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平成22年1月 第11号 (日本語版) 金融市場の最近の人事事情について 第一部 外資系金融人材市場の様相
〜 「リーマンショック」によるリストラのその後 〜
日本に「投資銀行」は不要か?
第二部 [金融転職市場の創設]に関わる法律問題の研究(第4回)
〜 雇用と報酬に関する法律問題 〜
エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社
代表取締役 小溝 勝信 |
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| - 目次 -
第一部:外資系金融人材市場の様相 第一章 概観
第二章 金融ビジネス別の人材需要状況
1.投資銀行ビジネス
(1)株式引受と債券引受
(2)M&A
(3)カバレッジバンカー
3.不動産関連
5.債券ビジネス
(1)フロー債権
(2)仕組み債
6.クレジットもの
7.株式関連
8.資産運用
(1)投信ビジネス
(2)機関投資家ビジネス
第三章 提言
第二部:「金融転職市場の創設」に関わる法律問題の研究(第4回) |
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はじめに 世界の金融市場に「壊滅的」な打撃を与えたリーマンショックから1年半が経過した。いまだに大きな傷跡は残っているものの株価は回復し、金融環境は最悪期を脱しているように見える。しかし、大規模なリストラが断行された外資系金融人材市場では、本格的な採用は再開されていない。これは、国際金融市場での諸問題が依然不透明・未解決であることに加え、日本固有の問題に起因していると考えられる。 金融ビジネスは、本来、「商業銀行」「証券会社」「投資銀行」が、バランス良くそれぞれの役割を発揮し、産業の発展や個人のニーズに応えるべきだが、日本では歴史的経緯もあり、商業銀行が圧倒的な地位を占めている。しかも、リーマンショック後、その傾向がいっそう強まり、投資銀行ビジネスは日本市場で存在感を失いつつある。 第一部では、「外資系金融人材市場の様相」として、リストラ後の状況を報告し、当社の提案を行いたい。 第二部では、「金融転職市場の創設に関わる法律問題の研究(第4回)」として、当社が後援するNPO法人「金融人材市場の改革を進める会」から『雇用と報酬に関する法律問題』の寄稿を得た。リーマンショック以降、外資系金融機関で行なわれたリストラの法的な問題を解説した。 |
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| 第一部
外資系金融人材市場の様相
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日経平均株価は、09年3月10日のリーマンショック後の最安値7054円から、10年1月末現在の10198円へ45%上昇した。これは外資系金融機関での人材需要の回復度合と大きく異なる。当社は『レポート』−10で、08年初頭から09年8月までの外資系金融機関(銀行、証券会社、資産運用会社等)でリストラされた総数を約4500人(全体の16%)と推計した。しかし現在までに、この内、せいぜい20%程度が外資系金融機関に再就職したと推定される。この再就職者数は、リストラ数の計算時のように各社別に積み上げた数字ではない。また、外資系金融機関にプロとして採用された人だけで、一時避難のために友人の会社に就職している人を含まない。もし、今後、世界景気が回復し金融ビジネスが平時に戻ったとしても、再就職を果たせる人数は5割に及ぶことは無い。 08年初頭から09年3月までに外資系金融機関で起こったリストラのビジネス別シェア(フロントのみ) |
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・海外要因としては、10年度の世界の経済・金融を取り巻く環境が依然脆弱であり、「二番底」が懸念されていること。また、09年では国際的な金融機関の収益は前年比大幅に改善したが、それは、各国政府による大規模な財政・金融政策に乗って実現されたものに過ぎず、リーマンショック後の「新しい金融ビジネスモデル」が樹立されて実現されたものではないこと。従って、外資系金融機関の日本法人においては積極的な経営戦略が立てられなかった。 ・国内要因としては、外資系金融機関は「日本の産業・金融市場がグローバルスタンダードから大きく乖離しており、日本市場は儲からない」と評価しており、たとえ金融環境が回復したとしても最小限の復元にとどめると考えられること。即ち、金融においても「ジャパンパッシング」が起こっている。 |
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・金融ビジネス別の人材需給状況は、第二章で報告する。 ・外資系投資銀行に再就職したプロがいなかったわけではない。最近では「新しい職場が見つかりました」との連絡が来るようになった。しかし、一流外資系金融機関へ再就職が出来た人は、概ね「非常に優秀な若手のプロ」に限定されている。しかも採用は「過剰なリストラからのリバウンド」に過ぎず、戦略的な増員ではない。 ・最近目立つのは、外資系投資銀行での人材の「若年化」である。外資系金融機関では部長はマネジング・ディレクター(MD)と呼ばれるが、30歳代前半が大層になっている。これは、最近では金融ビジネスが単純化しており、体力・気力のある若手で十分ということだろう。しかし、確かに彼らは優秀だが、さまざまな経験や深い洞察力がなくても収益を上げられるほどビジネスは簡単ではない。金融環境が一変すれば、そのような若手MDもその役割を終え、リストラされることになる。 ・本来であれば、外資系金融機関のリストラを好機として、優秀なプロを採用して人材のレベルアップを図るべき日本の金融機関は、他の金融機関との提携・買収案件や資本力不足への対応に忙殺されて、それどころではなかった。 |
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4.海外における金融機関に対する規制・課税の動きと日本法人での報酬条件 ・欧米の大手金融機関が国民の怒りを買っている。即ち、各国政府は危機対策として巨額の税金を投入し金融マーケットを回復させたが、その危機の主犯であるはずの金融機関が、マーケットの回復に乗じて得た収益から巨額の報酬を従業員に支払うことは認められないという怒りである。米紙の報道によれば、米国の大手金融機関が09年の業績に対して支払う報酬総額は1459億ドル(13.1兆円)に及び、これはバブルであった07年度での金額も超えるとのこと。英国やフランスの政府は国民の怒りに対応して、金融機関に対する高額なボーナスへの課税や規制強化の方針を打ち出しており、米国政府もグラス・スティーガル法廃止の見直し(ボルカー・ルール)まで検討している。現時点ではその行方は分からない。・欧米の大手金融機関は課税を逃れるため、ボーナスに代えてベース・サラリーを上げたり、自社株での支払いや支払い繰延べ等で対応している。あるいは、クローバック(Claw Back)というボーナスの返還条項まで付けている。日本法人でのボーナス・コミュニケーションは始まったばかりで、2月一杯かかる。彼らの報酬条件がどのようなものになるか、判明するのはこれからである。 |
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09年後半では、上記の状況の下で次のような人材需要があった。 (1)長期に亘り金融ビジネスに収益をもたらしたデリバティブズ、証券化、レバレッジの問題点が露呈したため、代わって、特に個人投資家による「リアルマネー」への選好が確認された。従って、投信関連、個人富裕層関連のビジネスで人材需要があった。 (2)流動性の供給と低金利政策の続行により、金利の低下(債券価格の上昇)と株価の回復があり、それに対応してJGB等のフロービジネスでの人材需要があった。 (3)投資銀行部門ビジネスでは、増資や社債の発行で活況を呈したが、人材需要には結びつかなかった。M&A自体は低迷したものの中堅・小企業の動きは活発で、若手人材への需要があった。 (4)全般的には、依然として人材需要は低迷しているものの、09年前半よりは回復している。 |
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・海外市場に比較して日本の投資銀行ビジネスは好調であった。09年の純収入は合計約4000億円に達し、前年比80%以上増大した。主因は好調な株式の引受けであった。09年に金融機関を中心に増資ラッシュが起こり、5兆円以上のエクイティファイナンスが行なわれた(株式の引受手数料は平均3%だから、全体で1500億円の収入を得たことになる)。また、長期金利の低下やクレジットスプレッドのタイト化等により起債環境が改善したため、09年での普通社債の発行は11年ぶりに10兆円を超えた(社債の引受手数料は平均0.2%だから、全体で200億円の収入を得たことになる)。このように資本市場部門は大活況であったが、目立った人材の採用は行われなかった。これは、先行きの不透明さを懸念する本社が、それを許さなかったことによるものと思われる。 |
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・グローバル・リセッションによって世界のM&Aは2.3兆ドル(207兆円)にとどまり、前年比22%も減少した。日本企業が当事者となるM&Aも約7.2兆円と、6年ぶりに10兆円を大きく下回り、前年比43%減少した(M&Aの手数料は平均1%だから、売り・買い合計で1440億円の収入を得たことになる。但し、フェアネスオピニオンを提出するだけの案件では低い手数料となる)。これは、大型のクロスボーダー案件が少なかったこと、株価下落により買収金額が下がったこと等による。M&A件数は1957件と、前年比19%減に止まっている。しかし、IN−INのM&A件数は1520件で全体の77.7%を占めているが、前年比1.7ポイント増加している。これは、事業継承ニーズ等での国内の小型の案件は相変わらず多いことを示しており、それが人材需要に反映していた。大手外資系金融機関の投資銀行部門や、必ずしも大型を追わないブティック型M&Aファームで、若手スタッフへの需要があった理由である。 ・M&Aの内、プライベートエクイティ(PE)が関与した案件は149件で、金額は4230億円であった。M&A全体に占める割合は件数ベースで7.6%、金額ベースで5.8%であった。ピーク時の20%台から大きく落ち込んでおり、PEの不振を確認した。 ・10年度ではクロスボーダーが回復すると期待されている。即ち、企業は低迷を続ける国内経済への対応として、海外市場へ活路を求めて海外企業とのM&Aを推進し、商社は資源確保のため海外での買収を行うと予想されている。また、国内では、同一産業内での再編が行われ、大企業による「選択と集中」経営の推進によりビジネスの再構築が進むとみられている。従って、10年度にはM&Aの人材ニーズは改善すると期待される。 しかし、日本のM&Aの世界シェアは金額ベースで3.3%しかない。日本の資本主義のあり方自体がグローバル化しなければ、日本に本格的なM&A時代は来ない、と言われている。 |
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| 株式や債券の引受業務とM&Aの人材需要の低迷は、顧客担当のカバレッジバンカーへの需要にも反映した。いずれの外資系金融機関の投資銀行部門でも、若手以外では目立った採用はなかった。 | |
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2.プライベートエクイティ(PE)とベンチャーキャピタル(VC) (1)PEのプロによれば、「最近になって多くの案件が照会されるようになった」とのことであるが、人材需要は全く聞かれない。上記の通り、M&Aに占めるPEのシェアも大きく下がっているが、これは日本経済がまだ回復基調に入っていない中、内外の金融機関からのファイナンスが受けられないことにも起因している。その中で、「健闘している」と評価されていたPEもあったが、不祥事を起こしてしまった。業界全体が落ち込んでいると考えられる。(2)VCはますます低迷している。09年の投資額は1000億円を下回り、95年以降最低で、ピーク時の06年の2790億円の1/3程度となった。09年のIPO件数も13社に過ぎず、08年の42社から大きく落ち込んでいる。人材需要は全く聞かれない。ベンチャー企業に役員として送り込まれた経営者たちの中には転職を図る人もいる。 |
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(1)不動産投資の人材需要はほとんど聞かれない。不動産市況自体が低迷している中、「2010年問題」が懸念されたからである。これは、10年度には、06−07年に大量に許容された不動産ノンリコースローン/CMBSの償還期限が来る(日本のCMBSの残高は現在約3.2兆円あるが、内1.2兆円の償還期限が来る)が、銀行体力の低下等により借り換えが難しいとの事情による。このため、リファイナンスが出来ない物件の投げ売りが始まると予想され、それらを購入しようとするファンド等が人材を採用しようとしていた。しかし、不動産市場が更に劣化することを懸念した金融庁の指示もあり、09年の後半には邦銀がリファイナンスに応じ始め、「2010年問題」は緩和された。市場で注目された「CPC丸ノ内案件」は、紆余曲折の末、1400億円で買手が付き一応の決着がついた。 結果、不動産市場には大型の新規投資も優良物件の投げ売りもなく、膠着状況にある。従って、人材需要は極端に冷え込んでいる。 (2)しかし、09年央にはディストレス不動産関連以外に人材需要が全くなかったわけではない。理由は、過剰なリストラで人員不足に陥ったことや、欧米機関投資家はグローバルベースで分散投資を行なう(日本の世界におけるGDPシェア8%に符合した比率で不動産投資を行なう)が、そのための投資関連での採用であった。また、細かく見れば、レジデンシャルやショッピングセンターなどのGMSでは賃料・需給ともにそれほど悪化しておらず、またオフィスについても、電鉄系事業会社などが住宅事業以外にオフィスビル事業に乗り出すなど、多少なりとも需給改善の傾向が見られた。そして、09年秋ごろから海外投資家の資金も国内市場に流れ込んでいたようだ。しかし、それら投資家のレバレッジ・ベースでの目標収益リターンは20%台で相変わらず高く、取引としては折り合わなかったようだ。 結局、これらの動きも人材需要を生み出すに至らなかった。REITは年末に向けて戻りも確認されるようになったが、人材需要を生み出すほどではなかった。 |
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(1)世界のヘッジファンドの09年のリターンは19%で、03年以来の好業績であった。運用残高も1.48兆ドル(133兆円)にまで回復した。投資戦略別では、ディストレス債に対する投資ファンドのリターンが37%でもっとも高かった。従って、日本でも折々、ディストレス関連の人材需要はあったが、ごく一部のヘッジファンドによる超優秀なプロの採用にとどまっていた。 ヘッジファンドは、活動の再開に当たり投資家から条件の変更を迫られている。ジェネラルパートナーの収入は、通常、マネジメント・フィーがコミットメント額の1%、ゲインの20%であるが、昨今の業績の悪化もあり減額を要求されているとのこと。これが、ヘッジファンドの人材採用を躊躇させているひとつの理由かもしれない。 (2)ヘッジファンドの回復により、一部の外資系投資銀行からプライムブローカー・ビジネスの拡大に伴う人材需要が聞かれた。しかし、本気度は確認出来なかった。 |
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| 09年、各国政府による財政・金融政策により金利は低下(債券価格の上昇)し、株価は上昇し、クレジットスプレッドはタイト化(社債価格の上昇)した。大手の外資系金融機関は、これらのフロービジネスでのトレーディングや対顧客ビジネスで大きな収益を得た。従って、円債等、フロービジネスのプロに対する人材需要が期待されたが、実際には大掛かりなものにはならなかった。即ち、慎重な姿勢を崩さない外資系金融機関は、既存の人員や内部からの異動で対応し、外部採用の場合でも、一流の外資系金融機関から一流の実績を持つプロを引き抜こうとしていた。 | |
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仕組み債では、トップクラスの金融機関でリプレースメントの採用があったが、基本的には人材需要は乏しかった。地銀は、新BIS規制やリーマンショックで投資体力が低下しており、事業法人は、大きな評価損を抱えてデリバティブ投資から撤退したからである。 従って、90年代以来、外資系金融機関の存在感を高めたデリバティブのプロたちは、大量にリストラされ今でも放置されたままである。彼らには酷な言い方だが、かつてのように「数千万円の年収を稼げた時代」は戻らないと覚悟したほうがよいと思う。 |
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| 需給で価格が乱高下する、日本もののクレジットリスクは合理性や流動性に欠けていると評価されていることもあり、CDSトレーダー等への人材需要は聞かれなかった。機関投資家に対するCDOや証券化商品の営業担当者や仕組み担当者宛ての人材需要もなかった。 | |
| 99年の株式売買委託手数料の完全自由化から10年が経過したが、その間に日本の株式市場はデイトレーダーとヘッジファンドによる投機の場と化したといわれる。個人投資家の売買は手数料が安いネット証券に流れ、ヘッジファンドによる取引は一部の外資系金融機関と日本の大手の証券会社に限定されていると。従って、株式関連の人材需要は、一部の金融機関によるヘッジファンド宛てセールスに限られていたようだ。 | |
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・09年末の日本の公募投資信託の純資産額は61.4兆円で、08年末比9.3兆円増えた。率にして17.8%の増加である。内、株式投信の純資産額は50.2兆円で、08年末比9.4兆円増えた。率にして23%の増加である。09年の日経平均株価が19%上昇したことが寄与している。09年末の外貨建て資産は28.6兆円で、08年末比28%増加し、公募投信に占める比率が46.5%となった。収益率は、日本株投信が平均14%にとどまったのに対し、外国株式型は48%、中でも新興国株式型は75%と高かった。そして09年に売れた投資信託のほとんどが毎月分配型であった。これらが売れた理由は、リーマンショックで著しい損を蒙った個人投資家が、損失を取り戻そうとして敢えてリスクのある投信を購入したとか、日本の年金制度に不満を持つ高齢者が、毎月の現金を得るため毎月分配型投信を購入しているとか言われている。 投信販売では、野村證券をはじめとする大手証券会社との良好な関係を構築した運用会社が実績をあげている。運用では、「エマージング」ものや「テーマ」投資ものに強い運用会社が好調のようだ。また、また、日本の大手金融機関はグループ内の運用会社での投信設定を進めているが、外資系運用会社は、サブアドバイサリー契約の獲得に傾注しているようだ。 ・上記を反映し、特に外資系運用会社で、販売金融機関(証券会社や銀行)宛て営業担当者や商品設計担当者に対する人材需要があった。しかしそれは、05年から07年での大量の人材採用とは違い、選別的であった。具体的には、@一部の大手運用会社がリーマンショックで縮小した販売チャネルを戦略的に見直し、再拡大しようとして人材を募っていた。また、Aこれまで日本市場に出遅れていた国際的な運用会社が、日本での投信ビジネスの拡大を企図して、販売力の強い金融機関とのチャネルを持った人材を採用したいとしている。 ここで外資系投信会社が求める人材とは、@大手の販売会社に強固な販売チャネルを持っている営業のプロや、A販売会社のニーズとグローバルな自社ファンドを融合させ、1000億円単位の新しい投信を生み出す商品担当者である。彼らは、本来、販売会社の言いなりになることなく、WIN−WINの関係を築いて有効な提案を行なわねばならないが、現状ではそのようにワークしているかわからない。 ・日系の資産運用会社はこれまでリストラを行なわなかったため、逆に現在も余剰人員を抱えており、採用は控えていた。 |
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・年金基金や銀行等の金融機関宛てビジネスでの人材需要はいまだに聞こえて来ない。銀行は投資体力が落ち込んでおり、年金基金は運用資産価値の下落に加え、目標運用利回りの見直しや会計制度等の制度変更への対応に追われ、運用体制がまだ混乱しているからだろうか。しかし、09年後半以降では、機関投資家もポートフォリオの入れ替えを含めて、投資を再開しようしているようであり今後の動きに注目したい。そこでは、機関投資家の求める商品をどれだけ提案できるかで運用会社の勝負が決まると思う。 ・オルタナティブ関連の人材需要も少なかった。09年前半には外資系投資銀行に「総合型年金基金」へのオルタナティブ投資商品の提案のための人材需要があったが、後半には聞かれなくなった。一般の年金基金には目標リターンの達成のためオルタナティブ商品へのニーズがあると言われているが、リーマンショックによるオルタナティブ投資商品の価格急落の記憶も消えておらず、一部を除き、年金基金の投資意欲は回復していないようだ。銀行のオルタナティブ投資に対しては新BIS規制がある。従って、オルタナティブ関連の人材需要は回復していない。但し、PEファンドの営業担当者に対するニーズはいくらかあった。 |
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| ファンドマネジャーやバックオフィスのスタッフに対するリストラは営業担当者に比較して軽微であった反面、現在では採用ニーズも少ない。また、一部の外資系運用会社は日本株運用から撤退し、ファンドマネジャーがリストラされた。そして資産運用でのオペレーション機能をアジアへ移転させた運用会社もあった。 | |
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9.プライベートバンク(PB)とプレミア(準富裕層宛てビジネス) (1)1400兆円余りの個人金融資産の獲得を目指して、内外の金融機関が競争している。その中に、富裕層および準富裕層をターゲットとする外資系の「PB(ターゲットは富裕層)」と「プレミア(ターゲットは準富裕層)」がある。これまで個人宛てビジネスは邦銀、証券会社、ゆうちょ銀行が寡占していた。そこに10社に満たない数の外資系金融機関が挑戦しているが、さまざまな障壁で苦戦を強いられている。(2)一部の外資系PBは、中長期的な戦略を掲げてチャレンジしている。 そこでの人材需要の対象は、 @「リレーションシップマネジャー(RM)」と呼ばれる顧客担当者である。外資系PBには総計150人程度のRMがいるといわれている。PBは、その中で即戦力のプロをターゲットとしており、大きな顧客ベース(合計で50億円以上の預かり資産)を持ち、十分な収益を稼ぐ(年間1億円以上)プロを引き抜こうとしている。しかし、現実にこの目標を達成しているプロは少ない。また、プロにとっては同様の条件で同業他社に転職するメリットもないことから、優秀なプロの採用は難しいようだ。 A「プロダクト担当者」に対するニーズもあった。即ち、最近の富裕層の投資対象は多岐に亘っているため、PBも投資商品の品揃えをしなければならず、プロダクトグループを編成している。グループは、仕組み預金、株式、債券(仕組み債を含む)、ファンド(投信やヘッジファンドを含む)チームに分かれており、それらのプロへの人材需要があった。 (3)日本のPBは歴史が浅く、十分な数の人材も育っていないこともあり、他の金融ビジネスからの採用が行われている。例えば、債券営業部のミドルマーケット担当からのPBのRMへの転進である。この人材たちは事業オーナー等との顧客ベースを持っているが、もともと債券営業とPBは似て非なるところがある。債券営業部では一年単位で成果を問われる。また、販売商品が、同じ債券本部から仕入れられるため収益性が高くなり、営業担当者の報酬も高い。この違いにより、転職インタビューで馬脚を現わすことがあった。また、国際的に展開している外資系PBは、グローバルに確立したビジネスモデルを持っており、「グローバルな手法は日本市場でも有効」と考えているが、一部の人材は「日本市場は特殊で、海外の手法は通用しない」と言い張る。従って、インタビューは上手く行かない。また、多くの外資系PBは、顧客に対する「アドバイザリープロセス」を重視している。即ち、PBバンカーのミッションは「投資家が望む金融商品を売るのではなく、投資家を啓蒙し、適正なポートフォリオで資産形成させること」と。「顧客ニーズ優先」か「グローバルスタンダード」かという難しい問題である。 (4)プレミア(準富裕層宛てビジネス) PBの状況に準ずるが、一部の外資系金融機関では日本市場への方針がブレており、採用も上手く行っていないようだ。 |
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| 上記の状況を踏まえて、下記の問題提起を行いたい。 | |
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・上記の通り、外資系金融機関はリーマンショックを契機に大幅なリストラを断行し、その後は小規模な採用にとどめている。識者の中には「外資系金融機関のプロは、人を騙して大きく稼いだのだからクビになって当然」とか、「日本の金融は商業銀行業務に特化すべきだ」という輩もいる。しかし、本来金融ビジネスは、商業銀行、証券会社、投資銀行がバランス良くそれぞれの役割を果たし、産業の発展や個人の金融資産運用に資すべきではないのか? 「商業銀行」の主たる役割とは、大衆から預金を預かり、送金等での決済機能と融資等での信用創造を行なうことであり、「証券会社」の役割は、ブローカーとして株式、債券、投資信託を販売することであり、「投資銀行」の役割は、グローバル・プレーヤーとして企業や公的機関の資金調達や資本政策を支援し、機関投資家に運用機会を提供することである。日本の場合は歴史的経緯もあり、「商業銀行」が金融市場で圧倒的な地位を占め、グループ内の子会社を通じてブローカー業務や投資銀行ビジネスを行なっている。経営手法が商業銀行業務に偏っているため、いずれも上手くいっているとは言い難い。 ・日本では、90年代初頭からリーマンショックまでの間、外資系金融機関が「投資銀行」の役割を果たしていた。マナーの良し悪しは別にして、彼らは日本市場に金融先端商品を持ち込み、リスクを取り、アイディアを付してリスクマネーを提供していた。また、グローバルなネットワークを使って日本企業の海外戦略を支援していた。外資系金融機関の提案力は日本の銀行系を圧倒していた。しかし、今回のリストラで、それが大きく毀損した。また、資産運用ビジネスでは、日本株のパフォーマンスが悪いこともあり、株式投信の半分は外貨建てだが、これは外資系運用会社が運用している。しかし外資系運用会社は大幅なリストラ後の人材回復に慎重で、販売金融機関への十分な支援が出来ていない。 我々は、これらの動きが、日本の産業の発展や個人の資産運用に大きなダメージを与えると心配しているが、どこからも懸念の声が聞こえて来ない。 ・確かに、グローバル・リセッションを引き起こしたのは、悪しき米国金融資本主義の「グリード(貪欲)」であり、それは退治されなければならないが、その批判や対応と「日本の金融ビジネスの後進性の問題」とを混同してはならない。また、現在、オバマ政権が米国でのグラス・スティーガル法の復活(ボルカー・ルール)を提案しているが、その問題と日本の金融機関が持つ反グローバリズムとは関係ない。 |
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| 反グローバリズムは、金融だけでなく日本の産業界全般に蔓延しつつある。あらゆる指標が「志を失い、魅力のない日本」を示している。司馬遼太郎が『坂の上の雲』を通じて日本社会に警鐘を鳴らしたのは、この「志の喪失」だと思う。即ち、09年の世界の海外直接投資合計は1兆403億ドル(93.6兆円)で、前年比38.7%減ったが、海外から日本への直接投資はわずか114億ドル(1.0兆円)に過ぎず、しかも前年比53.4%も減少している。日本への直接投資額は世界の1.1%しかない。「日本はリスクを取って投資するに値しない国」と評価されている。また、株式引受業務での外資系金融機関のシェアは、従来30%台以上であったが、09年では20%台に落ちていると。これは、人材を減らしたままの外資系金融機関が営業力を低下させ、増大した株式引受に対応出来なかったことを示している。このような外資系金融機関シェアの低下は、他の多くの金融ビジネスでもみられる。また、一部の外資系金融機関は日本株ビジネスから撤退し、香港やシンガポール等、活況を呈するアジアにオペレーション拠点を移している。これらは金融における「ジャパンパッシング」である。 | |
| 日本が誇れる唯一の資産は巨額の個人金融資産である。しかし、半分以上は預貯金で、最近その比率は一段と上昇している。これは、本来、リスクマネーにシフトされ日本経済の拡大のために使われるべきだが、「日本には魅力的な投資機会がない」と言うのであれば、飛躍するアジアに向けてはどうか?そのためには、東京証券取引所グループの斉藤惇氏が主張するように、国内に「金融特区」を作り、国際的に人材を集め、アジア向けの投資を促進してはどうか。 | |
| 第二部
「金融転職市場の創設」に関わる法律問題の研究(第4回)
〜 雇用と報酬に関する法律問題 〜
NPO法人 金融人材市場の改革を進める会
理事長 右田正隆
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はじめに 今回の掲題研究第4回に先立ち、すでに2008年2月に『金融人材市場レポート』新・第7号で第1回を、09年3月に同第9号で第2回を、09年9月に同第10号で第3回を取り纏めました。今回は、外資系金融機関に勤務する金融人材にとって最大の関心事とみられる「リストラへの対応」と「報酬の決定」に関する法律的な問題点を整理するため、新たに契約した大手法律事務所で労働問題を専門とする弁護士の協力を得て、@自己都合退職の実態と法的対応、A海外における報酬規制の動きとわが国への適用の是非、B内外金融機関における解雇権濫用法理適用の差異、の3点に絞って論点の深掘りに務めました。 |
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<質疑応答編> 08年来の金融危機を契機に外資系金融機関は短期間のうちに大規模なリストラを実施しました(ESPの推計ではリストラされた金融人材は累計約4,500人、外資系金融機関勤務者総数約28,000人の16%に相当)。 リストラされた多くの金融人材は、会社からの退職勧奨に応じて「自己都合退職」として自ら『退職願い』にハンコを押してきましたが、実態は会社からのさまざまな方法による度重なる退職勧奨、あるいは心理的圧力による強要が多いといわれています。しかも退職勧奨に応じた際に支払われる割増手当は以前に比べて大幅に悪化しています。 <質問1>リストラへの金融人材の対抗策 外資系金融機関がリストラ策として特定部門の縮小・撤退を打出し、労働者に退職勧奨を行った場合、退職勧奨の対象とされた労働者にどのような対抗策があるのでしょうか? 仮に会社の退職勧奨を無視し続けると、今後、どのような不都合・マイナス影響が起きるのでしょうか? <回答> 会社がリストラ策の一環として特定の部門に所属する特定の労働者に対して一定の金銭的支払を条件に退職「勧奨」をすることは特段、不法な行為とはいえません。この勧奨を応諾するか否かは当該労働者の責任と判断となります。労働者としてはたとえ退職を勧奨されたとしても、金銭的支払等の諸条件を勘案した結果、納得できなければ受け入れなければいいだけです。 その場合には、会社としては余剰人員を抱えることになるため、当該労働者を他部署への配転、関連会社への出向等で対応せざるを得ないことになると思います。会社の人事規定によっては、特定のポジションに対して付与されている手当等が、配転・出向によって支給されなくなる可能性があると思います。 そもそも会社が特定部門の縮小・撤退を決めたからといって、そのことで直ちに「整理解雇の4要件」を満たすわけではありませんので、労働者が退職勧奨を受け入れないからといって会社は労働者を「解雇」することは極めて困難です。したがって会社としてはそのような状況を前提に、労働者に対して金銭の支払条件等で交渉して退職を「勧奨」することしかできません。 <質問2>自己都合退職の意味 会社の退職勧奨に応じて自己都合退職の形を取って退職したのであれば、本人の納得の有無はどうであれ、法的には無条件に完全な合意とみなされるのでしょうか? 法律に無知だったため、もし訴訟すれば勝てたかもしれない権利を自ら放棄しただけなのでしょうか? <回答> 会社が労働者を長時間、一室に閉じ込めて懲戒解雇をほのめかして退職を強要するとか、懲戒解雇事由がないのを知りつつ、それがあるかのように労働者に誤信させて退職の意思表示をさせた場合には、労働者は強迫、詐欺、錯誤等を主張して、意思表示の取消し、ないしは錯誤による無効を主張することができます。 しかしながら、このような状況になく、退職勧奨を受けた労働者が納得しないままでも退職届を出してしまった場合には、後から退職の意思表示を撤回するのは難しいと思います。そういう意味で、労働者が、たとえ日本の労働法では解雇が非常に難しいという実態を知らなかったとしても、そのことによって退職の意思表示が無効になることはない、と思います。 法律の世界では「法は、権利の上に眠る人は保護しない」との言葉がありますが、退職勧奨を受けた労働者としては労働法の内容を十分理解することが自らの立場を支えることになりますので、そのうえで会社の提示条件を十分吟味し、納得してから自己都合退職するか否かを決断すべきことは言うまでもないでしょう。 <質問3>退職勧奨中もしくは退職後の新規採用の是非 会社がリストラ策として労働者に自己都合退職を勧奨中もしくは自己都合退職をさせた後、同部門で同程度の能力のある人材を新規採用(リプレースメント)した場合、退職勧奨は無効とならないのですか?外資系金融機関という特別の専門性を必要とする会社では新規採用は認められるのでしょうか? また会社の退職勧奨を応諾して退職した人材はその後の会社の新規採用によって退職の前提条件が変わり、契約の一般的有効要件を充たさなかったとして退職の無効もしくは取消し、あるいは退職一時金の追加支給を主張できるのでしょうか? <回答> 「退職勧奨」においては「整理解雇の4要件」を満たす必要はないので、勧奨中あるいはその後、会社が別の人材をリプレースメント(新規採用)したとしても、そのことが法的に問題となる余地は少ないと思います。 ただし、退職勧奨の際、会社が人員余剰などの理由を説明し、そのことを信じて労働者が退職勧奨に応諾した後に新規採用した場合には、労働者の意思表示が「錯誤」だったとして無効となる可能性はありえます。この点は、国内金融機関のみならず外資系金融機関でも変わりません。 これに対して新規採用をした後、「解雇」した場合には「整理解雇の4要件」のうちの第1要件である「人員削減の必要性」の要件が整っていないとして、解雇無効と判断される可能性は高いと思います。 なお、退職一時金の追加支給については、そのような支給を求めて和解の提案をするということは可能だとは思いますが、法的には退職の意思表示が有効か否かだけが問題となるため、法的権利として主張するのは難しいと思います。 |
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欧米諸国において2008年来の金融危機の原因は欧米投資銀行の報酬制度のため経営幹部が危険性の高いリスクを取ったことにあったとして、金融機関経営幹部に対する報酬規制論議が起きています。特に欧州大陸諸国で規制強化論が盛んで、それを背景に従来、規制に慎重な英国政府も課税強化による報酬規制を10年から導入の声明を出し、米国政府も規制強化の動きを見せています。 報酬規制の動きに対して欧米の投資銀行や学者の中には「ウォール街の優秀な人材を他の分野に流出させるだけ」「報酬とリスクとの相関関係はない。報酬を引下げてもリスクは低下しない」などの反対意見がありますが、今や少数説となっています。 欧米諸国ではすでに株主が経営者報酬を株主総会で否認できる「報酬拒否制度(Say On Pay)」のほか、経営者に報酬の一部を返還させる「払戻制度(Claw Back)」があります。モルガンスタンレーが08年12月に中堅クラス以上の役員の雇用契約に「クローバック条項」を付け加えたとか、スイスUBSが08年10月にボーナス支給を業績の良い年でも3分の1までで、残りは繰り延べられ、将来、業績の落ち込んだ時のために蓄えられる制度を導入するなど、金融機関側の対応も報道されています。 <質問1>クローバック条項のわが国への適用の是非 「クローバック(払戻)条項」は民間における自主的な合意による契約とはいえ、実態的には「賃金」を数年後に強制的に労働者から返還させるものです。 現在、わが国では同条項は実施されていませんが、もし将来、導入されるとしたら、現行の労働法で認められるのでしょうか?それとも新たな立法が必要なのでしょうか? <回答> もし将来、わが国にクローバック条項が導入されるとした場合、問題になると思われる点は、@強制労働の禁止(労働基準法5条)、A賠償予定の禁止(同法16条)、B強制貯金の禁止(同法18条1項)、C賃金の全額払(特に相殺禁止の是非、同法24条1項)等、だと思います。類似の制度として、サイニング・ボーナス(入社時に一定の金員を受領し、一点期間(例えば1年)を超える前に自ら退職した場合には返還が義務付けられるボーナス)、留学費用の返還、同業他社へ転職した際の退職金の減額等があります。 クローバック条項が、これらの労基法に基づく規制との関係でどのような判断を受けるかは、具体的な制度の中身によって異なると思いますが、ボーナスの返還を義務付ける仕組みが、社員の退職に関する自由な意思決定を阻害するような場合には、違法との評価を受ける可能性があります。 同条項の適用に際しては、たとえば報酬の中身(業績連動型ボーナスのみか、ベーシックサラリーも対象か)、報酬の支払方法(自社株式のみか、キャッシュ部分も対象か)、報酬の金額水準(報酬額全体か、一定額以上の高額部分だけか)、対象となる社員の役職・資格(CEOのみか、取締役・執行役員以上か、部門幹部以上か)、返還期間(払戻期間は何年分か)等、制度の具体的な中身によって、裁判所が同条項を有効と判断するか、無効と判断するかが変わってくると思います。 <質問2>ボーナスの法的性格 わが国ではボーナスは実質的に毎年、定例化・実績化しており、「第2給料」としての性格がありますが、労働法の適用ではボーナスは賃金と同じ扱いなのでしょうか? ボーナスをキャッシュ、自社株式、ストックオプションで払う場合、すべて法的に同じ賃金扱いとなるのでしょうか? <回答> ボーナスが「賃金」として評価されるかどうかは、会社に支払い義務があるかどうかによって異なります。すなわち、就業規則等において、たとえば「6月と12月に基本給の3か月分を賞与として支払う」といったように、支給時期と額が決められていれば、賃金とみなされ、賃金に関する労基法の規定がすべて適用されることになりますし、支給時期だけ決められており、支給額は都度、労使交渉に任されている場合は、労使交渉によって支給額が決定された段階で、「賃金」として扱われることになります。 なお、自社株式やストックオプションが賃金かどうかは微妙であり、厚労省は「ストックオプションの付与は労基法の定義する賃金には当たらず、その付与によって就業規則に定める賃金の一部の支払をするのは労基法24条(賃金の支払)違反となる」としながら、「ストックオプションを労働者に対して制度として実施する場合には就業規則に記載すべき」としています(1997年6月1日基発412号)。今のところ、その扱いはキャッシュと完全に同一ではありませんが、会社が自社株式やストックオプションの交付を労働者に対して約束した場合には、労働者保護の点から賃金に関する規制や議論がかなりあてはまるのではないかと推測されます。 <質問3>倒産時の給料支払いやボーナスギャランティ契約の優先度 欧米で金融機関倒産に伴う清算手続きの際、未払い分のギャランティボーナスを労働者に優先的に支払う義務があるとの判決が出たとのニュースがありました。 もし、日本においてボーナスギャランティ契約を締結していた外資系金融機関が倒産した場合、労働者は未払い分の賃金やギャランティボーナスの支払いを優先的に受けることができるのでしょうか? その場合、著しく高額な賃金やボーナス(たとえばベースとなる年俸5千万円+成果見合いのボーナス1億円)もすべて労働債権として一様に一般債権に優先して支払を受けることができるのでしょうか? <回答> (イ)賃金やボーナスギャランティ契約を締結していた場合における未払ボーナスは、再生・更生手続開始決定前の雇用契約に基づき発生した「労働債権」(注)に該当するので、一般の債権に優先して取り扱われます。 ただし、会社の取り得る倒産処理(破産、民事再生、会社更生等)のうち、どの方法を取るかによって労働債権の優先順位は異なります。 たとえば、「破産」では、破産手続開始前3ヶ月間の未払い賃金等は、「財団債権」として最優先に取り扱われ、上記以外の賃金等は「財団債権」に次ぐ優先度の「優先的破産債権」として、配当手続において一般の「破産債権」に優先して支払われます。 「民事再生」では、賃金等は「一般優先債権」として、「共益債権」と同様に最優先に取り扱われ、一般の「再生債権」に優先して支払われます。 「会社更生」では、更生手続開始前6ヶ月前の賃金等は「共益債権」として最優先に取り扱われ、上記以外の賃金等は、「優先的更生債権」として、更生計画において第2番の「更生担保権」に次いで3番目の優先度を与えられ、「一般更生債権」に優先して支払われます。 なお、「優先的更生債権」については「一般更生債権」よりも相対的に有利であればよいとの考えが通説で、この考えによれば、「一般更生債権」で相応の減額(たとえば5割減額)をするのであれば、「優先的更生債権」は「一般更生債権」よりは緩和された条件であれば、優先の条件に合致しているとして相応の減額(たとえば3割減額)が可能になります。一方、これに対して、「優先的」とは、あくまで絶対的に「一般更生債権」より優先すべきであり、まず「優先的更生債権」の支払を完結してから、その後に「一般更生債権」の支払減額を検討すべき、との主張もありますが、前者の通説によって運用されています。 (ロ)質問のような「著しく高額な」賃金やボーナスまでもが、「労働債権」であるとの理由から、すべて一様に「一般の債権」に優先するかについては議論の余地があるものと思われます。 「労務に対する対価」としての範囲を逸脱したとみなされる部分(たとえば年俸1千万円を超える部分)については、労働債権性が否定され、その結果、優先債権(「共益債権」、「優先的更生債権」)ではなく、「一般更生債権」として扱う余地がある、との考え方もありえます。この考え方の背景には、労働債権に先取特権を与え、特別の保護をしている理由として、労働者の生活保護や労働者の交渉力の弱さという、社会的公正や社会政策的な見地が考慮されていることがあります(たとえば、2000年12月労働省『労働債権の保護に関する研究会報告』)「労働債権の保護の必要性」の記述)。 ただ、この点については議論が成熟していない面があり、労働の価値を具現化した対価である賃金等については、その額の多寡に関わらず、すべて優先して労働者に帰属すべきであり、また「労務に対する対価」としての範囲をどれだけ逸脱したかを理論的・整合的に分別計算できない以上、原則的にはすべて「一般更生債権」よりも優先的に扱うことになるかと思います。 (注)再生・更生手続開始決定前の原因に基づき発生した「労働債権」は、労働者保護の観点等から以下のとおり取り扱われています。 <民事再生の場合> 再生手続開始決定前の雇用関係に基づき生じた労働債権は、一般の先取特権が認められているため(民法306条2号・308条)、再生手続において「一般優先債権」として取り扱われます。 「一般優先債権」は、再生手続によらないで随時弁済されます。したがって一般の「再生債権」よりも優先的に、かつ原則として全額支払われることとなります。 <会社更生の場合> 更生手続開始決定前の雇用関係に基づき生じた労働債権は、更生手続においては以下の区分に従って「共益債権」または「優先的更生債権」に区別されています。 @.更生手続開始決定前6か月間の賃金等・・・「共益債権」として取り扱われます。 A.@以外の賃金等・・・「共益債権」ではなく、原則どおり更生債権となりますが、一般の先取特権が認められるため(民法第306条2号、第308条)、「優先的更生債権」として取り扱われます(会社更生法第168条1項2号)。 「共益債権」とは、再生・更生手続において再生・更生債権者全体の利益になる債権(裁判上の費用、管財人の報酬等)のことで、再生・更生手続中に随時、他の債権に先立って弁済を受けるものでありますが、更生手続の「共益債権」は、再生手続における「一般優先債権」と同様、更生計画によらずに他の債権に先立って随時弁済されます。 したがって、更生手続で「共益債権」として取り扱われる上記@の労働債権は「更生担保権」(抵当権等の被担保債権)や一般の「更生債権」よりも優先的に、かつ原則として全額支払われることとなります。 他方、「優先的更生債権」として取り扱われる上記Aの労働債権は、更生計画において通常の「更生債権」よりも優先はされますが、「更生担保権」に次ぐ順位として取り扱われるため、随時弁済を受けることができるわけではなく(あくまでも更生計画に従った弁済)、また、原則として全額支払われるわけでもありません。 |
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戦後、産業界のみならずわが国金融機関においても「日本型人事制度」と呼ばれる独特の人事体系を確立してきました。つまり、@新卒学生を集団で一括採用、A母社及び傘下関係子会社で終身雇用、B年功序列による概ね平準化かつ中水準の報酬、C経営幹部は多分野に亘る経験済みのジェネラリストで構成、D経営トップは社内評価を経て選抜された内部登用、等です。 一方、外資系金融機関は対日進出に当たり、わが国労働法を遵守する一方、グローバルな経営方針に基づき母国流の人事制度を採用してきました。その中身は区々ですが、類型化すると、@実務経験者を段階的・不定期に中途採用、A一定期間就業後、自己都合で中途退職や転職する社員が多発、B短期業績評価による高水準かつ差別化された報酬、C経営幹部は特定分野のスペシャリストで構成、D経営トップは内部登用だけでなく外部から経営トップを引抜き、等です。最近ではわが国大手証券会社でも特定戦略部門において欧米流の人事制度を採用するところが出てきています。 <質問1>内外金融機関の人事制度の差異と解雇権濫用法理の適用 日本型人事制度と欧米流人事制度で差異があるのだから内外金融機関で解雇権濫用法理適用の「合理性」や「社会的相当性」の判断で差異があってもやむを得ないとか、外資系金融機関勤務の人材は今まで何度も転職を経験し、邦銀勤務の人材に比べて格段に高い報酬を得てきたのだから解雇され易くてもやむを得ない、との考えが一般に強いといえます。 一方、このような考えは不公平・差別的であり、外資系金融機関も邦銀もいずれも日本法人であるからわが国法令遵守の点で何ら変わることがないし、人事制度の差異は個社の就業規則や人事政策の相違に過ぎず、法適用の公平性の確保や恣意性の排除の観点から解雇権濫用法理は内外金融機関とも同基準で適用すべき、との考えもあります。 どのように考えるべきでしょうか? <回答> 解雇権濫用法理を含めて労働関係法規は強行規定であるため、法令の適用において日本型人事制度と欧米流人事制度とで差異があるわけではありません。 しかしながら、高い能力を有していることを前提に、特定の地位に付くことを約束し、高額な報酬を提供している雇用契約の場合には、解雇権濫用法理の適用において日本型人事制度と欧米流人事制度とで差異が出ることがありえます。この場合にはいわゆる終身雇用制度を前提として新卒を採用した場合と比較すると、解雇のハードルは低い、と言われています。たとえば、その判例として1984年のフォード自動車事件があります(注1)。 このような違いは、解雇権濫用法理が権利濫用を発展させたものであり、結局、労働者と会社との間の利害関係をバランスによって判断することから生じるものと思われます。 すなわち、終身雇用の場合、仮に職務遂行能力が低くても一生面倒を見る、教育指導をするという前提で、若い頃は低賃金で、年齢とともに賃金が上昇するように設計されているわけですから、解雇を正当化できるほど能力が低いといえるためには、会社側がかなり教育指導を行っていない限り認められません。また、一般社員として入社したのち、昇進して特定の地位・職位になったのであれば、会社としての人事評価自体が問われることになります。 他方、高度な能力を発揮することを期待されて高額な報酬を前提として特定の地位・職位に中途で入社した場合には、そもそも会社から教育指導してもらうという発想自体がなじまず、ある程度、期待された能力がないことを証明できれば、会社としても雇い続けるわけにはいかず、裁判所としてもその結果を容認する傾向にあるのだと思います。 結局、現在の、解雇権濫用法理における上記のような適用の違いにはそれなりに理由があるものの、法適用の公平性確保や恣意性排除をさらに徹底して目指すとすれば、解雇権濫用法理をもっと緻密なものにし、場合によっては労働契約法16条(注2)自体を変更する必要があるかもしれません。 (注1)フォード自動車日本法人が最上級管理職の一つである人事本部長の地位を特定して中途採用したにも拘らず、その幹部社員が期待した能力と実績を果たしていないとして解雇したところ、控訴された事件で、東京高裁は地位に要求された業務の履行または能率かどうかという基準で判断すれば足りるとして解雇権濫用には当たらず、解雇有効と判決。 (注2)同条文は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」 <質問2>高い報酬に見合う仕事をしない労働者解雇の是非 わが国では労働協約違反等の悪質な事態を除けば、解雇は解雇権濫用法理によって極めて限定的で、たとえ現在の報酬・処遇に見合うだけの成果を上げられず、期待される能力を発揮できなくても、当該労働者を解雇することは法的には極めて困難です。 しかし、熾烈な競争場裡に晒されている内外金融機関にとって年功序列で高い報酬を得ながら、報酬に見合う働きをしない労働者の存在は経営上の観点から望ましくありません。 このような実質的な不公平・非効率な法制度に対抗する方法はあるのでしょうか? <回答> 現在のわが国法制度において、上記の点を改善する方法はない、と思います。 これは、法律問題というよりは、むしろ経営権の裁量の問題と思われます。高い報酬に見合うだけの仕事をしていないと経営者が判断するのであれば、高い報酬に見合う難易度の高い厳しい仕事を与えるか、現在の難易度の低い仕事に見合う低い報酬に引下げるか、あるいはその組み合わせが考えられます。そのための方途として経営者には異動や出向等の人事上の経営権があります。 現在の解雇に関する法制度の問題点は、裁判で解雇無効と判断された場合の効果にあります。解雇無効と判断された場合、当事者間で和解が成立しない限り、会社は労働者を職場に戻さなければならず、しかも長期間にわたる訴訟期間中の未払賃金を全額支払う必要があります(ただし、会社には元の職務や役職に戻す法的義務はないので、復帰後に配転・異動をすることは可能)。このような最悪のケースを想定した場合、会社は解雇を選択することが事実上不可能となっています。 立法論としては、解雇された労働者の生活保障と、将来の労働関係の確認とを分けて考え、解雇無効の判決が出た場合、会社はある程度の金銭(たとえば1年分とか2年分の賃金相当額)を支払うことを義務付けられたとしても、労働者を職場に戻すことまでは義務付けられることを回避できるような法制度にすることも一案かもしれません。 <質問3>解雇権濫用法理適用の最近の傾向 最近の判例からみて、解雇権濫用法理の適用に関して裁判所の意図にどのような傾向がみられますか?特に契機と言われるナショナル・ウエストミンスター銀行事件以後、どのように変化しているのでしょうか? <回答> 2000年のナショナル・ウエストミンスター銀行事件(注1)以降、裁判例の中には、いわゆる整理解雇の「4要件」を「4要素」と解釈し、必ずしも全ての要件を充たす必要はなく、総合的に判断する際の要素を類型化したものとしての意味を持つに過ぎない、と述べて、整理解雇を有効と判断した裁判例も出てきました。 たとえば、2006年の外資系証券会社CSFBセキュリティーズ・ジャパン・リミテッド事件(注2)では、退職通告された労働者が労働契約上の地位の確認と解雇後の賃金及び一時金の支払いを求めたのに対し、会社が社宅契約終了に伴う社宅の明渡しと賃料相当損害金の支払いを求めて反訴したところ、東京高裁は労働者の請求を棄却し、会社の請求を認める判決を出しました。 この裁判例に限らず、一般的に外資系金融機関において労働者の賃金がかなり高額(注3)である場合には、裁判所が様々な点で会社の裁量を広く認め、会社の判断を尊重する判決を下す傾向にあります。 ただし、「4要素」説は必ずしも一般的になっているわけではなく、従来どおり、整理解雇についても厳しく判断する裁判例も出されており、裁判所の判断基準が変化したと断定できる状況にはありません。 (注1)1998年の東京地裁(第1回仮処分申し立て)判決で「整理解雇では、@人員整理の必要性、A人選の合理性、B解雇回避努力、C解雇手続きの相当性、の4要件は解雇権濫用に当たるかを判断する際の考慮要素を類型化したものであって、各々の要件が存在しなければ法律効果が発生しないという意味での法律要件ではない。解雇権濫用の判断は、本来、事案ごとの個別具体的な事業を総合考慮して行うもの」と判示し、解雇権濫用として解雇無効の判決。 その後、2000年の東京地裁(第3回仮処分申し立て)判決では、同様の判示ながら解雇権濫用を否認し、解雇有効の逆転判決。 詳細は09年9月同レポート第10号「金融転職市場の創設に関わる法律問題の研究(第3回)」をご参照下さい。 (注2)CSFBセキュリティーズ・ジャパン・リミテッドは経営危機に対処するため人件費削減で2002年に43名の社員に退職勧奨を行った。ところが、退職勧奨を受けた社員のうちヴァイスプレジデントの1女性は予てから同僚との関係が悪化していたうえに、事実の裏付けのないまま属するグループで同僚に対するセクハラがあったとの文書を配布するなど職場の人間関係を一段と悪化させたため、翌03年に退職通告を受けた。これに対して当該女性が整理解雇の4要件を満たしておらず、解雇権濫用であるとして控訴した事件。 (注3)上記注2の判決理由の中で、4要件のうち第2要件、「人選の合理性」について「人員削減の対象者として、支給給与額と売上げ実績とを考慮して当該女性を選定したことが、不合理とまでは言うことができない」と判示。 |
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以 上
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筆者のプロフィール: 小溝 勝信(こみぞ かつのぶ) 1968年、東京大学教養学部国際関係論分科を卒業し、住友銀行(現三井住友銀行)に入行、主として国際部門に従事した。1984年に外銀に転じ、ファースト・シカゴ銀行東京支店の事業法人部長に就任した。人材コンサルティングに転ずるため、1989年、米国の大手ファームの一つであるホイットニー・グループ日本支社に入社し、副支社長に就任した。1993年、日本型のエグゼクティブ・サーチの創設を目指してヘッズジャパンに転じ、金融部門マネジング・ディレクターに就任した。2004年、エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社を設立した。 このレポートは、筆者がヘッズジャパンで1994年以来、半年毎に報告していた「外資系金融機関の最近の人事事情について」の連続版である。 エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社(ESP)のプロフィール: |
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