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月例レポート

平成17年12月 第3号 (日本語版)

〜急増する金融人材需要〜

エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社
代表取締役 小溝 勝信
- 目次 -

  • はじめに
  • 要約


  • 第一章 金融プロダクト別様相

    T.プロダクト別人材需要(件数ベース)

    U.プロダクト別様相
    ディストレス・ビジネス
    M&A
    投資銀行カバレッジと引受

    ディストレス・ビジネス
    企業再生ビジネス
    プライベート・エクイティ
    プリンシパル・インベストメント
    「M&A支援ファンド」「敵対的買収防衛ファンド」等
    アクティビスト・ファンド
    ベンチャー・キャピタル
    不動産投資ファンド

    伝統的資産運用ビジネス
    オルターナティブ投資

    クレジットリスクとは何かを理解出来る人材
    クレジットリスクの高いファイナンスが出来る人材
    クレジットリスクをトレーディング出来る人材
    クレジットリスクの分析者としての人材

    MSCB
    LBO・MBOファイナンス
    アセット・ファイナンス
    メザニン・劣後ローン
    資産担保証券(ABS)



    8.株式



    第二章 金融機関別様相

    (概観)
    (人材需要)

    (概観)
    (人材需要)

  • おわりに
  • ESPのアサインメント残高(平成17年12月31日現在)
  • 筆者のプロフィール
  • エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社(ESP)のプロフィール
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    はじめに
    バブル崩壊後の負の遺産であった設備、雇用、債務の三つの過剰が解消し、日本企業の業績は着実に回復している。 また、メガバンクは十年余続いた不良債権問題から脱却し、経営のターゲットを健全性から収益性に移している。 これらを受けて昨年の株価は約40%値上がりした。このように05年は日本経済の大きな転換点であった。 この中で、日本の金融人材市場は量的に拡大し、質的に変化した。

    この「レポート」は、筆者が前職のヘッズジャパンで94年に執筆を開始し、 以来半年毎に作成してきた「金融人材レポート」の当・新会社における連続版である。今回は新会社で第3回目となる。 05年後半の様相をご説明する。


    要約
    このレポートの要約は下記の通りである。

    (1)メガバンクによる「寡占化」
    不良債権問題を持たない邦銀は日本のマーケットでは圧倒的に強い。現在、日本の金融ビジネスのほとんどはメガ三行 グループに流れていると言う。従って、メガ三グループからの人材需要は膨大な量となっている。 但し、三グループの動きには爬行性が見られる。 一方、外資系金融機関にかつてのような輝きは無い。90年代のように、多くの外資系金融機関がさまざまなポジションで 人材を求めていた時代とは異なる。ある米系大手の投資銀行は顧客ビジネスに期待せず、自らの資金を大量に投入する「プリンシパル・ インベストメント」で巨額の収益を上げている。他の外資系金融機関も自らの強さにフォーカスして、生き残りを模索している。 しかし上位10社程度の外資系だけが生き残ることになる。

    (2)「大買収時代」
    頻発する敵対的買収に見られるように、企業業績の回復を背景として日本企業のM&Aが急増している。06年でも日本企業の 資本コスト経営の拡大、新会社法の施行もあり、M&Aがいっそう増えると考えられる。但し、顧客の資本政策に提案が出来、 ファイナンスの知識やファンドとの人脈を持つバンカーが求められる。

    (3)「ファンド資本主義」
    内外の資金余剰を背景にファンド・ビジネスが拡大している。「ファンド資本主義」の時代と呼ばれる所以である。人材需要も強い。 バイアウト等投資を行う投資ファンドや「慣例的」な資金運用の代替(オルターナティブ)としてのヘッジファンドである。

    (4)「ストラクチャード・ファイナンスとクレジットリスク」
    M&Aや投資ビジネス、アセット・ファイナンを行うに当たり、さまざまな種類のストラクチャード・ファイナンスのニーズが 拡大している。ここで求められるファイナンスとはクレジットリスクの高い与信や引受けである。このリスクを理解し商機に出来る バンカーが重用される。また、クレジット・デリバティブ(CDS)を駆使したビジネスも拡大しつつある。

    (5)その他
    金融ビジネスの回復により、従来の債券・デリバティブや個人富裕層ビジネス等でも、それぞれの問題を抱えながらも人材需要がある。

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    第一章 金融プロダクト別様相

    I.プロダクト別人材需要(件数ベース)
    下記の表は、当社(ESP)が昨年12月末時点でクライアントから得ているアサインメントのプロダクト別件数である。

    *リテーナー・ベースのものとコンティンジェンシー・ベースのものを含む。
    *クライアントは外資系金融機関、日本の金融機関、ファンド等も含む。
    *シニアなポジションが大半である。
    *マーケター、ストラクチャラー、トレーダー、運用者、ミドルオフィス等を含む。

    ESPのプロダクト別アサインメント残高(平成17年12月31日現在)
    金融ビジネス
    プロダクト
    投資銀行ビジネス
    16
    26.2
    カバレッジ、M&A、引受け、IPO
    ストラクチャード・ファイナンスとクレジット
    14
    23.0
    証券化等のストラクチャード・ファイナンス、M&Aファイナンス、
    メザニン等のハイイールド・ファイナンス、PFI、シンジケートローン、CDS等のクレジット・デリバティブ
    資産運用
    8
    13.1
    オルターナティブ、ヘッジファンド、投信・投資顧問
    マーケットリスク・ビジネス
    8
    13.1
    デリバティブ、仕組み債、JGB、為替
    投資ビジネス
    6
    9.8
    バイアウト等、ファンド投資、プリンシパル・インベストメント、VC
    不動産ファイナンス
    5
    8.2
    不動産の購入やファイナンス、証券化、エグゼキューション、私募ファンド、REIT
    その他
    4
    6.6
    株式、リサーチ、オペレーションほか
    合計
    61
    100.0
     

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    II.プロダクト別様相

    1.投資銀行ビジネス

    05年の日本の資本市場は、企業業績の急回復を背景に「大買収時代の幕開け」と評価されたほど活気を帯びていた。 象徴的には、ライブドアとフジテレビジョンによるニッポン放送の争奪戦や楽天によるTBS株買い集め等の敵対的買収であった。 この動きに対応するため多くの上場企業が買収防衛策を導入した。従って外資系金融機関及び日本の証券会社の投資銀行部門は多忙 を極めていた。人材需要も強いものがあった。しかし求められる人材は、スキルを持つ人ではなく「企業価値」の増大を支援したい という強い理念・志を持つ者であった。年明けに勃発したライブドアの不祥事のように、資本市場の欠陥を逆手に取り、あたかも企 業価値が上がっているとの幻想を与えて収益を得るビジネスであってはならない。

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    M&A
    概観
    05年のM&Aは前年比急増した。トムソン・ファイナンシャル誌の調査では公表金額ベースで約20兆円(三菱東京とUFJの合 併を含む)で前年比109%増であった。公表件数ベースでは2,552件で前年比23.1%増であった。金額では米・英に次ぎ 世界3位、件数では米国に次ぎ第2位であった。但し、M&A金額のGDP比では、日本は4%弱、米国は10%超、英国は23% 程度である。逆に言えば、今後日本のM&Aはさらに拡大するものと考えられる。当社宛ての人材需要件数でも一番多い。


    人材需要
    特徴的な動きとその人材需要は下記の通りである。

    ・「投資ファンドが介在する」M&Aが増えている。 データによれば、ファンドが介在したM&Aは総額約2兆円でM&A全体の10%に及ぶ。件数は前年比21%増の358件となった。 特に、MBOではファンドの応援を得るケースが多く、場合によってはファンドが主導するMBOも増えているようだ。M&Aの候補者 の要件に、ファンドとの人脈を持つ人が含まれるようになった。逆に、ファンドでの採用条件でも内外金融機関のM&Aグループとの人 脈を持つ人が有利となっている。「ファンド」の様相は4.投資ビジネスで報告する。

    ・「ファイナンスのアレンジメント付き」M&Aが増えている。企業買収を行う場合さまざまな手法が考えられる。
    即ち、手持ちの現預金を使う方法、銀行借り入れや資本市場からの調達を行う方法、株式交換を行う方法、両社でホールディング・カン パニーを作り傘下に置く方法等である。一方、投資銀行がM&Aのアドバイザリー契約を獲得しようとする場合、アドバイザリー・フィ ーだけでは儲からないため、買収資金のアレンジメントも併せ提案する。即ち、買収ファイナンス、メザニン・ローン、MSCB、DC M、ECM等の提供である。また、デリバティブを仕組んだファイナンス・スキームも開発し、提案されつつある。実際、この種のファ イナンスはメガバンクの大きな収益源となっている。(ファイナンスの様相は5.ファイナンスで報告する) また、ファイナンスの提供に限らず債券本部等他の本部との協力体制を強化するところもある。これは顧客ニーズであると同時に現在の 金融ビジネスが統合された提案をしなければ収益を上げにくい事情を表している。勿論、ウオールの問題は慎重に回避しながら推進して いる。このクロスのプレーが出来る人材が人材需要の対象となっている。

    ・第二章で説明するように、現在日本の金融ビジネスはメガ三グループに寡占化されている。
    飛躍的に伸びているM&Aの大層は、まずメガバンクの窓口に持ち込まれる。大きいものから小さいものまで雑多である。そしてディー ルの大きさや内容で判断され、銀行か証券に分けられる。原則は、20−30百万円以上のフィーが見込まれるM&Aは証券会社が担当し、 それ以下は銀行が処理すると。ディールがメガバンク・グループに流れるのは、外資系金融機関では一定額以上(1−1.5百万ドル) のフィーが期待されないM&Aは取り組みを許されないからである。05年におけるM&Aの公表金額ベースでの上位10社には、外資 系投資銀行で6社、その他メガ系2社と野村證券が入っている。メガ系3社の公表M&A合計件数は外資系6社の3倍あるが、金額では 8割程度しかない。しかもこの数字は公表ベースのみであり、メガバンクが行う小体の事業法人のM&Aを加えると膨大な件数になると 考えられる。

    ・ 06年のM&Aは、これまでの買収の中心であった「救済型」のM&Aから「選択と集中」戦略に移ると言われている。これは、業 績の回復で、企業には大胆な戦略的リストラを断行する余裕が出てきたからであると。また、新会社法の施行により法的環境が整うことも 追い風となる。従って、求められる人材は、単に「財務リストラが出来る」だけではなく、企業の「資本政策」に対して有益な提言をする プロである。しかし懸念は、日本の企業経営が本当に「選択と集中」の戦略を行うかである。これまでのように、「赤字の子会社は売りた いが、非コア・ビジネスであっても黒字であれば売りたくない」とか、「人を大切にする当社は従業員を見放すような売却は出来ない」と いう論理が復活する懸念である。そうすると「M&Aブーム」は幻想となる。

    ・ 多くの金融機関は「防衛型M&Aは支援するが、敵対的な買収は支援しない」と宣告している。
    ここで指摘したいのは、米国のM&Aの例でも、楽天のTBS株買い増しでも見られるように敵対的買収は多くの場合うまく行かない。 即ち、買収の目的は株式(財務資産)そのものではなく、企業が創出する企業価値(知識資産)であるはずである。ソフトやネットワーク を持つ企業の51%の株式を取得したからと言って、単純に「企業価値」全体を確保したことにならない。既にP・ドラッカーが指摘して いるが、巨大な重化学工業が経済を支配していた「産業資本主義」と違い、今日の「知識資本主義」では企業の中核は情報を持つ人々であ る。株式の過半数を取得したからといって、人間の気持ちまで買えたわけではない。昨今の敵対的買収の仕掛けは、「ポスト資本主義」の 本質を理解していないのではないか。米国の通常のM&Aでも、株主価値が増加した例は多くない(データによれば50%を切っている)。 これはM&Aの難しさを表している。M&Aプレーヤーにはこの問題についての見識が求められる。

    ・ 日本の金融機関が再び海外拠点の拡大を図っている。
    日本と欧米間のクロスボーダーM&Aに実績のある外人プロに対する人材需要も出てきた。ここで指摘すべきは、一流外人投資銀行家による 日本の金融機関のM&Aや投資銀行部門の組織に対する評価である。彼らは「日本の金融機関でのM&Aはグローバルなディールが出来ない だけでなく、投資銀行業務の哲学や理念も無い。マンデート・ハンティングをしているだけである。そこへの転職はキャリアダウンになる」 と歯牙にもかけない。日本の金融機関の経営者には、経営の後進性や世界の資本市場での低い評価を理解して欲しい。

    ・ M&Aの報酬に関しては、外資系金融機関のM&A部門であっても「M&Aはチームで推進するもの」との考え方が強い。
    実際、スーパースターが行うM&Aは少なく、企業ブランドや総合力で推進される。従って報酬は「定性評価」で決められることが多い。 即ち、社内地位によってベース・サラリー及びボーナスが決まる傾向が強い。日系証券のM&Aではなおさらである。



    投資銀行カバレッジと引受け

    日本の企業は長期に亘り金融不安に苦しめられてきた。そして苦渋のリストラを敢行して負債を減らした。結果大きな現預金を持つに至 った。これは逆に「資産や資本の効率的な運用を行っていない」とされ、アクティビスト・ファンドの標的となった。内外の投資銀行は 「敵対的買収からの防衛」や「資本政策の適正化」のためのアドバイスを求められた。このカバレッジ・オフィサーの人材需要は、意外 にも、特に日本のメガバンクから発生していた。企業の資本政策全般についてアドバイザリーを行い、関連証券会社を含めて商機にした いと考えている。実際、マーケットの「アンケート」でもメインバンクはこのアドバイザリーを期待されていると。従ってメガバンクに は資本政策の提案に強いインベストメント・バンカーに対する人材需要があった。また、今後のファイナンス需要では、負債比率を上げ る必要からエクイティよりデットのファイナンスが多くなると言われている。実際、05年にはエクイティ・ファイナンスの総額は4−5 兆円程度で、前年比25%程度減少している。

    05年での企業の新規上場は158社(前年比17社減)あり、金額は7631億円(前年比44%減)であった。ネット証券を含め大 小25の証券会社が支援した。しかしネット証券では甘い引受審査があり、市場で非難された。従って人材採用は概してうまくいかなか った。これは、小口であってもIPOは投資銀行業務であり、個人のデイ・トレーダーを対象にするネット証券のビジネスではないとい う評価による。

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    2.投資ビジネス

    このレポートで言う「投資ビジネス」には、不良債権の購入・転売・回収(ディストレス・ビジネス)、企業再生のためのファンド、地 域再生のためのファンド、不動産ファンド(私募ファンドやREIT)、「正統」のプライベート・エクイティ、「一般」の投資ファン ド、スティール・パートナーズ等のアクティビスト・ファンド、証券会社が行うプリンシパル・インベストメント、及びベンチャー・キャ ピタルを含む。即ち、自らの投資方針を持ち、資金を投下し、加工し、回収するビジネスを指す。

    概観
    「投資ビジネス」の拡大は、国内外における金余りと運用難を背景として進行している。一方これは、特に外資系投資銀行はが、かつて 大きな収益を上げていたM&Aアドバイザリーや債券・デリバティブ・ビジネスが儲からなくなったため、投資リスクを取ることにより 収益を上ようとしていることによる。


    投資形態別の様相と人材需要
    ディストレス・ビジネスの人材需要は一部を除きほとんど無い。一時大手の外資系投資銀行はこのビジネスから巨額の利益を創出してい た。当時実績のあるトレーダーは高額のボーナスを貰っていた。一年程前に、ある若手に「不良債権問題はいつまでも続くわけではなく、 転売型のトレーディングは早晩不要になる」と注意したが、「今の高額の報酬を捨てキャリアを変える積もりは無い」と聞く耳を持たな かった。今は何をしているであろうか?


    企業再生ビジネスも基本的に終了している。再生ファンドの代表である産業再生機構も予定より一年早く解散する。 再生機構は05年3月末までに41件の支援を決定し約1兆円の公的資金を投入、収支も黒字になるとのこと。当初は10兆円の投入 も計画されたが、1兆円程度で終わったことの評価は保留したい。予定より早い解散は、一部を除いて大企業の経営破綻が無くなった ことによると言われる。しかし市場にはまだ苦戦している中小企業は多く、邦銀が静かに処理中との噂である。
    人材需要としては全般的に激減している。


    プライベート・エクイティ
    日本で活動している内資・外資のバイアウトファンドは、主なもので50(不動産関連ファンドやベンチャー・キャピタルを除く)ある と言われる。外資系の「正統」プライベート・エクイティ、「独立系」プライベート・エクイティ、「その他」の買収ファンドである。
    日本のプライベート・エクイティの本格的な活動開始は00年前後に遡る。当初は投資先の発掘に苦労していたが、最近は投資を実現し 2号ファンドに移っている。ファンドの規模は通常各社500−1000億円程度である。しかし資金は使いきれていないところも多い (実際には各社に爬行性があり、4号ファンドに取り掛かっているところもあれば、1号ファンドを使い切っていないファンドもある)。 データによれば、投資額は04年には1.4兆円、05年(1−10月)で1.2兆円程度である。既に売却・上場案件も出ており、04 年で0.2兆円、05年(上記と同期間)で0.3兆円実現した。このトレンドは06年も続くと考えられる。

    しかし競争は激烈化しており、高い収益を上げることは難しくなっている。成功するためには、優良な投資案件を発掘する力(ソーシング)、 経営力(ハンズオンによる経営の刷新)、加工する力(リストラの執行や付加価値を持ち込み資産・企業価値を上げる)、回収する力(売却や IPO等による出口戦略の実行)を兼ね備えていなければならない。今後はプレーヤーの能力に対する要請が厳しくなる。ある識者によれば現 在50−100本と言われる国内の主要ファンドは「数年以内に7割が消える」と。

    プライベート・エクイティの人材需要
    上記の通り「既存」の買収ファンドは投資も売却も実現しており、順調に推移している。人材の採用は一巡しているようだ。しかし、上記のよ うに、プライベート・エクイティの年間投資額は1兆円程度であり、GDPの大きさや日本経済の要請に対して極めて小さい。この程度の投資 額は、海外のプライベート・エクイティに比較して大きく見劣りする。特に外資系の「正統」プライベート・エクイティは健全で投資利回りの 高い案件だけに投資する。当然の経営方針であるが、一方日本経済の復活・拡大という社会的役割を果たしているとは言えない。
    今後KKR等新しいファンドの日本上陸や「既存」のファンドの中でも投資方針を積極化しようとしているところもある。これらからの人材需 要はある。彼らには単純に「利回り」だけを計算するのではなく、工夫して日本経済にインパクトを与える大掛かりな案件を発掘し、人材需要 を引き起こして欲しい。

    現時点での日本のプライベート・エクイティにとって一番重要な戦略は、ソーシング力の強化である。従って人材需要の対象は、自ら投資可能 先への人脈を持つと同時にソーシング先であるメガバンクや投資銀行のM&A部門とのコネを持つプロである。要は、ソーシングにおいてビッ ド合戦を回避し、相対で案件を発掘出来るプロが求められている。また、投資後では投資先の人々と折衝(コミュニケーション能力)し、経営 ・財務・ビジネス改革(経営力)を行う力のある人。よく指摘されることは、この能力はM&Aの能力とは別のものであるということだ。M& Aで実績のあるプロがプライベート・エクイティに転入して間違いを起こすことがある。プライベート・エクイティでは双方の要請に応えられ る能力のあるプロが求められている。

    次に、投資の可否の判断や投資後のプロセスを担当するエグゼキューション(執行)担当の若手に対する需要がある。デューディリジェンス( 会計、税務、法務、人材)、キャッシュフローの予想、バリュエーションや財務リストラ、組織作り等を進める。会計事務所や人事コンサル ティング会社等の専門会社との共同作業で進める。プライベート・エクイティ・ファームでは、このような能力のある若手に対する人材需要は 常にある。理由の一つは、最近、若手のエグゼキューション担当者の転職が目立つことである。これは、プライベート・エクイティはファンド を組成して、投資先を発掘し、売却が完了するまでに5−7年を要する。30歳代前半の人にとってこの年月は長すぎるようだ。確かに時代の 変化が急で、キャリアのサイクルが短くなっている。従って、勝負の早いアクティビスト・ファンドや証券系のプリンシパル・インベストメン トの方が好まれる。


    プリンシパル・インベストメント
    一部の大手の外資系投資銀行と大手の日本の証券会社が、ファンド投資に加え自己資金=プリンシパル・インベストメントを行っている。ファ ンドと違い投資に自由度があること。ファンドのような投資ノルマが無く、無理をして投資する必要はないこと。しかしこの自己資金投資は証 券会社自体のROE、ROAに影響を及ぼすことから、投資リターンのターゲットは高い。従ってリスクのある投資先や比較的短期間に売却で きる案件に取り組むことになる。企業買収の攻防戦によく名前が出る所以である。いわばトレーディング感覚の投資である。人材需要もあるが 選抜は厳しい。「正統」プライベート・エクイティより少しクイックなテンポの人が好まれる。


    「M&A支援ファンド」「敵対的買収防衛ファンド」等
    邦銀、信託銀行、保険会社等さまざまな日本の金融機関がM&A関係のファンドを組成している。目的はM&Aの支援であったり、敵対的買収 防衛であったりである。この人材は、現時点では内部から調達されている。各ファンドの規模は大きいが、特に専門性を持たない彼らがマーケ ットにどの程度インパクトを与えられるか注視したい。


    アクティビスト・ファンド
    一部の日本の経営者が「企業は株主のものではなく、さまざまなステークホルダーが共有するもの」というもっともな議論を隠れ蓑として、自 己保身を図り、非効率な経営を行っている。PBR1以下の会社は05年の初頭には上場会社の30%程度あった。いまでも300社以上ある。 ここで、アクティビスト・ファンドが突然大株主として登場し、投資先の含み資産を吐き出させてゲインを得ている。これは日本の資本市場の 活性化や経営の合理化推進という観点からは支持される。しかし、この動きは直接的に「企業価値」を増大させるものではない。まして内部に ある資産や含み益を配当として吐き出させたら、被買収企業の企業価値は低下する。もし彼らが「ファンドの役割は一円でもゲインを得ること」 として「自分たちが儲かればよい」と考えているのであれば、敵対的買収は社会的な支持を失う。
    しかし上記したように、最近プライベート・エクイティの投資期間の長さへの失望から、アクティビスト・ファンドへの転職を望む若手バンカ ーが増えている。筆者はこのファンドでの就業が彼らの実力アップ・キャリアアップに繋がるか疑問に思っている。一部の「敵対的」なファン ドに対抗して「友好的」アクティビスト・ファンドが登場しており、人材需要もある。


    ベンチャー・キャピタル
    ITバブルの崩壊で壊滅的な打撃を受けていたベンチャー・キャピタルが復活しつつある。人材需要も出てきた。しかし、依然としてバイアウ トへ投資方針を移すベンチャー・キャピタルやキャピタリストも多い。


    不動産投資ファンド
    不良債権のバルクセールは97年に始まった。当時、巨大な資本を持つ外資系投資銀行や外資系ファンドが、不良債権問題に苦悩する邦銀から 超低価額(元本の10%程度)で購入し、転売や回収をして巨額の利益を得ていた。不良債権の中身は、多くの場合担保としての不動産であっ た。その後国内不動産私募ファンドも登場し、DCF法を駆使して不動産投資を拡大している。オフィスビル、ゴルフ場等いわゆるハコモノの 債権を購入し、財務リストラして転売するというビジネスモデルであった。最近は収益を上げるため、付加価値型の不動産開発案件の取り組み や、専門家を招請して物件のオペレーションも行うようだ。このように不動産へのファンド投資は中身を変化させながら依然拡大中で、05年 末で不動産向け国内私募ファンド用資産残高は3.3兆円で、J−REITは2.6兆円であった。この傾向はまだ続き、外資系も含めたトー タルの残高は06年には10兆円を越すと言われている。実際、不動産投資会社の業績は依然好調であり、強気の業績見通しを持っている。

    一方、現在銀行の不良債権処理から出てくる不動産は少なくなった。05年の基準地価も15年ぶりに東京23区が上昇に転じ、都心部地価の 反転が鮮明になった。従って、収益的な物件の取得は難しく、多くはビッド合戦で、都心の優良オフィスビルの投資キャップレートは3%台に 低下している。また収益源の一つであったゴルフ場への投資は回収期を迎えており、各社とも新たな投資対象の発見に腐心している。不動産ビ ジネスが「バブル」と言われる所以である。

    しかし筆者は「不動産ビジネスのバブル論」には組みしない。日本の不動産時価総額は1400兆円あり、全国の不動産価格はいまだ下降傾向 にある。バブル化しているのは、東京や大阪の一部でのオフィスビルや一部の商業施設に過ぎない。バブルと諦めるには早過ぎる。日本のGD Pが2%程度しか拡大しない環境下で、人気のある都心の優良オフィスビルの価格がヒートアップする一方、過疎化したオフィスの賃借料は下 がる。一部でバブルが起きるだけである。不動産ビジネスが底堅く拡大するためには、今後の不動産投資は付加価値を創出する「事業」を展開 しなければならない。


    不動産ファンドの人材需要
    付加価値創出型不動産事業の推進のため、ショッピングモールや駅前開発の事業に当初から参画してファイナンスのスキームを提案するファン ドがある。また、倉庫等物流施設に運用対象を特化する外資系ファンドもある。さらに、あるファンドではオフィスビルのプロパティマネジメ ントや追加投資を積極的に行い、物件の価値を上げている。またオフィスやマンションを避け、ホテル、リゾート、スキー場、ゴルフ場等のレ ジャー施設を対象とするファンドもある。それら専門ファンドでは運営ノウハウも必要になる。これらに能力や経験のあるプロが求められてい る。これらの人材を活用して知恵を出さなければ、不動産投資ビジネスは「バブル」として一時の「あだ花」に終わる。

    不動産のノンリコース・ローンは日本の信託銀行、メガバンク、外資系銀行、国内外の証券会社がレンダーとして依然として積極的である。融 資額は大手行合計で4兆円台にのぼり地銀も追随している。不動産のノンリコース・ローンの推進・エグゼキューションの人材需要は邦銀を中 心にまだ強い。

    不動産ファンドの出口は国内機関投資家、年金、J−REIT、海外投資家等であるが、オルターナティブ投資として順調に広がりを見せてい る。不動産投資の出口作戦における人材需要も堅調である。特に外国の資本が海外不動産市況のバブル化、利回りの悪化を懸念して日本への投 資を始めている。その中に運用利回りが安定的であれば低い利回りのものでも長期保有を考える外資も出ていると。不動産私募ファンドやJ− REITが海外投資家へのマーケティングのための人材需要を起こしている。

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    3.資産運用ビジネス

    伝統的資産運用ビジネス

    概観
    TOPIX等のベンチマークをターゲットとする「慣例的」な資産運用(アクティブ運用とパッシブ運用)は、最悪期を脱したと考えられる。 即ち、05年9月末の公募株式投信の純資産額は34.8兆円で、91年5月以来の高水準であった。公社債投信の純資産残高10.8兆と合 わせ公募投資信託の残高は45.6兆円となった(データによれば、12月末で55.3兆円に増えている。業界ターゲットの60兆円に接近 している)。私募投信の残高も9月末ベースで22.1兆円と過去最高となっている。しかし米国に比較するとまだ小さい。また、公募株式投 信が好調といっても、中身はグローバル・ソブリン・オープンが4兆円以上で、相変わらず毎月分配型の外国債券の投信に偏っている。BRI Csものも売れているが、証券会社の既存の販売網に組み込まれており、大きな人材ニーズを生むものではなかた。外資系の投信会社にマーケ ターの需要が散見されただけである。株式投信の銀行窓口での販売比率が全体の50%を超えている。販売ではやはり銀行が強い。現在では投 信の販売手数料は銀行の大きな収益源になっている。しかし投信残高が増えるためには日本版401kの拡大が不可欠である。これは01年1 0月に導入されて4年経過したが、当初の期待に反して拡大していない。企業型は、加入者が150万人を突破し順調に拡大しているとのこと だが、個人型は5万人程度にとどまっている。伸び悩みにはさまざまな理由が考えられるが、掛け金の拠出限度額がまだ小さく使い勝手が悪い とのこと。今後株式市況の好調を受けて拡大するか?
    投資一任業者(125社)の投資顧問契約資産残高は、好調な株式市況の恩恵も受けて、05年9月末には124.2兆円となった。これは3 月末比16.3兆円(15.1%増)で、残高は過去最高となった。特に海外顧客からの増加が著しく3月末比29.4%増えていた。


    人材需要
    上記の通り、「慣例的」な資産運用の環境は改善しつつあるが、人材需要は依然として低迷している。これは、残高の増加が基本的に株価上昇 によるものであること、依然としてパッシブ系の運用会社に資金が流れていること、特に日系の資産運用会社のリストラは不十分で、まだ社内 潜在失業者を抱えていることによると思われる。
    ほとんどの金融プロダクトで人材需要は回復しているが、「慣例的」な資産運用ビジネスだけは低迷している。


    オルターナティブ投資
    「慣例的」な資産運用の代替として「オルターナティブ」投資が注目されている。これには、ヘッジファンド、不動産、コモディティ、プライ ベート・エクイティへの投資がある。ここでは「ヘッジファンド」の動きと人材需要の様相を説明する。

    概観
    現在、世界のヘッジファンドの運用額は約140兆円余りである。これは世界の全金融資産の1%未満に過ぎないが、3−5倍のレバレッジを 利かせ戦略的な動きをするため、今や無視出来ない。ヘッジファンドでも運用手法はさまざまで、マクロ、ニュートラル、ロング・ショート、 CB裁定、イベントドリブン、破綻証券投資等がある。これに加え、複数のファンドを組み合わせるファンド・オブ・ヘッジファンズがあり、 各手法によりパフォーマンスも違う。現在、世界のファンド数は12,000あり、ファンドの運営会社数は、米国のSECに登録予定だけで も15,000社あると言われる。参加ファンド数も急増し資産規模が巨大化していることから、パフォーマンスは悪化している。パフォーマ ンスは、全体としては3%程度(HFRXインデックス)に低下しており、比較的良いものでも10%を超えるのは難しいようだ(プロによれ ば良いもので最大500、本当に良いものはその中で10%程度と)。
    このような中でも日本の投資家はヘッジファンドへの投資を拡大している。05年3月末で日本の投資家が保有するヘッジファンドは約8兆円、内、生命保険会社が一番大きく30社で1.6兆円である。都銀、信 託銀行、地銀、信金等金融機関は全部で6兆円余りである。全邦銀の証券投資は約100兆円(預証率は約25%。大層は日本国債である)あ るが、ヘッジファンド購入が証券投資全体に占めるシェアはまだ小さい。日本国債への投資のリスクが指摘される昨今、銀行にはまだオルター ナティブ投資を行う余地はあるように思う。現に邦銀各行はオルターナティブ投資を強化している(実態は「ファンド・オブ・ヘッジファンズ」 である)。05年が邦銀の「自己投資元年」と呼ばれる所以である。


    人材需要
    上記の流れの中で、特に日本の「銀行」で、ファンドマネジャーを雇用し、運用を内製化する動きかあった。このファンドマネジャーはニュー ヨークやロンドン、香港に出張し、パフォーマンスの良いファンドや優良なファンドマネジャーを探す(運用界のイチローを探せ!)。このた めには選別の目利きが出来なければならない。日本人にはプロが少ないので、結果中途半端な経験者が採用される。彼らは「ゲートキーパーも どき」と呼ばれる。その他の需要ではその下のリスクマネジメントやオペレーションの人材である。日本の銀行での採用がうまく行かないのは、 他のポジションと同じく、採用するプロへの権限委譲の曖昧さや報酬の低さによる。銀行の理屈では「このポジションは、他人が運用したもの を買ってくるだけだから」と。専門性を評価しない日本の金融機関らしい。

    米系や欧州系のヘッジファンドが東京にオフィスを開設し、日本株への投資を行う動きが出てきた。日本株に対する信任の表れであろうか。人 材需要もある。このポジションを求める日本人プロは多いが、採用されるのは難しい。相当の実力者でないと無理である。また、自分でヘッジ ファンドを立ち上げようとするプロもいる。彼らは自らの運用手法やクオンツモデルを開発して実績もある。しかしシードマネーの出し手がい ない。大手の金融機関での良いパフォーマンスは「実績」にならないようだ。そこで、これら若手ヘッジファンド・マネジャーを応援するイン フラを作ろうとする動きも見られる。ヘッジファンドの運用で、世界で通用する日本人ファンドマネジャーが育って欲しいと願っている。

    海外の大手ヘッジファンドが日本での販売拠点を強化している。そのための人材需要があった。ファンド会社自体の採用であったり、外資系金 融機関東京支店のファンド・マーケティング・グループによる採用であったりする。職責は、日本の機関投資家のニーズに適合した商品の仕組 み直しや説明である。特に銀行に販売する場合バーゼル・の規制が障害になる。また、日本の銀行・証券会社にリテール(個人富裕層)向け商 品として卸す場合は、日本の投資信託としての形を整えたり、元本保証を付けてリスクを小さくするように加工する必要がある。店頭セールス への教育も行わなければならない。従って、金融法人へのネットワークやファンド・デリバティブ等の商品知識を持つ人プロが求められた。ま た、年金宛てコンサルティング・ファームでの人材需要も強かった。これは年金に対して投資ヘッジファンドの選定、パフォーマンス評価、リ スク分析を支援する。

    日本の銀行に対して07年3月期末からバーゼル・の規制が適用される。現在、銀行のヘッジファンド投資に対するリスクウエートに関して混 乱が起きている。中身の分からないヘッジファンドのリスクウエイトは1250%で計算されるという。しかし現時点では専門家によって解釈 が違う。従って地銀等が新規の投資を見送っているという。逆に、外資系金融機関がヘッジファンド・セールスで、バーゼル・規制回避のため のアイディアや仕組みを売り込もうとしている。あらゆる機会を商機と考える外資系の真骨頂であろう。

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    4.クレジットリスク・ビジネス

    概観
    日本の金融では戦後長い間間接金融が中心であった。今は昔、筆者が若き銀行員であった頃、形は融資(デット)であったが、事実上はエクイ ティ・ファイナンスとして、融資先の経営にも関与していた(擬似エクイティ・ファイナンス)。このため当時の銀行員は、企業の何を見て融 資するのか洞察力を求められていた。しかしその後の日本経済の拡大・規制緩和は金融機関同士の競争の激化をもたらし、結果として金融バブ ルを生んだ。銀行員は志を失い、不動産担保さえあれば事業内容は問わないという質屋金融業者に身を落とした。一方証券マンは「株はもとも とリスクマネーだ。株価が4万円なのは買う人がいるからだ」と思考停止し、エクイティの「本源的価値」を分析せず「需給」だけをみて株の 売買や引受けを行っていた。結果「バブル」は崩壊し、その後の「失われた10年」となった。


    人材需要
    クレジットリスクとは何かを理解出来る人材
    これからの金融マンに最も求められる能力はクレジットリスクの分析と加工の能力である。今後は、クレジットリスクを本当に理解するプロが 金融人材市場の真ん中に座る。「クレジットリスク」とは「企業価値」の評価で最も重要な要素である。企業のバランスシートの右側(負債と 資本)はシニア・デット、ジュニア・デット(劣後ローン、メザニン)、資本の部で構成されている。これらのリスクは連続しており相関性も ある(K・M・V社の分析)。おのおのの期待リターンはリスク度に合わせて変化していなければならない。しかし日本の伝統的な金融は、こ れらを分断して取り扱ってきた。即ち、銀行は安全で回収が確実な借入人やプロジェクトへの融資を行い、証券会社は「リスクの塊」としての 株式を対象とした。しかし、それらの「中間」にシニア・デットより高いクレジットリスクがあるはずである。最近この「中間」のクレジット リスクが認識され始めた。
    一方、クレジットリスクを抱え込む「企業価値」は「財務資産(BS/PLで表現される)」と「知的資産(いずれ財務資産として具現化され るが、その時点ではBS/PLには見えない。知的資産には特許や新車の設計図のように定義出来る『形式知』と、経営者のリーダーシップ、 人事、従業員のモラル、企業文化のように定義しにくい『暗黙知』がある)」で構成されている。「知的資産」の分析を行わない「企業価値」 の分析は意味を持たない。これからは、クレジットリスクや企業価値に対して真摯に対峙するプロが人材需要の対象になる。

    クレジットリスクの高いファイナンスが出来る人材
    高いクレジットリスクに対するファイナンス案件を発掘し、リスクを分析し、与信を供与し、加工し、販売(CMBSやファンドへの販売)が 出来るプロに対する需要がある。実際、不動産等のアセット・ファイナンス、事業ファイナンス、M&Aやプライベート・エクイティを行う場 合のファイナンスに使われる。望ましいプロ像の詳細は「ファイナンス」の項で説明する。

    一方、邦銀が行うファイナンス(企業融資等)では、邦銀は相変らずリスク相当の金利を取らずに融資シェアの拡大を目指している(邦銀の貸 出金利は下降の一途である)。外資系金融機関にはクレジットリスクの高いファイナンスを行うグループがある。外人中心の組織で、高いリス クを許容する代わりに高いリターンを取ろうとしている。ハイテクなファイナンスである。そこに邦銀が低金利で殴りこんでくるので、それら の外人組織は壊滅する。邦銀はまた不良債権の山を作ろうとしているのか。さすがに金融庁も邦銀によるこのリスク無視の融資拡大を放置出来 ず、バーセル・がらみで介入しようとしているとの噂である。

    最近、日本の証券会社がクレジットリスク・ビジネス(投資適格社債のトレーディングではない)に参入しようとしている。彼らがファイナン スとしてのクレジットリスクを考えているとすれば、難しいと思う。リスクの高いクレジットリスクは金利や為替のように定量化出来ず、経験 を通じてしかノウハウを蓄積出来ないからだ。いざとなっても流動性が低いため転売して逃げることも難しい。即ち、コマーシャル・バンクの ように企業に融資し、不良債権に苦しむという経験を重ねなければノウハウは蓄積しない。リスク回避型の証券会社の発想を払拭できなければ、 クレジットリスク・ビジネスに参入すべきでない。

    クレジットリスクをトレーディング出来る人材
    この数年、クレジット・デリバティブ市場(CDS)が世界的に急拡大している。05年6月末には12兆ドルと前年比2.3倍に膨れ上がっ た。ISDAのルールも整備されてきた。海外市場では債券トレーダー、CDSトレーダー、株式トレーダーが相手の市場の動きを参照しなが らトレーディングしている。CDSはヘッジファンドも大きく活用しているという。シンセティックCDOの組成にも使われる。しかし日本も のクレジットのCDSの規模は小さく、世界の1%にも満たない。これは、日本の金融機関が保証料を稼ぐために売り一方であり、CDS市場 がいびつになったことによる。海外からは邦銀が日本のクレジットのマーケットを壊したと悪評紛々であった。しかし最近は、株式市場の活性 化、GMショック、三洋電機等の格下げ等の影響により、クレジット市場が活性化している。CDSや社債の銘柄間にスプレッドの格差が開き 始め、プライスに合理性が増してきたとのこと。リスクの高い社債のトレーディングや投資が増えており、CDO、CLO、またキャッシュC DOの投資も増えている。日本の金融機関も国内外で活発に投資するようになった。

    従って人材需要がある。CDSのトレーダー(内外の金融機関で)、外ものCDOの仕組み担当者(さすがに日本もののCDOは組成が難しい ようだ)、CDOへの運用担当者、この種クレジットもののセールスである。BBB債等リスクのある社債のトレーダーに対する需要も出てき た。しかし、邦銀の総合リスク管理部の信用リスクマネジメントの担当者は内部調達されている。クレジットリスクの人材需要はマーケット環 境の改善(金利水準の上昇等)と相俟って拡大するものと考えられる。


    クレジットリスクの分析者としての人材
    クレジットリスクの分析者へのニーズも増えている。格付け機関での格付けアナリストや外資系投資銀行でのクレジット・アナリストへの需要 である。数年前には経験者が少なく探すのは難しかったが、現在では人材も育ってきた。クレジット・クオンツアナリストへの需要もある。

    バーゼル・規制の動向に関しては、「ヘッジファンド」の項でも触れたが、規制の行方で銀行経営が変わり、人材需要も変わる。銀行は現在に 至るまでほとんど資本政策を行っていない(勿論「計算」はしている)。バーゼル・規制の施行により、邦銀がクレジットリスク・ビジネスを、 リスク/リターンと資本政策との関係で取り組むことになれば喜ばしい。この関係の人材需要としては、IT系を除けば会計系コンサルティン グ・ファームに偏っていた。バーゼル・の規制の行方の説明と対応についてコンサルティグするとのこと。銀行の人材調達では、邦銀は優秀な スタッフが多いので外部採用は少なかった。

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    5.ファイナンス

    概観
    上記のように、M&Aやファンド投資を行う場合、投資効率を良くするためにデットの調達を行う。また、クレジットリスクの高いファイナン スに対する需要も拡大している。さまざまなファイナンスにおいて人材需要が強い。


    人材需要
    MSCB(転換価格の修正条項付き社債)はM&Aファイナンスの一つとして活用されている。この商品では、引受け証券会社 は株価が下落しても収益を10%確保出来る仕組みとなっている。空売りを駆使すればもっと儲かる。01年の商法改正により、装いを新たに登場 した商品である。リーマン・ブラザーズがニッポン放送買収のファイナンスでライブドアに提案して、百数十億円の利益を得たと言われる。05年 の件数は昨年比倍増の14件で、発行額は約2200億円及んだ。昨年の春先にこの商品のマーケターの人材需要が急増した時期があった。しかし この商品は株式の希薄化が起こるため投資家の評判が悪く、また企業も市場評価を懸念して下火となった。従って人材需要も沈静化した。しかし 現在でも小体上場会社に対して比較的小額のMSCBの提案が続いている。中小の上場会社をターゲットとした事業法人グループで、このための 人材需要がある。続行している投資銀行は、「引受け直後にマーケットで売り抜けるのではなく、海外のファンドに移し、ポートフォリオとして 管理している」と言い訳している。

    LBO・MBOファイナンス
    上記したように、最近の特徴は、M&A、投資ファンド、ファイナンスが三位一体で進められることである。ファンドやM&A投資銀行がファ イナンスを依頼する(レベレッジを利かす)こともあれば、逆に、ファイナンス側でファンドやM&Aのプロに接近し、ファイナンスの商機を 探すこともある。ファイナンスは邦銀や信託銀行が積極的に行っている。リスクが高いものは外資系金融機関が行う。データによれば、メガバ ンク三行が行ったLBO/MBOファイナンスは合計1.4兆円で、前年比0.2兆円増加している。この傾向は06年も続き、人材需要も拡 大すると考えられる。採用ニーズはメガバンクと外資系ノンバンクからである。

    アセット・ファイナンス
    不動産、各種売掛債権、消費者金融、医療費請求権等さまざまなアセットを対象とするアセット・ファイナンスは依然として活況である。通常、 買取りのためのSPCを作り、エクイティの投資者を募り、デットはノンリコース(非遡及)ローンで調達する。そしてノンリコース・ローン を纏めて証券化(CMBS)し投資家に販売する。また信託のスキームを使うこともある。
    特に若手に求められている能力は、事業のバリュエーション、担保価値の査定(不動産の評価等)、デューディリジェンス、バランスシート分 析、キャッシュフロー分析、さまざまなコベナンツの設定等与信手法に加え、関係する法律、会計、税務に関する知識や経験である。また信託 に関する知識を持つ人も歓迎される。もちろん一人のスタッフがこれらの全ての能力を持っているわけではない。しかしこれらの知識はM&A 等あらゆるファイナンスに不可欠で、これらの能力を持つ若手はさまざまなファイナンスで求められている。但し、エグゼキューション担当の 若手は「奴隷」と呼ばれ、デッドラインに追われて年中24時間労働を強いられる。また、その証券化されたCMBSやABCPを販売するセ ールスへの需要も強い。債券営業部の中央・地方の金融機関担当のマーケターである。

    消費者金融等「伝統的」なアセットの証券化の収益率が急速に低下しており、撤退するところも多い。従って新しい資産の証券化が進んでいる。 医療関係、パチンコ機器、葬儀場、種々のコンテンツ、映画等さまざまなソフト・アセットである。アセット・ファイナンスはオリジネーター に対する企業融資ではなく当該プロジェクトに対する与信であるから、担保価値の評価ではなく、それぞれの事業に対する分析力を持たなければ ならない。これからのアセット・ファイナンスは事業ファイナンスとして、付加価値を付けなければ儲からない。この動きは外資系金融機関で も邦銀においても起こっている。

    メザニン・劣後ローン
    最近では、不動産等アセット・ファイナンスの証券化、MBO/LBOファイナンス、プライベート・エクイティ等で、競争の激化によりエク イティの利回りが低下している。通常の調達ではアセット価額の70%程度を銀行のノンリコース・ローンで賄うが、最近ではよりレバレッジ を利かせるため、全体の75−85%をデットで調達しようとする。従って劣後ローンやメザニンを使う場合が増えている。この人材が各ファ イナンスで求められている。求められる能力は、アセット・ファイナンス一般に求められるものに加え、高いクレジットリスクの評価やそのプ ライシング能力(最後は市場化するため)である。人材は経験者が少ないので探すのは難しい。シニア・デットの経験者の内、ジュニアのクレ ジットリスクを極めようとするバンカーか、または、エクイティ・ファイナンスの経験者の内、デット・ファイナンスにチャレンジしようとす るインベストメント・バンカーの成長に期待したい。また、マーケットの拡大を反映して、メザニン・ファイナンスを行う海外ファンドが日本 に上陸しつつある。日本の金融機関でもメザニン・ファンドを組成したり、他のメザニン・ファンドに投資しようとする金融機関もある。人材 需要は拡大すると考えられる。

    資産担保証券(ABS)
    上記の不動産のノンリコース・ローンやリース債権等の各種アセット・ファイナンスを担保とした資産担保証券が全体として急増している。デ ータでは、05年には総額6.2兆円に達しており、これは一般事業債の6.1兆円を上回っている。04年は5兆円程度であったので急増し ている。これは、公社債市場では日本国債に次ぐ規模となっている。急増の原因は住宅金融公庫の住宅ローン担保証券(RMBS)の発行額の 増加である。05年には住公RMBSは2.9兆円発行されており、ABS全体の47%を占める。ABSの発行増加により、外資系投資銀行 や日本の大手証券会社においてエグゼキューション(キャッシュフローの計算、仕組みの組成、格付けの獲得等)担当者の需要が強かった。

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    6.シンジケート・ローン

    シンジケート・ローンは手数料収入の増大、市場型間接金融の旗手としてメガバンクが強化している。全体残高も20兆円を越している。しか し、これもデリバティブと同じく、メガバンクによる弱小顧客への押し付け商品となっている。本来ならば通常の貸出で対応出来るものを、無 理に私募債にして、アレンジメント手数料を稼ごうとする。デリバティブ販売と並び、この商品でもメガバンクから人材需要がある。

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    7.債券/デリバティブ/為替ビジネス

    メガバンクの一つが、取引上の優越的地位を利用して融資先である中小企業にデリバティブの押し付け販売をしたとして、公正取引委員会から 排除勧告を受けた。邦銀各行は、競争激化で貸出金利を上げられないため、多かれ少なかれこの手法で収益を上げている。また、下記に述べる ように、メガバンクの窓口には大量の金融取引が持ち込まれており、証券仲介業に基づくビジネスも含め、邦銀からこれらのビジネスの経験者 への大きな人材需要がある(ともかくメガバンク・グループは猫の手も借りたいようだ)。

    大手外資系金融機関の債券営業部門での地銀、事業法人、ミッドマーケット宛てマーケターに対する人材需要は、引き続き強い。外資系の一部 は依然として強い仕組み力やトレーディング力を駆使して収益的なデリバティブの仕組み債を作り上記の顧客に売ったり、中小の証券会社に卸 したりして収益を上げている。しかし事業法人宛てデリバティブのマーケティングでは、ある米系の投資銀行が圧倒的な収益力をあげていると のこと。

    しかし、外資系の債券・デリバティブ・ビジネス(外資系ではグローバル・マーケッツやグローバル・レイツと称せられる)は全体的に低迷化 している。かつて外資系金融機関は、高度のデリバティブ技術を駆使して収益的な商品を創出していた。当時、デリバティブは外資系東京支店 の60−80%の収益を稼ぎ出していた。現在その面影は無い。通常の仕組み債は大手の日本の金融機関でも作れる。しかも顧客ベースにメガ 三グループと各外資との間に格段の差がある。従って、外資系は邦銀では依然難しいものをつくり、生き残りに必死である。しかし生き残る外 資系はせいぜい10−15社であろう。

    東京外為市場の取引が回復する中で高名な為替のプロの転職が散見される。金余り現象の中で投資家が外貨投資を始めたため、外為専門会社や 一部外銀が人材採用を行っている。しかし、東京外為市場での外銀の拡大・縮小の繰り返しは数年毎に起こり、珍しい現象ではない。毎回シン ガポールと東京で人材をキャッチボールする。要は、提案する為替ビジネスが付加価値を生むものでなければ、ボラティリティの低下で再びオ フイスを縮小するだけだ。長期輸入為替やエグゾティックな為替の仕組みを開発できなければ生き残りは難しい。

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    8.株式

    05年の外国人投資家は日本株を10兆円以上買い越した。ネット取引の拡大もあり、株式売買における個人投資家の比率は38%に及んだ。 結果日経平均は年間40%以上値上がりし、東証一部の時価総額が15年ぶりに500兆円を超えた。しかし人材需要はほとんど無い。外人投 資家は既存の外資系投資銀行や大手の証券会社を通じて購入し、個人はネット証券を使ってデイ・トレーディングするためであろう。

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    9.個人富裕層ビジネス

    日本の世帯数4900万の内、1.5%=78万世帯が1億円以上の純金融資産を持つ。

    この富裕層が持つ資産の取り込みを狙ってさまざまな金融機関が「富裕層ビジネス」を展開しようとしている。超リッチ・ファミリーを対象 にするスイスの伝統的なプライベート・バンク、米系の投資銀行ビジネスから派生したウエルス・マネジメント、不祥事により日本からの撤 退を余儀なくされたシティバンクのパーソナル・バンク、欧州系ユニバーサルバンクが行うプライオリティ・バンク等である。日本の大手証 券会社はラップ口座を拡大している。戦略の難しさからか、どこも成功しているとは言いがたい。従って一年前と比較して、人材需要の盛り 上がりは小さくなった。

    メガバンクも銀行の支店網、系列の信託銀行、証券会社等を総動員して個人富裕層ビジネスを強化している。ノウハウを持つ外資との提携を 行うところもある。但し、戦略家の外部採用や、組織作り、支店の営業マンと中途採用のプライベート・バンカーとの報酬の調整等の社内協 力体制の構築が必須である。日本の金融機関はどこも、支店経営、組織、成果報酬制度をそのままにしてプライベート・バンキングを始めよ うとしている。即ち、メガバンク等日本の金融機関には「プライベート・バンクとは何か」についての哲学観や本格的な戦略が無く、単に時 流に乗って騒いでいるに過ぎない。従って、外資のプライベート・バンカーのプロはその人材需要には見向きもしない。

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    第二章 金融機関別様相

    1.メガバンクの改革と人材需要

    概観
    不良債権問題を克服すれば、日本の金融市場ではメガバンクが圧倒的な強さを持つ。統計的な裏付けは無いが、内外金融機関の多くのプロの 印象では「日本の全ての金融取引はメガ三グループに流れている」と。最近外資系のプロによれば、かつてはコンペティターは同じ外資系で あったが、最近はメガバンク系になっていると。そしてメガバンクの経営は的を「健全性」から「収益性」に移している。このため濃淡はあ るが、メガ三グループには一様に強い人材需要がある。そして、今後メガバンクは年間5000億円から1兆円の業務純益を稼ぎ出し、毎年 着実に自己資本を増加させていく。早晩メガバンクは公的資金(経営健全化計画)の呪縛から解放され、人事・人材政策で自由度を持つこと になる。また、メガバンク・グループはこれまで「証券と銀行の間に反目がある」とか「出身銀行別に分かれて政争している」との噂を立て られていた。現在、各グループとも超多忙で「そのようなことをしている暇は無い」と。当社は、メガバンクもやっと「改革への道」を歩み 始めたかと喜んだ。

    しかし一方、竹中平蔵総務大臣は、「『竹中三原則』の内、「ガバナンスの強化」は未達である」と明言している。確かに、メガバンクの経 営は「失われた10年」を経て何も変わっていない。合併により規模や株価時価総額だけは「世界的」になったが、収益力は小さい。問題は 相変らず「資本コスト経営」を行わないこと。多くの銀行は「委員会等設置会社」ではないためトップは成り行きで決まる。従って、リーダ ーシップを発揮して「改革」を叫ぶ人はトップになれない。通常の企業には存在するトレジャラーやCFOがいないので司令塔も機能しない。 執行役員は他の執行役員のメンツを立て、自分が所轄しない部門の事項には口を出すことはない。従ってブレーキが掛からず「儲からない」 ビジネスでも大量の人材を配置して行う。貸出の金利ダンピング合戦はますます熾烈になり、リスクに見合った金利を得ていない。人事では 年功序列が厳然と機能している。外部採用は行っているが、単に「日々の仕事が忙しすぎる」からに過ぎない。専門性が評価されないから業 績対応の人事制度が確立しない。従って報酬も相変らず安い。最近は通常の人より高い年収を保証されて中途採用されるプロも出てきたが、 オッファーされる年俸額の根拠が分からない。このように邦銀経営の問題点は、上げれば限りが無い。しかも、それぞれの問題点に本格的に 対応しようとする方針も確認されない。当社は、昨年作成の「レポート」2でアンケートを行ったが、邦銀の役員ですら、ほとんどが「邦銀 の経営は評価できない」と回答している。

    しかしメガバンク三行とも同様に改革を拒否しているわけではない。温度差が見える。また、全ての邦銀マンが一律に志を失っているわけで はない。「危機感」を持ち「改革を進めよう」としている立派な経営者やスタッフも多い。当社はそれらの人々を人材面で支援しようとして いる。また、現在進行中のバーゼル・の規制が明らかになれば、金融庁の圧力により銀行が真剣に資本政策を行うようになるかもしれない。 ひそかに期待している。


    人材需要
    メガバンク及び関連証券会社には、洪水のように押し寄せる沢山のディールを処理するため、大量の人材需要がある。その中でも需要が強い のは、銀行では、ストラクチャード・ファイナンス(不動産やその他資産の証券化やノンリコース・ローン等)、シンジケート・ローン、企 業アドバイザリー、M&A、デリバティブ等である。グループの証券会社では、M&A、債券ビジネス一般、デリバティブ、プリンシパル・ インベストメント等である。
    各プロダクトにおける日本の金融機関の人材需要の詳細は第一章で述べた。

    グループの証券会社での採用では、銀行と比較して縛りが小さいため自由度がある。雇用契約も柔軟で、いわゆる「総合職とか基幹職と呼ば れる期限を定めない雇用契約」、「プロ契や専門職と呼ばれる期限を定めた契約」。これは専門性を持つプロの採用で、成果対応の報酬を与 えられる。その中間の「期限を定めない雇用契約であるが、専門分野以外の部門には異動出来ない契約」がある。ここでも報酬は成果対応と なる。但し、いずれにしろ報酬は外資系程高くはならない。まして銀行本体では旧態依然とした人事体系・報酬体系である。邦銀が本当に収 益力のアップを目指すのであれば、人事制度・報酬制度で根本的な改革が必須である。

    日本の金融機関の中途採用での最大の問題は、担当部長や役員がそのビジネスの素人であることである。日本の金融機関では銀行でも系列の 証券会社でも、部長(ライン部長)や執行役員は生え抜きで占められる。彼らは経営トップを目指してジョブ・ローテーションで転勤を繰り 返すエリート・ジェネラリストである。これは現時点では仕方が無いことだが、中途採用のプロにとっては問題である。中途採用のプロはさ まざまなリスクを取ってて職責を遂行している。常にうまくいくわけではない。失敗した時なぜ失敗したかを上司が理解できなければ、リス クは取れない。しかし日本の金融機関が外資系金融機関のプロを採用出来ないのは、報酬の問題に加えて上司が素人であることである。

    時価総額で世界ランキング入りしたメガバンクは、国内での圧倒的な地位を確立するだけでなく、海外拠点の拡大も始めている。人材需要は 急増している。しかし邦銀はバブル期に海外でも巨額の資金力を使い、金利ダンピングでアセットを増やした。国際市場ではある意味で「存 在感」を示していたが、結果大量の「不良債権」を掴まされることとなった。今回の海外拠点の拡大計画はその失敗を踏まえてのことであろ うか。単に「世界的な金融機関であるから、海外店もそれにふさわしい規模にしなければ恥ずかしい」程度の考えではないのか。これからは、 かつてのように「湯水の如く」資金を使うことは出来ない。戦略を注視したい。



    2.二局化する外資系金融機関と人材需要

    概観
    外資系金融機関にはかつての輝きは無くなっている。上記のように、日本の金融ビジネスの大層がメガ三グループに流れており、外資系の顧 客ベースはいまやメガバンクと比較にならないくらい小さい。また通常の「金融先端商品」でもノウハウの差は縮小している。しかし戦略性 に富むトップクラスの米系投資銀行は依然強く、大きな収益を上げている。即ち、外資系金融機関の間で二局化が進んでいる。概して欧州系 ユニバーサルバンクは確固たる対日戦略を持たない。従って、一部を除いて、激変する日本の金融ビジネスについて行けず苦戦している。縮 小、撤退するところもある。


    人材需要
    「勝ち組」外資系からの人材需要は依然として非常に強い。しかし自らが強い分野での採用になっている。人材需要があるビジネスは、プリ ンシパル・インベストメント、不動産の証券化、M&A、引受け、投資ファンド、ストラクチャード・ファイナンス、ハイイールド・ファイ ナンス、ヘッジファンド、ファンド・デリバティブ、クレジット・デリバティブ、一般デリバティブ等である。これらに秀でた実績を持つプ ロか、資質のある若手が求められている。

    上記と矛盾するが、今日の外資系金融機関ではもはや「スーパースター」は不要であると。かつて外資系には、海外本店の高度なノウハウを 人より早く学び、自らの営業力やアイディアを駆使して大きな実績を上げるプロがいた。今日でも散見されるが極めて少なくなった。これは 昔のように外資系に差別化出来る商品が少なくなったこと、個人の力より、金融機関が持つグローバル・ネットワークやブランド力で勝負す る戦略になったことによる。従って外資系ではシニア・プロでもルーティーンに組み込まれる。いわば、皆「金太郎アメ」となる。従って実 績のある外資プロはフラストレーションに苦しむ。外資系の魅力が小さくなった理由の一つである。

    外資系金融機関の外人トップマネジメントの懸念は、東京支店の日本人に真の経営者や人材が十分に育っていないことである。東京支店には 「職人」(商品のプロで、よく稼ぎ高額のボーナスを貰っている人)はたくさんいるが、金融マンとして高い志を持ち、部門長(MD)とし て成長し、本国の経営者とも互角な議論の出来る人が少ない。また、マーケットに大きなインパクトを与える大掛かりなディールが出来るプ ロも多くないと。希少である原因は、外資系での採用が過去の実績やスキルを余りにも重視して行われることだが、日系金融機関の優良な応 募者も、チャレンジ精神をもって外資系金融機関にトライして欲しいと思う。当社は、外資系金融機関と日本の金融機関が優良な人材を抱え ながら、日本の金融ビジネスの拡大のため互いに切磋琢磨して欲しいと願っている。



    おわりに
    ホリエモンこと堀江貴文氏が逮捕された。この事件に関しては、「ホリエモン=小泉構造改革の負の産物」として政治的・社会的問題として 取り上げる勢力から、「ホリエモンは日本社会に変革のインパクトを与えた」として一定の評価を与える人々まである。しかし筆者が問題と するのは、誰があの7,000億円の株式時価総額を承認したのかである。無知なデイ・トレーダーが「高級パチンコ」ヨロシク遊び、大き く損をしたのは勝手だが、プロの株式アナリストが「買い推奨」していたのであれば、日本の株式市場の「質」に関わる重大事件となる。筆 者は元銀行員で株式の素人だが、あの有価証券報告書を一瞥しただけで、株価が700円もする会社でないと分かる。企業融資や投資銀行ビ ジネスの経験者には常識であろう。もし「一株700円が妥当」と評価するのであれば、アナリストは、ホリエモンや逮捕された取締役たち の能力や人間性を熟知し、ビジネスモデルに関する十分な情報を入手し、たくさんの従業員とインタビューして企業文化を熟知していなけれ ばならない。勿論、株価は「企業価値」の分析に加え、マーケットにある資金の「需給」を勘案して予想される。しかし「バブル」時代のよ うに「買う人がいるから株価は上がる」では、当時の株屋と同じである。まして、世界的に評価のある資産運用会社が自社の投信に大量に組 み入れていたという事実には驚かされる。
    金融ビジネスのプロとは「企業価値とは何か、株価は何を表しているか」を真摯に問う人でなければならないと思う。

    以上

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    ESPのプロダクト別アサインメント残高(平成17年12月31日現在)
    金融ビジネス
    プロダクト
    投資銀行ビジネス
    16
    26.2
    カバレッジ、M&A、引受け、IPO
    ストラクチャード・ファイナンスとクレジット
    14
    23.0
    証券化等のストラクチャード・ファイナンス、M&Aファイナンス、
    メザニン等のハイイールド・ファイナンス、PFI、シンジケートローン、CDS等のクレジット・デリバティブ
    資産運用
    8
    13.1
    オルターナティブ、ヘッジファンド、投信・投資顧問
    マーケットリスク・ビジネス
    8
    13.1
    デリバティブ、仕組み債、JGB、為替
    投資ビジネス
    6
    9.8
    バイアウト等、ファンド投資、プリンシパル・インベストメント、VC
    不動産ファイナンス
    5
    8.2
    不動産の購入やファイナンス、証券化、エグゼキューション、私募ファンド、REIT
    その他
    4
    6.6
    株式、リサーチ、オペレーションほか
    合計
    61
    100.0
     



    筆者のプロフィール:
    小溝 勝信(こみぞ かつのぶ)
    1968年東京大学教養学部国際関係論分科を卒業し、住友銀行(現三井住友銀行)に入行・主として国際部に従した。1984年に外銀に転じ、 ファースト・シカゴ銀行東京支店の事業法人部長に就任した。人材コンサルティングに転ずるため、1989年米国の大手ファームの一つで あるホイットニー・グループ日本支社に入社し、副支社長に就任した。1993年、日本型のエグゼクティブ・サーチの創設を目指してヘッ ズジャパンに転じ、金融部門マネジング・ディレクターに就任した。2004年エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社を設立した。
    このレポートは、筆者がヘッズジャパンで1994年以来半年毎に報告していた「外資系金融機関の最近の人事事情について」の連続版である。

    エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社(ESP)のプロフィール:
    小溝勝信が15年の経験の集大成として2004年に設立された。日本の金融人材市場に、初めての、本格的な、日本版の「エグゼクティブ ・サーチ・コンサルティング」の創設を志します。
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