・健康、文化、先端分野の5分野で生産額を149兆円増大させ、258万人の雇用を創出するとのことである。この実現のため政府も支援策を打ち出しているが、民間金融機関による積極的な投融資の拡大が不可欠である。しかし、日本の商業銀行にはリスクを伴う新しい産業に融資する能力に欠け、また、日本にはリスクマネーの提供者が少ない。戦後、日本産業の復興のため日本興業銀行が「『日本版』投資銀行」の役割を果たしたが、現在もそれに代わる投資銀行が必要である。

    (2)グローバル市場で戦う日本企業への支援

    日本の産業界から「我々『もの作り日本』が頑張っているのに、日本の金融機関から有益な支援を受けられない。やむなく外資系金融機関と付き合っている!」との不満が続出している。もし外資系金融機関が日本市場へのコミットメントを減退させるのであれば、日本の金融機関がそれに代わって役割を果たさなければならない。そのためには、日本の金融機関は「革命的な自己改革」を断行し、収益力や資本力を強化して、グローバルに通用するノウハウを蓄積しなければならない。 現在、日本最大の金融グループである三菱UFJフィナンシャルグループの時価総額は、世界の銀行ランクで13位に過ぎない。また、下図の通り、最近マッキンゼーが分析した金融機関の評価でも、日本の金融は「落ちこぼれ」と評価されている。これでは『もの作り日本』を支えることは出来ない。

    (図表−5)世界の金融機関のROE実績と予想の推移
    [図表]

    (3)金融の「空洞化」からの脱却

    日本の機関投資家の海外資産運用、個人の投信購入、日本企業による海外M&Aや海外での資金調達への支援等の金融サービスは、現在、いずれも外資系金融機関が提供している。海外ネットワークも高度の金融ノウハウも持たない日本の金融機関は、それらのビジネスを外資系金融機関に「丸投げ」しており、そのため関連の収益が海外に流出している。金融での「空洞化」が起こっている。

    (4)1,400兆円余りの個人金融資産の有効な活用

    金融で日本が世界に誇れる唯一の資産は、「1,400兆円余りの個人金融資産」である。しかしこの巨額の資産は、さまざまな金融機関を通じて日本国債の購入に充てられるか、伝統的な銀行融資 に廻っており、産業の付加価値創出のために活用されていない。これが日本産業の国際競争力の低下とジャパンパッシングの根本的な原因である。この巨額の資金は国内に投資されて新しい産業を興すか、もし国内にその機会が無いのであれば、成長するアジア市場に投資され、日本企業のアジアへの進出に活用されなければならない。「『日本版』投資銀行」にはその支援の役割も課されている。

    5. 最近の日本の金融機関の動きに対する当社の評価

    日本の金融機関も動いていないわけではない。しかし、三菱UFJフィナンシャルグループは、国際金融市場への進出の足掛かりとしてモルガン・スタンレーとの本格的な提携を試みたが、結局企業文化の違いを克服出来なかった。三井住友グループは、大和証券SMBCの代替として日興コーディアル証券を買収してみたものの、相変わらず商業銀行の手法で経営しようとしている。みずほグループは資本不足で、国際市場で生き残れるか不透明である。唯一「日本の金融界の希望の星」である野村証券も、旧リーマン・ブラザーズのプロたちによる予想外に大量の退職に戸惑っている。日本の金融機関の経営者は、いつものことだが、「形さえ作れば、ことは成ったも同然」と考えているようだ。「魂」をどう入れるかに思いが至らない。

    以 上

    第二部 金融人材需給の現況

    A.金融人材市場の概観

    リーマンショックから約2年が経過したが、主要国政府による懸命な対応により「世界の経済や金融は最悪の状況から回復しつつある」との観測が一般的である。金融人材への需要も「一年前に比較すると格段に回復している」とも言えるが、その戻りは力強いものではない。

    (1)金融人材需要の戻りが弱い理由

    @ 第一部で報告した通り、外資系金融機関は日本市場に対するコミットメントを縮小していること。現在行われている採用も、金融ビジネスが回復したとか、新しい金融商品が開発されたからではなく、過半は、リストラにより従業員が過少になったからである。
    A 特に懸念されるのは、大手金融機関の4−6月の決算で「投資銀行部門」の業績が悪化していることである。これにより、一部の外資系金融機関の日本法人で「採用フリーズ」や「リストラ再開」の動きが見られる。
    B 外資系金融機関日本法人での上記の状況に鑑み、日本の金融機関は優良な外資系プロを採用するチャンスであるが、日本の金融機関は野村証券を除き、相変わらず「改革の意志」が希薄でほとんど動こうとしていない。

    (2)今後の金融人材市場に影響を与える要因

    @ IFRSや米国会計基準等の会計基準の変更は日本企業の経営に変化を迫り、これが金融ビジネスに影響を与える。特に、年金会計での「即時認識」やM&Aでの「暖簾代償却」方法の変更の影響が大きいと考えられる。
    A 金融バブル時の高額のボーナスが非難されており、また、課税されることもあることから、トップクラスの金融機関は、従業員報酬でのボーナスの比率を下げるため、ベースサラリーを5割程度上げた。しかしその分来年の初めに支払われるパフォーマンス・ボーナスが減らされ、全体の報酬額は引き下げられると考えられる。また、かつて外資系金融機関の高給の職員が享受していた税金上のメリットも無くなりつつある。これらの変更が人材市場に影響を与えると考えられる。
    B アジアの拡大は疑う余地はなく、日本企業はアジアへ進出し、アジア資本も日本への投資を増大すると考えられる。日本の金融機関はこれらの動きに対応しなければならない。
    C 外資系金融機関は日本の大企業や金融機関と選別的に取引しているし、リテール・マーケットは日本の金融機関の牙城である。以前から指摘されているが、その間に位置する「ミドルキャップ」企業に対して、内・外の金融機関ともサービスを提供出来ていない。どの金融業態がこのマーケットへの本格参入に成功するか注視されている。

    (3)金融ビジネス別の人材需要の概要

    下記に詳述するように、今年前半で目立った人材需要は、資産運用、特に投信関連であった。最近では投資顧問関連でもニーズが出始めている。その中にはオルタナティブ投資も含まれる。次に、日本の巨額の個人金融資産に注目した外資系PBが、組織を拡大し人材を採用していた。また、ディストレスや社債を含むクレジットものに関する人材需要は年初には見られたが、ギリシャショックによる信用市場の混乱で霧散した。評価が低い日本株であるが、一部の金融機関やヘッジファンドが独自の方針に従って人材を採用していた。M&A、資本市場ビジネス、カバレッジ等の投資銀行ビジネスでの採用は、個別の事情によるもの以外は少なかった。但し若手に対する需要は常に見られた。不動産関連では、不動産価格の上昇に期待する一部の外資系が採用を計画したが、多くは実現しなかった。かつて大きな人材需要を生み出していたPEは、人材市場から退出している。ビジネス別の事情は下記の通りである。

    B.金融ビジネス別の人材需要

     1. 投資銀行ビジネス

    (1)株式引受と債券引受

    ・09年の資本市場部門(株式と債券引受)は、銀行を中心とした増資ラッシュと手元流動性を高めたい企業による社債の発行増大で好調であった。しかし10年に入り、株式、債券とも発行が低迷している。
    09年通年での公募増資は7.7兆円であったが、10年には、一部の金融機関を除いて既に増資が一巡しており、4−6月の公募増資は前年同期比で64%減少した。今年の増資は前年比半減すると見られている。
    1−6月の社債の発行額は4.4兆円で、前年同期に比較して29%減少した。これは、事業会社の手元資金が潤沢(上場企業の3月末の手元流動性は65兆円と過去最高)で守りの資金調達ニーズが遠のく一方、ギリシャショックによる先行きの不透明感の増大で、攻めの資金調達ニーズも縮小していることによる。それでも今年の前半では、相対的に格付けの低い社債(シングルAマイナス以下)の発行が行われていた。これは発行条件が改善したことと、超低金利で運用難に悩む機関投資家のニーズが合致していたことによる。しかし、その後の欧州危機で発行も延期されている。従って、資本市場部門での人材採用には目立った動きはなかった。
    ・資本市場部内で、ファイナンス(DCM)と債券部(デリバティブ)の合弁プロジェクトとして、中堅以下の事業法人の資金調達ニーズに応えるための組織作りがあった。一部の外資系金融機関ではそれを独立した部とするところもあった。ここでは、社債発行手続き(DCM)とデリバティブの両方の経験を持つプロが求められたが、候補者は稀少である。

    (2)M&A

    ・09年の世界のM&Aは前年比で22%も縮小したが、10年の1−6月では、アジア市場の拡大に影響を受け前年同期比9%増加した。日本企業が当事者となるM&Aも1−6月には前年同期比5%増加したが、金額は4.1兆円で、水準は極めて低い。この間、キリンとサントリー、新生銀行とあおぞら銀行の合併も検討されたが、結局立ち消えとなった。 従ってM&Aでの人材需要は低迷した。但し案件の打診は増えているようで、それに対応するための若手への需要はあった。
    ・プライベートエクイティ(PE)によるM&Aは、リーマンショック以前にはM&Aの増加をリードしていたが、最近のPEの不振により大きく落ち込んでいる。

    (図表−6)
    [図表]

    (3)IPO

    IPOは06年の188社から急減し、09年には19件にまで落ち込んでいる。これは、株式市場の低迷や日本経済に蔓延する保守化、規制緩和の遅れ等複合要因に起因する。人材需要はほとんど聞かれなかった。

    (4)カバレッジバンカー

    ・資本市場ビジネスとM&Aが落ち込んでいるため、案件を発掘するカバレッジでの人材需要は基本的に小さかった。もっとも、若手に対する人材需要は引き続きあったし、産業別で、シニアバンカーの退社に伴う採用も散見された。
    ・外資系金融機関の投資銀行ビジネスでの不振は、環境の悪化に加え、彼らの「短期収益指向」が日々強まっていることに起因している。大幅なリストラを行った大手の外資系投資銀行は、案件の減少にもかかわらず、相変わらず大口の3億円以上の収入が見込める案件に限定している。そのため、彼らは、ターゲットを時価総額5,000億円以上の企業に絞っているといわれる。名うてのカバレッジバンカーは、嗅覚を働かせて、儲かる企業だけに照準を合わせている。このやり方では日本企業との強固な顧客関係を築くことは出来ない。これにより外資系投資銀行ビジネスはジリ貧に陥っており、これが、顧客『面』作戦を繰り広げる野村証券が外資系を駆逐し、ひとり勝ちとなっている所以である。
    ・上記の状況にあって、日本市場からの安定的な収益が見込めない外資系金融機関は、リストラ後の陣容の回復を控えている。金融でのジャパンパッシングである。
    ・産業別では、特にプライベート・エクイティを対象とするファイナンシャル・スポンサーズ・グループ(FSG)の低迷が著しく、他のグループと併合するところもある。

    2. プライベート・エクイティ(PE)

    ・今世紀に入って日本市場でも拡大したPEは、一時M&Aをリードし、日本産業の活性化の旗手として大いに期待された。多くのバンカーがキャリアのゴールと考えていた。しかし現在、当時の活況は失せている。ファンドによるM&Aは08年には1兆円を超えていたが、金融危機後の09年には4,000億円程度に落ち込んでいる。不振の原因は、日本の株価の低迷、慎重な銀行のLBOファイナンス、出資者の縮小である。また、投資済み案件の企業価値が低下しており、特に06−07年に高値で投資した案件のエグジットは容易でないようだ。従って、ほとんどのファンドで採用計画は無く、PEは、金融ビジネスの中で最も人材需要が回復していない分野となっている。
    ・但し例外が無いわけではない。「日本経済は底を打ちつつある」と見る海外からの新規ファンドや問題投資を抱えていない既存のファンドが、魅力的な投資企業を物色しているとも聞く。人材採用では、ファンドレイズ(投資家の発掘)担当やコンプライアンス担当を求めているところもあった。

    3. 不動産関連

    (1)商業用不動産

    ・10年初頭から、専門家たちの間で「国内の不動産市場は底を打った」との声が聞かれるようになった。しかし、その戻りは鈍く、いわゆるU字型回復基調というのがこれら専門家たちの一致した意見のようだ。不動産投資関連の人材需要も市場のペースと同じく、一部のファンドなどでアクイジションやNPL投資担当の採用がアドホックに行なわれていたが、全体的に需要が回復しているとは言い難く、過渡期に見られるような膠着状態の感がある。
    ・それでも、不動産市場に回復の兆しが見られた要因としては、金融機関によるファイナンスの回復をあげる不動産投資担当者が多い。商業用不動産向けのローンを担保として組成されるCMBSの発行額は、活況を呈した07年以来急落していたが、10年に入り、銀行が、既存ローンのリファイナンスだけでなく、新規のファイナンスにも応じ始めたとのこと(従って「2010年問題」は深刻化しなかったようだ)。そして、ファイナンスの割合(LTV)と物件の利回りによっては、オポチュニスティック・ファンドの検討対象となっているようだ。実際、旧モルガン・スタンレーの幹部たちが日本を含む不動産事業を立ち上げるなど、新規不動産ファンドの立ち上げが09年末から増えており、それらのファンドによるソーシング担当へのニーズが出て来ている。これらソーシングの成否によっては、今後、アンダーライティングやエグゼキューション、アセットマネジメント、プロパティマネジメント等へ人材需要が拡がっていくと思われる。しかし、現在の景況感や下げ止まったままのテナント賃料、地方都市の供給過剰感なども合わせて考えると、先行きは不透明である。
    ・ブラックストーンによるモルガン・スタンレーの不動産担保ローン債権取得や、BNPパリバ・プリンシパル・インベストメンツのダヴィンチ向けコミットメントラインのフォートレスへの権利譲渡などの報道にみられるように、最近、外資系投資銀行の自己投資部門が保有するディストレス化したノンリコースローンの処分も進み始めたようで、この動きは今後加速するものと思われる。
    ・米国投資銀行の自己資金投資部門はボルカー・ルールへの対応を迫られており、成り行きによっては、日本での不動産投資関連の人材需要にも影響が出る。

    [図表]

    (2)REITやRMBS

    10年4月末の日本のREITの時価総額は3兆円強であり、これは09年3月末比8%増加しているが、先進諸国のREITの中では戻りが一番小さい。RMBSの組成も、10年の1−3月には6,625億円で、前年同期比297億円減少している。これらの不動産関連での人材需要はほとんど聞かれなかった。

    4. ヘッジファンド

    ・09年の世界のヘッジファンドのリターンは19%で03年以来の好業績であった。運用残高はピークの2兆ドルから急減していたが、10年に入っても引き続き資金が流入したため、現在の運用総額は1.67兆ドルまで回復している。その間ギリシャショックもあり、一部のファンドの苦戦も伝えられたが、1−6月のリターンは微減だったようだ (ユーリカヘッジの指数は年初来0.02%の下落)。
    ・かつて250あった和製ファンドはいずれも苦戦し、現在50程度に減少している。現在の運用残高は130億ドルで、ピークの1/3程度に減少している。しかし、最近になって一部のヘッジファンドが反転攻勢に出たようだ。具体的には、「日本株は割安」と見るプロによるファンドの新規立ち上げ、既存のヘッジファンドの拡大、海外ヘッジファンドの日本進出があり、これらの動きに伴う人材需要がみられた。資金も流入している。
    ・一方、運用難に悩む日本の企業年金基金は、オルタナティブ投資としてヘッジファンドへの投資を増やしつつあるようだ。この年金基金による投資需要の拡大を捕捉するため、内・外の既存のヘッジファンドに加え、新設のヘッジファンドが年金宛て営業で人材を求めていた。特に、オルタナティブ投資への抵抗が小さい総合型年金基金宛てに、資産運用会社や外資系証券で営業担当への人材需要があった。銀行によるオルタナティブ投資はバーゼル・ルールにより規制されているので、関連の人材需要は無かった。
    ・今後は、米国の「金融規制改革法」、IFRSの会計基準の変更、欧州危機が影響すると考えられる。特に金融規制改革法は、銀行のヘッジファンド投資を自己資本の3%までに制限し、ヘッジファンドに対しては徹底した情報開示を求める。この影響がどの程度か注視しなければならない。米国では、銀行のトレーダーがこの銀行規制に嫌気し、独立してヘッジファンドを立ち上げる動きもあると聞くが、日本ではその動きは見られない。

    (図表−9)
    [図表]

    5. 債券ビジネス

    (1)フロー債券

    08年後半から10年の1−3月まで、主要国の財政・金融政策により、金利は低下(債券価格の上昇)し、株価は上昇、クレジットスプレッドはタイト化(社債価格の上昇)した。大手外資系金融機関は、これらのフロービジネスでのトレーディングや対顧客ビジネスで大きな収益を上げた。JGBの買い持ちポジション(金利低下方向に賭ける)を大きく取ることにより、またJGBの対顧客取引において、大量のロットを瞬時に捌く執行力が機関投資家から評価されていることから、一部の日系証券を除いて、JGBの主要マーケット・メーカーは外資系証券となっている。また、現物社債の新発物や既発債で大胆な仕入れを行い、短期間に対顧客取引で売り捌くことで大きく儲けた向きも見られた。ここでは、主に邦銀のバンクキャピタル債や一部消費者金融銘柄が活発な商いの対象となった。外債取引では大手機関投資家が米国債・欧州国債等のイールド・ピックアップに走ったため、これらの顧客に着実に流動性を供給した外資系証券の市場占有率が上昇した。 こうした動きを反映して人材需要は見られたものの、一部のプロの争奪戦に終始し、また、全般的には既存の人員や内部からの異動で対応していた。

    (2)仕組み債

    かつて花形の投資商品であった、30年満期のパワーリバースデュアル債やターゲットリデンプション債の新規発行は、ほとんど見られなくなった。これらに代わり売れた商品は、「透明性(ブラックボックスがない)」「流動性(随時売戻しが可能)」「単純性」を備えた物に限られた。具体的には、 単純なコーラブル債やリバースフローター債、EB(他社株転換可能債)などである。これらの仕組みを使ったプライベート・プレースメントのための円ローンの組成は、利幅は少ないものの、 「原点回帰」を求められている現状では、重要なビジネスと位置付けられている。しかし、これらの組成や販売は従来の陣容で十分に対応出来ており、新規の人材需要を喚起するに至らなかった。

    (3)実需為替ビジネス

    輸入性向の高い事業法人などが、実需を凌駕するポジションを取ってマネーゲームに走る傾向はほとんど見られなくなった。それに代わり、健全な範疇で、自然発生の為替ポジションをヘッジするニーズが高まっていた。これに対して、現在、さまざまなデリバティブ手法を用いてテーラーメイドのソリューション提供がなされている。これに伴い、単なる為替のカスタマーディーラーではなく、応用力のある為替系デリバティブのマーケターへの人材需要が散見された。また、アジア通貨関連のビジネスの伸張を期待して、人員配置を見直そうという動きもあった。

    (4)今後の債券ビジネス

    利幅の厚い商品の販売が事実上不可能になっている現在、求められている能力は、フロー系債券においては、スピーディーで確実な執行力と、グローバルなネットワークを駆使した情報提供力である。外債ビジネスでは、ウォールストリートの「クローズド・サークル」のメンバーでなければ入手出来ないような情報を、いち早く投資家に伝える能力が重視されている。これは日系証券が太刀打ち出来ないところである。仕組み債では、複雑なスキームは敬遠されてしまうので差別化が図りにくい。ここでの勝ち組は、中期的な金利動向のシナリオを提示し、ストーリーに基づいた商品マーケティングと、独自の銘柄発掘、債券・株式とのコリレーションの低い新しいアセット・クラスの開拓といった戦略を組み合わせて対処していた。とは言え、次の時代に恒常的に儲かるビジネスモデルが簡単に見つかるものでもなく、各社の債券本部長の呻吟ぶりは甚だしいものがあった。これを映して、枢要なポジションで「玉突き現象」としての人材の動きがいくつか見られた。

    6. コモディティ

    コモディティの市場規模は債券やデリバティブ等に比較して小さいが、実需や投機の対象として注目されている。日本でのビジネスの中心は、事業会社のヘッジ取引に対するマーケティングである。大手外資系金融機関の日本法人はそれぞれ数人のプロを抱えており、採用の場合即戦力を求めるが、一人が他の金融機関へ転職するとその後連鎖して数人が転職する。10年に入ってその動きがあったが、外資系のコモディティのプロたちは互いに面識があるため、直接の引き抜きとなることが多い。コモディティはグローバルに取引される商品であるから、プロにはロンドンやシンガポール等の国際市場での経験が求められるが、日本人のプロにそのような人材は少ない。

    7. クレジットもの

    ・10年の1−3月での欧米大手の金融機関の収益改善の主因は、改善する経済環境下でのクレジット関連の拡大であった。09年以来のクレジットスプレッドのタイト化による社債価格の上昇や、信用保証コスト(CDS)の縮小による商機の拡大、さらには、金融バブル時に投資したクレジットもののアンワインディング取引の増大が、大手外資系金融機関に収益をもたらしていた。
    ・日本でも10年初めにはクレジット関連の人材需要があった。即ち、外資系金融機関で、ノンパフォーミング化したローン、社債、CMBS、LBO、CMBS等のハイイールドものの仕入れや販売(主として海外のヘッジファンド宛て販売)の担当に対する需要があった。これらのビジネスで、ディストレス・ファンドの日本進出もあった。新規のビジネスでは、G5のソブリンや高格付けの発行体を対象としたシングルネームのクレジットリンク債や、ファースト・トゥ・デフォールト債が相当量販売されたようだ。また、外貨建ての既発債を円建てにリパッケージした債券も、利幅は少ないが大量に組成・販売されてひとつの収益源とされた。これら単純系クレジット物の組成・販売では、銘柄に対するセンスが問われ、担当の入れ替えが見られた。また、投資家の意向を見誤り、募残を抱えて損失処理の責任を取るような事例もあった。 しかし、5月にギリシャショックが勃発してクレジット環境が悪化し、クレジット関連の人材需要は聞かれなくなった。
    ・日本のクレジットものには価格水準に合理性が無い(特に、CDSの保証料が極端に乱高下する)ことや流動性が小さいことから、評価しない外資系金融機関も多く、全体として人材需要は小さかった。特に、CDSトレーダーへの需要は聞かれなかった。また、04年以降の3年間で急増していたクレジット・ストラクチャードもの(CDO/CLO)の新規発行は全く見られなかった。従って人材需要も無く、一部の金融機関で当該部を撤廃する動きもあった。

    8. 株式関連

    ・少子化や日本の財政状況への懸念から、日本の株価が長期的に上昇すると考えているエコノミストや機関投資家は少ないようだ。実際、10年前に「1兆円ファンド」と呼ばれて脚光を浴びた野村アセットマネジメントが運用する「ノムラ日本株戦略ファンド」の純資産額は、先日、1,000億円を割り込んだ。機関投資家も日本株の先行きに悲観的であるが、特に年金基金はIFRSのルール変更もあり日本株への投資比率を下げている。また、株式の委託販売手数料率が低下の一途を辿っているため、証券会社での注力商品になり難い。
    ・しかし、一部の金融機関や海外のヘッジファンドは、現在の日本株を「割安」と考えており、組織強化のために人材を採用していた。また、いくつかの証券会社が、日本株のプロップトレーダーを採用しようとしていたようだ。ここでは、日本株の上昇トレンドにベットするというより、小額のキャピタルを使ったロング・ショート戦略であった。また、日本株ビジネスでの遅れを取り戻そうする外資系証券での採用もあった。これらでの人材ニーズは、トレーダー、リサーチ、営業、プロップトレーダーと多岐に亘った。
    ・東京証券取引所は超高速処理システムを導入したが、それに対応した専門会社の立ち上げや、証券会社でのトレーディング・チームの組成などで人材需要があった。
    ・個人投資家は、海外もの、特にアジア株に投資しており、エマージング株での経験を持つ人材への需要があった。

    9. 資産運用

    ・外資系の資産運用会社や金融機関は、日本の巨額の個人金融資産や年金資産に注目している。それを裏付けるように、09年後半から投信関連で積極的な人材採用があり、10年に入ってからは、慎重ながらも年金/機関投資家宛てビジネスで人材需要が起きている。また、エマージングものやオルタナティブ投資を得意とする運用会社が日本拠点を拡大したり、一任免許を取得して日本進出を進めていた。このように、日本でも運用ビジネス回復の兆しが見えた。しかし一方で、今年後半のマーケットは厳しいとの予想もあり、人材の動きが鈍化するおそれもある。
    ・09年以来外資系運用会社間の再編があったが、これによる戦略の見直しで、組織のスクラップ・アンド・ビルドがあった。また、合併後にカルチャーや経営方針の違いに戸惑い、退職する人もいた。今後も合併や事業譲渡がいくつか予定されており、各社の動きが注目される。
    ・日本の運用会社の大きな収益源である公募投信の運用残高は回復していたものの、運用の主流が新興国を中心とした海外資産であったため、運用を外資系運用会社に「外部委託」する日本の運用会社の手数料収入が減少した。従って、10年3月期の決算で、上位10社中8社の経常利益が前年比で減少した。 リストラを行わなかった日本の資産運用会社は、依然として余剰人員を抱えているが、一部に従業員の退職に伴う補充採用があった。

    (1)投信ビジネス

    ・10年6月まで15ヶ月間資金の流入が流出を上回っており、投信の底堅い人気が確認されている。その流れをみて、リーマンショック以降人材を切り過ぎた外資系運用会社や、エマージングものやテーマ型投信への資金流入を得た外資系運用会社が、09年後半から積極的に人材を採用した。しかしここに来て、少し一服感があるようだ。
    ・10年6月末の国内公募投信の純資産額は59.4兆円で、09年末比2兆円減少した。理由は、資金流入は続いているものの、世界的な株安、円高で評価損が出ていることによる。また、10年4月には4,527億円と好調であった公募投信の新規設定額も、6月では前年比50%減の1,019億円となり、09年2月以来の低水準となった。ユーロ危機により、「またか・・・」と危惧する個人投資家の意欲が減退しているとの声もあり、今年後半のマーケットは厳しいと予想する人も少なくない。
    ・昨年来、野村証券等大手証券は販売チャネルとして投信の復活に大きな功績を残して来たが、最近では一時の勢いが薄れている。今後は、メガバンクや地銀、郵貯での窓販に期待が寄せられている。実際、最近3ヶ月間の売れ筋をみても、為替リスクの無い国内資産で運用する投信や、為替リスクが軽減されたり、単純な設計の商品が選好されている。また、11年1月に始まる大量の国債償還を控えて、国債に代わる低リスク商品が注目されている。従って、各運用会社は、慎重ながらも、これらの運用商品を販売する銀行チャネルに対する体制を整備し人材採用を進めているが、人材需給に影響するこの流れが本当に起こるのかマーケットは注視している。

    (2)年金/機関投資家ビジネス

    ・10年に入って、年金基金や銀行・生損保等の金融機関宛てビジネスで、人材ニーズが聞こえて来るようになった。採用計画で見られる特徴は、@日本株離れが進むポートフォリオの入れ替えに対応出来るプロダクトを持った運用会社は、レコードイヤーになるほど実績を積み上げており、人材の補強を行っている。A日本でのニーズに添った運用商品を海外では持っているものの、これまで日本市場で苦戦を強いられてきた運用会社による、巻き返しのための人員補強である。
    ・12年3月から導入される新会計基準(IFRS)への対応として、企業年金は運用の安定志向を強めている。従って、ポートフォリオ配分で日本株の比率が低下しており、代わって、外国債券、新興国株式やオルタナティブ投資への配分が増やされている。金融機関も同様にポートフォリオの入替えを行っていることから、それにマッチしたプロダクトを提供出来る運用会社の業績が伸張する。対応出来ない運用会社の苦戦が予想され、業界の二極化が進んでいる。
    ・08年以来の運用悪化により、GPIFを始めとする公的年金基金は運用方針の策定に慎重になっているようだ。公的年金を受託する運用会社の中には、今年後半が勝負とみる運用関係者もいる。公的年金基金に対して良い提案が出来た運用会社で人材需要が起こる可能性がある。
    ・運用難に苦しむ私的年金基金には、パフォーマンスを上げるために解決すべきさまざまな問題がある。それらの諸問題の解決のための提案に成功した金融機関が、取引シェアを上げていくと考えられる。例えば、JPモルガン証券による、単独型年金基金への株式運用ヘッジのためのプットオプションの購入提案もそのひとつであろう。また、企業年金もオルタナティブ商品への投資意欲を持っているが、年金コンサルティング・ファームや親会社の財務部長をどのように説得出来るかがポイントとのこと。運用会社の提案力が問われている。
    ・外資系投資銀行(証券会社)による総合型年金基金宛てオルタナティブ投資商品の提案は、09年前半から拡大していたが、この営業担当に対する人材需要は引き続きあるようだ。しかし、長らく資産運用会社で年金基金宛て営業に携わってきたプロが、証券会社のカルチャーに馴染むのは難しい。従って採用対象となる人材が限られており、人材の確保は難しいようだ。
    ・リーマンショック以降投資余力が低下した日本の金融機関は、低リスクの資産である債券を中心に運用しているが、その中で、より金利が高い長期債の購入に資金をシフトさせている。従って、エマージング債や米国社債の運用を得意とする運用会社が好調で、若手を中心とした採用を行っていた。今後もこのビジネスでの人材需要は続くとみられる。

    (3)運用部門とオペレーション部門

    ・個人投資家や機関投資家とも日本株離れが続く中、運用部門では、国内ものでの採用ニーズはほとんど聞かれなかった。外債や株式のプロダクト・マーケティング担当へのニーズがあった程度である。
    ・欧米で多く見られるように、一部の外資系運用会社がオペレーション部門をアウトソーシングしており、人材の流出があった。コスト削減のため、この流れは続くかも知れない。ただし、退職者補充のための採用はいくつか見られた。

    10. プライベート・バンク(PB)

    個人富裕層を「1百万ドル以上の投資可能資産の保有者」と定義した場合、09年末で日本には165万人おり、これは前年比20%増加(回復)している。従って、日本の金融機関や外資系プライベート・バンクが個人富裕層をターゲットとして組織を拡大し、人材を採用しようとしていた。

    (1)既存のPBにおける採用

    ・採用の対象は、プロダクト担当と顧客を持つリレーションシップ・マネジャーであった。 プロダクトグループでのニーズは、最近の富裕層の投資対象が多岐に亘っているため、さまざまな投資商品の品揃えが必要だからである。グループは、仕組み預金、株式、債券(仕組み債を含む)、ファンド(投信やヘッジファンドを含む)のチームに分かれており、それらのプロへの人材需要があった。しかし現在、採用は一巡している。
    ・リレーションシップ・マネジャーへの需要は引き続き強いが、即戦力の確保は極めて難しい。理由は、日本のPBの歴史が浅く経験者が少ないが、採用側が実績のあるプロを求めているからである。リレーションシップ・マネジャーは、外資100%のPBに総計150人程度いるといわれているが、誘われるプロにとっては報酬条件が良くなるわけでもなく、転職するメリットがない。PBは他部門から商品を仕入れるため収益性が低く、従って、報酬額も他部門より低くなる。例えば、預かり資産を100億円獲得しても、実際の収益利回りが0.5%程度であるから、PBの収益は50百万円程度にしかならない(金融機関にとってはキャピタルを使わないビジネスであるが)。その中で、PBは、大きな顧客ベース(50億円以上の預かり資産を持ち込む)を持ち、十分な収益を稼ぐ(収益利回り1%で、年間1億円以上の収益を稼ぐ)プロを引き抜こうとしているが、マーケットにこのノルマをクリアしているプロは少ない。既存のPBは、これらの問題に対策をとることもなく、「当社のPBは世界的に成功している」というセリフだけで採用しようとしている。

    (2)PBへの新規参入

    上記の問題を抱えながらも、中長期的観点から、日本のPBビジネスに参入する内外の金融機関があった。米国で巨大なリテール網を持つ投資銀行が参入を企画しており、メガバンクの一つが外資系金融機関と日本のブローカーとのジョイントでPB立ち上げた。また、住宅ローンの拡大を狙ってPBへの参入を図る地銀もある。 日本のPBビジネスは、上記のような問題を抱えながらも拡大し、人材需要を創出していくと考えられる。

    以 上

    第三部 欧米投資銀行の最近の業績とその特徴

    1.投資銀行部門の強化を図る欧米大手金融機関

    米国では巨大な資本を持つ商業銀行が低コストの資金調達力を武器に伝統ある独立系投資銀行を合併する動きが相次ぎ、08年秋の金融危機を機にその傾向は一層加速している。現在、独立系投資銀行は大手ではGoldman SachsとMorgan Stanleyの2行のみが銀行持株会社への組織変更によって生き残り、他の独立系大手投資銀行はいずれも大手商業銀行に合併されたが、商業銀行内で戦略的な投資銀行部門として業績面で多大の貢献をしている(たとえばBank of Americaに吸収されたMerrill Lynch)。一方、欧州ではUBS、Credit Suisse、Deutsche Bank、Barclays等のユニバーサルバンクが英国の名門マーチャントバンクや米系投資銀行を相次いで買収し、投資銀行部門の強化を図っている。 これら欧米金融機関の動きに対抗して、わが国では野村證券や3大メガバンクが金融危機に際し、巨額の資金を投じて相次いで経営危機に陥った米系投資銀行を買収・資本参加により傘下に収め、早期戦力化に注力中である。 投資銀行業務は広範に亘り、各投資銀行部門で業務内容、注力方針、担当部門名等がそれぞれ異なり、また時代の流れとともに変化するので、厳密に統計的・数量的な銀行間の業績比較は困難である。投資銀行の業務のうち中核となる業務、つまりM&Aのアドバイザリー等のInvestment banking業務と、債券・株式等のSales & Trading業務の担当部門も、米国ではGoldman Sachs(以下GSと略)がInvestment Banking部門とTrading & Principal Investments部門、Bank of America(以下BoAと略)がGlobal Banking部門の中のGlobal Corporate & Investment Banking部門とGlobal Markets部門がそれぞれ分担しているのに対し、Morgan Stanley(以下MSと略) はInstitutional Securities部門が、Citigroup(以下Citiと略)はInstitutional Clients Groupの中のSecurities & Banking部門が、JP Morgan Chase(以下JPMと略)はInvestment Bank部門が両業務を担当し、同一部門内で業務分担している。各金融機関発行の『アニュアルレポート』や『決算報告書』の業務セグメント情報だけでは投資銀行部門間における厳密な業績比較には限界があるが、大勢としての判断の一助にはなりうると思われる。

    2.各金融機関の投資銀行部門の業績比較

    (1) 投資銀行部門の純収入と純利益

     大手金融機関の09年度投資銀行部門の純収入(金融費用控除後、邦貨換算)は、米国では1兆2,000億円と低迷のMSを除くと、BoAが4兆円、GSが3兆6,000億円に達し、JPMとCitiが2兆5,000億円となった。欧州でも6,000億円と不振のUBSを除くと、Deutsche Bank(以下DBと略)の2兆1,000億円に次いでCredit Suisse(以下CSと略)とBarclaysが1兆8,000億円に達した。一方、野村證券は08年度1,600億円の赤字から7,900億円の黒字転換したが、欧米金融機関と比較すると、まだ20%〜50%の規模である。 同部門純収入の全社純収入に占める割合をみると、米国では投資銀行母体のGSが87%、MSが55%と過半を占めるのは当然として、商業銀行系でもBoAが37%、Citiが34%、JPMが28%と、概ね30%を占めている。欧州でもCSとDBが60%台、UBSとBarclaysが30%と、高い水準を実現した。  また09年度における同部門の経費差引後の純利益(税前利益)では、わずか900億円に止まったMSを除くと、GMの全社純利益の94%を占める1兆7,000億円を筆頭に、JPMは同65%を占める1兆円、BoAは他部門の赤字を埋め合わせて全社で黒字計上にした1兆4,000億円、Citiは他部門の赤字を埋めきれずに全社で赤字となったものの1兆2,000億円と、いずれも1兆円規模になった。欧州でも唯一、投資銀行部門が赤字に陥ったUBSを除いてCSが全社純利益の85%を占める6,000億円を実現したのをはじめ、DBが同68%を占める5,000億円、Barclaysが同21%を占める4,000億円と、いずれも投資銀行部門が各社の大幅利益を実現した主要因であることがわかる。野村證券も08年度の7,200億円の赤字から1,800億円の黒字に転換し、前年対比9,000億円もの大幅改善をみた。

    (第1表)大手金融機関の投資銀行部門の純収入と純利益(2009年度)

    (単位:円換算で億円)
      投資銀行部門の純収入 投資銀行部門の純利益
    (金融費用控除後) (経費差引後の税前利益)
      全社の純収入に
    対する割合
      全社の純利益に
    対する割合
    Goldman Sachs 36,036 87% 17,103 94%
    Morgan Stanley 11,755 55% 903 115%
    Citigroup 25,434 34% 11,851 全社で赤字
    JP Morgan Chase 25,860 28% 9,595 65%
    Bank of America 40,168 37% 13,657 3.4倍
    UBS 6,102 30% △5,412 2.4倍
    Credit Suisse 18,278 62% 6,092 85%
    Deutsche Bank 21,380 64% 4,669 68%
    Barclays 17,321 38% 3,671 21%
    野村ホールディングス 7,895 67% 1,751 1.7倍

    (2) 投資銀行部門の業務別内訳

    09年度の投資銀行部門の黒字はほとんどが債券、株式、為替等のセールスや売買を行うSales & Trading業務(機関投資家への販売と、自己資金で売買して利益を目指す自己勘定取引がある)の黒字によって実現された。同業務の純収入(金融費用控除後)をみると、米国ではGSが3兆2,000億円で投資銀行部門黒字の88%、BoAが1兆1,000億円で同27%、欧州ではDSが1兆7,000億円で77%、CSが1兆6,000億円で87%を占め、Barclaysも1兆円で60%に達した。一方、Citi、MS、UBSの同業務の黒字は5,000億円前後に止まった。これは、大手金融機関における政府の金融政策の先行きや金融市場動向に対する読みの相違から同業務での成果が二極分化した形。なお、野村證券も前年度の2,300億円の赤字から6,700億円の黒字に転換し、投資銀行部門の改善の主因となった。  一方、株式や債券の引受、M&A仲介や財務上のアドバイスを行うInvestment banking業務の 純収入については、米国金融機関がJPMの7,000億円を筆頭にほとんどの大手金融機関が4,000〜5,000億円前後に収まり、銀行間での大きな差異はなかった。欧州でもDBの5,000億円を筆頭に他の大手金融機関はいずれも2,000〜3,000億円と大差なかった。これは世界的な景気低迷の下、企業のM&Aの動き自体が低迷し、案件発掘の機会が少なかったことも原因であろう。なお、野村證券は前年の600億円から1,200億円に倍増した。

    (第2表)投資銀行部門純収入(金融費用控除後)の業務別内訳

    (単位:円換算で億円、%)
      Sales & Trading業務 Investment banking業務
      投資銀行部門に
    占める割合
      投資銀行部門に
    占める割合
    Goldman Sachs 31,623 88 4,413 12
    Goldman Sachs 36,036 87% 17,103 94%
    Morgan Stanley 11,755 55% 903 115%
    Citigroup 25,434 34% 11,851 全社で赤字
    JP Morgan Chase 25,860 28% 9,595 65%
    Bank of America 40,168 37% 13,657 3.4倍
    UBS 6,102 30% △5,412 2.4倍
    Credit Suisse 18,278 62% 6,092 85%
    Deutsche Bank 21,380 64% 4,669 68%
    Barclays 17,321 38% 3,671 21%
    野村ホールディングス 7,895 67% 1,751 1.7倍

    3.欧米金融機関の主要経営指標の比較

    (1) 人件費配分比率

     投資銀行部門の利益の源泉は「人材」である。商業銀行は小口取引をマスで捉える団体行動で物理的コスト(店舗・拠点、システム整備の経費)が嵩むが、投資銀行では物理的コストは掛からず、個々の金融人材が持つノウハウや経験、さらには人脈がすべてである。このため商業銀行が投資銀行を買収しても、職務執行条件や報酬面の相違から優秀な金融人材が流出する事態が多く、その場合、企業価値が一気に低下する。特に報酬に関して投資銀行は商業銀行のように人件費を「コスト」として抑制方針で対処するのではなく、利益極大化を実現する「投資」として捉え、実現した利益の調整として報酬の配分を決定するのが今までの通例。  そこで、投資銀行部門を持つ欧米金融機関における人件費配分比率(人件費を純収入総額で除した比率)の推移をみると、投資銀行部門主体のGSが配分比率40%前後、MSが同50〜60%、Credit Suisseと Deutsche Bankが40%台、これに対して、商業銀行系が欧米とも概ね同30%前後である。一方、わが国の金融機関をみると、野村證券が欧米金融機関並みに40%台であるが、3大メガバンクはいずれも商業銀行業務のウエイトが高く、10%台〜20%の水準に止まる。

    (第3表)人件費の規模及び純収入に対する人件費配分比率の推移

    (単位:円換算で億円、%)
      07年度 08年度 09年度
    人件費 配分比率 人件費 配分比率 人件費 配分比率
    Goldman Sachs 23,219 44 10,059 49 14,898 36
    Morgan Stanley 18,540 61 10,936 54 13,283 62
    Citigroup 37,611 42 28,608 60 22,988 31
    JP Morgan Chase 26,092 32 20,926 34 24,774 27
    Bank of America 21,566 28 16,901 25 29,006 26
    UBS 25,770 80 14,148 20倍 14,723 73
    Credit Suisse 16,259 41 11,531 1.4倍 13,362 45
    Deutsche Bank 22,045 43 12,392 77 15,552 47
    Barclays 17,658 32 9,797 31 14,823 32
    野村ホールディングス 3,668 47 4,916 1.6倍 5,262 46
    三菱東京UFJ銀行 3,678 19 3,719 21 3,722 20
    三井住友銀行 2,117 14 2,370 16 2,457 17
    みずほコーポレート銀行 740 12 841 16 890 14

    (2) ROE

     株主に対する究極の利益還元率を示すROE(Return on Equity)は欧米金融機関にとって株主への説明事項のうちもっとも重要な指標であるが、わが国では経営分析上のツールの域に止まり、株主へのコミットはあまりみられない。  欧米大手金融機関のROEは、この3年間、極めて不安定な動きをしている。逸早く投資銀行部門の利益急増からGSが09年度に23%の水準に回復した以外は、投資銀行部門の不調から脱却できないMS、景気低迷の余波を受けて貸倒償却の急増に直面した商業銀行業務母体のCiti 、JPM、BoAはいずれもかつての水準に戻っていない。欧州ではUBSを除いてCS、DS、Barclaysはいずれも二桁の水準を回復した。 なお、わが国では野村證券をはじめ3大メガバンクが揃って黒字決算によりROEは一桁のプラスになったが、いずれも自己資本規制への対応から巨額の増資を相次いで実施したため、ROEの一段の回復は容易ではない。

    (3) 自己資本比率

     BISでの自己資本比率規制強化の動きについては、中核となる資本部分の定義と範囲、規制水準、導入時期、景気との関連性等で決着しておらず、先行き不透明であるが、大手金融機関はいずれも厳しい条件を前提に前倒しで比率引き上げに注力している。  中核となるTier 1のうちコア部分での比率(Tier 1 common ratio)の09年末での推計値をほとんどの欧米大手金融機関は明らかにしており、GSの12%を筆頭にほとんど9%前後の水準にある。これに対して、わが国の金融機関は巨額の増資で比率引き上げを図り、想定される規制 水準を上回っているとみられるが、17%を達成した野村證券を除くと、欧米大手金融機関に比べると、まだやや下回る水準にある。しかも、自己資本規制対応の巨額の増資がROEではマイナス効果を齎すので、両者のバランスが求められる。

    (第4表)ROEの推移と自己資本比率(09年度末)

    (単位:%)
      ROE 自己資本比率
    (連結ベース) (09年度末、連結ベース)
    07年度 08年度 09年度   Tier 1 コアTier 1
    Goldman Sachs 32.7 4.9 22.5 18.2 15 12.2
    Morgan Stanley 6.5 3.2 NA 16.4 15.3 8.2
    Citigroup 2.9 △28.8 △9.4 15.3 11.7 9.6
    JP Morgan Chase 13 2 6 14.8 11.1 8.8
    Bank of America NA 5.2 4.2 14.7 10.4 7.8
    UBS △10.5 △58.7 △7.8 19.8 15.4
    Credit Suisse 18 △21.1 18.3 20.6 16.3
    Deutsche Bank NA △16.5 15.3 12.6 8.7
    Barclays 20.3 16.5 23.8 13 10
    野村ホールディングス 赤字 赤字 3.7 24.3 17.3 17.3
    三菱UFJFG 9.7 △4.0 4.9 14.9 10.6 8.3
    三井住友FG 13.2 △14.3 7.6 15 11.2 7.7
    みずほコーポレート銀行 △8.2 △26.1 17.4 13.5 9.1 5.6
    (注)みずほFGの連結ベースROEは公開資料不明のため、コーポレート銀行単体を計上。

    以 上

    筆者のプロフィール:
    小溝 勝信(こみぞ かつのぶ)
    1968年、東京大学教養学部国際関係論分科を卒業し、住友銀行(現三井住友銀行)に入行、主として国際部門に従事した。1984年に外銀に転じ、ファースト・シカゴ銀行東京支店の事業法人部長に就任した。人材コンサルティングに転ずるため、1989年、米国の大手ファームの一つであるホイットニー・グループ日本支社に入社し、副支社長に就任した。1993年、日本型のエグゼクティブ・サーチの創設を目指してヘッズジャパンに転じ、金融部門マネジング・ディレクターに就任した。2004年、エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社を設立した。
    このレポートは、筆者がヘッズジャパンで1994年以来、半年毎に報告していた「外資系金融機関の最近の人事事情について」の連続版である。

    エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社(ESP)のプロフィール:
    小溝勝信が永年の経験と主張の集大成として2004年に設立した。日本の金融人材市場に初めての、本格的な、日本版の「エグゼクティブ・サーチ・コンサルティング」の創設を志す。

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