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月例レポート

平成16年12月 新・第1号 (日本語版)

〜「新しい」投資銀行ビジネスの時代に備えよ!〜

エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社
代表取締役 小溝 勝信
- 目次 -

  • はじめに


  • I.レポートの「要約」

    II.ビジネス別人材需要の様相
    1.再生・買収ビジネス
    2.不動産金融ビジネス
    3.投資銀行・企業金融ビジネス
    4.クレジット・ビジネス
    5.資産運用ビジネス
    6.マーケットリスク・ビジネス
    7.プライベート・バンキング

    III.外資系金融機関の様相
    (概観)
    (外資系プロのキャリアについて)

    W.日本の金融機関の様相
    (概観)
    (若手金融マンへのアドバイス)
    (金融庁のスタンスとコンプライアンスの問題)


  • おわりに
  • ESPのアサインメント残高(平成17年12月31日現在)
  • 筆者のプロフィール
  • エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社(ESP)のプロフィール
  • PDF版(6.73MB)※容量が大きいのでご注意下さい。
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    はじめに
    04年の日本経済は企業業績の回復を受けて好調であった。GDPの成長は政府見通しで実質ベース2.1%増とのこと。05年でも堅調な景気を予想する向きが多い。銀行不良債権問題でも、大手7行は「不良債権比率を02年3月末の8.4%から05年3月末には半減する」という目標を達成する。従って、大手邦銀は経営目標を「健全性」から「収益性」へ移しつつある。マーケットでは「市場型間接金融」の拡大が予見され、国民の投資行動も「貯蓄から投資」へのシフトが要請されている。一方、大手外資系金融機関も欧米経済の回復と本社ベースの業績の回復により、下記に報告するような問題を孕みながらも、東京支店の戦略部門にリソースを注入している。このため、日本の金融人材市場は、1〜2年前とは比較にならない程の活況を呈している。

    しかし、上記のような経済の質的・構造的な変化(下部構造の変化)に対して、内外の金融機関は、戦略・組織・人事政策を適合(上部構造の改革)させているか。また、金融プロの意識改革は行われているか。これらの問題に対して、金融人材市場の様相を報告しながら、当社の提言を行いたい。

    私事ながら、筆者は11年間勤務したヘッズジャパンの金融部門を退社し、04年11月に当局の許可を得て、エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社を設立した。この「レポート」は、筆者が94年以来半年毎に作成していた「外資系金融機関の最近の人事事情について(最終は19号)」の連続版である。「金融市場の最近の人事事情について」−新・第1号として、04年の金融人材市場の様相をお伝えする。

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    I.レポートの「要約」

    金融人材市場の様相は下記に要約出来ると思う。

    メガバンクは不良債権問題で峠を超え、経営の軸を「健全性」から「収益性」へ移している。また、金融庁の指導もあり、金融コングロマリット化が進行している。金融界は再編の渦中にある。これらに対応するため、組織改革や外部採用が本格化している。

    再生・買収ビジネスは依然活発であり、金余りの恩恵も受けてファンドが乱立している。確かに、成果を上げているファンドやプリンシパル・インベストメントもあるが、全体として、日本経済が必要とする規模にはなっていない。人材需要にも「腰折れ」が見える。当社は「再生ビジネスはバブルである(騒ぐ程実体が無い)」と主張している。

    不動産金融ビジネスがヒートアップしている。人材の需給も一部バブル化している。しかし当面は強い人材需要がある。

    日本企業の業績の回復とM&A関連法の改正により、「新しい」投資銀行・企業金融ビジネスの時代が来る。金融でのキャリアを志す者はこの流れに対応して、企業金融の技術だけでなく、法律、会計、税務等の知識も蓄積しなければならない。更に、「企業金融とは何か」について深い洞察力を持たなければならない。

    クレジット・ビジネスや市場型間接金融がメガバンクで拡大している。時代の流れに沿った動きだが、メガバンクはいつものように、採算を無視して推進している。

    資産運用ビジネスの人材需要は依然低迷している。その中で、ヘッジファンドや個人富裕層ビジネスが広がりを見せている。しかし問題も多い。

    外資系金融機関の間で「勝ち組」と「負け組」の差が鮮明になりつつある。「負け組」(主として欧州系ユニバーサルバンク)は、デリバティブ時代の経営モデルから脱却出来ず、ますます後退する。

    日本の金融機関の経営は旧態依然である。「経営はアートである」と言う前に「科学的な経営手法」を学ばなければならない。

    時代は「マーケットリスク・ビジネス」から「資産運用ビジネス」「クレジット・ビジネス」「再生ファンド」を経て、「新しい投資銀行・企業金融ビジネス」へ移行している。金融を志す者はこの流れに対応しなければならない。

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    II.ビジネス別人材需要の様相

    エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社(ESP)のアサインメント残高
    (平成16年12月末現在)
    ・実際のディールは各ビジネスにまたがっており、明確な区別は難しい。
    ・件数別では、「不動産金融ビジネス」が最大である。「再生・投資ビジネス」が次ぐ。
    ・「投資銀行・企業金融ビジネス」が拡大中である。
    ・デリバティブ主体の「マーケットリスク・ビジネス」は大きく減っている。
    ・「資産運用ビジネス」が低迷している。



    1.再生・買収ビジネス

    このビジネスには「ディストレス」「プリンシパル・インベストメント」「再生ファンド」「プライベート・エクイティ」を含む。

    概観
    日本のバブル崩壊に伴い発生した不良債権は、89年から04年の15年間に、約120兆円処理された。特に97年のバルクセール開始により、邦銀の不良債権処理が進んだ。「ディストレス・ビジネス」として、外資系投資銀行やハゲタカ・ファンドと呼ばれた外資系投資ファンドは、邦銀から不良債権を超安値(簿価の1/10程度)で購入し、転売し、回収して巨額の利益を上げた。また、竹中金融庁は大手邦銀に本格的なリストラを迫った。結果、大手邦銀の不良債権の残高は、01年に設定した目標の通り、05年3月に半減(4%台)することになる。これによりディストレス・ビジネスは終焉し、注目は「破綻懸念先」から「要注意先」、言い換えれば「再建可能先」の再生に向かう。また、正統の「プライベート・エクイティ」も活性化しつつある。M&Aも活性化しており、04年の「再生・買収」ファンドによるM&A件数は500件を超え、前年比200件以上増えた。「再生・買収」ファンドの投資累計は1兆円を大きく越えている(産業再生機構を除く)。これは03年の6倍以上である。この流れを確かなものにしたのは新生銀行の再上場である。これにより外資のファンドが一気に日本への投資に自信を持った。エグジットも増えている。04年での投資ファンドの事業法人等への転売は30件あり、金額は前年の10倍の4200億円に達した。投資利回りも推定で年率15%程度と堅調のようである。

    実際、マーケットの資金余り状況を反映して「再生・買収」ファンドが乱立している。外資に加え、年金も投資を開始し、日本勢でも評価出来るファンドが出てきた。更に「地方の再生」に照準を合わせるファンドもあり、地方が主戦場になりつつある。このようにビジネスは拡大し人材需要を生んでいた。


    人材需要

    「再生・買収」ビジネスでの最大の問題は「ソーシング(投資先の発掘)」である。この成否が全てを決める。これに責任を持つマネジング・パートナーの採用は一巡している。有能な中堅のソーシング担当(シニア・ディレクター・レベル)に対する需要はある。候補者は、即戦力で、発掘の能力や折衝力を問われる。プライベート・エクイティではこの採用も一巡しているが、投資銀行のプリンシパル・インベストメントはまだ拡大中であるから、採用余力はある。ファンドでは、ソーシング担当者がアカウント・マネジャーとして、その後の財務リストラ、人的リストラ、ビジネスの再構築も担当する。従って役員に就任し、自ら投資先に乗り込むケースも多い。これは「究極の金融ビジネス」であるから、多岐に亘る高度の能力を要する。従って、成果があれば高額の報酬を得る。伝統的なプライベート・エクイティであれば、エグジットした場合、報酬として、費用差し引き後のキャピタル・ゲインの6%程度(ゼネラル・パートナーとしてのファンド運営会社が20%取り、マネジング・パートナーがその30%)が配分される。また、実績がトラックレコードとなり、次の投資での信頼となる。

    中堅(ディレクターやバイス・プレジデント)は、マネジング・パートナーやシニア・ディレクターの指揮下で作業を進める。「再生」案件であればメインバンクと折衝して、債権の購入、債権者間の債務免除やデット・エクイティ・スワップ等の調整を行う。プライベート・エクイティであれば買収条件の折衝を行う。買収や投資が完了すると、エグジットに向けてさまざまな作業を行う。優秀な経験者であれば人材需要はまだある。

    若手のエグゼキューション担当者への需要もある。彼らは「奴隷」と呼ばれるほど多忙である。求められる基礎的能力は、投融資の審査能力、キャッシュ・フロー計算、バリュエーション、デュー・ディリジェンスに加え、法律・会計等の知識である。この人材需要はまだ強い。しかし、一部ファンドの若手に不満が起きている。過酷な労働条件にも関わらず、エグジットが少ないのでいつまでも報酬が安いと。キャリーは貰えるが、不公平に上席者に多く配分されているとの不満である。

    数年前のプライベート・エクイティの勃興期では経験者が希少であったから、M&Aや一般投資銀行家でも応募することが出来た。しかし今日では実績のある人も増えたことから、未経験者の転入は難しくなった。

    最も難しい採用は、再生・買収先企業に送り込む経営者の発掘である。インダストリアル・パートナーと呼ばれる、その業界での実力者である。日本には経営者の転職市場が無いことから、各ファンドは苦労している。金融マンは対象にならない。

    問題点
    現在でも個々の「再生・買収」ファンドでは採用が行われているものの、全体としては、既に人的体制は整っている。 しかし、日本にはまだ少なくとも20〜30兆円の銀行不良債権が残っており、1〜2兆円程度の投資額では対応出来ない。また、銀行が不良債権に対して会計上引当や損金処理をしても、本当の企業の再建はこれからのはずである。日本経済の再生にはこの程度では十分でない。実際、産業再生機構の買取り額も当初計画の10兆円に遠く届かない。 結局、「再生」ファンドが大きな役割を果たすことなく、日本の不良債権問題は収束宣言となった。企業業績は各社の血の滲むようなリストラ努力で改善している。筆者は「再生ビジネスはバブル(騒がれる程実態が無い)である」と主張している。これは人材需要の強さを見れば分かる。即ち、採用計画は立てられるが、途中で腰折れる。日本で投資ファンド・ビジネスが本格化しないことは、米国の巨大投資ファンドKKR等が日本に上陸しないことにも表れている。

    それでは、何故、日本の「再生・買収」ファンドは本格的な規模に拡大しないのか。
    ファンドの成功のためには、(1)集まること。(2)投資対象が見つかること。(3)リストラが可能であること(債権放棄やデット・エクイティ・スワップ)。本業が立ち直るための具体的なビジネス・プランがあること。(4)これらを実現するための経営者やスタッフが採用出来ること。(5)3年程度掛けてプランが実行されること。(6)エグジットが実行され、ゲインが獲得出来ることである。それらのいくつかで大きな問題があると思う。
    現在、日米金融当局の長期に亘る金融緩和政策は過剰流動性を生み、ファンドの「資金集め」は難しくない。力のある運営会社(マネジング・パートナー)は「良質の資金」、即ち、自らの投資哲学を理解し、短期的にリターンを求めない資金を受け入れている。しかし、今後、米国政府は金融政策を転換するリスクがあると思う。

    ファンドを集めたら投資しなければならない。ソーシングの力=見抜く力が求められる。
    ここで、既に、「勝ち組」と「負け組」の差が付き始めている。「勝ち組」は、グローバルに蓄積された投資技術を駆使する外資系プライベート・エクイティ、外資系投資銀行のプリンシパル・インベストメント、投資哲学を持つ外資系ファンド、実績を持つ数社の独立系プリンシパル・インベストメント等で、全部で十数社しかない。「負け組」は、単に銀行員が不良債権とともに転籍した邦銀系再生ファンド、体力のない小体ファンド、後発組である。今後ますますその差は拡大し、「負け組」は早晩撤退する(既に撤退を準備しているところもある)。

    国内ファンドの裏には銀行がいる。邦銀は、不良債権を銀行本体から切り離してファンドに移し、あたかも不良債権問題が解決したかのように装っている。実際「再生」が行われなければ、結局外資系ファンドに買い叩かれ、二次ロスが発生する。また、邦銀が絡んだ再生のスキームもおかしい。デットの提供者である大手行(特にメインバンク)が「責任を取って」債権放棄の中心になる。公平に負担をすべき社債債権者に責任追及が行われず、株主も100%の減資を求められない。これはマスコミや一部経済評論家が情緒的に邦銀を悪者に仕立て、グローバル・スタンダード無視の論陣を張っていることによる。これも「再生」ビジネスへの不信感を生んでいる。

    投資先の経営改革を断行するため、経営者の交代が行われる。新しい経営者やスタッフが送り込まれる。日々の新聞ではその模様が報じられている。同氏の経歴が披露される。多くは同業他社に勤務し、豪腕と評価される「志と実績」を持つ立派な方々である。しかし、彼らは本当に「科学的な経営理論で裏打ちされた経営実績を持つ人」であるのか。米国企業での経営候補者は、企業内大学において高度で科学的な経営手法を学び、実戦で淘汰される。GEが良い例だ。日本の場合、単に実務・実践でそれなりの実績・評価を得た人々に過ぎない。前の会社で上手くいったからといって、新しい会社で成果が出せるとは限らない。送り込む経営者として相応しいかどうか、選択に科学的根拠が無い。再生は「気合だ!」ではない。日本でも「経営者育成」プログラムの導入が必須である。これは、若手向けのMBAや大学院セミナーではない。一方、「再生・買収」ビジネスは勃興して数年経過しており、産業再生機構を中心として経営経験者が育ちつつあることも事実である。

    数年前、プライベート・エクイティは多くの若手バンカーにとってキャリアゴールであった。しかし、前述のように、ビジネスに大きな広がりが無く、人材需要も頭打ちであることから、このポジションでの若手からの照会は急減している。また、「再生ビジネス」は永遠に続くものではない。邦銀の「不良債権問題の終焉」宣言の妥当性は別としても、いずれこのビジネスは縮小される。産業再生機構の買取り期限は05年3月である。「不良債権」や「再生」ビジネスの専門家は、今後2〜3年の間にキャリア転換を考えなければならない。何時までも「不良債権を転売したり、財務リストラする」だけで儲け続ける訳にはいかない。




    2.不動産金融ビジネス

    このビジネスには「ディストレス」「プリンシパル・インベストメント」「再生ファンド」「プライベート・エクイティ」を含む。

    概観
    日本のバブル崩壊に伴い発生した不良債権は、89年から04年の15年間に、約120兆円処理された。特に97年のバルクセール開始により、邦銀の不良債権処理が進んだ。「ディストレス・ビジネス」として、外資系投資銀行やハゲタカ・ファンドと呼ばれた外資系投資ファンドは、邦銀から不良債権を超安値(簿価の1/10程度)で購入し、転売し、回収して巨額の利益を上げた。また、竹中金融庁は大手邦銀に本格的なリストラを迫った。結果、大手邦銀の不良債権の残高は、01年に設定した目標の通り、05年3月に半減(4%台)することになる。これによりディストレス・ビジネスは終焉し、注目は「破綻懸念先」から「要注意先」、言い換えれば「再建可能先」の再生に向かう。また、正統の「プライベート・エクイティ」も活性化しつつある。M&Aも活性化しており、04年の「再生・買収」ファンドによるM&A件数は500件を超え、前年比200件以上増えた。「再生・買収」ファンドの投資累計は1兆円を大きく越えている(産業再生機構を除く)。これは03年の6倍以上である。この流れを確かなものにしたのは新生銀行の再上場である。これにより外資のファンドが一気に日本への投資に自信を持った。エグジットも増えている。04年での投資ファンドの事業法人等への転売は30件あり、金額は前年の10倍の4200億円に達した。投資利回りも推定で年率15%程度と堅調のようである。

    実際、マーケットの資金余り状況を反映して「再生・買収」ファンドが乱立している。外資に加え、年金も投資を開始し、日本勢でも評価出来るファンドが出てきた。更に「地方の再生」に照準を合わせるファンドもあり、地方が主戦場になりつつある。このようにビジネスは拡大し人材需要を生んでいた。


    業態別人材需要
    外資系投資銀行と海外の不動産投資ファンドが積極的に買い、マーケットをヒートアップさせている。買値は採算ぎりぎりまで上がり、「バブルだ!」と非難する向きもある。ある米系投資銀行が運営する私募ファンドが、東京の紀尾井町ビルを推定利回り3.7%で落とした。8割が借り入れで、金利は2%。従ってエクイティ部分の利回りは10%となり、十分採算が取れるという。しかし日本の小体ファンドはこれでは買えない。特にオークションに持ち込まれると米系投資銀行と米系ファンドの独壇場になると。このように、コストの安い資金を大量に持つ米系投資銀行やJ−REITがマーケットを独占しつつある。

    「勝ち組」でも「苦戦組」でも不動産投資では人材需要が強い。しかし「強い」と言っても、ビジネスが量的に拡大しているからではない。競争に勝ち抜き、採算に合う優良物件を仕入れる優秀なプロをどうしても採用したいと言っているだけである。仕入れる方法は問わない。銀行から不良債権を買っても良いし、独自の人脈を活用しても良い。

    国内の不動産投資ファンドも健闘している。大手は7〜8社ある。いずれも95年前後に創業した。当初は外資系ファンドの下請けで、デュー・ディリジェンスを行っていた。その後各社とも順調に成長し、現在5社上場している。資産総額は2兆円を超えており、05年に

    は5兆円を目指す。まだ拡大する。私募ファンドの運用予想利回りは6%程度で、J−REITの4%より高い。年金が私募ファンドへの投資を本格化するので心強い。各社とも「不動産と金融の融合」を理念に掲げており、ファンド投資に加え、投資銀行化を目指す。即ち、不動産取引を契機に不動産絡みのM&Aやファイナンスを提案しようとしている。このため広範な人材需要がある。最近収益力もついたので報酬水準も上がり、優良な人材の確保も可能になりつつある。

    J−REITは01年9月に始まった。現在上場銘柄は14法人で、市場規模も1.4兆円に拡大した。しかし米国の20兆円には及ばない。1〜2年以内に3〜4兆円に拡大すると言われる。懸念は金利水準の上昇である。現在予想利回りは4%程度まで落ちているが、レバレッジが高過ぎるため、金利が反転したら大きく売られる可能性がある。しかし業界はまだ強気で、人材需要も強い。物件の取得・売却を担当するフロント系だけでなく、REITの仕組み作り、上場法人としての法令順守を確保するコンプライアンスやIR等も人材需要の対象である。


    職責別人材需要
    物件のソーシング
    アレンジャーとしての成否を決めるのはソーシングである。ソーシングにはプロとしての「目利き」が求められる。「金融と不動産の融合」を目指すから、不動産業か金融業の出身者が多い。一見不動産業出身の人が強そうだが、意外に苦戦している。不動産業出身者は、確かに物件の目利きには強いが、仕入れからエグジットまでの時間の観念(何年で売れるか)や金融スキームのアイディア(金融商品に仕立てる)に弱いと言われる。勿論、金融マンは不動産の目利き、法律、規制、慣行、用語に弱い。
    一般には、ソーサーは仕入額に対して報酬が支払われる(売却益に対してではない)。稼ぐソーサーの争奪戦が激化しており、引き抜き条件がヒートアップしている。50〜100百万円も珍しくない。彼らは「成果連動のボーナス制(たくさん仕入れたら、一年後にボーナスを払う)」では動かない。稼ぐプロは事前に高額のギャランティを要求する。巨人の清原選手への5年30億円の年収条件のようなもので、本当に稼ぐかどうか分からないが高額の年収保証を迫られる。人材市場もバブルである。この状況は長く続かないと思う。
    また、戦いは地方に拡大しており、地方に人脈や実績を持つプロも求められている。

    バリュエーション
    確実に収益が期待出来る物件が希少になっていることから、ソーサーが持ち込む案件を判断するプロ(アンダーライター)が求められている。不動産のプロによれば、不動産価値は金融商品と違って、その物件の上に何を建てるかで大きく違うとのこと。対象は不動産鑑定士ではない。また、クライアントへの説明能力も求められる。

    ノンリコース・ローンのレンダー
    物件のソーシングに加え、ファイナンス分野でも人材需要が強い。職責は、・営業(融資先の開拓)、・デュー・ディリジェンス(担保不動産の評価)、・ドキュメンテーションである。邦銀も、企業金融より利鞘が大きいことから積極的に取り組んでいる。最近はシニアな部分だけでなく、メザニンやエクイティ部分への投資も始めた。ここでも目利きが必要である。

    ノンリコース・ローンの証券化
    CMBSの組成も拡大中である。レンディングから証券化、証券化商品のプレースメント(販売)まで一貫して行う投資銀行もある。CMBSではクライアントが既に流動化する物件を保有しているので、調達コストを適正化するスキームを作る。しかし現在、「新規の」プロジェクトに対する「仕掛け型」「開発型」CMBSが注目されつつある。ビルや商業施設等の建設にあたり、計画の当初から証券化での資金調達を前提とする。六本木ヒルズの建設に使用されたと言われる。REITにも組み込まれる。ここでの人材需要は強いが、適格者が極めて少ない。これは一種のプロジェクト・ファイナンスだが、ABSのプロには「ファイナンス」のノウハウが無く、通常のプロジェクト・ファイナンスの経験者には「証券化」のスキルが無い。今後、この両方のノウハウを持つプロへの需要が拡大すると見られる。即ち、この職責には、案件の発掘力、参加者の調整力、プランの構築力、クレジットの審査能力、プライシング、法律・会計知識、不動産、エクイティ・マーケット、証券化技術等、全てを熟知していなければならない。このような人材は極端に少ない。

    プロパティ・マネジメント
    さまざまな作業を行い、投資した物件価値の増大を図る。また、物件を管理する。当社にはサーチ依頼が無いので人材需要の状況は分からない。

    プレースメント(販売)
    エクイティ部分とデット部分により投資家が異なる。デットの販売は債券営業部が行う。エクイティ部分の投資家は独特で、シニアなプロが人脈を通じて見つけてくる。年金等の機関投資家が購入を増やしており、この投資家向けの提案力が重要になる。また、機関投資家も不動産金融商品を「オルターナティブ」としてではなく、「正規」の投資対象として位置づけるべきだと考えられている。従って、不動産流動化市場は「不良債権問題」が終焉しても拡大する。


    3.投資銀行・企業金融ビジネス

    概観
    04年での投資銀行・企業金融の環境は前年に比較して大きく改善した。即ち、04年の米国でのM&Aは、米国株式市場の好調さに後押しされて01年以降の落ち込みから回復し、金額ベースで前年の1.5倍の約87兆円に拡大した。日本でも、M&A件数は04年には2211件(レコフ調べ)で、これは、前年比28%増である。買収金額も10兆円を超えていると見られる。前年の5.4兆から大幅に増えている。また、株式市場からの調達も急増し、新規公開を含む株式調達額は3.6兆円となり、前年比77%アップした。これはこの10年間では、96年(6.2兆円)に次ぐ規模であった。05年でも増大し、4兆円規模に膨らむと予想されている。また、IPOは157件も実現し、過去3番目の高水準となった。また、スチール・パートナーによるソトー買収の攻防戦に端を発して、日本の上場会社にも敵対的買収に対する危機感が広がった。この防御アドバイザリーのニーズが激増していた(日本の一部上場企業3千数百社の過半が余剰キャッシュを持ち、外資系の買収ターゲットとなり得る)。さらに05年での商法の大幅改正を経て、06年には本格的なM&Aの時代が来る。このように、05年では投資銀行ビジネスが活気を帯びると予想される。既に人材需要を引き起こしている。

    これらの環境の変化を受けて、日系の金融機関では投資銀行ビジネスが活性化した。急増している国内M&AやIPOの多くは、日本のメガバンク(証券子会社も含む)及び大手証券が取った。外資系金融機関は一件当たりの収益が小さすぎるとして避けていた。従って、メガバンク系や大手証券系のM&A部門は超多忙であった。
    また、メガバンクの一部が「新しい」投資銀行・企業金融ビジネス時代の到来に先駆けて、組織の変更と人材の採用を積極化している。マーケットはこの10年、「マーケットリスク・ビジネス(デリバティブ等の先端金融商品)」から「資産運用ビジネス」「ディストレス・ビジネス(不良債権の転売)」、「クレジット・ビジネス(証券化)」「再生・買収ビジネス」へと変遷し、今後「新しい」投資銀行時代に移行する。従って、企業金融や投資銀行ビジネスでは、通常のローンの提供や単なるM&A・引受けのマンデート・ハンティングだけでなく、顧客の資本政策やジュニア・デットに照準を合わせた提案が出来なければならない。特に日本の金融機関がこの体制作りを急いでいる。
    また、メガバンク系証券会社の一つが株式ビジネスでも3年以内に野村證券に追いつくとして、プライマリー・サイドでも大幅な人材採用を行った。銀行での企業との緊密な関係(メインバンク)を使って、株式発行での主幹事取りを目指している。

    外資系投資銀行でも、大手が03年までのリストラ基調から反転し、組織を再構築している。しかし、外資系投資銀行での優勝劣敗は明白で、活気を帯びているのは米系トップクラスの投資銀行5〜6社と、欧州系の3〜4社に過ぎない。外資系らしい大型のM&Aや引受けが行える金融機関だけが生き残っている。人材需要もこれら「勝ち組」へ大きく偏っている。


    人材需要
    外資系金融機関の投資銀行では、シニアに対しては「即戦力」が求められる。M&Aや引受けで大きな収益をもたらすプロが求められている。言い訳は利かない。中堅でも一級の能力を持つ者に対してのみ需要がある。一般スタッフは生え抜きの「金太郎アメ」で十分である。従って、現時点では基本的にリプレースメントの需要しかない。但し、06年の「新しい」投資銀行ビジネスの勃興(M&Aや買収防御アドバイザリー)に備えて、人材ニーズが起こりつつある。

    日本の金融機関(メガバンクの企業金融部門、メガバンク系証券、大手証券)は、上記の環境変化に対応するために、大幅な人材採用を行っている。エクイティ・ファイナンス、資本政策での提案に経験を持つ、外資系投資銀行や大手証券会社の中堅プロに対する需要である。報酬は、従来の日本の金融機関のレベルを超えている。日本の金融機関にはディール機会はたくさんあるため、報酬が下がっても応募する外資系プロも多い。いずれにしろ、ここでの人材需要は今後も増える。ここでは、ターゲット産業は数年前のようにTMTと薬品に限定されていない。
    しかし、日本の金融機関はディール機会には困らないが、提案力やグローバル・ネットワークの無さは相変わらずである。

    CSR(企業の社会的責任)やIRの重要性が説かれている。現在、日本の一部上場企業の内80社余りが、30%以上の株式を外資に保有されている。外国株主に対する説明が重要になっている。これらの人材需要が増大すると考えられる。


    問題点
    金融機関においては「投資銀行ビジネスや企業金融とは何か」について深い洞察力が求められる。また、法改正で必要なノウハウの取得が必須である。

    日本の最大級の証券会社が「当社は投資銀行ビジネスでも第一級である」と主張している。しかし、米国投資銀行の外人プロによれば、日本の証券会社の投資銀行業務は「単にM&Aや引受けを頼んで回っているだけ」と映る。ましてメガバンク系証券の企業金融は「商業銀行業務の延長」でしかない。日本の金融機関のバンカーには顧客への提案力が無いとの評価である。外資系東京支店の一般の日本人バンカーへの評価も同じである。しかし、トップクラスの外資系投資銀行の日本人プロの中には、数少ないが、国際的に通用する投資銀行家がいる。彼らは「日本の金融構造の変革」を仕掛けながら大掛かりに商機を作っていく。メガバンク同士の合併さえ仕掛ける。時代を先取りしたビッグディールを提案する。従って、彼らに対する顧客の評価が違う。日本の金融機関の投資銀行家にも彼らのようなプレーヤーが出ることを期待したい。
    しかし、日本の金融機関の投資銀行部門では彼我の差を理解する人が少ない。特に経営者が理解していない。

    バンカーとして更に理解しなければならないのは、「企業金融の本質」である。戦後の邦銀は、極端な資金不足の中で「融資」を提供しながら企業の経営に参加していた。即ち「擬似エクイティ」の提供者であった。当時の銀行員は「企業金融とは何か」について洞察力があった。企業金融とは、企業価値を定量的に表現した財務諸表(財務資産)を分析しただけで出来るものではない。顧客の経営、戦略、組織、企業文化、人事、従業員のモラル(知的資産、特に企業の「暗黙知」)を洞察しなければならない。近年の「エセ・バンカー」にはこの意味が理解出来ない。この10年余り、不動産担保融資と不良債権処理に没頭していた邦銀マンや、欧米本社で開発された高度な金融技術を日本に持ち込んだだけの外資系金融機関のプロにはムリであろう。

    05年には商法の大改正が行われる。目玉は、日本でも株式対価での買収が可能となる。これには併せて税制の改正が必要であるが、06年から本格的なM&Aの時代が到来する。敵対的買収を仕掛けるもの、防御するもの、ポイズンピルの導入等、乱打戦になる。金融機関も、商法、税法、会計等制度の変更を踏まえて、どのような提案が出来るか備えなければならない。資本の項目を対象にしたエギゾティックなファイナンス・スキームも開発されなければならない。このような人材需要が既に起きている。


    4.クレジット・ビジネス

    概観
    「市場型間接金融」の重要性は論を待たない。資本主義経済が成熟するためには、直接金融と間接金融がバランスよく機能することが望ましい。金融機関の経営者が資産をポートフォリオとしてマネジメントするためには、貸出債権のセカンダリー・マーケットが必須である。間接金融という相対融資の条件を、マーケットと連動したプライシングに合理化する必要がある。特に日本の金融構造が「銀行融資」に過度に依存しているため、銀行経営の失敗は、即、経済の失敗につながる。これが「失われた10年」の構造的原因である。現在でも、銀行融資の総残高(全銀行ベース)はGDPの80%を超えている(米国は30%台)。直接金融拡大の道筋として「市場型間接金融」の拡大が喫緊である。一方、日本経済の回復にとって大切なことは、全体で数十兆円に上るリスクの高いデット・マーケット(不良債権と一部の要注意債権)への挑戦である。筆者は、マスコミが報道している程、「不良債権問題」が解決しているとは考えていない。日本のクレジット問題を早期に収束するためにも、クレジットリスク・ビジネスは拡大しなければならない。人材需要も強い。

    ここで言う「クレジットリスク・ビジネス」とは、具体的には、証券化(不動産の証券化も含む)、ローン・トレーディング、クレジット・デリバティブ、シンジケート・ローン、私募債、開発型CMBS、ハイイールド・ファイナンス、メザニン、DIPファイナンス、またそれらを支えるクレジット・アナリスト等である。


    証券化
    ABSの市場規模は引き続き拡大している。04年の発行額は4兆円を越していると見られる。残高は10兆円を既に越えている。流動性は小さいものの利回りが公社債より高いため、生命保険会社を中心に機関投資家が投資を増やしているからだ。ABSの対象債権の内、各種売掛債権、特債法債権、消費者ローン等の伝統的なものは全くコモディティー化しており、忙しい割には儲からない。多くの外資系がこれらのABSビジネスから撤退した。従ってこの人材需要は大幅に減った。目玉は、不動産の証券化一般、住宅ローンの証券化(RMBS)や商業用不動産の証券化(CMBS)である。RMBSはマーケットで実績があるため手法は確立しており、メガバンク系の商品になっている。外資系にも人材需要はあるがメガバンクでの採用のニーズが強い。

    付加価値のある証券化を行うため、さまざまな新しい資産やビジネスを対象にする証券化が試みられた。例えば、医療費請求、パチンコ機器、倉庫の敷金、各種の繋ぎ融資等である。しかし、まとめても50億円にもならず、相当額の資産を集めなければ効率的なビジネスとならない。従って、人材需要も頭打ちとなった。今後は資産より「事業そのもの」の証券化が注目されるが、具体的にはこれからである。
    人材需要で特筆すべきは、日本の信託銀行のノンリコース・ローン担当者に対する強い需要である。彼らは不動産や事業のキャッシュ・フローを裏付けとする信託受益権証券を発行するが、その実務能力への需要が強い。


    シンジケート・ローンと私募債
    04年での邦銀のシンジケート・ローンの組成は20兆円に拡大したと見られる。これは03年の15兆円と比較して大きな伸びである。しかしこれも米国の1兆ドルの規模に比較して小さい。メガバンク各行がシンジケート・ローンの拡大に躍起になっている。海外向けの大型プロジェクト・ファイナンスやPFIもあるが、要するに国内企業向けの協調融資である。これまでのようにメインバンクとしてリスクを抱え込むのではなく、リスク分散し、かつフィー収入を得ようとするものである。メガバンク各行とも大幅に人材を増やしている。これは通常の銀行員で出来るビジネスだが、邦銀では若手の職員が枯渇しているため外部採用している。人材需要は、マーケティング(案件発掘)、トランザクション(組成)、ストラクチャリング、ドキュメンテーション等多岐に亘っている。


    ローン・トレーディングとクレジット・デリバティブ
    クレジット・デリバティブはグローバル・ベースでは依然拡大中である。しかし、日本もののクレジット・デリバティブが拡大せず、人材需要も冷え込んでいる。日本人トレーダーも失職している。現在では、外人プロが海外市場を相手にトレーディングしているだけである。理由は、運用難の銀行や機関投資家が国債の代替としてクレジットものを大量に購入しており、信用リスク格差が過剰に小さくなっているからである。このため日本のクレジット・デリバティブのプライスには合理性が無くなり、多くの参加者が嫌気して退散した。
    但し、外資系金融機関の開発するシンセティックCDO(クレジットの保証料収入の組み入れ)が、年金や地銀等の機関投資家の投資対象となっていることから、それなりに拡大している。日本もののシンセティックCDOは仕組みやトレーディングが難しく、最近は日本の金融機関でも可能のようだが、一部の外資系に限定された商品である。営業マンに対する人材需要がある程度である。

    また、単純に、債権やローンを売買するビジネスもある。融資先の発掘に苦戦する邦銀が拡大している。この経験者への人材需要がある。不良債権先であっても、一旦マーケットに出された債権であれば優良債権として買えるとのこと。


    クレジットリスクのコントロール
    クレジットリスクのコントロールは銀行にとって不可欠である。最近邦銀では、クレジットリスクを一元的に管理するための体制作りが始まっている。欧米の大手銀行にはクレジットリスクを集中したブックがあり、各部門で行うクレジット取引の反対取引を行う。邦銀でもこの必要性が認識されつつある。ローンだけではスプレッドが抜けないので、クレジット・デリバティブを駆使したり、リスクを集中管理して、ポートフォリオとしてコントロールすると同時に収益機会も伺う。邦銀の預貸率が8割程度であり、また運用機関化=ファンド化していることから、クレジットリスクに自己資金を投入している。リスクが増大するJGB運用から脱却するオルターナティブ投資である。ここでは外ものも対象にする。その人材ニーズが起きている。


    ハイイールド・ファイナンス
    日本経済の再生のためには、「リスクの高い」クレジットに対するファイナンスの拡大が喫緊である。メザニン、ハイイールド、DIPファイナンス等である。本来、クレジットリスクは、シニアデットからジュニアまで、最終的にはエクイティまで、連続性を持って市場(プライス)が構成されていなければならない。しかし日本の金融マーケットではそれらが分断されている。外資系を中心に、米国市場に習って、「リスクの高い」クレジットを対象にしたビジネスを立ち上げようとする動きがある。メザニン・ファンドの上陸である。このリスクに対しては金利も高くなる。しかしこれを邦銀、特に日本の信託銀行が壊す。邦銀は今でも一旦「貸せる」と腹をくくれば低利の貸金をぶつける。リスクに見合った金利を取るという動きが出来ない。外資のこのグループは開店休業である。人材採用どころではない。


    クレジット・アナリスト
    クレジットリスク・ビジネスが「合理性」をもって拡大するためには、「新しい」クレジットリスクの分析者が育たなくてはならない。邦銀の不動産担保融資の審査でもなく、A以上の社債の分析でもない。「高い」クレジットリスクの事業・企業の分析者である。この人材ニーズは01年〜02年頃に勃発し、証券会社のクレジット調査部や格付け機関が採用しようとした。しかし、マーケットにはこの人材が極めて希少だとわかり、採用に苦労していた。クレジット・マーケットの不信と相俟って、人材需要も霧散していると思う。



    5.資産運用ビジネス

    概観
    04年では、「伝統的な」投資信託や投資顧問ビジネスは「底を打った」ようだ。いずれも、運用資産の残高は前年比増加していた。しかし運用関連での人材需要は余り聞かれなかった。これは、01年をピークとして内資・外資の運用会社が人的体制を整備していたこと。この数年のエンロン事件等不祥事で、運用会社に対する不信感が蔓延していたこと。企業年金の代行返上等の影響を受けたこと。機関投資家がパッシブ運用を選択していたこと等による。しかし、このビジネスで人材の需給が冷え込んでいるのは、基本的には、日本の資産運用会社が十分なリストラを行っていないことによる。そしてプロの運用者を育てなかったことによる。人材需給にはまだ売り圧力が感じられる。下記に述べる「オルターナティブ関連」を除いて、人材需要があるとすれば、良質なプロへの代替か、商品設計等のミドルオフィスであろう。05年も基本的にこの流れにある。


    投信
    公募投資信託の残高は04年3月末現在で39.0兆円あり、前年より11%増えた。特に銀行による窓口販売が健闘しており、全体に占めるシェアは04年7月末現在で30%を越えた。投信は銀行商品なのであろうか。今後もそのシェアは拡大すると考えられる。売れたのは、グローバル・ソブリン・オープンに代表される毎月分配型である。また、海外のREITを組み込んだ投信も好調であった。また個人年金保険も順調に拡大している。これら投信・個人年金での収益は、あるメガバンクの04年3月の決算では400億円を上回った。ますます拡大すると予想されるので、銀行はこれらの商品の販売スキルを持つ経験者を大量に採用している。今後は、多様な個人向け商品の仕入れや販売戦略を企画・推進する戦略担当者が採用され、銀行のメインビジネスとして拡大することが期待される。特に投信は、05年のペイオフ解禁、数年後に来る団塊世代の退職に伴う巨額の退職金の支払い、401(k)の拡大期待等で、順風が吹くと予想される。特に401(k)は、01年に制度が導入されたが、様々な制約により広がらなかった。しかし04年には導入企業・団体数は倍増し、11月末では3311件になった。また、04年10月には掛け金の上限が引き上げられたこともあり、今後飛躍的に裾野が広がると期待される。投信が再び「60兆円の壁」突破に向けて拡大し、人材需要も回復することを期待したい。


    投資顧問
    投資顧問契約残高は04年9月末で100兆円に迫り(98.5兆円)、3月末から5.7%増加している。過去最高である。これは内外の機関投資家を中心に、日本株やグローバル債券で運用する投資一任契約が伸びたことによる。企業年金の代行返上のインパクトは吸収されたように見える。契約件数も9月末で6808件と、3月末比7.6%増えている。しかし、この契約件数は00年当時のまだ半分程度である。これは、この数年での年金基金の解散の影響だと考えられる。従って、投資顧問や年金運用での人材需要はほとんど聞かれなかった。


    オルターナティブ投資
    インデックス型運用の利回りの不振から、「絶対収益」を求めて「オルターナティブ投資」が拡大している。ヘッジファンド(個別のストラテジーやファンド・オブ・ファンズ)、不動産金融商品(内外の不動産投信、私募ファンド、証券化商品)、プライベート・エクイティ等である。世界の機関投資家もオルターナティブ投資の比率を上げているが、日本の厚生年金基金も運用の10%程度をオルターナティブに向けている。これは前年比3%のアップである。日本の信託銀行大手5行の04年9月末でのオルターナティブ投資は1兆円に迫っている。各社とも海外の大手運用会社とタイアップしたり、専門部署を強化している。

    日本のオルターナティブ投資の中核は、ヘッジファンドと不動産ファンドである。不動産については上記で報告した。多くのヘッジファンドが90年代末期のアジア危機・ロシア危機で破綻し、その後ヘッジファンドは低迷した。しかし01年頃から復活し、第3次ヘッジファンド・ブームを迎えた。03年までは年率10%程度のパフォーマンスを上げていた。04年末での世界のヘッジファンドの運用資産残高は1兆ドルに達している。これは前年比30%以上の増加である。ファンドの数も8000に達した。日本の機関投資家もヘッジファンドをオルターナティブ投資の一つとして位置づけ、積極的に運用している。
    世界的なヘッジファンドも日本での販売増強のためオフィスを強化している。一方、日本経済の回復基調を受けて、日本向け投資も急増している。04年6月末現在では840億ドル(米国大和証券推定)を日本もので運用していると推定される。今後、日本での運用を増やすと表明している海外大手のファンドもある。また最近は、個人富裕層ビジネスが拡大しつつあり、ヘッジファンドの個人向けの販売も増えている。
    ヘッジファンドでは、ロング・ショート、マクロ、CB裁定、イベント・ドリブン等あるが、日本の機関投資家の投資の中心はファンド・オブ・ファンズである。

    しかし04年も後半に入り、ヘッジファンドに対する評価が下がっている。04年での世界のヘッジファンドのパフォーマンスは1%台に落ちている。特にマーケット・ニュートラルが不振である。ヘッジファンドへの不信が広がりつつある。原因の一つは、日本の金融機関ではいつものことだが、専門部署を立ち上げてもプロの外部採用を行わないことである。高給を出してプロのゲートキーパーを採用するという発想が無い。年金では相変わらず労務・人事出身者が担当しており、信託銀行もジョブ・ローテーションで担当させている。専門性で裏打ちされたリスク管理能力もない担当者が、証券会社の口車に乗って購入している。実際、機関投資家が運用で失敗したと聞く。また、元々ヘッジファンドとは、他に先駆けてニッチや歪を見つけ、リスクを取って投資するものである。大きな資金が最初から投入されるものではない。従って、年金のような巨大な資金が参入すればパフォーマンスは悪化する。一つのファンドはせいぜい500億円までと言われる所以である。また、リスクテーク下手の日本の機関投資家には不向きな投資商品である。従って、人材需要も頭打ちになっている。

    「日本版ヘッジファンド」と呼ばれるプロたちがいる。彼らはかつて大手の投資銀行で名をはせたプロで、ユニークな投資手法で高いリターンを実現している。実績もあり資金も集まっている。株のトレーダー、セールス、債券・デリバティブのトレーダー(クオンツ系)、エクイティ・デリバティブのアービトラージャー等出身は多様だが、成功者のほとんどは外資系のプロである。最近多いのは、正直、大手の外資系投資銀行のトレーダーをクビになった人たちで、再就職先が見つからないから友人たちとヘッジファンドをやっている。玉石混交で、既に撤退した人も多い。


    6.マーケットリスク・ビジネス

    デリバティブ
    デリバティブは、依然として一部の外資系金融機関と邦銀の大きな収益源である。一部のトップクラスのプロは、いまだにこのビジネスで1〜2億円のボーナスを貰っている。引受け、M&AやABSが苦労の割には儲からないのに比較すれば、工夫すればまだ大きく儲かる。しかし時価会計が広がる中で、どのようにして儲かる顧客を見つけるかが問題である。ミッド・マーケットと呼ばれる顧客群がある。学校、宗教法人、財団等で会計原則を異にする法人である。いわば「甘い」投資家で、これらのニーズに合わせて仕組み債を売り、収益を抜く。これに顧客ベースを持つマーケターの人材需要があった。しかし、これらの「甘い」顧客は、一旦「騙された」ことが分かると業界に「御触れ」を廻す。コンプライアンスに厳しい外資系の中には、この顧客への接近を禁止するところもある。


    エクイティ・デリバティブ
    04年末の日経平均は前年同日比で7.6%上昇したが、年初来の安値と高値の差が約1800円しかなく、19年ぶりに狭い範囲での売買であった。従ってボラティリティが低く、エクイティ・デリバティブのビジネスチャンスは小さかった。組織の縮小もあり、このプロは苦戦していた。


    円債
    円債ビジネスは「儲からない」と言われる。しかしフルラインの金融機関として看板を掲げる以上、やらない訳にはいかない。外資系数社がJGBトレーディングを強化するため人材を募集していた。大丈夫だろうか。


    7.プライベート・バンキング

    プライベート・バンキング、個人富裕層ビジネス、ウエルス・マネジメント等呼称は違うが、リッチな個人層を対象とするビジネスが勃興している。不思議と、シティバンク東京支店に対する金融庁処分と期を一にする。シティバンクの処分理由は、銀行法が禁じる証券や保険、不動産の販売、美術品への投資の仲介、マネー・ロンダリングを行う人の口座開設、ずさんな顧客情報管理、誤解を招く勧誘手法、収益偏重の経営等であった。日本撤退の処分がフェアだったかの議論はあるにせよ、新しく参入する金融機関は、処分の理由を十分に検証する必要がある。

    日本のプライベート・バンキングでは、10年も前から多くの外資系金融機関が日本に上陸した。いつも「1400兆円の個人金融資産の1%=14兆円でも取れれば大成功」という理屈である。しかし旨くいかずに撤退・縮小する。これを繰り返す。何故過去の失敗から学ばないのか。シティバンクだけが大きく成功したが、「奢って」崩壊した。現在、外資系金融機関や日本の金融機関の数社が、新しい戦略を練って立ち上げようとしている。対象はスーパーリッチではなく、シティバンクが対象にしていた預かり資産50百万円から1億円の層である。現在の日本の法規制の下ではスーパーリッチ層のニーズには対応が難しいため、この層がターゲットになると。商品では、富裕層を中心に、一定のリスクを負っても高い投資収益を望む個人が増えているため、ヘッジファンドやデリバティブを加工した金融商品を売るとのこと。
    メガバンクや信託銀行も100人単位で個人宛て資産運用相談員を増やしている。身分は契約社員である。外資との提携も進んでいる。全体として人材需要は拡大しつつある。

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    III.外資系金融機関の様相

    概観
    (1)外資系金融機関東京支店の間で、「勝ち組」と「負け組」の差が明確になりつつある。トップクラスの米系投資銀行の動きは極めて戦略的である。フォーカスは「プリンシパル・インベストメント」。即ち、果敢にリスクを取り、自己資金(またはファンドを使う)を「再生可能な事業」や「不動産」に投入し、価値を上げ、転売する。これは一種のトレーディング・ビジネスである。実際大きな収益を上げている。「リスクを取ればロスも発生する?」と指摘しても「リスクを取らなければリターンは無い!」、「リスクを取るからリスク・マネジメントの力が蓄積される」と一蹴される。これに対して、欧州系ユニバーサルバンクはリスクを回避し、いまだにアドバイザリーやアレンジメントでフィーを稼ごうとしている。金融商品に付加価値が小さくなった今日、リスクを取らずに収益を上げられるはずは無い。また、プリンシパル・インベストメントはスワップのトレーディングのように瞬時に収益を生み出せるものではない。投資からエグジットまで3年掛かる。米系は97年の不良債権のバルクセール開始の時から始めており、欧州系が、今更一年単位で大きな収益を得ようとしても無理である。結果、欧州系は地盤沈下している。これは、人材需要の強さの差にも反映している。かつてのように外資系金融機関であればどこでも勉強になるし、報酬も大きい時代は終わっている。

    (2)外資系投資銀行では収益圧力が強い。しかし、金融ビジネス自体の変化に対応せず、「儲けよ!」と指令しても意味がない。結果、外資系のプロの日常活動が「本末転倒」することになる。即ち「フィー狙い」に走る。外資系のプロの宿命として、「顧客を守る」か「本社の命令に服す」か、究極の選択を迫られる。しかし、証明されていることは「顧客の企業価値増大に努力するプロが、結局生き残る」ということである。

    (3)あるトップクラスの外資系金融機関の日本法人が、「高い報酬のプロ」を大量にクビにしている。今や、「グローバルに確立したブランド力とネットワーク」で高収益は確保出来る。「スーパースター」は不要であると。従って、最近の大手投資銀行のスタッフは「金太郎アメ化(頭がよく素直な若手で、見分けがつかない)」している。

    (4)現在、一部の欧州系では改革やビジネスの再構築が行われ、人材採用も行われている。しかし、例外は別にして、旨く行ったとは聞かれない。94年にドイツ銀行がメリルリンチからエドソン・ミッチェル氏を招請し、大掛かりな改革を行った。他の欧州系ユニバーサルバンクもこれに続き、投資銀行ビジネスが一気に世界に広がった。東京支店も活況を呈した。一流のプロが米系から転入した。しかし、この1〜2年は沈滞している。最近の欧州系金融機関の東京支店では米国人や日本人が排除され、本店から二流の経営者が送り込まれ、母国文化が復活している。日本人経営者が対策を本国に訴えても無視される。これは、何よりも東京支店の収益が小さ過ぎることによる。日本市場からの収益は、各社とも、グローバル・ベースの収益のせいぜい2〜3%程度である(米系は10%以上と考えられる)。本社の各部門のグローバル・ヘッドからすれば、収益の小さい支店に興味は無い。従って、欧州系金融機関東京支店のモラルが低下している。


    外資系プロのキャリアについて
    (1)外資系金融機関の一部のプロが「志」を失っている。この10年、外資系金融バブルの恩恵で得た高い報酬を「自分の実力による」と誤解し、金融ビジネスの環境が変わっているにも関わらず、自らの改革を忌避している。転職に当たっては、自分の現在の付加価値創出力(稼ぎ)を根拠とするのではなく、過去に幾ら貰っていたかで折衝する。彼らは今の職場からも見放されているが、高い報酬水準を一年でも死守したいとして屁理屈をこねる。そして、思惑通り転職に成功したら、無能さが露顕する2年後までに、同じ理屈で次の転職先を探す。彼らはこれを繰り返すため、あっという間に「転職件数」が増える。これらの人々の真似をしてはいけない。

    (2)外資系は収益指向が強すぎる。ディールも、短期的に大きく儲からなければやってはいけない(M&Aでは一件当たり1億円以上の収益が見込めなければ取り上げることが出来ない)。これは経営方針としては正しくても、転職市場では「ディール実績」がなければプロとして認められない。転職の際には「ディール実績」を聞かれる。いくらトップクラスの米系投資銀行に勤務していたと言っても評価されない。邦銀は、確かに、「儲かりもしないディール」を大量に引き受ける。経営としては如何なものかと思う。しかし、当面ディールに晒されて、次を狙うのも一つのプロのキャリア戦略である。

    (3)この数年の「レポート」で「外資系金融機関では40歳を越えたら一律退職を迫られる」と報告した。まして採用では、外資系も日本の金融機関も35歳前後までで、生きの良い若手が中心であった。しかし、極最近では、40歳過ぎもOKとなった。但し、即戦力で、部下を欲しいと言わないことが条件である。ビジネスが活気を帯びてきた証拠であろう。

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    W.日本の金融機関の様相

    概観
    (1) 金融庁は、04年6月に閣議決定された「金融改革プログラム」に基づき、メガバンクの金融コングロマリット化を企図している。そのため銀行、証券、信託、資産運用、保険の横断的な再編を促している。日本でもシティバンクのような世界的な金融グループを作りたいと考えている。実際、三菱東京フィナンシャル・グループとUFJホールディングスの経営統合が進み、メガバンク・グループによるグループ外の証券会社との提携が進んでいる。新聞紙上では、大手証券会社のメガバンク・グループ入り、オンライン証券や証券代行等での提携、M&Aでの提携、三井住友グループとゴールドマン・サックスとの資本提携等が日々報じられている。信託銀行、生保会社、損保会社との提携や系列化も進んでいる。これに伴いグループ内での調整も行われている。注目は、シティグループの日興コーディアル・グループへの持ち株比率の半減に見られる、シティグループの日興グループからの撤退である(株式所有比率を21%から12%へ下げる)。それに伴い日興コーディアルのみずほグループ入りが取りざたされている。また、三菱証券に満足しない三菱東京フィナンシャル・グループが、証券業の強化を狙って画策しているという。このように日本の金融界は新たな合従連衡の時代に突入している。これにより新たな組織変更、リストラやプロの外部採用が起こりつつある。
    (2)銀行に対して他業態の商品の取り扱いが解禁されつつある。即ち、銀行による投資信託、保険商品の販売、証券代行業の推進である。従って、メガバンクから「保険の専門家」「投信販売戦略の立案・推進担当者」「証券ビジネスの推進者・コンプライアンス担当」等の人材需要がある。問題は、肝心のメガバンク自身にその能力があるのかという懸念である。邦銀の経営は旧態依然としており、グローバルな金融市場で戦えるネットワークもなく、社内に十分なプロもいない。身体だけ肥満化させても「生活習慣病」(自滅する)になるだけではないのか。

    (3)先に述べたが、「市場型間接金融」が日本の金融構造の改革に必須であることは論を待たない。その意味で、メガバンクが注力しているシンジケート・ローン、ローン・トレーディング、CLO等証券化への積極的な取り組みは望ましい動きである。これにより銀行が資産を流動的に管理し、ポートフォリオの適正化を図ることが出来る。各行ともこの部門での人材需要は非常に大きい。
    問題は、単に「金融構造の変革」というお題目だけで、これらのビジネスに巨額のリソースを投入して良いのかという疑問である。シンジケート・ローンはメガバンク各行でも数百億円のフィーにしかならない。メガバンクの年間業務純益(7〜8千億円)に比較して余りにも小さい。また、シンジケート・ローンは高度のノウハウを必要としないことから、早晩金利の叩きあいが始まる。しかも、このビジネスで浮いた資金で日本国債を買っていれば世話は無い。本来、邦銀収益の大半が金利収益(平均58%で米国の48%と対比される)であれば、本業の融資条件の改善を図ることが先決であろう。新聞が「メガバンクがシンジケート・ローンに注力!」とおだてるからと言って、戦略性もコスト意識も無く突っ込んで良いのか。数年前に、邦銀各行は何の戦略も無く「リスクに見合った金利を取る」として、弱い借り入れ企業を脅迫して金利を上げようとした。しかし、見事に反発された。何故シティバンクのローン・スプレッドはあのように高い(邦銀の3倍)のか、基本に立ち直るべきだ。

    (4)メガバンク各行は、来るべき「新しい」投資銀行・企業金融ビジネスの時代に備えて、顧客宛て資本政策のアドバイザリー能力を高めようとしている。そのため外部採用を進めている。これらのビジネスに経験を持つ、外資系投資銀行か大手証券会社の勤務経験者が求められている。また、一部メガバンク系証券も、これらのビジネスを強化するため大幅に外部採用している。報酬はプロに対しては一般行員より高く設定されている。業績にあわせてパフォーマンス・ボーナスも支払うと言う。邦銀もここまで変わったかと、大変喜ばしい。
    しかし問題は、なぜ外部採用者は「契約社員(期限を定めた採用)」で、生え抜きは「正社員」なのかということだ。プロに高い報酬を支払うための社内方便で、これで社内の「バランスが取れる」と言う。いかにも邦銀の考えそうな理屈である。ここではマーケット側(外部採用される一流のプロ)の論理が全く欠落している。しかも、役員は例外を除いて生え抜きに限られているから、邦銀による外部採用の本音(人件費の削減)が丸見えである。

    (5)日本の金融機関では、一部を除いて、従業員の給与が「毎日」下がっている。「銀行員は貰い過ぎ」と悪口を言われたが、こうなるとかわいそうな気もする。一方、成果主義賃金制度が施行されている。しかし一般行員は「自分の給料が何故こんなに安いのか」納得がいかない。不満が渦巻いている。一般の事業法人でも「業績評価制度」「成果主義」が失敗している。確かに新しい報酬制度作りは非常に難しいが、本格的に外部採用を行い、良質なプロを雇用したいのであれば、避けて通れない問題である。

    (6)メガバンクの経営者は勉強しない。膨大な仕事の処理と政争に日々を費やしている。特に科学的経営手法を学ばない。外資系金融機関の経営者層による邦銀役員に対する評価は極めて厳しい。失礼ながら、インタビューで、大手外資系投資銀行の本社の役員と邦銀役員と比較したら分かる(例外の方もいます)。邦銀には「まともな」管理会計が無く、従って「資本コスト」経営もしていない。コーポレート・ガバナンスと称する委員会はあるが、全く機能していない。最近流行の「リアル・オプション」流に言えば、「プットを売って」経営改革を先延ばしにしている。

    (7)日本の大手証券の間でも、優勝劣敗が明らかになりつつある。その中で、トップの証券会社はさすがに強い。同社は大昔「ドブ板を踏み営業する豪腕株屋」との評価であったが、デリバティブの登場に対応し、日本の金融機関としてはそれなりに高いノウハウを蓄積していた。何度かのスキャンダルにも関わらず「キープヤング」の旗印の下、「日本の金融機関ではただ一社、世界の金融市場で戦える金融機関に成長する」可能性があると評価されてきた。しかし、最近「もう二度とスキャンダルは起さない」との自戒からか、経営や一般従業員が極めて保守的になった。「銀行以上に保守的な」証券会社が意味をなすのか。
    最大の問題は「クレジット・ビジネス」への対応と「投資銀行ビジネス」へのスタンスである。批判の的とは言え、銀行は「クレジットリスク」と正面から対峙してきた。基本的にリスクを投資家に転嫁する証券会社に「クレジットリスク」が分かるはずはないという批判は、当を得ている。確かに同社は、プリンシパル・ファイナンス、アセット・ファイナンス、M&Aアドバイザリーとクレジット・ビジネスや投資銀行ビジネスに注力している。しかし、企業文化を変えるほどのものではない。筆者のような元銀行員に言わせれば、「貸金は貸し倒れの実体験を重ねて」初めてその意味が分かる。また、証券会社の行うM&Aや株式の引受けは、米国の本格派の投資銀行家に言わせれば「投資銀行ビジネス」ではない。「マンデート・ハンティング」に過ぎない。これらの問題点は「純血主義」とい閉鎖性に起因していると考えられる。


    若手金融マンへのアドバイス
    (1)キャリア構築のため、「志」を立てて日々努力しなければならない。
    最近、30歳代の「良質な金融マン」の意識は、大きく変わりつつある。出来る人は「志」を持つ。キャリアを大切にする。昔の銀行員のように「支店長や取締役になってリタイアしたい」とは考えない。自らの専門性を追求する。従って、彼らを採用しようとする者は、若者の「志」に訴えなければならない。「現在の会社を辞めて自分下で働くことが君のキャリア遂行に資する!」と熱く語らなければならない。昔のように「日本を代表する大金融機関だから」とか「外資系だから給料が3倍になる」と言っても意味がない。採用や転職が「まとも」になったと喜ばしい。

    (2)邦銀マンは、インタビューでプレゼンテーションが出来ない。結論、理由、問題点・疑問点、条件を順序立てて説明出来ない。また、インタビューは「売り込み」である。従って「セル・モード」で自己紹介しなければならないが、邦銀マンは「半身」に構える。自分を売り込んだからと言って、転職しなければならない訳ではない。

    (3)英語力が再び希少価値となっている。日本の金融機関が海外店を大幅縮小したため、英語を使う機会が極端に少なくなった。望ましい現象ではないが、大昔のように「英語が出来るだけで美味しい思いをする人」が出てきている。国際的に活躍するバンカーになりたければ英語力をつけなければならない。


    金融庁のスタンスとコンプライアンスの問題
    金融市場でもコンプライアンスの重要性が叫ばれている。金融庁に言わせると、金融庁マニュアルが作られて数年経過しているのに一向に改善されない。警告したのは一度ではないと。特に、収益ノルマに追われる外資系金融機関は反省しないと苛立っている。象徴的な事件は、シティバンクの富裕層業務停止処分であり、UFJの消滅である。
    かつて銀行業界では、政治家、大蔵省、銀行の力が拮抗しバランスが取れていた。しかし今では誰も金融庁に反抗出来ない。恭順の意を表したみずほグループは1兆円の資本調達を行った。金融庁は金融界を支配している。しかし、金融庁のスタンスも問題無しとは言えない。特に外資系金融機関を「潰し」に掛かっている。この裏には「外資系金融機関の職員はたいして働かないのに高い報酬を貰っている」とのヒガミが見える。個人的な感情と行政を混同しているように聞こえる。

    コンプライアンスの重要性は人材需要に跳ね返っている。人材の需給が逼迫している。しかし、市場には「まとも」なコンプライアンス・オフィサーが少ない。外資系のコンプライアンス・オフィサーは、高い報酬の維持を求めて転職を繰り返す人々だ。また、邦銀にはコンプライアンス・オフィサーとは呼べる人はいない。

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    おわりに
    イラク戦争の泥沼化や経済や技術のグローバル化の中で、文明の衝突をどう緩和するか、文化の多様性をどう守るのかが問われている。識者は「異なる文化への寛容と尊敬の念が大切」と説いている。しかし、歴史的、文化的問題が「べきだ」論で対応出来るのか。筆者は「唯物史観」の全てを肯定するものではないが、ファンダメンタルズの動きの深い洞察なくして「べきだ」議論をしても意味がないと考える。ファンダメンタルズ(マルクス主義で言う下部構造、現象学で言う超越的実在)の変化に沿った文化(上部構造)論を提起してもらいたい。歴史は「正しい」方向に向かっている訳ではない。ダーウインのいう「適者生存」が歴史変化の根拠だと思う(上部構造による下部構造の規定もある)。また、人間の認識能力の限界も確認されなければならない。哲学の歴史(カントの純粋理性批判や現象学)においても、最近の脳科学(脳機能と言語による認識能力の限界を研究)においても「人間は宇宙の事象(もの自体)を把握出来ない」と理解されている。即ち、「客体」=形而下における環境変化を把握できないとすれば、「主体」をどのように構築するかである。即ち、自らのキャリアをどう築くか、どう生きるかが問われる。

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    ESPのアサインメント残高(2004年12月末現在)


    筆者のプロフィール:
    小溝 勝信(こみぞ かつのぶ)
    1968年東京大学教養学部国際関係論分科を卒業し、住友銀行(現三井住友銀行)に入行・主として国際部に従した。1984年に外銀に転じ、 ファースト・シカゴ銀行東京支店の事業法人部長に就任した。人材コンサルティングに転ずるため、1989年米国の大手ファームの一つで あるホイットニー・グループ日本支社に入社し、副支社長に就任した。1993年、日本型のエグゼクティブ・サーチの創設を目指してヘッ ズジャパンに転じ、金融部門マネジング・ディレクターに就任した。2004年エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社を設立した。
    このレポートは、筆者がヘッズジャパンで1994年以来半年毎に報告していた「外資系金融機関の最近の人事事情について」の連続版である。

    エグゼクティブ・サーチ・パートナーズ株式会社(ESP)のプロフィール:
    小溝勝信が15年の経験の集大成として2004年に設立された。日本の金融人材市場に、初めての、本格的な、日本版の「エグゼクティブ ・サーチ・コンサルティング」の創設を志します。
    詳細はホーム・ページ をご参照頂きたい。

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